まるも亜希子の「寄り道日和」

街で見かけるのが楽しみな最新のロンドンタクシー「TX」

最新のロンドンタクシー。LEVCの「TX」は、発電用のエンジンを搭載したレンジエクステンダーEVです。走行可能距離は600km、バッテリーのみの走行可能距離は130km。日本の急速充電器に対応し、30分で80%、60分で100%の充電が可能とのことでした。いろんなお話や、試乗の様子をまとめた動画もありますので、ぜひYoutube「クルマ業界女子部チャンネル」でチェックしてみてください

 新しいクルマを見ると、ついつい「運転してみたい!」と思いがちなのですが、今回は珍しく「乗せてもらいたい!」と思いました(笑)。それがこちら、最新のロンドンタクシー! まさか、日本でお目にかかれるとは思っていなかった、LEVCの「TX」です。2020年1月に日本上陸したそうなのですが、お値段が1000万円超えということや、コロナウイルスの影響もあり、現在まだ納車先は決まっていないそう。ということは、日本ではまだまだ珍しい1台。貴重な体験をさせていただいちゃいました。

 きっと多くの人が、東京オリンピックでの送迎需要を見込んだ導入なんでしょ? と思うかもしれませんが、LEVCジャパン 経営企画室室長の渋谷さん、広報部長の石黒さんにお話を聞いてみると、実はもっと深い想いがあったのです。このTXは、ロンドンで現在2500台が運行しているそうなのですが、ガバッと大きく開く伝統の観音開きドアには、サッと簡単に引き出せるスロープがあり、耐荷重250kgで電動車いすにも対応。室内に乗り込んでから、くるりと展開するスペースも確保できるので、誰かの助けを借りずに乗り降りが可能だと言います。また、手動のコンパクトな車いすなら、車いす+4人が乗車可能で、家族が同じ空間で同じ目線でのドライブを楽しめます。これこそが、今の日本に足りないもの、これからの日本に必要不可欠な乗り物なのだと、自らも車いす生活を送った経験のある渋谷さんは感銘を受け、日本導入に至ったのだそう。

大きな開口部で乗り降りしやすい観音開きのドアには、スロープのほかにもこんな仕掛けが。普段は車いすを使っていても、自分で立ち上がることができる人のために、こうやってシートが回転して乗り降りを助けてくれるようになっています

 確かに、日本のタクシーには車いすOKのサインはありますが、街中で乗せているところを私自身は一度も見たことがありません。一部の報道によると、空車が来て手を挙げても通過されたり、乗車拒否をされたりすることも多いと聞きます。パラリンピックを開催しようとしている国が、こんな状況でいいのでしょうか? そんな疑問は常にありました。

 このTXは1.5リッターエンジン+モーターのレンジエクステンダーEVなので、自治体によって変わるものの購入時に300万円超の補助金が利用できます。そうなると、個人で購入するのにはまだ高価ですが、政府主導での導入なら、それほどハードルが高い金額ではないように思います。渋谷さんは、「すべての人には、自由に移動する権利があります。日本ももっとこういう乗り物を増やして、誰もが精神的にも豊かな生活を送れるようになってほしい」と語ってくれました。

充電口は、フロントグリルの右側についていました。30分の急速充電で80%ほど貯められます。100%でのEV走行は最大130km可能とのこと。近距離なら電気だけで走れますね

 さて、実際に最新ロンドンタクシーのキャビンに乗ってみると、天井は大きなガラスルーフで明るいし、常時座れるシートが3席、向かい合う形で折りたたみ式の簡易シートが3席、計6名分が備わり、とっても広々とした観覧車のコンパートメントのよう。運転席とは透明なパーテーションで仕切られているので、お互いのプライバシーも守れます。助手席の部分にはシートはなく、荷物置き場になっていました。

 走り出すと、ときおりブーンとエンジンがかかる音はかすかに聞こえるものの、やっぱりとても静かです。乗り心地は、ふっくらソファのような、とまではいきませんが、遊園地の乗り物よりはかなり上質、という感じ。なにより、大きな窓ガラスから外の景色がよく見えます。ドアにあるマイクのスイッチを押すと、運転手さんとの会話ができるようになっていました。

タクシードライバー気分で運転席に。スペース自体はそれほど広くないですが、頭上が高くパーテーションもクリアなので圧迫感はなく、動くお仕事スペースという感じです。運賃をやりとりする穴が開いていて、ちょっと昔の銭湯なんかを思い出してしまいました(笑)

 で、乗せてもらいたいと言っておきながら、せっかくだからとやはり運転もさせてもらいました(笑)。出足は重いのかと思いきや、拍子抜けするほど軽やか。実はこのTX、贅沢にもボディの骨格がアルミで外板が樹脂なんだそうです! そして加速フィールも安定感はしっかりありつつ、軽やかさの方が優っている感覚。アイポイントが高いので、しばらく運転していると、この感覚って何かと似ているような……!? そうだ、これは大きめのSUVをオンロードで走らせているような感覚です。ロンドンタクシーは、運転していても想像以上に楽しい乗り物でした。

 TXの納車第1号は、いったいどなたになるんでしょうね。街で見かけるようになるのが楽しみです!

【お詫びと訂正】記事初出時、本文内の表記に間違いがありました。お詫びして訂正させていただきます。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z(現在も所有)など。