長期レビュー
伊達淳一のスバル「XV」と過ごすクロスオーバーな日常
第11回:世界遺産「白川郷」で雪フラッシュ撮影
2018年1月31日 10:16
前回、地獄谷野猿公苑にスノーモンキーを撮影しに出かけたものの、初日に雪がほとんど降らず、お猿さんも温泉に入ってくれないというまさかの状況。そこで、翌日も野猿公苑に行き、残念ながら温泉に入っているシーンは撮れなかったものの、なんとかスノーモンキーを撮ることができた。
実は、地獄谷野猿公苑のあとに行ってみたいところがあったのだが、天気予報を調べてみると雪はあまり期待できそうもなく、しかも風が強いという。さらに、もう1日延長すると帰省ラッシュに巻き込まれてしまう可能性もある。というわけで、そのまま地獄谷野猿公苑をあとにし、雪の菅平高原を抜けて、小諸~佐久~佐久穂~小海~野辺山~清里~須玉と国道141号を南下。韮崎から中央自動車道に乗って無事帰宅した。
年が明け、世間がお正月モードから抜けたころを見計らって、前回行けなかった“あの場所”を目指すことに。それは、世界遺産の「白川郷」と「五箇山」。合掌造りで有名なところで、雪シーズンにぜひとも行ってみたいと思っていた。が、なにしろ、東京の自宅からも嫁さんの両親が住んでいる小諸からも遠く、どちらも豪雪地帯で雪の山道を何時間も走る必要がある。スバル「XV」で初めてスタッドレスタイヤを買った雪道初心者のボクにとって、アップダウンがありカーブの多い降雪地の山道を走るのは、正直、自信がなかったのだ。
しかし、今シーズンは最新のスタッドレスタイヤに履き替えられたので、スバルの4WDと最新スタッドレスタイヤの性能を当てにして、これまで避けていた雪の山道にチャレンジ。前回の雪の菅平高原越えは、その予行練習でもあったわけだ。
ただ、豪雪地帯といっても常に雪が降っているわけではない。何連泊もして、ベストなタイミングを狙う時間的余裕もなければ金銭的余裕もない(涙)。毎日、白川郷の天気予報をチェックしながら雪予報を心待ちにするものの、曇りか1時間あたり1mm前後の降雪の予報ばかり。今シーズンの“最強寒波”が来ていて、九州や関西、北陸地方は大雪のニュースが飛び込んでくるが、白川郷の天気予報を何度確認してみても1時間に1mm前後の雪で、大雪警報どころか注意報すら発令されていない状況だった。
しかし、翌週は寒が緩む予報なので、この機を逃すと次のチャンスはいつあるか分からないし、雪が降っても仕事が詰まっていると遠征できないので、まずは「ロケハン」代わりに1度行ってみようと意を決し、白川郷を目指すことにした。ただ、翌日は予定が入っていて、夕方までには都内に戻っている必要があり、なんと白川郷まで日帰りという強行軍。きっと帰りは夜になって道が凍結しているぞ~。
いざ白川郷へ出発! と、その前に……
さて、白川郷に撮影に出かける当日、目覚ましのアラームが鳴る朝5時半前に、スッと目が覚めた。スマホで天気予報を確認してみると、白川郷の降雪量は1時間あたり1mm未満が多く、どちらかといえば遅くなってからの方が雪の降る確率が高そうだ。というわけで、山中湖で紅富士を狙ってから白川郷を目指すことにした。
調布IC(インターチェンジ)から中央道に乗り、河口湖ICから東富士五湖道路に抜け山中湖ICで降りる。このとき、すでに6時40分。この日(2018年1月11日)の山中湖村の日の出時刻は6時53分。しかし、紅富士になるのは日の出よりも少し前だ。そこで山中湖ICからもっとも近いビュースポットである「長池親水公園」に急行。ぎりぎり紅富士になる直前に到着することができた。ちなみに、冠雪していない富士山が焼けるのが「赤富士」で、雪化粧した富士山が焼けるのを「紅富士」と呼ぶらしい。
今回のカメラは、前回同様ソニー「α7R III」。レンズは、FE24-105mm F4G OSS、FE100-400mm F4.5-5.6 GM OSS。そして、それほど超広角は必要ないだろうということで、FE16-35mm F4ZAをチョイスした。
長池親水公園に到着して、すぐさま三脚にカメラをセット。気温は約-8℃と数字だけ見るとかなりの寒さだが、幸い風はほとんどなかったので、体感的にはそれほど寒さは感じない。指先だけはちょっと冷えるけどね。
とりあえず、紅富士を強調するため、クリエイティブスタイルを[ディープ]に変更。これは標準よりも少しローキーに写るモードで、さらに[彩度]と[コントラスト]を1段強めに設定した。ホワイトバランスは[太陽光]。これは自然風景撮影では基本の設定だ。まあ、[オート]でも大丈夫なことがほとんどだけど、朝夕の撮影は[太陽光]をベースに、そこから自分好みの色調にコントロールするといいだろう。
