日下部保雄の悠悠閑閑

新しくなったKYOJO CUP

予選を走る永井歩夢選手。ウェットでもわずかにロールしてるのが分かる

 女性だけのワンメイクレース、KYOJO CUP。2024年まではヴィッツのエンジンを搭載したVITA-01で行なわれており、最初こそ接触も見られたがKYOJO CUPを育ててきた関谷さんがレースごとにマナーやテクニックのレッスンをするきめ細かいケアで、今ではプロフェッショナルなレースになっている。

 VITAは手軽でランニングコストが低く、日本はもちろんアジア圏でも広く使われているが、2025年からはF4よりも少し小さいKYOJO専用の本格的なフォーミュラに変更された。車体は台湾で制作されたKC-MG01。サイズはホイールベース2753mm、全長4150mm×全幅1506mm。エンジンはアバルト製1.4リッターターボで出力は176PS。これに12kWのハイブリッドシステムが加わる。車両重量は635kg。レースではセッティングできるのはスタビライザーと空気圧、それにブレーキバランスだけ。ウイングやバネ、ショックアブソーバーの減衰力は変えられない。

 富士スピードウェイでのRd.1、DRYの決勝で両レースを制した下野選手が1分45秒台を出している。

KYOJO CUPを育てた関谷正徳さん。初めてのフォーミュラによるKYOJO CUPを前にプレスカンファレンス。終始リラックスして説明してくれた
フロントセクション。空力パーツは少ないのでスッキリしている
グリッド上のKC-MG01。カーボン製の車体にヘイローを装備して安全面に配慮されている。ドライバーは佐々木藍咲選手。スプリントでは7位

 マシンも面白いがレースのシステムも非常に管理され車両はすべて主催者で保管。レースのときだけ貸し出され、練習車は別に用意される。マシンは27台あり20台がレース車。残りの7台はスペアカーだ。

 年間15セットのブリヂストン製スリックタイヤと油脂類、保険、メンテナンス費用も含めて年間経費は1100万円。安いか高いかは価値観によるが頂点を目指すドライバーには合理的な金額だと思う。応援してくれるスポンサーと出会える道も開かれ、国内レースとして1戦あたり319万ほどの賞金もが出るのも画期的だ。

ブリヂストンが供給するウェットとドライのスリックタイヤ。ウェットはかなりの深溝で小雨の予選では使われた。富士の雨に注力したタイヤみたい

 KYOJO CUPのプロモーションは女子ゴルフにも似ている。そして世界の女性レーシングドライバーの登竜門となるのを目指している。Rd.1も5名の出身国の異なるドライバーが参加する。

 そしてこれまでのVITAにはKYOJOクラスが設定され、KYOJYO CUPへのオーディションが開かれる。KARTも同じシステムが導入され、モータースポーツを目指す女性にとっては大きなチャンスに違いない。

 フォーミュラでもまれてきた下野選手はこの条件の中でも一日の長があり予選からスプリントも独走だった。日曜日のファイナルも同様の展開だったと聞く。最初のフォーミュラレースは無事終了(土曜日のスプリントしか見られなかったのが残念)。

ピットからグリッドへ。緊張感と開放感の混じった瞬間
Rd.1を終始リードした下野璃央選手。圧勝でした

 このユニークなレースに挑む選手の中に知ってる顔がいた。タイヤの勉強会のスタッフで来てもらった永井歩夢選手だ。キビキビとよく動いてくれる子だなと思っていたがラリー、レースの経験があるという。何気なくウェットハンドリングを走ってもらったら滑りやすいコースをどんなクルマでも適格に走らせて速かったのにビックリ! 適応性が高くドライビングの基本がシッカリして安心して見ていられる。フンワカした雰囲気からは想像できない。

コックピットの永井選手。いつものフンワカした印象からレーシングドライバーの目になった永井歩夢選手。スプリントは5位だった

 KYOJYOの合同テストのタイムを見ると適応力の高さが伺いしれたが、Rd.1では後半タイヤがタレてペースが落ちてしまったと反省しきり。シリーズはまだ始まったばかりで残り4戦も応援してます。

取り付け前のステアリング。パワーステアリングはない。「それほど重くはないです」とは永井選手のコメント
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。