長期レビュー

伊達淳一のスバル「XV」と過ごすクロスオーバーな日常

第11回:世界遺産「白川郷」で雪フラッシュ撮影

とっぷりと暗くなった白川郷に近い荻町城跡展望台の駐車場にて「XV」と。冬期は遊歩道が閉鎖されていて夕方以降はバスもないので、この近くに宿泊するか、クルマがないとここまで上ってくるのはかなり時間がかかる。坂もあるのでスタッドレスタイヤは必須だ

 前回、地獄谷野猿公苑にスノーモンキーを撮影しに出かけたものの、初日に雪がほとんど降らず、お猿さんも温泉に入ってくれないというまさかの状況。そこで、翌日も野猿公苑に行き、残念ながら温泉に入っているシーンは撮れなかったものの、なんとかスノーモンキーを撮ることができた。

 実は、地獄谷野猿公苑のあとに行ってみたいところがあったのだが、天気予報を調べてみると雪はあまり期待できそうもなく、しかも風が強いという。さらに、もう1日延長すると帰省ラッシュに巻き込まれてしまう可能性もある。というわけで、そのまま地獄谷野猿公苑をあとにし、雪の菅平高原を抜けて、小諸~佐久~佐久穂~小海~野辺山~清里~須玉と国道141号を南下。韮崎から中央自動車道に乗って無事帰宅した。

 年が明け、世間がお正月モードから抜けたころを見計らって、前回行けなかった“あの場所”を目指すことに。それは、世界遺産の「白川郷」と「五箇山」。合掌造りで有名なところで、雪シーズンにぜひとも行ってみたいと思っていた。が、なにしろ、東京の自宅からも嫁さんの両親が住んでいる小諸からも遠く、どちらも豪雪地帯で雪の山道を何時間も走る必要がある。スバル「XV」で初めてスタッドレスタイヤを買った雪道初心者のボクにとって、アップダウンがありカーブの多い降雪地の山道を走るのは、正直、自信がなかったのだ。

 しかし、今シーズンは最新のスタッドレスタイヤに履き替えられたので、スバルの4WDと最新スタッドレスタイヤの性能を当てにして、これまで避けていた雪の山道にチャレンジ。前回の雪の菅平高原越えは、その予行練習でもあったわけだ。

 ただ、豪雪地帯といっても常に雪が降っているわけではない。何連泊もして、ベストなタイミングを狙う時間的余裕もなければ金銭的余裕もない(涙)。毎日、白川郷の天気予報をチェックしながら雪予報を心待ちにするものの、曇りか1時間あたり1mm前後の降雪の予報ばかり。今シーズンの“最強寒波”が来ていて、九州や関西、北陸地方は大雪のニュースが飛び込んでくるが、白川郷の天気予報を何度確認してみても1時間に1mm前後の雪で、大雪警報どころか注意報すら発令されていない状況だった。

 しかし、翌週は寒が緩む予報なので、この機を逃すと次のチャンスはいつあるか分からないし、雪が降っても仕事が詰まっていると遠征できないので、まずは「ロケハン」代わりに1度行ってみようと意を決し、白川郷を目指すことにした。ただ、翌日は予定が入っていて、夕方までには都内に戻っている必要があり、なんと白川郷まで日帰りという強行軍。きっと帰りは夜になって道が凍結しているぞ~。

いざ白川郷へ出発! と、その前に……

 さて、白川郷に撮影に出かける当日、目覚ましのアラームが鳴る朝5時半前に、スッと目が覚めた。スマホで天気予報を確認してみると、白川郷の降雪量は1時間あたり1mm未満が多く、どちらかといえば遅くなってからの方が雪の降る確率が高そうだ。というわけで、山中湖で紅富士を狙ってから白川郷を目指すことにした。

 調布IC(インターチェンジ)から中央道に乗り、河口湖ICから東富士五湖道路に抜け山中湖ICで降りる。このとき、すでに6時40分。この日(2018年1月11日)の山中湖村の日の出時刻は6時53分。しかし、紅富士になるのは日の出よりも少し前だ。そこで山中湖ICからもっとも近いビュースポットである「長池親水公園」に急行。ぎりぎり紅富士になる直前に到着することができた。ちなみに、冠雪していない富士山が焼けるのが「赤富士」で、雪化粧した富士山が焼けるのを「紅富士」と呼ぶらしい。

