まるも亜希子の「寄り道日和」
1200年以上続く天下の大祭「御柱祭」
2022年5月19日 00:00
長野県諏訪市にある「諏訪大社」を訪れたことのある人なら、社殿の四隅に建っている巨木「御柱(おんばしら)」をご存知かと思います。山の神がそこにいらっしゃるのと同じように崇められ、祈ったり、触れて願いを込めたり、パワーをいただいたり、常に人々に寄り添ってくれる存在です。
実はその「御柱」は7年に一度、寅年と申年に新しく建て替えられるのですが、その儀式を「御柱祭」、正式には「式年造営御柱大祭(しきねんぞうえいみはしらたいさい)」といい、まさに2022年、寅年がその建て替えの年。山にあまたある巨木の中から、「これぞ」と選ばれた長さ17m、直径1m、重さ10tにもなる巨木16本が切り出され、諏訪大社上社の本宮と前宮、下社の春宮と秋宮の社殿に4本ずつ建てられます。これがすべて、人の手によって行なわれるのが1200年以上続く天下の大祭、御柱祭です。
丸茂家の本家は茅野市にあり、代々、上社の御柱祭を担当してきました。私は千葉県生まれですが、幼いころから祖父や叔父について回り、この御柱祭に参加してきたので、夫や娘にもぜひ自分の目で見て、肌で感じてほしいなとずっと思ってきたのです。
御柱を山から里へと曳き出すのは4月。もしかしたらテレビのニュースなどで、100m以上ある崖を人が乗ったままの御柱で下り、死傷者が出ることもある「木落し(きおとし)」などの映像を見た人もいるかもしれないですね。私の祖父も昔、これに乗って崖に飛ばされ、肋骨を折ったことがあるそうです。でも、御柱に乗ることができるのは、氏子として日ごろから地域のためになる行ないをし、身を清め、人々の信頼を集めることのできる人だけだと聞いているので、とても名誉なこと。私もそんな祖父の武勇伝を聞くのが大好きでした。
でも今回は山出しが行なわれる4月はまだコロナ感染者数が多く、見どころの1つである木落しは人が最も密集してしまうことから、クレーンでの移動に変更。人も一緒に川を渡る「川越し」も、トラックでの運搬に変更となってしまいました。でも、山から里におりてきた御柱を人が綱で社殿まで曳いていく「里曳き(さとびき)」と、いよいよ社殿の四隅に建てる「建て御柱(たておんばしら)」は、5月に入ってコロナ禍も少し落ち着いてきたということで、感染症対策をしっかりしつつ、従来通り人の手で行なわれることに決定! よっしゃぁ〜と内心歓声を上げ、家族で諏訪へ駆けつけたのでした。
いつもは、氏子の知り合いがいれば飛び入りで綱を引かせてくれたりするのですが、今回は事前にワクチン3回接種の証明書を提出し、陰性であることを証明した人のみが参加を許されます。なので、私たちはそばで応援することしかできないのですが、それでも、祖父の代からずっと着ている法被を羽織り、金のふさふさが棒の先についた「おんべ」を持てば、気持ちはもう氏子です。御柱はちょっとずつ、休憩を挟みながら街中を進んでいくので、たこ焼きや焼きそば、チョコバナナなどの屋台も出ていて、娘は大喜び。こうしたお祭りそのものも、参加するのは2年ぶりくらいでしょうか。
里曳きの一行が近づいてくると、甲高い歌声で山の神様に無事を祈り、氏子のみんなを励ます「木遣り」が聞こえてきます。前の方、中間、後ろの方と、だいたい2〜3人ずつは木遣りを歌う人がいて、交代で朝から晩まで、曳行(えいこう)が続く限り歌い続けるので、もう声が枯れてしまっている人もいました。そして木遣りが始まると、みんなで掛け声をかけながら、綱を引っ張っていくのです。
そしてよくよく見ていると、綱と綱の結び目のところに、2輪車のタイヤを半分に切ったものが被せてあり、道路との摩擦で綱が痛まないようにカバーしているのを発見。以前は見なかったので、こうした細かな部分は時代とともに進化しているのだなぁと、感心しきりでした。
1時間ほど沿道で応援しながら、御柱が通過するのを待ったでしょうか。ついに、目の前に現れた御柱は、夫も娘も思わず「お〜」と感嘆の声がもれるほど、予想以上に太く立派で、表面は艶々としていて神々しい姿。上に20人くらいの人が乗っているので、重さは10tをゆうに超えているでしょうね。それをすべて人の力で、山から社殿まで運んでいくという、御柱祭の凄さをあらためて胸に刻みました。
今回は日程の関係で、クライマックスとなる建て御柱は見ることができませんでしたが、16本とも無事に建てられたとのこと。一説には、御柱は建った直後が最もパワーがある状態とのことなので、また近々訪れてお参りしたいと思っています。そして、日本全国に1万あまりある諏訪大社でも、秋にかけて「小宮御柱祭」が行なわれるそうなので、皆さんのご近所でもこうした御柱が見られるかもしれませんね。ぜひ、注目してみてくださいね。