イベントレポート
三菱ふそう、水素エンジン搭載「H2IC」と燃料電池搭載「H2FC」 大型トラック2台をジャパンモビリティショー2025で世界初公開
2025年10月29日 14:00
- 2025年10月29日 公開
三菱ふそうトラック・バスは、水素を燃焼させる水素エンジン搭載大型トラック「H2IC」と、液体水素を搭載する燃料電池大型トラック「H2FC」の2種類のコンセプトモデルを「ジャパンモビリティショー2025」(東京ビッグサイト:2025年10月30日〜11月9日開催)で世界初公開する。
「ジャパンモビリティショー2025」開催を前にした10月22日に、同社の喜連川研究所において水素を供給する岩谷産業とともに説明会が行なわれ、実車や一部走行する様子が公開された。なぜ、水素なのか、そして、なぜ2つのタイプを用意したのかなど、その理由が語られた。
BEVと水素の棲み分け
最初に説明されたことは、カーボンニュートラルの大型トラックとしてBEV(バッテリ電気自動車)ではなく水素で動くトラックを展示した理由だ。
三菱ふそうのカーボンニュートラル技術といえば、BEVとして小型トラックのeキャンターを展開してきた。なぜBEVだったかというと、小型トラックがBEVに合っていたことと、BEVが顧客のビジネスのコスト的に意味のあるソリューションだったからだという。
ところが、より大きなトラックとなった場合には問題が生じる。大型トラックでは1日800kmの走行をするため、それを1回の充電で走行できるバッテリを搭載すると5tほどの重さになり積載量が少なくなってしまう。
実際には、トラックの運転手は4時間走ると30分の休憩が義務付けられため、そのルールどおりに運転手の休憩中にメガワットクラスの急速充電器で充電することも不可能ではない。ところが、三菱ふそうの研究所近くを走る東北自動車道の走行台数にあてはめた場合、東北道だけで約2000台のメガワットクラスの急速充電器が必要。インフラ投資の面でも電力網への負荷も考えると厳しい。そこで大型トラックにはBEV以外のソリューションも検討する必要があり、そこで水素の話が出てくるのだという。
水素で動かすには2つの方法、燃料の水素も2つのタイプがある
水素で動く自動車となると、動力の方法は2つ。水素を電気に変換し、その電気で走る水素燃料電池。もうひとつは水素をこれまでのガソリンやディーゼルのエンジンのように燃やして走る水素エンジンと2つの方法がある。すでに燃料電池車は実用化されている。
現在の水素の価格は高いため、BEVに比べればランニングコストは大幅に高くなってしまうが、走行距離や高出力という面では水素のほうが適している。
そのなかでも高出力や初期コストを優先させると水素エンジンが優れ、長距離を一定速度で走るような場合は初期コストは高いが燃料電池が優れている。特に今回の「H2IC」のエンジンは既存のディーゼルエンジンをベースに水素エンジンとしたもので、ディーゼルエンジンとの共用パーツは約8割で、車両コストという面で有利になる。
そして、今回、水素の貯蔵方法も2タイプを用意した。1つは現在の水素で走るクルマで実用化されている気体で貯蔵する方式、そして、液体で貯蔵する方法だ。
気体で貯蔵する方式はすでに実用化されているがデメリットとしてタンクスペースを多く必要とすること。液体で貯蔵する方式に置き換えると、タンクスペースを大幅に削減でき、少ないスペースでより多くの距離を走れる水素を貯蔵できる。
2つの動力の方式と2つの貯蔵方式はそれぞれに組み合わせができ、合計4通りが可能。今回、三菱ふそうが展示する水素を燃料とする大型トラックでは「H2IC」が水素エンジンと気体貯蔵、「H2FC」が燃料電池と液体貯蔵の組み合わせを採用した。このほかにも組み合わせは2パターンあるが、組み合わせを変えれば対応できる。
両車の1回の水素充填での航続距離は水素エンジンと圧縮水素の「H2IC」が700km、燃料電池と液体水素の「H2FC」が1200km。
大型トラックで重要視される積載スペースという点では、「H2IC」は水素タンク分のスペースが減少し、しかも水素容量も少ない。液体水素を貯蔵する「H2FC」は積載スペースは現在のディーゼル車同等のスペースを確保し、しかも航続距離が長くなる。
