日下部保雄の悠悠閑閑

工芸品……なのか?

ゆで卵製造機、EX-7。卵が7つ立派なゆで卵になる。しかも殻が綺麗に剥ける

 デスクの上に不思議な造形物がある。それは以前にも紹介したゆで卵製造機、EX-7だ。CXを頭に置いたクルマをラインアップにそろえるマツダが技術と時間、情熱をかけて実用化したゆで卵製造機に与えられたネーミングである。EXのEはElectricとは無縁なEggだ。

 開発責任者はZOOM-ZOOMでマツダの技術を引っ張っていた元会長の金井誠太さん。強面(?)のエンジニアたちも金井さんににらまれると縮み上がったとか、なかったとか。

 極限まで余分な肉を削ぎ落したデザインは名機、零戦を連想する。小さなこだわりの軽量孔や足の締結部分の肉厚を確保した精緻な設計、軽量化を追求したマグネシウム構造。どうしても7のネーミングを与えたかったのか、卵が7個配置できる不思議な、いや絶妙なデザイン。しかもこの形、ロータリーエンジンを連想させ、センターホールには今にもエキセントリックシャフトが入ってきそうだ。

裏も精緻に肉削ぎをしている

 3本の腕が交差する頂点にはさりげなくロータリーのオムスビが配置されている。そして漫然と腕が伸びているわけではない。卵を置いたときに鍋の底に接触しないように計算されつくしたクリアランスである。

 しかも頂点には細い針がついており(残念ながら折れてしまった)、茹でる前に卵のお尻をコツンと当ててから所定の位置に配置するとお湯が微妙に回り、殻と白味がきれいに剥がれる心遣い。すごい!

 EX-7の発表に際しては陣頭指揮(多分1人)を執った金井さん自身による熱いプレゼンテーションが行なわれ、終わったときにはスタンディングオベーションで祝福された……ような気がする。

真横から見る。丹念な造形

 こうしてマツダの技術と時間と情熱を駆使して完成したEX-7。水を張った鍋の底でマニュアルどおりローテクのキッチンタイマーによる温度管理がされ、均一なゆで卵を量産する。EX-7はまさに名機であった。

 が、しかしその後、EX-7が量産された話も、後継機が登場したという話も聞かない。ゆで卵を作るにはコストが合わないだろう。というか、最初からケチくさいこと考えずに作ってみたかったんだと思う。多分……。

 その名機も頭の針が折れた時点で、燃えないゴミに仕分けされた。視野の片隅に入ってきたEX-7を間一髪で救出し、今デスクの上で所在なさげにしている。修復するか別のものに活かすか頭を掠めたが、しばしこのまま眺めていてもいいかと思った。こだわりには心を引きつけられる何かがあるのだ。変人かしら?

ゆで卵を3個、置いてみた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。