 今回のカメラは、前回同様ソニー「α7R III」。レンズは、FE24-105mm F4G OSS、FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS。そして、それほど超広角は必要ないだろうということで、FE16-35mm F4ZAをチョイスした。

 長池親水公園に到着して、すぐさま三脚にカメラをセット。気温は約-8℃と数字だけ見るとかなりの寒さだが、幸い風はほとんどなかったので、体感的にはそれほど寒さは感じない。指先だけはちょっと冷えるけどね。

山中湖の長沼親水公園の駐車場。山中湖を周回する道路沿いにあり、もっとも分かりやすく駐めやすい山中湖の富士山ビュースポットだ
東富士五湖道路の山中湖ICで降り、山中湖畔を目指す。日の出まであと10分弱。すでに周囲は明るくなってきている。車外気温計を見ると-8℃とかなり寒そうだ
なんとか紅富士の時間帯に長沼親水公園の駐車場に到着。目の前の遊歩道に三脚を立て、ソニーα7R IIIで雪化粧の富士山を狙う

 とりあえず、紅富士を強調するため、クリエイティブスタイルを[ディープ]に変更。これは標準よりも少しローキーに写るモードで、さらに[彩度]と[コントラスト]を1段強めに設定した。ホワイトバランスは[太陽光]。これは自然風景撮影では基本の設定だ。まあ、[オート]でも大丈夫なことがほとんどだけど、朝夕の撮影は[太陽光]をベースに、そこから自分好みの色調にコントロールするといいだろう。

 さて、雲もなく風もほとんどないので、ソニーα7R IIIの「ピクセルシフトマルチ撮影(PSMS)」という必殺技も試してみることにした。一般的なデジカメに搭載されている撮像センサーは、色の違いを識別できないモノクロセンサーなので、各画素に赤・緑・青のいずれかのフィルターをモザイク状に配置して色分解を行なっている。つまり、1つの画素は、赤・緑・青のどれか1色しか感じることができないので、足りない色情報は隣接する画素の輝度情報から類推して補間処理を行なっている。いわゆる画素数の水増しだ。そこで、撮像センサーを1ピクセルだけずらしながら4回露光を行なうことで、1つの画素で赤・緑・青の色情報をすべて取得し、色情報を補間せずに画像を生成しようというのが、ソニーα7R IIIのPSMSという機能だ。

 ただし、PSMSは1回の撮影で4回露光を行なう(しかも、最短でも1秒間隔)ので、被写体がわずかでも動くとその部分の描写が破綻してしまう。そのため、本来はスタジオ撮影や建築物など、完全に静止した被写体限定の撮影機能。自然風景の撮影では、雲が流れたり、草木が揺れたり、水面がさざめいたりするとアウトなので、PSMSが効果を発揮できるシーンは極めて限られている。だが、通常撮影に比べて色情報を補間していないため、驚くほど細部の解像がよくなるので、条件がよさそうなときにはダメもとでチャレンジしてみる価値は大ありだ。今回の紅富士も、風で雪煙が舞っている部分の描写が少し破綻しているものの、雪や山肌の描写は鳥肌が立つほど高精細な描写が引き出せている。この高解像描写を見てしまうと、4240万画素あっても通常撮影ではモノ足りなく感じてしまうほどだ。

 日の出の時刻を過ぎ、太陽の光が地表付近まで当たってくると、紅富士はマゼンタ(赤紫)からアンバー、イエローに刻々と変化し、15分もすると赤みはかなり薄くなり、雲1つない澄み渡った青空に冠雪が映える、まるで絵はがきのような富士山になる。惜しむらくは、山中湖の水面にさざ波が立っていて、逆さ富士というにはいまひとつの状況。そこで、ND64フィルター(光量を落とすフィルター)を使って、30秒のスローシャッター撮影を行なうことで、湖面に映る逆さ富士をなめらかな描写に仕上げてみた。さざ波1つない鏡のような水面に映る逆さ富士とは程遠いものの、普通に撮影したカットに比べ、穏やかというか、静寂さを感じる写真に仕上がったのではないだろうか。これで筋雲が放射状に流れていれば、さらにフォトジェニックな仕上がりが期待できるのだが、なかなか狙いどおりのいい感じの雲には出逢えない。だからこそ、風景写真家は何度も同じ場所に足を運んで絶景を追い求めるのだろう。

