日下部保雄の悠悠閑閑
水とタイヤの深い関係
2025年12月1日 00:00
シンクロウェザーでタイヤの新境地を開いた住友ゴムがAJAJ会員向けに勉強会を開いてくれた。テーマは日本が誇る先端研究施設を活用して誕生した新素材。発表の一端はシンクロウェザーのアクティブトレッドにも関係する。
産学共同研究を進めている一環として、東京大学の原田慈久教授がテーマとした水の特性の話は目から鱗だった。水は何気なくそばにあり、とっくに研究され尽くされていると思っていたが、まだまだ未解明なことが多いという。その中で世界のトップを走る原田教授の解説は驚きの連続だった。
勉強会は原田教授の研究には欠かせない仙台の東北大学敷地内にあるNanoTerasu(3GeV高輝度放射光施設)で行なわれた。太陽の10億倍の明るさを可能としたことでナノの世界を照らし出すという施設だ。
自分のようなアカデミックとは正反対にある人間には難解だがおぼろげながら要約を試みる。
ナノメートルの世界では水素結合は通常の化学結合の約10分の1。しかし分子間では約10倍の強さを持つ「中途半端」なところが水の特徴という。
タイヤについては水がほとんど染み込まないと予想されていたが、実際には多量の水が染み込む。新品タイヤの場合は水を弾くが、ユーズドタイヤになると水に触れることで表面が親水化してミクロンオーダーの深さで染み込む。水はタイヤ表面から離れるほど状態が階層的に変化する。しかもタイヤが連続して回転することで水はタイヤ内部に押し込まれるという。回転するタイヤからは水が弾き飛ばされると思っていたのだが逆のようだ。
今後タイヤと水の解明が進めばウェットの制動距離や旋回力など新しい技術が誕生する可能性も大きい。
また、水分子の基本構造のH2Oは酸素側がマイナス、水素側がプラスに帯電しており、この電気的な特性がタイヤに及ぼす影響も少なくないとの話だった。なかなか面白い技術だ。
これからは私見。タイヤに染み込んだ水に電気を流すことでタイヤの特性を変えられたら面白い。電子制御タイヤ、なんてね。
タイヤだけでなく水との深い関係がある燃料電池にも話が及んだ。ご存知のように燃料電池は水しか出さない。白金触媒が反応の過程で水を生成するためだ。ところがその水が白金に付着すると反応を妨げて電圧が0.15V程度低下してしまう。白金と白金ナノ粒子の距離を調整できれば水の付着を制御でき、性能が上がる。ただ、水は少な過ぎるとイオン伝導が落ちてしまうため、触媒性能は水の量とのバランスが重要とのことだった。
付け加えると水の分析はナノの世界の分析。軟X線というナノの世界を見える化する装置が作られたことで飛躍的に進んだ。その施設もNanoTerasuにあり、現状で世界最先端の施設と言われるゆえんだ。
タイヤに話を戻せば、水との親和性が進めば、例えばレースの世界では1種類のタイヤで使用範囲が広がり、セミウェットとドライが交互に現れるような路面でもタイヤ交換することなく走れてしまう。いろいろな夢が広がる技術だ。




