長期レビュー
伊達淳一のスバル「XV」と過ごすクロスオーバーな日常
第10回:スノーモンキーを撮りに信州・地獄谷野猿公苑に行く
2018年1月26日 00:00
スバル「XV」(すでに旧型となってしまったけど)を買うまで、ボクは4WD車はおろか、スタッドレスタイヤも履いたことがなかった。なので、雪景色を撮れるのは、都内に雪が積もったときか、ノーマルタイヤでも走行できるコンディションになってから、残雪が残る山中湖くらい。一応、タイヤチェーンは用意していたものの、結局、前に乗っていた日産自動車「ウイングロード」では1度も使うことはなかった。
ちなみに、XVを選んだ最大の理由はデザインと色だったりするのだが、4WD車に対する憧れもあり、せっかく4WD車を買うからには雪道も走ってみたいと、人生初のスタッドレスタイヤを履いてみた、というわけだ。XVを購入した2012年~2013年の冬は、東京でも2回ほど大雪になり、さっそくスバルの4WD&高性能スタッドレスタイヤの雪道走破性を実感。チェーンを巻かなくても安定して雪道を走れるので、XVを購入して以降、冬の山梨や信州にも安心して出かけられるようになり、冬の行動範囲が驚くほど広くなった。雪国に住んでいるわけではないので、スタッドレスタイヤが本当に必要なシーンはそれほど多くはないものの、冬の天候に左右されず、撮りたい景色をいつでも撮りに行ける自由度の高さは魅力。というより、深刻な被害が出ない程度に雪が積もりそうな時期をわざわざ狙って、雪景色を撮りに行くのが楽しみになってきた。
ただ、さすがにスタッドレスタイヤも4シーズンを超えると、その性能に少し不安を感じてくる。実際に危ない目に合ったわけではなく、5シーズン目となる1年前も想像以上に安定して雪道を走行できたものの、凍結したりシャーベット状になった道はさすがに怖いので、行動エリアも自ずと狭まってきた。1度味わってしまった自由を制限されるのはちょっと悲しいもの。というわけで、思い切って最新のスタッドレスタイヤに買い替えた、というのが、前回のお話だ。
新しいスタッドレスタイヤで雪を求めて写真撮影の旅
新しいスタッドレスタイヤに履き替えて、タイヤの慣らしを兼ねて訪れたのが、山梨県富士吉田市の新倉山浅間公園(あらくらやませんげんこうえん)。五重塔(忠霊塔)と富士山の両方を一望できるということで、特に外国人観光客に人気のスポット。桜や紅葉の時期には展望スポットに入りきれないほどのカメラマンや観光客が押し寄せる。ただ、冬の間は雪でも積もらない限りカメラマンの姿はまばらで、外国人観光客が数組いる程度で比較的ゆったりと富士山と五重塔のコラボを堪能できる。
ちなみに、この展望スポットに行くには、片道498段の「咲くや姫階段」を上る必要がある。下から見上げても階段の終わりが見えないほど。機材や三脚を抱えているとさらにキツく、あまり急いで上ると日ごろの運動不足がたたって息切れで呼吸困難になるほど。ゆっくりと休み休み階段を上るのがお薦めだ。
いつもなら欲張って複数のメーカーのカメラ機材を持って出るところだが、たまには1つのメーカーに絞ってのんびり撮影してみよう、ということで、今回はソニー「α7R III」をメイン、「α7R II」をサブに持ち、レンズは「FE12-24mm F4G OSS」「FE24-105mm F4G OSS」「FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」と1.4Xテレコンをチョイス。この3本で12mmの超広角から400mm(1.4倍テレコンを使えば560mm)の超望遠までシームレスに画角をカバーできる。ボクのお気に入りの組み合わせだ。機材を絞り込んだこともあり、いつもよりカメラバッグが軽く、398段の階段も軽やかとまではいかないまでも、スムーズな足取りで上り切ることができた。