 以下、【作例】と表記してある写真については、左上のプラスボタンをクリックすると拡大表示(7952×5304ピクセル)されるので、ぜひ楽しんでいただきたい。

【作例】朝日が反射して富士山がピンク色に染まる。東の空がクリアで澄み渡っていて赤みが少し足りないので、クリエイティブスタイルを[ディープ]に変更してローキー仕上げに。さらに[コントラスト]と[彩度]を[+1]にして、赤みを強調してみた。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(121mm域) 絞り優先オート F8 1/30秒 -0.3EV ISO100 WB:太陽光 クリエイティブスタイル:ディープ(コントラスト+1、彩度+1) PSMSのRAWを1ショットだけ合成せずに現像
【作例】ソニーα7R IIIの秘技「ピクセルシフトマルチ撮影(PSMS)」にチャレンジ。ワンショット撮影に比べ、雪や山肌のディテール描写が際立っている点に注目。ただ、PSMSで撮影した写真はカメラ内では合成できず、Imaging Edgeというソフトウェアを使ってパソコンで仕上げる必要がある。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(121mm域) 絞り優先オート F8 1/30秒 -0.3EV ISO100 WB:太陽光 クリエイティブスタイル:ディープ(コントラスト+1、彩度+1)
【作例】太陽の光が地表付近にも当たるころになると富士山の赤みもかなり薄くなってくるが、コントラストが高くなり、湖面にも逆さ富士がクッキリと映る。さざ波があるので、きれいな逆さ富士でないのがちょっと残念。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(41mm域) 絞り優先オート F9 1/25秒 ISO100 WB:太陽光(アンバー1) クリエイティブスタイル:ディープ(コントラスト+1、彩度+1)
【作例】高濃度NDフィルターを使って光量を落とし、30秒という長時間露出で撮影。湖面のさざ波が長時間露出で平滑化されている。本当に鏡のように静かな湖面に映ったクリアな逆さ富士にはほど遠いが、静寂さを感じる仕上がりとなった。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(41mm域) 絞り優先オート F10 30秒 ISO100 WB:太陽光(アンバー1) クリエイティブスタイル:ディープ(コントラスト+1、彩度+1) NiSi ND2000フィルター使用
【作例】太陽の高度も高くなり、富士山のコントラストもかなり高くなってきたので、富士山の裾野まで入れて撮影。この時期の富士山としては積雪が少ない気もするが、これくらいのほうが山肌のディテールがより鮮明に見える。撮影データ/ソニーα7RI II FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(100mm域) 絞り優先オート F7.1 1/320秒 ISO100 WB:太陽光(アンバー1) クリエイティブスタイル:ディープ(コントラスト+1、彩度+1) PSMSのRAWを1ショットだけ合成せずに現像
【作例】風が少なかったので再びPSMSにチャレンジ。通常のワンショット撮影に比べ、山肌のディテールが驚くほどクッキリと再現されている。が、雲が流れている部分など4回撮影する間に動いた部分は一部モザイク状に破綻している。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(100mm域) 絞り優先オート F7.1 1/320秒 ISO100 WB:太陽光(アンバー1) クリエイティブスタイル:ディープ(コントラスト+1、彩度+1)

山を越えるたびにコロコロと変わる天気。白川郷は果たして……

 なんとか紅富士をカメラに収めることができ、近くのコンビニで朝食を摂ったあと、いよいよ本来の目的地である白川郷に向かう。ただ、天気予報を確認してみてもあまり雪が降る感じではないので、高速代をケチるため、例によって河口湖から御坂みちに入り、新御坂トンネルを抜け、国道20号を走り、途中で道の駅に寄り道しながらのんびりとドライブ。本当は塩尻あたりで山賊焼きを食べたかったのだがさすがに時間が足りず、諏訪南ICから中央道に乗り岡谷JCT(ジャンクション)から長野自動車道に入る。諏訪南IC付近には降雪の形跡があったものの、塩尻あたりまでは快晴。ところが、松本ICが近づくにつれ、遠くの山に濃いめのグレーの雲がかかっていて、いかにも雪が降っているという感じだ。

 カーナビの指示どおり松本ICで降り、そこからは一般道。カーナビの到着予定時刻を見ると、ここから2時間半はかかるという。やっぱり白川郷は遠いなぁ。野麦街道(国道158号)を走り、山が近づいてくると雪がちらつきはじめ、稲核ダムを過ぎるあたりから本格的な雪になってきた。道もそこそこ積雪しているが、前回の菅平高原越えで精神的な余裕が生まれたのか、雪の山道ながらそれほど緊張せずに運転できる。どんどん雪が多くなってきて、これなら雪の舞う白川郷が撮れそうだと期待が膨らんでくるが、高山市が近づくにつれ眩しいほどの日差しと青空になり、ありゃりゃ?といった感じ。しかし、高山市を抜けるころには再び雪が舞って、晴れのエリアと雪のエリアが混在していて、天気がコロコロ変わる。果たして白川郷には雪が降っているのか?いないのか?

