まるも亜希子の「寄り道日和」

筑波サーキットで出会ったオリジナルレーシングカー

こちらがVITA TROPHY RACEに参戦しているVITA-01というレーシングカーのゼッケン1「TIPO FUCHS ETA」号。日本のウエストレーシングカーズが開発したオリジナルのレーシングカーで、シャシーはパイプフレームとセミモノコック構造、パワートレーンはヴィッツRSの1.5リッターエンジンとミッションが搭載されています。価格は中古パワートレーンの個体なら286万円ほどから販売されていて、吊るしですぐにレース参戦できる手軽さが魅力。他のレースだと初期費用が軽く1000万円くらいになってしまう場合が多いので、確かにトライしやすいですよね

 いまだかつてないほど久しぶりに、夫のレースの応援へ行ってきました。娘が生まれる前から、毎月のようにレースに同行していたのですが、今年は86レースに参戦しないことになり、さらにコロナ禍により単発で出るレースも中止になったり無観客になったりで、「ようやく応援に行けるんだなぁ」としみじみ、今まで当たり前だと思っていたことのありがたみを実感したのでした。

 今回は、私の古巣でもある自動車雑誌「Tipo」の佐藤編集長がシリーズ参戦している「VITA TROPHY RACE(ヴィータ・トロフィーレース)」に、夫がピンチヒッターとして参戦することに。「VITA-01」という、量販されていないオリジナルのレーシングカーで速さを競う、ワンメイクのスプリントレースなんです。日本各地のサーキットでさまざまなシリーズ戦が開催されていて、最近では世界初の女性プロドライバーだけで闘われるレースシリーズ「KYOJO CUP」のマシンに採用されたことでも、注目されたんですよね。

 夫も私も、もちろんVITA-01の存在は知っていたんですが、意外にも夫はVITAに乗るのは初めて。私も、VITAのレースを生で見るのは初めての体験で、ワクワク半分、不安半分で筑波サーキットへ出かけました。

「VITA TROPHY RACE」は、9月20日に開催された「September Race Meeting in TSUKUBA」というSCCN(ニッサン・スポーツカー・クラブ)主催のイベントで、ロードスターパーティレースやスーパーセブンレース、Super-FJなどさまざまなレースシリーズが行なわれる中の1カテゴリー。この日はあいにく参加台数が少なく、わずか7台とちょっと寂しかったんですが、ほかのレースがあったおかげでピットは大にぎわい。もちろん、皆さんマスク着用で検温や消毒を徹底しながらの参加でしたが、私もあちこちで知り合いにバッタリ会い、お互いの無事が確認できたのが嬉しかったですね。しかも、Tipo編集部に入ってすぐ、スーパーセブンレースに参戦していた当時の副編集長の手伝いに来たときと、ほとんど変わらない光景が広がっていて、軽いデジャヴ状態。もう25年前なんですけどね……(笑)。息の長さにビックリです。

 さて、夫は前日の土曜日からサーキット入りして練習したらしいんですが、初めてのマシンで、シフトレバーが右にあったり、タイヤもVITAのために開発されたダンロップの「DIREZZA V-01(FOR VITA USE ONLY)」に指定されていたりで、なかなか苦戦した様子。搭載エンジンも新型と旧型の2タイプ混戦で、夫が乗るVITA-01は旧型ということや、夫の体重が重いこともネックなのか、タイムはまったく振るわず(笑)。ただ、一瞬だけ雨が強く降った時間帯があって、その時だけはトップタイムをマークしたそうで、決勝で雨が降れば少しは希望が持てるかも? なんて状態だったんです。

 しか~し。朝、窓を開けたら美しい朝焼け。雨雲レーダーをチェックしても、近くに来そうな雨雲はナシ。8時20分から15分間の予選も当然ながら路面はドライコンディションで、最悪なことに操作ミスでコースから4輪脱輪してしまい、2グリッド降格=最後尾という厳しい結果に。ま、初めてだし仕方ないね、今回はいい勉強になったということにしよう、なんて半ば諦め気味の私たちでした。

 ところがところが。決勝レーススタートの1時間前くらいから、なんとなんと、急に雨が降り出してきたではないですか! 「雨降ってくれ~」という夫の怨念が通じたんでしょうか? そのまま雨は止むことなく、ウェットコンディションで夫は最後尾グリッドへ。気になるのは、東の空が少し明るくなりはじめたことだったのですが……。はてさてどうなる? この心臓が飛び出しそうなドキドキも、すっごく久しぶりです。

 そして運命を決めたのは、渾身のロケットスタート! ヘアピン手前ですでに夫は4位に浮上し、そのまま攻めの走りを続けます。最終コーナーを2ワイドで立ち上がってきて、抜いた~~!! 3周目でトップに躍り出た夫。しかし相手は新型エンジン、あっという間に抜き返され、2番手に。でも雨ならまだまだチャンスはある! と思った矢先に、急激に空が明るくなりはじめ、恵の雨はハイここまでよ、とばかりに去って行ってしまったのでした。

