日下部保雄の悠悠閑閑
暑い夏にスタッドレスタイヤ
2025年7月28日 00:00
梅雨を通り越していきなり長い夏がきてしまった。暑い毎日に閉口している。タイヤの世界ではもうスタッドレスのシーズンが始まっている。
ブリヂストンはVRX3がWZ-1になり、横浜ゴムはiceGUARD 7がiceGUARD 8を上市した。いずれもフルモデルチェンジでさらに進化したコンパウンドが開発され、氷上性能の強化をうたっている。新型が登場するたびにコンパウンド技術の進化に驚くばかりだ。
それにスタッドレスの顔とも言うべきパターンも重要だ。雪上性能だけでなく水はけ技術は氷上性能にも効果が大きい。複雑に溝を組み合わせた3Dサイプが開発されて以来、ブロック剛性が飛躍的高くなり、ヨレが少なくなって接地形状が正確になったことで、氷・雪ともグリップ力が高くなったばかりでなく、ドライ路面でもスタッドレスにつきものだったタイヤのヨレは格段に少なくなった。少なくとも春先までのオンロードでの性能は上がっていると感じている。
さて話を戻すと、この酷暑の中でBSの新型スタッドレスのWZ-1の試乗会が行なわれた。もちろん日本中探してもこの季節、雪や氷の路面はどこにもない。
なので、試乗はスケートリンクを使って行なわれた。華麗な演技を見せてくれるフィギュアスケートでは氷盤を舞うように滑っている姿からはリンクは広そうに見えるが、さすがにクルマではそうはいかない。20km/h前後の世界だが氷盤を走れるのはうれしい。
きれいな氷盤になったスケートリンクだが、真夏の熱気は外からも進入し完全にシャットダウンするのは難しい。室内温度もいつもより高いようだ。
WZ-1はこれまでのVRX3からケーシングからコンパウンドまでフルモデルチェンジしたタイヤとなる。試乗はアイスバーンでの定評があるVRX3との比較試乗だった。
コンパウンドでは、発泡ゴムで吸水しきれなかった水を粘着摩擦という発想で開発されたポリマーを加えることで限界域のグリップ力を上げたとされるのが注目だ。パターンでは横方向のサイプ(細い溝)の両端を閉じてL字型としたことで、サイプに入る水の量を制御して新コンパウンドのグリップをサポートする。
WZ-1はブリヂストンの新技術基盤であるENLITENを使う初のモジュール化されたスタッドレスタイヤでVRX3より軽量に作られている。興味津々のスタッドレスタイヤだ。
一番ビックリしたのはVRX3に比べてトラクションが高かったことだ。スタート直後のスリップからの回復が早い。スリップさせないように加速した場合とアクセル全開でトラクションコントロールを効かせた場合の両方で同じような結果だった。制動も減速Gは少し高いように感じた。
円旋回では先に走ったVRX3で路面を磨いてしまったためか、限界速度の差はほとんどなかったが、限界点の曖昧なグリップ感はシャーベット路面でのコントロール性の高さを期待させる感触だった。
オンロードではベーシックな夏タイヤとの比較だった。どの新型スタッドレスの試乗会でもオンロード試乗はメニューに加えられることはなく貴重な経験だった。路面が溶けそうな気温ではスタッドレスタイヤには気の毒だったが、ロードノイズはかなり抑えられており、発泡ゴムの特徴でタイヤが路面をたたく打音が小さくなるという。パターンノイズもピッチ配列の妙でアスファルト、コンクリートとも耳障りな音は伝わってこない。
乗り心地も凹凸路面の当たりが柔らかく上下の減衰も悪くない。強い衝撃が入ると突き上げ感があるが市街地走行では快適だ。
ドライ路面ではBEVの日産・アリアとアウディ・Q5が用意され、市街地と高速道路の走行となった。何度も言うがスタッドレスタイヤには気の毒なほどの気温の中ではハンドル操作で少し位相遅れが出る。高速での早い操舵は勧められないが、Q規格のタイヤであることを考えると妥協できるところ。スタッドレスタイヤが常用される季節のドライ路面ではまた違った味を持つに違いない。
WZ-1の性能の一端は楽しめたが、機会があれば氷と雪、それにシャーベットが混じったようなリアルな雪の世界で存分に走ってみたいと思った。早く暑い夏が過ぎますように。