 高山バイパスから中部縦貫自動車道(高山清美道路)の高山IC~飛騨清見IC、そこから東海北陸自動車道に入り、白川郷ICで降りる。高山IC以降は自動車専用道路で、急カーブはほとんどなく半分くらいはトンネルなので、松本から高山までの一般道に比べるとかなり楽に運転できた。

 白川郷IC手前の飛騨トンネルに入る前は結構雪が降っていて、やったー!と思ったのだが、飛騨トンネルを抜けると雪は積もっているものの、雪はやんでいる!! やっぱり山1つ越えると天気が全然違う。

 白川郷ICで降り、案内板の指示に従って白川郷の駐車場に到着。時刻は15時40分。薄暮の時間帯を狙うにはちょうどいい時間に到着できたと思っていたのだが、ここで想定外の事実が発覚。なんと、村営駐車場は17時で閉まるというのだ。え!???である。

 しかし、初めて来た場所なので、どこが絶好の撮影ポイントなのか全く分からない状況なので、とりあえず明るいうちにカメラを持って合掌集落を散策する。想像以上に観光客が多く、テーマパークのような感じに戸惑いつつも、初めて見る合掌造りに感動。なんとか絵になりそうな場所を探して撮影を試みるが、よく見る集落を見下ろすビューポイントが見つからない。集落を歩きまわるうちに、駐車場が閉まる17時が迫ってきて、観光客の姿もまばらになってきた。人をなるべく入れずに撮影するには絶好のチャンスだ。風もほとんどないので、例によってソニーα7R IIIのPSMSも試してみる。そこでタイムリミットとなり、慌てて駐車場に戻り、高台からのビューポイントがどこなのかをカーナビの地図を見ながら探すと、どうやら「荻町城跡展望台」という場所らしい。マジックアワーが迫ってきているので慌てて荻町城跡展望台を目指すが、高台なので上り坂でカーブも多め。ある程度の除雪はされているが、凍結すると怖そうな道だ。

山中湖での紅富士撮影を終え、中央道の諏訪南ICまで一般道で寄り道しながらのんびりと走っていたので、白川郷に到着したのは夕方。夕景から暮景を狙いたかったので、ある意味、予定どおりではあるのだが……
なんと村営駐車場は17時で閉まるという想定外の事態。積雪しているものの、残念ながら雪は舞っていない。初めて来た場所なので、とりあえず長靴に履き替えて集落の散策に
白川郷に到着したときは雪は完全にやんでいて、遠くには青空も覗いていたが、合掌造りの屋根には結構雪が積もり、軒先にはツララがズラリ。観光客の多さからテーマパークのようにも感じるが、実際にここに人が住んでいて生活していることに驚きだ
雪がやんだタイミングであちこちで除雪作業が開始された。写真的には、こんもりと雪が積もった合掌造りの集落を撮りたいところだが、そんなのはこちらの勝手な都合。生活のためには除雪作業は欠かせない日課だ
雪の重みで家が潰れないよう、屋根が急角度になっている合掌造り。それでも雪は積もるので、屋根に登って雪下ろしをしていた。はたから見ていてもかなりの急角度。想像以上に危険な作業だ
【作例】村営駐車場が閉まる1時間前ということで、観光客の姿もまばらになってきた。観光客が入らないタイミングを狙って、田んぼに映る合掌造りを狙う。輝度差が大きいので、DROという階調補正機能を最強のLv5に設定して撮影している。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(38mm域) 絞り優先オート F8 1/125秒 -1.0EV ISO100 WB:オート0(ホワイト優先) クリエイティブスタイル:スタンダード DRO:Lv5
【作例】田んぼのあぜ道に「立ち入り禁止」の立て札があるのが気になるが、せっかく来たのでとりあえずパチリ。もっと雪が降って積雪すれば、この立て札も埋まって見えなくなってしまうに違いない。そのときがシャッターチャンスだ。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(24mm域) 絞り優先オート F8 1/160秒 -7EV ISO100 WB:オート0(ホワイト優先) クリエイティブスタイル:スタンダード DRO:Lv5
【作例】風もほとんどなく、水面や草木がほとんど揺らいでいないので、またまたソニーα7R IIIの秘技、PSMSを試す。まず、これはPSMSで撮影した4枚のRAWのうち、最初の1枚だけをImaging Edgeで通常現像したものだ。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(26mm域) 絞り優先オート F7.1 1/25秒 +0.3EV ISO100 WB:オート0(ホワイト優先) クリエイティブスタイル:スタンダード
【作例】PSMSで撮影した4枚のRAWをImaging Edgeで合成。合掌造りの木目の質感や雪の表面のテクスチャー感がワンランク上に再現されている。水面の映り込みも目立つような破綻は起きていない。自然風景撮影ではレアなケースだ。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(26mm域) 絞り優先オート F7.1 1/25秒 +0.3EV ISO100 WB:オート0(ホワイト優先) クリエイティブスタイル:スタンダード

