日下部保雄の悠悠閑閑

ダイハツ・ムーヴ

ムーヴのXグレード。車両本体価格は149万円。装着オプションは7万1500円のスマホ連携ディスプレイオーディオ、純正ナビ装着用アップグレードパック付

 長期にわたったダイハツの認証問題もようやく一段落し、再開後初となる新型車が登場した。それがフルモデルチェンジしたムーヴだ。

 記憶をたどるとスズキ空前のヒット作となったワゴンRの対抗車種としてダイハツが投入したモデルで、今では基幹車種となっている。

 新型の最大のポイントは後席スライドドア。これまでのヒンジドアに代えてユーザーニーズに合わせた変更だ。一般的にスライドドアは構造が複雑になり40~50kg増えるのが常識とされるが、ムーヴでは車両開発の骨格となるDNGAで車体を軽く作ることで重量増を抑え、FFでは860kg~890kgに収まっている。

 ダイハツのラインアップではタントに代表されるスーパーハイト系があるが、ムーヴはそれよりも低いハイト系に属する。軽に感心のない人にはあまり区別がつかないかもしれないが、ムーヴの全高はタントより100mm低い1655mm。タントとはデザインアプローチも異なり、制約の多い寸法でも前後に長く見えるデザインになっている。

Xの運転席。ちょっと豪華で軽の現在地を反映している
Xの後席。最前端と最後端にスライドさせている。軽でもこれだけのレッグルームが広がる
X装着のタイヤはブリヂストン・ECOPIA EP150で、サイズは155/65R14

 パワートレーン、サスペンションなどは基本的にキャリーオーバーだが新型に合わせてチューニングされていた。

 いずれも乗り心地や加速感など、都内で走っている限り不足感はない。NAエンジンは下のトルクも盛り上げた感じでCVTとの相性もよく、発進加速はエンジン回転を上げなくても加速する。

 ターボでは余裕のあるトルクとCVTのチューニングがうまくかみ合い、追い越し加速も含めて十分な加速力を持っている。さらに演出されたリズムに乗った変速感も好ましい。

 乗り心地はターボのRSとNAエンジンでは感触がかなり違う。NAも荒れた路面での足の動きはかなり進化し、RSではさらに接地性がよくなりバネ上はフラット。軽自動車とは思えないほどしっかりしている。

 ハンドリングも応答性がよくロールも抑制され、引き締まった足だが意外としなやかな乗り心地を持ち、両方のバランスがよく取れている。

ターボの運転席。タコメーターや革巻きステアリングが装備され、価格は189万7500円
ターボのタイヤもブリヂストン・ECOPIA EP150だが、サイズは165/55R15とインチアップされる

 ハイブリッドや突出したパワー、飛び切りの軽量化などムーヴに飛び道具はないけれども、ダイハツらしくコツコツと積み重ねた進化が新型ムーヴになった。試乗会で「今回の新型ムーヴを一言で?」と質問してみたら誰もが困ったような顔をする。なるほど一言で表わすのは難しいわけだ。

 それに今どきの軽自動車はLEDライトから自動駐車、パノラマモニター、ADAS系まで何でもそろっている。しかもスペース効率の高さは軽自動車が群を抜いており、便利さは小型車を完全に凌駕する。まさに日本の国民車にふさわしい。

薄い三角窓。わずかな隙間だがあるとないとでは大違い

 ちなみにムーヴのパワースライドドアはRSのみ両側で、NAグレードでは右側が5.5万円のオプションになる。イージークローサーもオプション価格に含まれている。

 価格は最廉価グレードLの135万8500円から、RSのターボ4WDの202万4000円まで。ダイハツのモノづくりの基本概念、廉価良品を表す商品群だ。最近の軽中古車の異常な高騰を見ると納期はかかるがとても安く感じた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。