中央自動車道の富士吉田IC(インターチェンジ)で降りたときには、富士山の裾野に棚雲がかかっていて、上空にも北から雲が湧いていて、これはこれで高濃度NDフィルターで長時間露出すれば面白い絵が撮れそうだな、と期待していたのだが、新倉山浅間公園の駐車場に着いたときには、雲ひとつないクリアな富士山に……。まあ、雲で富士山が見えなくなるよりははるかにマシだけど、ね。
今シーズンの富士山は積雪が少なく、うっすらと地肌が見えているような状態が多いが、この日は、前夜の雪で富士山にしっかりと化粧直しされていた。が、せっかく積もった雪が、上空の強い風でどんどん飛ばされていく。そこで、五重塔と富士山という定番スポットからの撮影は後まわしにして、まずは富士山の山肌をアップで撮影。α7R IIIの4240万画素を活かし、強風で舞う雪煙や山肌に描かれたの風紋の高精細描写を狙ってみた。なお、【作例】と表記してある写真については、左上のプラスボタンをクリックすると拡大表示(7952×5304ピクセル)されるので、ぜひ楽しんでいただきたい。
その後、五重塔と富士山が一望できる展望スポットに移動。自然風景カメラマン的には時間が遅く、観光客的にはまだ早めの時間なので、それほど人は多くない。桜や紅葉の季節には三脚がズラッと並ぶので、いいポジションからはなかなか撮影できないスポットだが、以前来たときにはなかった「混雑時には三脚禁止」「長時間占有禁止」の貼り紙が掲示。今のところ撮影者のマナーに期待する状況だが、あまり酷い状況が続くようだと全面的に三脚禁止になってしまうかも。
しかも英語表示は「NO TRIPOD」だけで、まわりのほとんどは外国人観光客。そんな貼り紙を見たこともあり、特に三脚を必要とするシーンでもないので、超広角ズームを使って逆に手持ちでなければ撮れないポジションから攻めてみた。三脚にカメラを据えて撮影すると、左右の上部から枝や葉が写り込みやすく、これを避けるため画角を狭くすると、今度は五重塔が三重塔くらいにしか写らなくなる。そこで、手を前にグッと伸ばしたコンデジスタイルで、地面まで入れて撮影してみたり、12mmという超広角で通常なら構図の妨げとなる松の木を積極的に写し込んで、単調になりがちな空を覆うような構図にしてみたが、いかがだろう?
さて、新倉山浅間公園は単なる立ち寄り地点で、真の目的地は、温泉に入る猿で有名な長野県山ノ内町の地獄谷野猿公苑。ここも日本人より外国人観光客に人気の観光スポットだが、東京から日帰りするにはちょっと遠い。実は嫁さんの両親が小諸に住んでいるので、そこに泊めてもらって、そこから地獄谷野猿公苑をはじめ、信州のフォトスポットを巡っていたりする。
なので、急ぐ旅ではなく、ここから先は高速ではなく一般道で小諸を目指す。河口湖から国道137号(御坂みち)に入り、新御坂トンネルを抜ければ、桃やぶどうで有名な一宮。シーズンならフルーツ街道を走りながら、お買い得なハネ桃やぶどうを物色するところだが、オフシーズンなのでそのまま国道20号(甲府バイパス)を走り、韮崎で国道141号(清里ライン)に入る。韮崎~清里~野辺山~小海~佐久穂~佐久へと抜ける国道141号は、クルマの流れも比較的スムーズで景色もいいのが魅力。長野(東信や北信)を目指すときには、高速代節約ということもあってほとんどこのルートで、東京の北部よりも勝手知ったる走り慣れた道だったりする。
とりあえず新しいスタッドレスタイヤもひと皮以上剥けたので、小諸に向かう途中、新しいスタッドレスタイヤの感触を確かめるため、美しい白樺の原生林で有名な八千穂高原に寄り道。冬期は麦草峠に抜ける道は閉鎖されているものの、八千穂高原スキー場を抜けてレストハウスふるさとのある国道480号への分岐点までは通行可能で、ここまで上ればきっと雪が残っているはず、とクルマを走らせる。
