まるも亜希子の「寄り道日和」

新型「フィット」の風洞実験を見学してきました

赤い目玉か日の丸か……。人間がこんなに小さく見えるほど巨大なこの球体は、Hondaものづくりセンターに新設された、風洞実験施設の風を発生するファンの部分。周りの黒フィンは18枚あって、直径9mもあるんです。ここで発生した風は、長い通路を通る間にどんどん圧縮されて、最大で200km/hで走っている時と同じ風圧になり、燃費計測などの空力テストができるんだそう。ファンを見たのは初めてで、非現実的な光景に圧倒されてしまいまいした

 写真を見て「なんじゃこりゃ」と思った人も多いかもしれないですね。一風変わった日の丸か? ゴン太くんの鼻か? いやゴン太くんはちょっと古いですか(笑)

 実はこの赤い球体は、圧倒されるくらい巨大なもの。周囲のフィンを含めて直径9mもあるんです。そしてこれが回ると、わずか45秒ほどで200km/hの際の風圧が発生されるというから、人間はもう立っていられないくらいになりますね。

 これはどこにあるのかというと、栃木県芳賀郡にあるHondaものづくりセンターに新設された、最新の風洞実験施設です。そう、この巨大なファンを回して、車両の空力性能をテストする風を発生させるのです。過去にもいろんなメーカーの風洞実験施設を見学しましたが、こうしてファンを見せてもらったのは初めてのこと。どんどん階段をおりて地下にもぐり、大きなトンネルのような通路を歩いてこの巨大ファンにたどり着くまで、まるで探検隊になった気分でドキドキしてしまいました。

 ファンの裏側から歩いていって、最後にこの黒いフィンの隙間をすり抜けて表へ抜けたのですが、その時に触ってみたら、フィンの先と地面の隙間は指1本も入らないくらいギリギリ。フィンはカーボンのようで、手で押すとゆっくり動き出すくらい軽くて驚きました。

巨大ファンの裏側はこんな感じで、ロケットのような雰囲気です。こうした地下通路を歩いていると、探検家になったような気分でした

 ホンダには、1991年に稼働した固定構造の風洞施設と、2009年に建設された1ベルト構造の風洞実験施設もあるのですが、3基めとなる今回の施設は5ベルト構造。2018年ころから、「WLTP」という世界統一の燃費試験法が策定されたことによって、実走から風洞での試験が多くなったそうで、それに対応するために新設したとのこと。とくに、計測条件の安定と高い再現性を実現させるために風洞全体で温度管理ができるほか、車両のドライブシャフトを外さずにエンジンをかけた状態(ATミッションにオイルを送るため)で風洞実験ができる新システムEGR(エキゾースト・ガス・リムーバル)の採用は、世界初となるそうです。

 テスト車両の4輪とアンダーボディのそれぞれが別のベルトに接していて、個別にデータが取れるようになっているんだそうです。テストの様子は、隣接するガラス張りの部屋から見ることができ、風圧や時速などのデータとともに、車両の左右と上からの映像がモニターで確認できるようになっています。

こちらは風洞実験中の光景です。ガラスの外から見ていると、まったく音もなく風もなく、平和(笑)。でも新型フィットの車輪がものすごい勢いで回っているのだけが分かりました

 ただ、「では今から開始します」との声に、かなり緊張しながらカメラを構えて見守っていたんですが、私たちがいる部屋はいつまでたってもシーン…… 無音・無風。まぁ、そりゃそうですよね。こっちまで暴風になったらテストどころじゃないですもんね(笑)。かろうじて車輪が回っているのが分かるくらいで、エンジニアの方も「地味ですみません」と恐縮されていたほどでしたが、ここで新規車種の全グレードを1台1台テストするとのことで、昼夜を問わず稼働しているというのも納得。なんと、タイヤの銘柄違いまでちゃんとテストするんだそうです。

 今回、実際に見せていただいた新型フィットでは、最初はもっとリアスポイラーが違う形状だったのですが、このテストによって試行錯誤した結果、今のようなスッキリとした形状になったんだそう。デザイナーさんもこの風洞実験施設に来て、空力性能の開発者とけんけんがくがく、議論しながらデザインが煮詰められていくというから、本当に大変なことですよね。私たちは簡単にクルマのデザインに言いたい放題しちゃいますけど、こういう現場を見ると、フィットが完成するまでの膨大な時間と苦労にただただ感服です。

 外から見たり乗ったりしただけでは分からない、内側に秘められたクルマのすごさにも、これからもこうして時おり、目を向けていけたらいいなと思います。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z(現在も所有)など。