まるも亜希子の「寄り道日和」

新型「フィット」のレーシングカーで「Joy耐」に参戦しました

例年は猛暑の中で開催されるJoy耐ですが、今年は5月ということで風が冷たいくらいの初夏らしい陽気。そのせいでちょっと参加チームが少なく、61台でした。でも、長い長い1日が終わるといつもは暑さと湿気でヘロヘロになるところですが、今回は心地よい疲れでみんなの笑顔も元気ですね。トラブルにも負けず、がんばって完走してくれたフィット4は、かなりレーシングカーっぽい精悍な顔つきになりました

 次世代車でモータースポーツに挑戦し、その課題や楽しさを広く発信することを目的として結成したわがチーム「TOKYO NEXT SPEED」と、本田技研工業・ものづくりセンターのフィット開発チームがタッグを組み、モビリティリゾートもてぎの伝統ある参加型モータースポーツ「Joy耐」への3年計画での参戦プロジェクトがスタートしてから、はや3年目。集大成の年を迎えました。

 思えば最初にサーキットでのシェイクダウンを行なった2020年春、もてぎフルコースを走ったタイムがあまりに遅くてみんな愕然。いや、もちろん市販車のノーマルのコンパクトカーとしてはわるくないタイムだし、走る楽しさは健在だったのですが、レーシングカーとしてはちょっと勝算が見えず……。そこでチームは一念発起し、小さなところまで改良の余地があるかどうかをあぶり出して、コツコツとタイムを縮めていくという、とても地道な作業が始まったのでした。

 そして初夏のテストでは「なんとか闘えるかな?」というところまできていたものの、初陣を飾る予定だった2020年夏の7時間耐久レース「Joy耐」はコロナ禍で中止。猛暑の全開走行でバッテリがどこまで持つのか、長丁場を走る中でのフィット4の強みと弱みがなんなのか、というところは残念ながら分からずじまい。その後、冬の2時間耐久レース「ミニJoy耐」でようやくレースデビューを果たしました。

 2021年は夏のJoy耐でクラス優勝、総合39位という成績を残し、次はもっと上へ! という目標のもと、冬のミニJoy耐に参戦。しかしそこでなんと、足まわりのトラブルが発生してリタイヤとなってしまったのです。なので今回、2022年のJoy耐では必ず完走すること。それが第一の目標となりました。

 さらに、マシンの大きな進化としてLSDが組み込まれ、バッテリ容量がアップしてCVTのレスポンスも向上。ストレートスピードが速くなったのはもちろん、コーナリング中の姿勢が安定して乗りやすいマシンになったことも、嬉しい効果です。

 誤算だったのは、例年は7月に開催されるJoy耐がかなり早い5月開催になったため、同じハイブリッドマシンのライバルが参戦を見送り、クラス不成立となってしまったこと。やっぱり、ライバルとお互いにいい走りをしあって切磋琢磨することも、モータースポーツの1つの醍醐味なので、これは寂しい限りです。ただ、さまざまな排気量・パワーのガソリンモデルたちと、速さと燃費のバランスで勝負できるのもJoy耐の面白さ。総合でどこまで行けるのか、精一杯やるのみです。

 ドライバーは前回のJoy耐と同様、橋本洋平、桂伸一、石井昌道の3名体制。私はチーム代表という名の雑用係で(笑)、今回いちばん頑張ったのはチームのオリジナル帽子を作ること! なんと、わがチームのロゴマークは細かいところがあって刺繍が難しいということで、4件もの刺繍屋さんに断られてしまい、本番までに完成するのかどうか焦りました〜。どうにか引き受けてくれるところを見つけ、間に合った時にはもう私のJoy耐は半分くらい終わった気分でした。

 さて、そんなこんなで土曜日の予選からスタート。予選はAドライバーとBドライバーのタイムで競いますが、Aドライバーのアタック直前まで雨が降っており、路面はウェット。Bドライバーのアタックにはほぼドライに乾いてきている状況で、これはチームによって明暗が分かれたようですね。わがチームは初年度より20秒以上アップするというタイムが出て、61台中45番グリッドを獲得しました。

 そして土曜の夜は恒例の決起集会ということで、モビリティリゾートもてぎ内のハローウッズの森にて、バーベキューを満喫。ここで、普段はなかなか話す機会のない開発者たちとジャーナリストが、クルマ業界やレースについて言いたい放題することも、この活動の意義あるところだと感じます。

 決勝当日はドライバーもマシンも最後の確認を行ない、いざ、7時間の闘いの幕開け! スタートドライバーは橋本で、ローリングスタートの直後に4台抜いて幸先よく始まりました。そこから30ラップくらい連続で走れるのが、ハイブリッドの持ち味です。ほかのマシンが給油のためピットインしていくなか、どんどん順位を上げて最高で18位までアップ。その後、給油とドライバー交代で11分のピットストップが義務付けられており、桂さんにスイッチしたら一気に46位くらいまで後退してしまったのですが、そこからまた順位を上げ、24位くらいに浮上。石井につなげつつ再び橋本→桂と、3歩歩いて2歩下がるを繰り返し、すべてが予定通りで怖いくらい順調だね、なんて開発チームと話していた矢先……。

Joy耐名物、手押し給油は今年も健在。安全のためにピットでの給油が禁止されていて、こうしてエンジンを切ってピットクルーがガソリンスタンドまで手押しで進めていくのが特徴なんです。給油でピットインするタイミングを間違えると、ずらっと給油待ちの行列ができてしまって時間をロスしてしまうので、そのあたりの運も勝つための要素となるのがまた、面白いところです

 いきなりピットがざわつき、場内に「29号車、フィットがクラッシュ〜!」との放送が響き渡ったではないですか! その瞬間、目の前が真っ暗に……。しかしどうやら他車との接触はない模様。しばらくすると、痛々しい姿のマシンが緊急ピットインし、足まわりにトラブルが発生してしまったことが分かりました。「ここまでか……」と半ばあきらめ、ぼう然と立ち尽くしていると、メカニックさんとピットクルーの皆さんはあきらめていませんでした。指示を出す大声が飛び交い、ものすごい速さで修復作業を進めていきます。その背中から、「絶対に直してまたコースに出してやるぞ!」という気迫がみなぎり、ピット内は緊迫した空気に包まれました。

7時間のレースも終盤の残り50分ほどのところで、足まわりのトラブルで緊急ピットインしたフィット。メカニックさんたちの素晴らしい頑張りで、無事に復旧してコースに戻ることができました

 そして本当に、フィットは蘇り、ドライバーを石井にチェンジしてコースに復帰。なんとか7時間を走り切って、チェッカーを受けることができました。完走51台中、総合49位完走です。前回を超えるという目標は叶わなかったけれど、リタイヤよりはマシ。そう自分に言い聞かせていますが、最初が順調だっただけに、正直なところものすごく悔しくて、このまま辞めるなんてイヤだなと思っているところです。

 ひとまずは、しっかり反省会をして、冬のミニJoy耐に向けてチーム一人ひとりができることにチャレンジですね。やっぱり、現場で学ぶことは多く、大変だけどレースをやることは貴重な体験だなと感じます。フィットの次期開発モデルにこの体験が生かされ、技術がフィードバックされるので、おおいに悩み、おおいに面白がって、元気なフィットを盛り上げていけたらいいなと思います。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在は新型のスバル・レヴォーグとユーノス・ロードスター、ニッサン・スカイラインクーペ。