白樺の原生林あたりは路肩に雪が残っているものの、道路はしっかり除雪されていて路面は乾いた状態だったが、スキー場に近づくにつれ、溶けずに残った雪がところどころ凍っていて、スキー場からレストハウスふるさとまでは、路面全体に薄く残雪が凍ったアイスバーン状態だ。気温計を見ると-4℃。この連載のために状況写真を撮ろうと車外に出てみると、底面がしっかりしたハイキングシューズなのに滑る滑る。クルマの挙動は実に安定していて、急ブレーキでも踏まない限り滑る気がしないのに、靴だと驚くほどツルツル滑る。うーん、スタッドレスタイヤってなぜこんなに滑らず走れるのか不思議だ。
そのままレストハウスふるさとまで走り、ほかに誰もいない駐車場でUターン。ここの駐車場もまるでスケートリンクのようにツルツルに凍っていて、ここで強めにブレーキをかけたりハンドルを回してみたりして、スタッドレスタイヤの挙動と限界をある程度把握できた。過信は禁物だが、これなら凍結した山道もなんとか走ることができそうな感触を得た。
野生の猿が温泉に入る地獄谷野猿公苑でスノーモンキーを撮影。のはずが……
佐久平駅前のウィンターイルミネーションを撮影後、小諸で1泊し、翌朝、山ノ内町の地獄谷野猿公苑に出発。北信エリアはお昼前から雪の予報で、上信越自動車道も信州中野ICから先はチェーン規制になっているので、予想降雪量は少なめだがちょっと期待したものの、残念ながら地獄谷野猿公苑まで路肩に多少残雪はあるものの、路面に雪はなし。駐車場から約30分歩いて地獄谷野猿公苑に到着し、-2℃~-3℃という気温のなか10時前~14時過ぎまで粘ったものの、雪が降らない上に、おまけに猿も温泉に入らないというまさかのトホホな展開に唖然。心も身体も冷え切った1日となった。
予報では翌日のほうが雪が降りそうだったので、予定を1日延長して再チャレンジ。小諸付近は青空だったが、上田の手前あたりから曇り空になってきて、坂城に差し掛かるころには小雪が舞い始めていた。上信越自動車道のチェーン規制はやはり信州中野IC以降だったが、ノーマルタイヤで走るには少々リスキーな状況で、案の定、更埴JCT(ジャンクション)の手前で1台、松代PA(パーキングエリア)手前のトンネルを抜けた緩いカーブで1台がスリップ事故を起こしていた。
信州中野ICを降りるころにはかなり雪が降ってきて、あたり一面は雪景色。路面もかなり積雪した状態だ。地獄谷野猿公苑に向かう道も除雪はされているが、センターラインは見えず真っ白な路面で、やっと本格的な雪道を走ることができた感がある。
地獄谷野猿公苑の駐車場に到着し、またまた片道30分弱の遊歩道を歩いて公苑に向かうが、前日とは打って変わって真っ白な雪景色。遊歩道脇の樹の葉っぱも着雪していて美しい。遊歩道は除雪されているが、ところどころ滑りやすい箇所もあるので、こうした雪のときには底面が滑りにくい長靴や登山靴、軽アイゼンだと大袈裟かもしれないが、簡単に着脱できる靴用滑り止めを装着した方が安全だ。
地獄谷野猿公苑内に入り(入園料は800円)、無料コインロッカーに荷物を預けたら、そそくさと猿が集まる温泉に向かう。が、またしても猿は温泉に入らず、ときどき温泉のお湯を飲みに来るだけ。猿は雪が舞って頭が真っ白になる中、ただただ温泉の縁に座っているだけ。それを見ている我々の頭も降ってきた雪で真っ白だ。それでも前日は1匹くらいは温泉に入る猿もいたけれど、今日は1匹も入らない。一瞬、温泉に入ろうとした猿がいたものの、すぐに飛び出してしまったのを見て、ああ、温泉があまり暖かくないんだろうな、と理解。最近、温泉の湯量が少なくなっていることもあり、日によっては温泉の温度があまり上がらないこともあるらしい。
