まるも亜希子の「寄り道日和」

目からウロコの製品を見つけた国際福祉機器展

国際福祉機器展(H.C.R)2019で、ホンダブースでのトークショーに登場した世界的に活躍する車いすプロテニスプレーヤーの国枝慎吾選手。私はそのお相手を務めさせていただき、目の前でバックハンドを披露してもらったり、自らステアリングを握る「オデッセイ」の感想を聞いたり! 来年の東京パラリンピックへの意気込みなどもいただき、素晴らしい時間となりました

 幸いまだ私の両親は元気にしていますが、先輩たちからは家族の介護が必要になったという話がちらほらと聞こえてくるようになりました。乗り降りがしやすいクルマに買い替えたり、自宅をバリアフリーにリフォームしたりという大きな改良だけでなく、仕事をやりくりして病院への送り迎えをする時間を捻出したり、それまで必要なかった身のまわりのお世話をしたりといった、時間的・体力的な大変さも増えてくるようですね。

 そうした中、介護する側の負担を減らし、介護される側の快適性や安全性を高める最新の福祉機器たちが大集合する「国際福祉機器展(H.C.R)2019」が、9月25日~27日に東京ビッグサイトで開催されました。

 私はトークショー出演のため9月25日に伺いましたが、なんとトークショーのお相手は約2年ぶりにホンダブースに登場する、車いすプロテニスプレーヤーの国枝慎吾選手だったんです! 世界ランキング1位を独走していた矢先の2016年にヒジのケガが発覚し、手術後はバックハンドのフォームを変えるなど1からの挑戦に近い状況の中、試行錯誤しながらも2018年には徐々に戦績を伸ばし、なんとなんと、2019年はすでに優勝回数10回! 世界ランキング2位にまで復活を遂げた国枝選手。

「その強さとは?」の問いに、やはりテニスはメンタルスポーツなので、「俺は最強だ」と常に声を出して自分に言い聞かせ、信じることだとの答えが返ってきました。トークショーの合間にも、国枝選手は本物のラケットを持ってバックハンドのフォームを見せてくれたのですが、そのラケットにもテープに自筆で「俺は最強だ」と書いて貼ってあるんです。国枝選手曰く、ポイントは「最強になりたい」ではなく、「最強だ」と断言することだそうですよ。私たちも、仕事の大事なプレゼン前とか、試験の前などに、「絶対に大丈夫! 絶対に受かる!」って声に出して断言したら、実力以上のパワーが後押ししてくれるかもしれないですよね。

 そして気になるのが、開催まで1年を切った2020年東京パラリンピック。国枝選手はもちろんその時期を最高の状態で迎えられるよう、体調管理などに気を配っているとのこと。「皆さんにまた来年ここで、金メダルを見せられるようにがんばります!」との言葉に、温かい拍手で会場が1つになったトークショーでした。本当に、心から応援しています!

 さて、トークショーの後はもちろん会場を見てまわったのですが、まだ介護の大変さが分からない私でも、「なるほど!」と目からウロコの製品がたくさんありました。例えば、1回使い切りの携帯型ウォシュレット「お尻シャワシャワ」なんて、車中泊などのアウトドアレジャーや災害時、赤ちゃんのオムツ替えの時などにも使えるなぁと感心。「福祉機器」って聞くと、自分とは無関係のように思えてしまうけれど、視点を変えれば健常者にも役立つものが多いですよね。

 そして今回、クルマ好きの心をくすぐるものも見つけてしまいました。それがトヨタブースに展示されていた、車いすに連結して使うことができる歩行領域EV(電気自動車)。必要に応じて着脱することで、手動の車いすとしても、電動車いすとしても使えるようになるのがいいところです。1回2.5時間の充電で約20km走行できるとのこと。これって、2017年の東京モーターショーに出展されていた「Concept-愛i WALK」がベースになっているものですよね。あの時は2021年に発売予定と言っていた記憶がありますが、こんなに早く実物(まだコンセプトでしたが)が見られて嬉しく思いました。

車いすに連結するタイプの歩行領域EVがトヨタブースに出展されていました。これは2017年の東京モーターショーにコンセプトとして出ていた「Concept-愛i WALK」がベースとなっているもので、1回2.5時間の充電で約20km走れるとのこと。希望者は試乗もでき、ハンドル操作などがとてもやりやすそうでしたよ

 さらにトヨタブースでは、すぐにでも欲しいと思うものを発見。それが、シートの座面にただ置くだけで、着座面がクルリと回転して体の向きが簡単に変えられるようにできる「回転クッション」です。要介護まではいかないけれど、私の祖母のように足腰が弱くなってきて、クルマの乗り降りがちょっと大変、という人にいいなぁと思いました。置くだけなのでどの席でも使えるし、複数のクルマで共有できたりするのが便利ですよね。

トヨタ/ダイハツブースでは、介護が必要なほどではないけど、クルマの乗り降りや走行中の辛さを軽減するグッズが多彩に揃っていました。例えば、座っていると腰が痛くなる人のための「コンフォートクッション」や、体をひねってシートベルトを締めるのが辛い人に向けた「シートベルトパッド」、バックドアが届きにくい人に便利な「バックドアストラップ」といったものがあるんです。中でも、祖母のために購入しようかなと思ったのが、着座面が回転して体の向きが簡単に変えられるようになる「回転クッション」。シートに置くだけというのがいいですよね

 そして最後に、今後もし私が車いす生活になったとしたら、真っ先に欲しいと思ったものを紹介します。それが、「着脱式手動運転装置 SWORD(ソード)」です。わずか3kgほどの重さなので手軽に持ち運びができ、ほとんどのクルマに自分で簡単に取り付けができて、足を使わずに手の操作だけで運転できるようにしてくれるというもの。クルマを手動運転用に改造するのもいいけれど、それだといつでもどこでもその1台しか運転できなくなってしまいますよね。でもこれがあれば、例えば旅先でレンタカーを借りた時や、友人とドライブに行って運転を代わってあげたい時、クルマを買い替えた時にもそのまま使えます。「障害を持つ身となっても、いろんなクルマに乗る楽しみを奪われたくない」という人には、うってつけの装置だなぁと思いました。

もし足に障害を負ってしまったとしても、いろんなクルマに乗る楽しみを奪われたくないな、と思う人にチェックしてほしいのが、持ち運びできる着脱式の手動運転装置「SWORD(ソード)」。今野製作所が出展しており、試しに使ってみたい人や旅行などで一時的に使いたい人に向けて、有料レンタル(最低7日から)も行なっているそうなので、購入前に1度試してみたいという人にも親切ですよね。これなら1台のクルマを家族と共有することもできるし、電車&レンタカーの旅もできるし、とてもいいと思います。ほとんどのクルマに装着可能ですが、詳細は購入の際に確認を

 というわけで、毎回いろんな発見がある国際福祉機器展。でもいつも感じるのは、ここには「人が人を想う気持ちが溢れているなぁ」ということです。「誰にでも等しく移動の自由を」と願うクルマ業界も、着実に進歩していると感じました!

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。