 14周という長いスプリント。周回を重ねるごとに路面は乾きはじめ、完全なるウェット用セッティングで挑んでいた夫は、次第に不利な条件に。タイムはジリジリと遅くなっていき、後ろからの猛追を受けてしまいます。5歳の娘は、メカニックさんが出すサインボードの数字を選ぶのをお手伝いしながら、「なんでパパ、1位じゃないの?」なんてお気楽なことを言ってましたが(笑)、私はもう「なんとか2位を守りきってくれ~」と祈る気持ちでハラハラしっぱなしでした。

車両重量が、燃料とドライバーの体重を含めて600kg~615kg(エンジン型式による)と定められているVITAは、筑波サーキットの最終コーナーですごい立ち上がりを見せていました。でも初めてだと運転が難しいらしく、いろんな走り方を試していた夫。決勝ではウェットだった路面がだんだん乾きはじめて、かなりキツかったようです

 とてつもなく長く感じられたチェッカー。1位のマシンが通過してからなかなか来なくて焦りましたが、ちゃんと2位で帰還してくれて、ホッとひと安心です。86レースをやめてから、ちょっと運転に自信を無くしていた様子の夫だったんですが、まだまだ引退しなくて大丈夫ですかね(笑)。ただ、レースの翌日にひどい腰痛と全身の筋肉痛に襲われて使いものになりませんでしたので、体力づくりだけは心を入れ替えてやってほしいと思います。

総合2位、旧型エンジンのY-1クラス優勝となった夫ですが、表彰式も密を避けて1人ずつの登壇。レースクイーンのお2人も近くに来てくれず(笑)、ちょっと寂しい表彰式ですね

 さて、実はこの日、私はその存在も生で見るのも完全に初めてのレースに出会ってしまいました。なんだかもう、アメリカのルート66を走ってたらすごく似合いそうなレーシングカーなんです。わざとサビたボディのようなレトロなペイントをしたマシンもあったり、そのマシンが集まっているエリアだけ、空気感が古き良きアメリカ。それが、「LEGEND CARS RACE(レジェンドカーレース)」なるものなんです。

これが、私がすっかり心奪われてしまったレーシングカー、レジェンドカーです。この古きよきアメリカ車のホットロッドのような、レトロな雰囲気がたまらないっ。ボディは全長3.2mと小さく、フレーム一体型フルロールゲージが組まれています。エンジンは1250ccのヤマハ製で、130馬力を発揮するそう。ミッションは5速シーケンシャル、タイヤはワンメイクラジアルタイヤの13インチ。サーキットだけでなくフラットダートも走行可能というのがアメリカらしいですよね。価格は完成車(日本仕様車)で229万8000円となっています

 1992年にアメリカで誕生したワンメイクレースで、2015年にはオーバルコースで約1000台が参加したほどの人気レースに成長。日本でも2016年にUS Legend Carsの日本支店が静岡県にオープンして、レースシリーズがスタートしたんだそう。その規模は年々拡大していて、この日も21台ものエントリーがあるほど。ちょうど、旧知のアメリカ車雑誌「デイトナ」の永田編集長が参戦していて、応援にも力が入りました。

 21台のレジェントカーがグリッドに並んでいる光景といったら、もう映画「アメリカングラフィティ」のワンシーンにあってもおかしくないくらい。すごく絵になって、見ているだけで癒される感じです。でも走りはかなり力強いらしく、あちこちで激しいバトルが勃発。永田編集長も最終コーナーをカウンター切りながら立ち上がってきたりして、「オ~~」とみんなで盛り上がりました。ま、あとで聞いたら「あれすごい怖かったんですよ~」って言ってましたが(笑)。

レジェンドカーがグリッドに並ぶ光景といったら、ここだけ時代も国境も越えてしまったみたい。激しいバトルと裏腹に、見ていてすごく癒されてしまったレジェンドカーレースでした

 そんなレジェンドカーレースは今後、10月10日に宮城県のスポーツランドSUGO、11月15日に再び筑波サーキットで開催されるそうなので、ぜひ1度皆さんにも、この独特の雰囲気を味わってみてほしいです。

 VITA-01が日本オリジナルのレーシングカーなら、レジェンドカーはアメリカオリジナルのレーシングカー。どちらも、安全で低コストな、初心者からトライしやすいレーシングカーとして開発されていて、見た目はまったく違うけど、モータースポーツ文化を盛り上げる役割を果たしているところは同じなんですよね。

「初心忘るべからず」と言いますが、運転する夫も応援する私も、この2つのレースを通して、なんのプレッシャーもなくただただレースを楽しむ気持ちを思い出させてもらったような気がします。VITA TRORHY RACEの次戦は11月15日の筑波サーキット。レジェントカーと一緒に見られますので、ぜひ出かけてみてくださいね。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z(現在も所有)など。