 展望台の駐車場に到着し、ビュースポットに向かうと、すでに大勢のカメラマンが……。おそらく中国からの撮影ツアーのようで、みんな立派な三脚にカメラを据えてタイミングを待っているので、待っていても場所が空きそうもない。そこで後ろの斜面に上り、そこに大型の三脚を据えて、自分の身長よりも高い位置にカメラを据える。こんなとき、チルト式液晶モニターがあるカメラは便利だ。

 日が暮れて空の青みも消えてきたころ、撮影ツアーの団体さんも撤収しはじめ、アッという間にカメラマンは自分を含めて3~4人になり、ようやく前列に三脚を立てられるようになった。しばらく撮影していると、顔に冷たい感触が……。暗くてよく分からなかったが、いつの間にか粉雪が舞いはじめていた。

 実は、白川郷で撮りたかったのは、いわゆる“雪フラッシュ”。雪が降っているときにフラッシュを光らせてスローシンクロ撮影することで、雪が丸い前ボケに写り、写真にアクセントを加えてくれる。いま流行りの写真ということで、作例写真家のボクとしては、一応、絵になるパターンを押さえておきたい、と思っていたのだ。

 そこで、用意していたストロボをセットし、雪フラッシュ撮影を試みる。隣のカメラマンも狙いは同じで、ピカピカと光るフラッシュの光に舞う粉雪が白く浮かび上がる。しばらくすると、少し前に帰った日本人のアマチュアカメラマンも、ピカピカ光るフラッシュの光を見て戻ってきた(笑)。みんな狙いは同じだ。

 ただ、思っていたよりも雪フラッシュの密度が低めで、雪も少し大きすぎてバランスがわるい。どうやらフルサイズで150mmくらいの中望遠だと被写界深度が浅すぎて、雪が大きくボケすぎるようだ。24~35mmくらいの広角だと、絞りF4くらいでちょうどいい感じに写るんだけどね。そこで、焦点距離を100mmにし、雪フラッシュの効果を強めにするため、ISO感度も高めに設定。これでボケた雪がちょうどいい位置に写るまで、何度も撮影を繰り返す。

 ちょっと難しかったのがホワイトバランスの設定。オートだと少しアンバー・グリーンに濁った色調になってしまうので、ホワイトバランス微調整機能を使って、ブルーとマゼンタを強めに補正。すると、雪フラッシュで浮かび上がった雪が青っぽくなってしまう。これを防ぐには、フラッシュの発光部にアンバーのカラーフィルターを貼るのだが、残念ながらカラーフィルターの用意はない。それに個人的には、青い雪のほうが雪の冷たさが感じられるので、少し青みがかった方が好みだったりする。どうしても雪は白くなきゃ、という場合は、レタッチソフトで青の彩度を下げれば、白っぽい雪に仕上げられる。

 雪フラッシュ撮影を始めてしばらくすると、だんだんコントラストの低い写真になってきた。降ってくる雪の量が増えてきたのだ。なるほど。雪フラッシュ撮影には、雪が降っていなくてもダメ、雪が舞いすぎてもダメ、というわけだ。また、夕方に雪がやんだので、多くの合掌造りで雪下ろしが行われ、藁葺きの屋根がところどころ見えている。雪下ろししないと大変なことになるので、残念なんて言うと住んでいる人に怒られるかもしれないが、写真的には夕方まで雪がコンコンと降っていて、薄暮の時間帯に少し雪の降りが弱くなる、というタイミングが理想かも。ただ、道路の除雪も間に合わない可能性も高く、帰り道は怖いことになること必至だ。

