日下部保雄の悠悠閑閑

都会のフォーミュラ

ビッグサイト東館に展示された第3世代のフォーミュラEマシン。ノーズ先端にもオンボードカメラが仕込まれている

 土曜日のKYOJO CUPを取材した翌日はフォーミュラEを観戦。2日間連続で違うフォーミュラとは珍しい経験だ。前日の東京は雨だったようだが日曜日は曇りで暑さもしのげて過ごしやすい天候。しかもサーキットのスタンドまで私鉄と臨海線を乗り継いで40分ほどで行けるなんて夢のようだ。

 昨年は1コーナー先のU字ターンでの観戦でこの狭いコースで抜くのかと驚愕した。今年はグランドスタンド前。普段行き来している公道がレース時には遮断され、目の前のパドックはモーターショーではプレス駐車場になるところだ。

 特設コースの随所には大型モニターが設置されレース展開がよく分かる。実況のピエールさんも共にレースを楽しんでいるような感じで分かりやすい。

 フォーミュラEは内燃機の象徴であるエキゾーストノートがなく聞こえるのはヒューンという独特の音だけ。会場のアナウンスもよく聞こえる。都会ならではのレースと世界最先端の技術を間近で見られるのはフォーミュラEの最大の特徴だ。20世紀のレース観戦とは大きな違いである。

フォーミュラEのタイヤは今年からハンコックのワンメイク。基本的にロードタイヤを使う

 日曜日のレースでは日産23号車のオリバー・ローランド選手が華麗な戦略でポールポジションから優勝を飾った。隣のスタンド席に陣取る日産応援団は大盛り上がり。レース中盤から声援にも熱が入る。席を提供してくれたジャガーTCSレーシングはニック・キャシディ選手が入賞圏でいいレースをしていたが7番手でフィニッシュした。残念だったのは20歳のFEドライバー、マクラーレンのテイラー・バーナード選手。初入賞を目前に接触で左後輪にダメージを受けてウォールの餌食となってしまった。

ポールポジションから日産のローランド選手がスルスルと抜け出す。狭いサーキットではスタート位置は重要です
ローランド選手は追い上げるポルシェのウェアライン選手を振り切りレースを制した。中盤から後半にかけての各チームの戦略と攻防は見もの。コースも昨年から少し変わりコース幅も部分的に広くなっていたように見える

 コース上の一定箇所に設けられるアクティベーションゾーン(アタックモード)は少し分かりにくい。レーシングラインを外れた既定のアウトラインを通過することで4WDとエクストラパワーが使え、300kWから350kWに出力がアップする。チャンスはどのチームにも平等に与えられ、回数と持続時間はFIAが直前に決定してチームの戦略にも大きな影響を与える。東京では2回の使用義務付け。4分間+4分間か2分間+6分間を選定でき日産は後者を選択してレースを制した。レース巧者のNISMOのレース戦略を見るようだった。

Envision Racingから参加していたセバンチャン・ブエミ選手。TOYOTA GAZOO RacingでのWECの活躍は記憶に残る。隣のマクラーレンのサム・バード選手は初めて見た香港E-Prixでの躍動が印象深い。巧がたくさんです

 こうしてみると全てピットからの指示で動いているように見えるが、そこはレース。ドライバーの神業的なテクニックがいたるところで見られ、スタンド前のストレートエンドのせめぎ合いはちょっとドキドキする。

 車体も今年の仕様は小さな接触にも耐えられるようにバージョンアップされ、レースはギリギリのところで繰り広げられた。故意の接触はペナルティになりドライバーも細心の注意を払っているのが分かり、いっそうヒヤヒヤドキドキだ。

 しかもバッテリ容量は47kWh(Tokyo E-Prixで定められた使用可能エネルギーは32kWh)。回生力も使いながら限られたエネルギーをフィニッシュラインで使い切るという耐久レースの妙も入り交じったユニークなスプリントレースだ。

 そして帰り。大勢の観客がいたにもかかわらず電車も大して混まず座って帰れた。昼食をウチで済ませ、夕食も家で一杯飲んでるなんてなんと素晴らしい! 素敵な週末でした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。