日下部保雄の悠悠閑閑

スタッドレスタイヤの季節

旭川市街から少し離れた郊外はシャーベット状の路面になっている

 長かった夏、短かった秋を経て、本格的なウィンターシーズンがやってきた。つい1か月前に恵那で始まった紅葉、そして富士のイチョウ並木の美しさに見とれていたら、もう雪の便りが聞こえてきた。

 北海道・旭岳。僕にとってはなじみ深い山だ。その昔ラリー用にウィンタータイヤを旭岳へ向かう旧道でやっていた時期がある。気温の安定する夜中に行なっていた。最初はスパイクタイヤのテスト、次にはスタッドレスタイヤとはどんなものかから始まった。さまざまな知見をこの山からもらった。

 今は旭岳まで比較的なだらかなコースで行けるが、今は開いていない(と思う)旧道はまさに峠道だった。降雪が激しくなると補助ランプに照らし出される雪が壁のように反射し、音はすべて雪の中に染み込み昼間とは違った特別な世界になる。今でもあの時の情景が思い出される。

 さて、その思い出深い旭岳でスタッドレスタイヤの試乗会が行なわれた。もちろん旧道の峠道ではなく新道で、時間は夜中ではなく昼間だ。スタッドレスタイヤはブリヂストンの新製品、WZ-1だ。これまでスケートリンクや夏のドライ路面での試乗はさせてもらったが雪は初めてだ。

 試乗したのは旭川の完全に除雪された市街から郊外を通り、徐々に標高が上がるとシャーベットから圧雪になって場所によっては小さなアイスバーンも現れる。いろいろな路面を走れて楽しかった。

旭岳へ向かう。徐々に高度が上がると路面が見えなくなり、その後黒い舗装路面も見えなくなる

 WZ-1のパターンは従来のVRX3の発展型で、氷上性能を確保する細かいサイプとサイプ間の溝を埋めて排水路を確保した新しいブロックパターンを組み合わせたパターンになる。

路面に刻まれたWZ-1のパターン。ストレートグルーブと細い連続サイプ。よく見るとサイプ間をつなげたブロックが特徴

 夏のオンロード試乗では外気温38℃という環境だったため、さすがに応答性などは夏タイヤに及ばなかったものの、ドライとはいえ冬の旭川では本来の性能を発揮だ。具体的にはトレッド剛性が上がり市街地はもちろん、アベレージの上がる郊外路でも安定した接地感と自然な操舵性がある。

 スタッドレスは氷上でのグリップを上げるために接地力を上げることからトレッド展開幅が広い。荒れた路面では意外と敏感に反応することもあるが突き上げ感が丸い感触だ。

 旭岳麓の雪質はまだ湿気を含んでおり試乗にはちょうど良い。そして標高が上がると雪質が締まってくる路面だった。

 VRX3は雪の轍乗り越しでは少しひっかかる感じがあった。しかしWZ-1では滑らかなライントレース性が特徴。場合によっては轍の底にできるアイスバーンでのグリップ力は相変わらず高く、轍にできた浅い雪の壁でも抵抗なく乗り越せる。深雪になるとサイズによっては少しハンドル取られもあるが実用性では問題なさそうだ。
 WZ-1は全119サイズをそろえて大概のクルマには対応できる。今回用意されたバラエティに富んだ車種はいずれも相性が良かったが、ヤリスの185/60R15やRAV4の225/65R17、カローラツーリングの205/55R16、そしてクラウンクロスオーバーの225/55R19は自然なフィーリングで印象に残った。アウディ・Q5やボルボ・XC60などの輸入車にもクセのない相性が魅力だ。

235/55R19サイズのパターン。試乗車はすべて4WDでそろえられた
185/60R15サイズのパターン。サイズによってパターンを変えて最適性能が発揮されるように調整される

 昨今のスタッドレスタイヤは氷上性能や深雪での性能を上げつつ、一昔前のようにブロック剛性が弱くてフラフラすることも少ない。

 欧州では温暖化の影響でオールシーズンタイヤの比率が上がっているが、日本のスタッドレスの進化はどこまで進むのだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。