展望台に到着すると、すでにいいポジションは海外からの団体さんで埋まっていた。みんなしっかりした三脚を持ってきていて防寒対策も万全。おそらく撮影ツアーなのだろう。待っていても空く気配はなさそうなので、後ろの斜面に登って大型三脚にカメラを据え、ハイポジションで撮影することにする
【作例】荻町城跡展望台から見た白川郷合掌造り集落の俯瞰。ド・定番の撮影スポットで、ライトアップが行なわれる日は、事前に配布される整理券がないと上がれないし、周囲の駐車場も早々に満車となり、現地にすらたどり着けない可能性が高くなる(世界遺産白川郷ライトアップイベント公式サイト参照)。撮影データ/ソニーα7R III FE24-105mm F4 G OSS(98mm域) 絞り優先オート F8 10秒 +0.3EV ISO100 WB:太陽光(ブルー3) クリエイティブスタイル:スタンダード
【作例】特別なライトアップが行なわれない日でも、長時間露出すれば夜でも白川郷の合掌造りの集落はちゃんと写る。オートホワイトバランスまかせだと色がちょっと濁るので、ブルーとマゼンタを少し強めに調整。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(196mm域) 絞り優先オート F6.3 15秒 +0.3EV ISO320 WB:太陽光(ブルー4、マゼンタ1) クリエイティブスタイル:ディープ(彩度+1) DRO:Lv2
【作例】展望台からの撮影はポジションが限られているので、集落を縦断する道路まで入れて撮影。クルマのテールランプの軌跡がうまく伸びるタイミングでシャッターを切った。向かってくるクルマの光は強すぎるので避けたいところだ。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(100mm域) 絞り優先オート F6.3 25秒 ISO160 WB:太陽光(ブルー6、マゼンタ2) クリエイティブスタイル:ディープ(彩度+1) DRO:OFF
【作例】マジックアワーの時間帯も過ぎ、完全に空が暗くなってくると、海外からの団体さんもさすがに撤収しはじめたので、ようやく斜面から解放され展望台の最前列に。しばらくすると、白いモノが舞ってきた。そう、今回の真の目的はこの“雪フラッシュ”撮影だったのだ。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(100mm域) 絞り優先オート F6.3 10秒 ISO640 WB:太陽光(ブルー6、マゼンタ2) クリエイティブスタイル:ディープ(彩度+1) DRO:OFF
【作例】色の濁りを補正するため、ホワイトバランスをブルー6、マゼンタ2に微調整していたので、フラッシュで浮かび上がった雪が青っぽくなっている。ボク的には寒さを感じるのでOKなのだが、雪は白くなきゃ、という場合は青系の彩度を落とすことで雪を白く再現できる。本来は、撮影時にフラッシュにアンバーのフィルターを付けて撮影したいところだ。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(100mm域) 絞り優先オート F6.3 10秒 ISO640 WB:太陽光(ブルー6、マゼンタ2) クリエイティブスタイル:ディープ(彩度+1) DRO:OFF Photoshopでブルーの彩度を落とす
【作例】雪の降り方が激しくなってくると、だんだん視程がわるくなり、雪フラッシュ撮影しても全体にコントラストが低く、彩度も低めの仕上がりになる。画像処理ソフトを使って、色調やコントラスト、明瞭度を調節したいところだが、カメラの作例は撮って出しJPEGが原則。色温度を思いっきり下げて、さらに青みを増してみた。撮影データ/ソニーα7R III FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(100mm域) 絞り優先オート F8 10秒 +0.3EV ISO800 WB:色温度マニュアル指定(2800K、マゼンタ1) クリエイティブスタイル:ディープ(彩度+1) DRO:Lv3

 雪フラッシュ撮影も堪能したので、急いで帰路につく。カーナビの自宅到着予定を見ると約5時間かかるという表示だ。白川郷をあとにしたのが19時30分過ぎなので、自宅に着くのは完全に午前様だ。本来なら、白川郷やその先の五箇山に宿泊して朝の風景も狙うのがベストだが、あいにく翌日に仕事が入っていて、夕方には都内に戻っている必要がある。白川郷の雪の降りはそれほどでもないが、北陸地方はこれから大雪になりそうな予報なので、ここは素直に東京に戻ることにした。