さて、雲もなく風もほとんどないので、ソニーα7R IIIの「ピクセルシフトマルチ撮影(PSMS)」という必殺技も試してみることにした。一般的なデジカメに搭載されている撮像センサーは、色の違いを識別できないモノクロセンサーなので、各画素に赤・緑・青のいずれかのフィルターをモザイク状に配置して色分解を行なっている。つまり、1つの画素は、赤・緑・青のどれか1色しか感じることができないので、足りない色情報は隣接する画素の輝度情報から類推して補間処理を行なっている。いわゆる画素数の水増しだ。そこで、撮像センサーを1ピクセルだけずらしながら4回露光を行なうことで、1つの画素で赤・緑・青の色情報をすべて取得し、色情報を補間せずに画像を生成しようというのが、ソニーα7R IIIのPSMSという機能だ。
ただし、PSMSは1回の撮影で4回露光を行なう(しかも、最短でも1秒間隔)ので、被写体がわずかでも動くとその部分の描写が破綻してしまう。そのため、本来はスタジオ撮影や建築物など、完全に静止した被写体限定の撮影機能。自然風景の撮影では、雲が流れたり、草木が揺れたり、水面がさざめいたりするとアウトなので、PSMSが効果を発揮できるシーンは極めて限られている。だが、通常撮影に比べて色情報を補間していないため、驚くほど細部の解像がよくなるので、条件がよさそうなときにはダメもとでチャレンジしてみる価値は大ありだ。今回の紅富士も、風で雪煙が舞っている部分の描写が少し破綻しているものの、雪や山肌の描写は鳥肌が立つほど高精細な描写が引き出せている。この高解像描写を見てしまうと、4240万画素あっても通常撮影ではモノ足りなく感じてしまうほどだ。
日の出の時刻を過ぎ、太陽の光が地表付近まで当たってくると、紅富士はマゼンタ(赤紫)からアンバー、イエローに刻々と変化し、15分もすると赤みはかなり薄くなり、雲1つない澄み渡った青空に冠雪が映える、まるで絵はがきのような富士山になる。惜しむらくは、山中湖の水面にさざ波が立っていて、逆さ富士というにはいまひとつの状況。そこで、ND64フィルター(光量を落とすフィルター)を使って、30秒のスローシャッター撮影を行なうことで、湖面に映る逆さ富士をなめらかな描写に仕上げてみた。さざ波1つない鏡のような水面に映る逆さ富士とは程遠いものの、普通に撮影したカットに比べ、穏やかというか、静寂さを感じる写真に仕上がったのではないだろうか。これで筋雲が放射状に流れていれば、さらにフォトジェニックな仕上がりが期待できるのだが、なかなか狙いどおりのいい感じの雲には出逢えない。だからこそ、風景写真家は何度も同じ場所に足を運んで絶景を追い求めるのだろう。
以下、【作例】と表記してある写真については、左上のプラスボタンをクリックすると拡大表示(7952×5304ピクセル)されるので、ぜひ楽しんでいただきたい。
山を越えるたびにコロコロと変わる天気。白川郷は果たして……
なんとか紅富士をカメラに収めることができ、近くのコンビニで朝食を摂ったあと、いよいよ本来の目的地である白川郷に向かう。ただ、天気予報を確認してみてもあまり雪が降る感じではないので、高速代をケチるため、例によって河口湖から御坂みちに入り、新御坂トンネルを抜け、国道20号を走り、途中で道の駅に寄り道しながらのんびりとドライブ。本当は塩尻あたりで山賊焼きを食べたかったのだがさすがに時間が足りず、諏訪南ICから中央道に乗り岡谷JCT(ジャンクション)から長野自動車道に入る。諏訪南IC付近には降雪の形跡があったものの、塩尻あたりまでは快晴。ところが、松本ICが近づくにつれ、遠くの山に濃いめのグレーの雲がかかっていて、いかにも雪が降っているという感じだ。
カーナビの指示どおり松本ICで降り、そこからは一般道。カーナビの到着予定時刻を見ると、ここから2時間半はかかるという。やっぱり白川郷は遠いなぁ。野麦街道(国道158号)を走り、山が近づいてくると雪がちらつきはじめ、稲核ダムを過ぎるあたりから本格的な雪になってきた。道もそこそこ積雪しているが、前回の菅平高原越えで精神的な余裕が生まれたのか、雪の山道ながらそれほど緊張せずに運転できる。どんどん雪が多くなってきて、これなら雪の舞う白川郷が撮れそうだと期待が膨らんでくるが、高山市が近づくにつれ眩しいほどの日差しと青空になり、ありゃりゃ?といった感じ。しかし、高山市を抜けるころには再び雪が舞って、晴れのエリアと雪のエリアが混在していて、天気がコロコロ変わる。果たして白川郷には雪が降っているのか?いないのか?