それに、温泉に入る猿は群れの中でも一部らしく、多くの個体は毛が濡れることを好まない。なので、温泉に入るか入らないかは、その日の猿の気分次第らしく、雪の日の翌日、野猿公苑のライブカメラで確認したら、雪は降っていないものの、多くの猿が温泉に浸かる姿が見られた。う~ん、雪が舞っていて頭が白くなった状態で、温泉でほっこりするスノーモンキーが撮りたいんだけど、なかなかうまくはいかないようで……。2014年12月に初めて野猿公苑を訪れたときには、雪が舞う中、かなりのお猿さんが温泉に浸かっていたんだけどね。できれば、今シーズン中に再々チャレンジしたいところだけれど、それでも雪の中のお猿さんを撮れたし、温泉周りに集まるお猿さんの挙動を見ているだけでも十分癒やされる。ただ、寒い中、長時間動かないでいるとかなり身体が冷えるので、足先、指先の防寒、カメラやレンズを雪や雨から保護する対策はしっかり準備していこう。
地獄谷野猿公苑で使用したのは、ソニーα7R IIIとFE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS。このセットを数十年前に購入したエツミの防寒カバーに入れて、降り積もる雪からカメラやレンズを保護しつつ撮影。保護するのはカメラやレンズだけでなく、カメラを構える右手も寒さから保護してくれる。防寒カバーのファインダー部分をゴムシートで強化したり、マジックテープを増やしたりして、さまざまなレンズでも隙間ができるのを防ぐ工夫をして愛用している。
期待していた温泉シーンは撮れなかったものの、α7R IIIのAF性能と高精細描写、そして、FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSSの描写性能の高さを活かしたスノーモンキーの写真が撮れたので、また遊歩道を30分かけて駐車場まで戻る。この遊歩道は、駐車場と野猿公苑の出入り口付近以外はアップダウンのない平坦な道なので、距離は多少あるが歩くのはそれほど苦ではない。ただ、冬期は暗くなるのが早く16時を過ぎるとかなり暗くなるので、遅くに来園するなら道を照らすヘッドライトや懐中電灯などを携行しよう。
帰り道は、須坂から菅平を越え、上田を通って小諸という一般道ルートを選択。春~秋は高速代を節約するためにこのルートを通ることが多いが、さすがに降雪時にこの山道を越えるのは避けていた。ただ、八千穂高原でスタッドレスタイヤの挙動を確かめてみて、凍結した道でも安定していたのと、前日、同じ菅平ルートを通ってみて、スキー場付近で多少積雪した状況でなんとかいけそうな感触を得ていたので、思い切ってチャレンジしてみることにしたのだ。
仕事終わり目前の年末とはいえ、まだスキー客も少なく交通量も極めて少ない。というか、先行車も後続車もほとんどなし。たまに対向車とすれ違うくらいなので、雪の山道を練習するには、自分のペースで走れて好都合だ。除雪して時間が経っているのか、かなりゴツゴツと雪が凍結した路面が多かったが、コーナーでも横滑りすることなく菅平スキー場を通過。ここから先は下り坂なので、いつツルンと滑るかコーナーはちょっと怖かったが、マニュアルシフトに切り換え、2速~3速でエンジンブレーキを利用しながらスピードを抑えて走行することで、無事、菅平を下ることができた。これなら1度行ってみたかったあの場所に行けそうだ。
伊達淳一
1962年生まれ。作例写真家。学研「CAPA」、Impress Watch「デジカメWatch」等でデジタルカメラ評価記事を執筆。レビューする機材の自腹購入が多いヒトバシラーだ。これまで乗ってきたクルマはトヨタコルサ、三菱ランサー、日産ウイングロードと、すべて1.5リッターの2WD。都内を走ることが多く、どちらかといえば小回りが効き、できるだけたくさん荷物を積めるというのがクルマ選びのポイント。今回、自身初となる2.0リッタークラスAWD(4WD)の「スバルXV」を新しい相棒として選んだことで、果たして行動範囲はどう広がるのか? クロスオーバーな日常がスタートした。