日下部保雄の悠悠閑閑
日産のイヴァン・エスピノーサCEO
2026年6月1日 00:00
日産を率いるイヴァン・エスピノーサCEOとAJAJメンバーとの面談の場を設けていただいた。AJAJからお願いしていた企画が実現した形だ。エスピノーサCEOはプレスカンファレンスなどで見知った存在だったが、至近距離で話を聞くのは初めてだった。
日産の話題となれば、どうしても巨額赤字の話に触れざるを得ない。2025年度通期決算も5330億円規模の赤字となり、2期連続の厳しい決算となった。設備や人件費などリストラ費用の影響が大きいと言われるが、CEOとして経営面についてコメントを求められる機会が多いのも当然だろう。
しかし、この日は自動車ジャーナリストとの対談ということもあり、大好きなクルマの話からスタートした。冒頭から「イヴァンと呼んでくれ」とフランクに切り出されたのが印象的だった。
日本ではファーストネームで呼ぶ習慣があまりないが、ここではあえて「イヴァン」と呼ばせていただく。イヴァンはメキシコの大学で機械工学を専攻した技術畑の人物で、キャリアもメキシコ日産からスタートした生粋の日産マンだ。
幼いころから父親の運転するV8エンジン車に揺られ、自らハンドルを握ったのもまだ子供時代だったという。その話を聞き、自分がクラッチにやっと足が届くようになったころ、父親のブルーバードを山中の広場で運転させてもらったときの感激を思い出した。しかもそこはダートで、後のラリードライバーとしての人生に因縁を感じる。父親に感謝である。きっとイヴァンも同じような感覚を味わっていたのだろう。
質疑応答は軽妙な同時通訳を介しながら、実にスムーズに進んだ。通訳さんの力量すごい!! イヴァンは答えにくい質問にも真剣に向き合い、その熱量と人柄によって、出席者はすっかりファンになってしまった。
イヴァンによれば、これまでの日産は「販売台数」を優先するあまり、大きなマーケット向けのクルマ作りに偏っていたという。しかし、それは常に激しい競争にさらされることでもあり、必ずしも成功につながらず、結果として、本来ユーザーが日産に期待していたクルマ作りが難しくなってしまった。大量販売と高収益商品の狭間で、長い間ジレンマに陥っていたというわけだ。
今後はその轍を踏まず、身の丈に合った販売規模で、ユーザー本位のクルマ作りを進めていくという。そのための取捨選択としての工場閉鎖であり、生産ライン統合でもある。さらに日本については、マザーカントリーとして車両開発を担い、輸出のハブとして日本を支える重要拠点にしていく考えを示した。
そしてイヴァンは、切実に新しい人材を求めていた。日産には優れたエンジニアが数多くいるはずだが、これから大量に必要となるのはソフトウェアエンジニアなのだろう。
実際、開発の重点はモビリティの自動化に置かれている。障がい者から高齢者まで、誰にとっても移動の自由を奪わないクルマを目指すという。部分的なレベル2+からレベル3へ、そして最終的にはレベル4が視野に入る。ただし、それは運転の楽しみを奪うものではなく、人をサポートする存在として実装されるべきだと強調していた。
自動運転技術は、日本では特区などで見かける機会が増えてきたが、自律型自動運転車の実用化という点では、中国や北米がかなり先行しているのも事実だ。
日産のAIパートナーは、英国のWayve。実車の登場も近いのか、この件についてはあまり深く語られなかったが、AIパートナーとの連携が、これからの日産のクルマ作りに大きな影響を与えることは間違いないだろう。
また、すべてのソフトウェア機能を最初から搭載すると、ユーザーにとってコスト負担が大きくなる。そこで、まずはシンプルで使いやすい機能を提供し、必要に応じて追加購入できる“マネタイズ可能なシステム”を構築したいという考えも示された。それが実現すれば、既存ディーラーの価値向上にもつながるはずだ。
一方で、人々が日産に求めているものには、“運転して楽しいクルマ”も当然含まれる。イヴァン自身もクルマ好きで、「どんなクルマに乗りたいですか?」という質問には、「GT-Rは日産の象徴。Zも大切なレガシー」と語ったうえで、「乗ってみたいのはS13のようなクルマ」と答えた。確かに、それはぜひ乗ってみたいゾ。早世してしまった開発主査の川村紘一郎さんも喜んでいるに違いない。
日産は今後、e-POWERを中心にラインアップを拡充していく計画で、まもなく新型エルグランドも登場する。
個人的には、e-POWERのポテンシャルにはまだ大きな伸びしろがあると感じており、今後に期待したい。
そして、多くの人々の思いが詰まったスカイラインの影も、少しずつ見え始めてきた。
イヴァン率いる日産。これからかなり面白くなりそうだ。