重量も気になるところだが、今回の「H2IC」「H2FC」ともに車両重量など詳細スペックは非公開となっている。
sLH2充填でボイルオフガス抑制と水素ステーション設備の大幅簡略化
さらに、今回の試みとして水素を液体貯蔵するだけでなく、サブクール液体水素(subcooled liquid hydrogen: sLH2)充填技術を使っている。
通常の液体貯蔵では水素はマイナス253℃で貯蔵し超低温充填時に周囲温度の影響で水素が沸騰して発生するボイルオフガス(BOG)が発生する。
そこで、sLH2充填技術を使い、液体水素を1.5MPaまで加圧、沸点を上げることでボイルオフを抑制、充填時の排気水素がなくなるためバックガスラインを省略した単一ラインでの充填が可能になる。
これは水素ステーション側にもメリットがある。水素ステーション側での設備を大幅に簡略化でき、それが水素の価格や水素ステーションの普及にも大きく影響してくるからだ。
現在行なわれている気体充填でも運搬や水素ステーションでは水素を液体で貯蔵しているが、水素を燃料とするクルマに充填するために気体に変換し途中で圧縮したり冷やしたりといくつかの行程を経てクルマに充填する。そのための設備も水素ステーションに必要となる。
そこでクルマが液体で水素を蓄えるようにすると、水素ステーションから液体のまま充填するため、途中の設備が大幅に簡略化される。そして、通常の液体水素充填では充填時にボイルオフガスが発生するため、さらに新しい試みが今回のsLH2充填となる。
sLH2充填は、すでにドイツで実証実験を開始、トレーラーを引いて1回の充填で1000km超の走行を記録している。ダイムラートラックの顧客5社が参加、ドイツ国内に2か所のsLH2ステーションを配置して累計20万kmの走行を記録しているという。
そして、日本国内での課題は、sLH2充填の前例がなく、認可されていないこともあって、研究所での試験に留まり、実際の走行テストに至っていないこと。今後、水素を供給する岩谷産業などとも協力し、許認可に向けて進めていくという。
H2FCにはニコンと共同開発の裸眼で3D表示する電子ミラーを搭載
「H2IC」と「H2FC」には水素で走る以外にも新しい試みが搭載されている。そのひとつがH2FCに搭載された360度カメラとニコンと共同開発の裸眼で3D表示する電子サイドミラーがある。
電子ミラーを人間の目で見ても遠近感を感じないが、H2FCのサイドミラーは2つのカメラで撮影、人間の目に向けては特殊なディスプレイで表示させ、裸眼のまま遠近感を感じながら見ることができる。
大型車のサイドミラーは、遠近感が分からないと右左折時をはじめ安全確認ができず走行にも支障が出るため重要な装備。3D表示の電子サイドミラーはまだ実用化できる段階にはないというが、新しい取り組みとして、今回のH2FCに搭載したという。
さらに両車にはサステナブル素材の提案を行なっている。シートやカーペットなど内装にはリサイクル材を使っているほか、H2ICはリサイクルレザーを使ったレザーシートを採用している。
燃料電池+液体水素+sLH2充填の「H2FC」
今回、三菱ふそう喜連川研究所において実車が公開された。H2FCはsLH2充填が認可されていないこともあって水素での走行をしない状態で公開された。ニコンと共同開発した電子ミラーのみ稼働状態だった。
水素エンジン+気体水素の「H2IC」
一方のH2ICは動く状態で、テストコースにて同乗試乗と走行の様子が公開された。
ベースがディーゼルエンジンではあるが、ガソリンエンジンと同様にプラグで点火して動くエンジン。セルモーターを回してエンジンが始動し、エンジンが大きいのでそれなりのエンジン音を発するが、ディーゼルエンジンよりも音は小さめだ。
テストコースの走行も、特に問題なく走行した。走行を担当したテストドライバーによると、トランスミッションがディーゼル車向けのままで、シフトタイミングなどが水素エンジンに最適化されていないため、変速時に違和感を感じることもあるとのことだ。





























