 気温は-8℃~-10℃と道路は完全にアイスバーン状態。とりわけ高山市から松本市に抜ける国道158号は、雪に覆われていてかなりゴツゴツとした路面だ。スリップしないようカーブでは十分に減速しながら、食事が摂れそうな松本市をひたすら目指す。なにしろ昼ご飯を摂る暇を逸してしまい、前の日に買ったパンを車内で食べただけ。マイナス気温で写真を撮り続けたので、身体も冷え切っている。

 松本市内に戻れたのは22時過ぎで、ここで松本IC近くの回転寿司に入り、汁物とお寿司で空腹を満たし、松本ICから長野道を経由して、中央道で自宅を目指す。高速に入ってしまえば、あとはEyeSightのクルーズコントロールにアクセルワークを任せられるので、運転の疲労は最小限に抑えられる。XVにしてから、本当に長時間の運転が楽になったのが実感できる。

白川郷の荻町城跡展望台から松本市に向かうドラレコ映像をダイジェストで早回し(11分50秒)。白川郷ICから高山ICまでの自動車専用道路はその半分以上はトンネルなので、雪道初心者でもとくに不安なく運転できそうだが、高山バイパスから松本市に抜ける国道158号は除雪はされているものの、場所によっては積雪していたり、アイスバーン状態になっている箇所もあり、カーブや坂もそれなりにあるので、気温が大幅に低下する夜に走るのはちょっと心細い。しかし、おろしたての最新スタッドレスタイヤとスバルの4WDのおかげで、カーブや坂道でも路面をしっかり捉え、安定した走りを楽しめた

 自宅に戻ったのは1時30分。翌朝は融雪剤(要は塩)を落とすため、近くの洗車場でタイヤハウスや下まわりを高圧洗浄。すでに旧型になってしまったとはいえ、我がXVにはまだまだ頑張ってもらわないとね。

 ちなみに、1月22日に東京でも10cmを大きく超える積雪となって交通が大混乱となったが、翌日、仕事でクルマで出かけるため、駐車場からクルマを出せるよう除雪したあと自宅近辺を1時間ほど走ってみたが、実は除雪されていない都会の雪道のほうが、降雪地の道路を走るよりもはるかに難易度が高い。圧雪された雪が凍りはじめていて、まるで林道を走っているかのようにゴツゴツと乗り心地はわるいし、轍でハンドルは取られるわで、実は都内に雪が降ったときこそ、高性能なスタッドレスタイヤが欠かせないと実感した次第。降雪時にノーマルタイヤで走るのは、本当にやめてほしいと思う。

無事帰宅して翌朝クルマを見ると、タイヤハウス内に雪がべったり付着。融雪剤がたっぷり撒かれた道を何時間も走ってきたので、クルマの下まわりをしっかり洗浄しないと、融雪剤の塩で錆びたり腐食してしまう恐れがある
幸い自宅の近くには洗車場があるので、雪道を走ったあとはすぐにスプレーガンで下まわりを高圧洗浄するようにしている
5分間で700円なので、手早く下まわりを洗浄する。タイヤハウスやホイールだけでなく、タイヤの裏側や下まわりにスプレーガンの水流が当たるようしゃがみ込んでしっかり洗浄するのがポイント。スタッドレスタイヤを新調したときに防錆コートしてもらうのを忘れたので、春にノーマルタイヤに履き替えるときに、防錆コートし直してもらおうと思う

【お詫びと訂正】記事初出時、道路名の表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

伊達淳一

1962年生まれ。作例写真家。学研「CAPA」、Impress Watch「デジカメWatch」等でデジタルカメラ評価記事を執筆。レビューする機材の自腹購入が多いヒトバシラーだ。これまで乗ってきたクルマはトヨタコルサ、三菱ランサー、日産ウイングロードと、すべて1.5リッターの2WD。都内を走ることが多く、どちらかといえば小回りが効き、できるだけたくさん荷物を積めるというのがクルマ選びのポイント。今回、自身初となる2.0リッタークラスAWD(4WD)の「スバルXV」を新しい相棒として選んだことで、果たして行動範囲はどう広がるのか? クロスオーバーな日常がスタートした。

http://datejun.world.coocan.jp/