高山バイパスから中部縦貫自動車道(高山清美道路)の高山IC~飛騨清見IC、そこから東海北陸自動車道に入り、白川郷ICで降りる。高山IC以降は自動車専用道路で、急カーブはほとんどなく半分くらいはトンネルなので、松本から高山までの一般道に比べるとかなり楽に運転できた。
白川郷IC手前の飛騨トンネルに入る前は結構雪が降っていて、やったー!と思ったのだが、飛騨トンネルを抜けると雪は積もっているものの、雪はやんでいる!! やっぱり山1つ越えると天気が全然違う。
白川郷ICで降り、案内板の指示に従って白川郷の駐車場に到着。時刻は15時40分。薄暮の時間帯を狙うにはちょうどいい時間に到着できたと思っていたのだが、ここで想定外の事実が発覚。なんと、村営駐車場は17時で閉まるというのだ。え!???である。
しかし、初めて来た場所なので、どこが絶好の撮影ポイントなのか全く分からない状況なので、とりあえず明るいうちにカメラを持って合掌集落を散策する。想像以上に観光客が多く、テーマパークのような感じに戸惑いつつも、初めて見る合掌造りに感動。なんとか絵になりそうな場所を探して撮影を試みるが、よく見る集落を見下ろすビューポイントが見つからない。集落を歩きまわるうちに、駐車場が閉まる17時が迫ってきて、観光客の姿もまばらになってきた。人をなるべく入れずに撮影するには絶好のチャンスだ。風もほとんどないので、例によってソニーα7R IIIのPSMSも試してみる。そこでタイムリミットとなり、慌てて駐車場に戻り、高台からのビューポイントがどこなのかをカーナビの地図を見ながら探すと、どうやら「荻町城跡展望台」という場所らしい。マジックアワーが迫ってきているので慌てて荻町城跡展望台を目指すが、高台なので上り坂でカーブも多め。ある程度の除雪はされているが、凍結すると怖そうな道だ。
展望台の駐車場に到着し、ビュースポットに向かうと、すでに大勢のカメラマンが……。おそらく中国からの撮影ツアーのようで、みんな立派な三脚にカメラを据えてタイミングを待っているので、待っていても場所が空きそうもない。そこで後ろの斜面に上り、そこに大型の三脚を据えて、自分の身長よりも高い位置にカメラを据える。こんなとき、チルト式液晶モニターがあるカメラは便利だ。
日が暮れて空の青みも消えてきたころ、撮影ツアーの団体さんも撤収しはじめ、アッという間にカメラマンは自分を含めて3~4人になり、ようやく前列に三脚を立てられるようになった。しばらく撮影していると、顔に冷たい感触が……。暗くてよく分からなかったが、いつの間にか粉雪が舞いはじめていた。
実は、白川郷で撮りたかったのは、いわゆる“雪フラッシュ”。雪が降っているときにフラッシュを光らせてスローシンクロ撮影することで、雪が丸い前ボケに写り、写真にアクセントを加えてくれる。いま流行りの写真ということで、作例写真家のボクとしては、一応、絵になるパターンを押さえておきたい、と思っていたのだ。
そこで、用意していたストロボをセットし、雪フラッシュ撮影を試みる。隣のカメラマンも狙いは同じで、ピカピカと光るフラッシュの光に舞う粉雪が白く浮かび上がる。しばらくすると、少し前に帰った日本人のアマチュアカメラマンも、ピカピカ光るフラッシュの光を見て戻ってきた(笑)。みんな狙いは同じだ。
ただ、思っていたよりも雪フラッシュの密度が低めで、雪も少し大きすぎてバランスがわるい。どうやらフルサイズで150mmくらいの中望遠だと被写界深度が浅すぎて、雪が大きくボケすぎるようだ。24~35mmくらいの広角だと、絞りF4くらいでちょうどいい感じに写るんだけどね。そこで、焦点距離を100mmにし、雪フラッシュの効果を強めにするため、ISO感度も高めに設定。これでボケた雪がちょうどいい位置に写るまで、何度も撮影を繰り返す。
ちょっと難しかったのがホワイトバランスの設定。オートだと少しアンバー・グリーンに濁った色調になってしまうので、ホワイトバランス微調整機能を使って、ブルーとマゼンタを強めに補正。すると、雪フラッシュで浮かび上がった雪が青っぽくなってしまう。これを防ぐには、フラッシュの発光部にアンバーのカラーフィルターを貼るのだが、残念ながらカラーフィルターの用意はない。それに個人的には、青い雪のほうが雪の冷たさが感じられるので、少し青みがかった方が好みだったりする。どうしても雪は白くなきゃ、という場合は、レタッチソフトで青の彩度を下げれば、白っぽい雪に仕上げられる。
雪フラッシュ撮影を始めてしばらくすると、だんだんコントラストの低い写真になってきた。降ってくる雪の量が増えてきたのだ。なるほど。雪フラッシュ撮影には、雪が降っていなくてもダメ、雪が舞いすぎてもダメ、というわけだ。また、夕方に雪がやんだので、多くの合掌造りで雪下ろしが行われ、藁葺きの屋根がところどころ見えている。雪下ろししないと大変なことになるので、残念なんて言うと住んでいる人に怒られるかもしれないが、写真的には夕方まで雪がコンコンと降っていて、薄暮の時間帯に少し雪の降りが弱くなる、というタイミングが理想かも。ただ、道路の除雪も間に合わない可能性も高く、帰り道は怖いことになること必至だ。
雪フラッシュ撮影も堪能したので、急いで帰路につく。カーナビの自宅到着予定を見ると約5時間かかるという表示だ。白川郷をあとにしたのが19時30分過ぎなので、自宅に着くのは完全に午前様だ。本来なら、白川郷やその先の五箇山に宿泊して朝の風景も狙うのがベストだが、あいにく翌日に仕事が入っていて、夕方には都内に戻っている必要がある。白川郷の雪の降りはそれほどでもないが、北陸地方はこれから大雪になりそうな予報なので、ここは素直に東京に戻ることにした。
気温は-8℃~-10℃と道路は完全にアイスバーン状態。とりわけ高山市から松本市に抜ける国道158号は、雪に覆われていてかなりゴツゴツとした路面だ。スリップしないようカーブでは十分に減速しながら、食事が摂れそうな松本市をひたすら目指す。なにしろ昼ご飯を摂る暇を逸してしまい、前の日に買ったパンを車内で食べただけ。マイナス気温で写真を撮り続けたので、身体も冷え切っている。
松本市内に戻れたのは22時過ぎで、ここで松本IC近くの回転寿司に入り、汁物とお寿司で空腹を満たし、松本ICから長野道を経由して、中央道で自宅を目指す。高速に入ってしまえば、あとはEyeSightのクルーズコントロールにアクセルワークを任せられるので、運転の疲労は最小限に抑えられる。XVにしてから、本当に長時間の運転が楽になったのが実感できる。
自宅に戻ったのは1時30分。翌朝は融雪剤(要は塩)を落とすため、近くの洗車場でタイヤハウスや下まわりを高圧洗浄。すでに旧型になってしまったとはいえ、我がXVにはまだまだ頑張ってもらわないとね。
ちなみに、1月22日に東京でも10cmを大きく超える積雪となって交通が大混乱となったが、翌日、仕事でクルマで出かけるため、駐車場からクルマを出せるよう除雪したあと自宅近辺を1時間ほど走ってみたが、実は除雪されていない都会の雪道のほうが、降雪地の道路を走るよりもはるかに難易度が高い。圧雪された雪が凍りはじめていて、まるで林道を走っているかのようにゴツゴツと乗り心地はわるいし、轍でハンドルは取られるわで、実は都内に雪が降ったときこそ、高性能なスタッドレスタイヤが欠かせないと実感した次第。降雪時にノーマルタイヤで走るのは、本当にやめてほしいと思う。
【お詫びと訂正】記事初出時、道路名の表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。
伊達淳一
1962年生まれ。作例写真家。学研「CAPA」、Impress Watch「デジカメWatch」等でデジタルカメラ評価記事を執筆。レビューする機材の自腹購入が多いヒトバシラーだ。これまで乗ってきたクルマはトヨタコルサ、三菱ランサー、日産ウイングロードと、すべて1.5リッターの2WD。都内を走ることが多く、どちらかといえば小回りが効き、できるだけたくさん荷物を積めるというのがクルマ選びのポイント。今回、自身初となる2.0リッタークラスAWD(4WD)の「スバルXV」を新しい相棒として選んだことで、果たして行動範囲はどう広がるのか? クロスオーバーな日常がスタートした。