長期レビュー
伊達淳一のスバル「XV」と過ごすクロスオーバーな日常
第12回:“最強寒波”で結氷した山中湖まで絶景を探しに
2018年2月22日 10:28
今シーズンになってから、“最強寒波到来”というフレーズを何度聞いただろう? 北陸や東北では局地的に記録的な大雪に見舞われ、交通網がマヒして日常生活にも深刻な影響が出てしまったという。今シーズンはスタッドレスタイヤを新調し、喜び勇んで雪景色を撮りに出かけているが、改めて、大雪の恐ろしさを思い知らされ、そうしたリスクを覚悟で出撃するなら十分な備えと情報収集、時には早めに撤退する判断力が必要だと再認識させられた次第だ。
さて、今回の目的地はまたまた山中湖。というのも、久々に山中湖が結氷したという情報が入ったからだ。結氷した山中湖を見たのは2011年2月以来なので、なんと7年ぶりだ。そのときは日産自動車の「ウイングロード」に乗っていて、タイヤはスタッドレスではなくノーマルのまま。数日前に降った雪が残ってはいるものの、道路の雪はきれいに除雪されていて、路面も乾いているのでノーマルタイヤでも走行可能(もちろんチェーンは携行している)だったのだ。とはいえ、雪が溶けて路面に流れ出て、それが夜に凍結している箇所もあるので、やはりスタッドレスタイヤを履いていた方が安心・安全だし、まだ完全に除雪されていないところにも入っていけるという点はアドバンテージだ。
早朝の5時過ぎに自宅を出発し、調布IC(インターチェンジ)から中央自動車道に乗り、東富士五湖道路の山中湖ICで降りたのは6時30分過ぎ。日の出の時刻はどんどん早くなっているので、紅富士を狙うにはちょっと遅く、山中湖ICからもっとも近場の長池親水公園に到着したときには、すでに富士山がほんのり赤く染まり始めていた。あと30分から1時間早く行動すればもっと余裕を持って撮影に挑めるのに、と毎度のように後悔するところだけど、その30分早くがなかなか難しい(汗)。もっとも、今回は紅富士を狙うつもりはなく、たまたま早く目が覚めたので出撃したところに、運がいいのかわるいのか、紅富士の時間帯に辛うじて間に合ってしまった。そこで仕方なく(?)湖畔に三脚を立てている余裕もなく、手持ちで撮影開始だ。
今回はほとんどクルマ移動ということもあって、複数の撮影機材を持って出撃してきたが、今回のメインで使ったのはニコン D850。ニコンの一眼レフの集大成ともいえる極めて完成度の高いモデルで、有効4575万画素の高解像度と、7コマ/秒の高速連写(パワーバッテリーグリップを装着し、高電圧のリチウムイオンバッテリーを使用すると約9コマ/秒の高速連写が可能)、ISO 64-25600の幅広いISO感度設定を兼ね備えているのが特徴だ。
富士山の冠雪がほんのりとピンクに染まり始めているが、空気が乾燥して澄み渡っているためか色付きはいまひとつ。カメラが指示する露出で撮影すると、目で見ているよりも色が薄くなってしまった。そこで、マイナスの露出補正でアンダー気味に撮影してみると、紅富士の赤みは増したが、湖面に立ち上る朝靄が暗くなってしまった。もう少し上空に雲があって、そこに朝日が反射すれば、湖面の朝靄ももっと明るく写るのかもしれないが、雲ひとつないクリアな青空だと、富士山と朝靄を両立させるのは困難だ。レタッチソフトで強引にHDR的な処理をすればSNS映えする仕上がりにもできるが、やり過ぎると写真ではなく絵のようになってしまうので、写真表現としてどこまで許されるのか、判断が難しいところだ。
もう少し時間が経つと、太陽の光が湖面まで差し込んできて、朝靄が明るく照らされてきた。富士山の雪はピンクからアンバーへと変化し、すでに紅富士の重厚な雰囲気はなくなってしまったものの、朝の富士山としてはなかなかわるくない光景だ。ただ、作例写真家としては単にそのままシャッターを切ったのでは芸がないので、ちょっと技巧を加えて撮影してみた(笑)。
ND2000という高濃度NDフィルターを使用して、カメラに届く光を大幅に減らし、日中にも関わらず15秒という長時間露出を行なうことで、水面の揺らぎや朝靄の動きを平滑化。湖面に映る富士山の姿が穏やかになり、朝霧も輪郭がフワッとした優しい感じに再現できた。
以下、【作例】と表記してある写真については、左上のプラスボタンをクリックすると拡大表示(8256×5504ピクセルなど)されるので、ぜひ楽しんでいただきたい。
紅富士タイムも終わり、富士山の雪の赤みも消えてきたので、クルマを長池親水公園の駐車場に置いたまま、富士山に向かって遊歩道を散策。東京でも大雪だった日から4日が経って、道路はきれいに除雪されているものの、周辺はまだ雪景色。
ただ、期待していたほど結氷していないようで、白鳥などの水鳥も湖に優雅に浮かんでいる。7年前にキヤノン EOS Kiss X5で撮影した、凍結した湖面が割れて岸に押し寄せ、重なり合った迫力あるシーンには残念ながら遠く及ばない。まだまだ氷が薄く、凍結している面積も少ないのだ。ただ、もう少し奥まった平野というエリアはもっと気温が下がるので、湖面はもっと厚く凍っているに違いない。
とはいえ、せっかくの雪原と富士山という絶景を撮らずにここを後にするのももったいないので、D850の秘技「フォーカスシフト撮影」を使って、手前から奥までビシッとピントが合ったパンフォーカス撮影を試みる。
風景などをパンフォーカスで撮影する際には、絞りを絞った方がピントが合って見える範囲(このピントが合って見える範囲のことを、写真の専門用語では“被写界深度”と呼んでいる)が広くなる。ただ、絞りを最小絞り付近まで絞ってしまうと光の回折現象の影響が大きくなり、被写界深度は深くなるものの、解像やコントラストが低下してしまう“小絞りボケ”という現象が発生してしまう。
そこで、小絞りボケが起きない絞り値に設定し、少しずつピント位置をずらしながら撮影した複数の写真から、ピントの合ったシャープな部分だけを抽出し、手前から奥までピントの合ったシャープな写真を生成する、というのが「深度合成」というデジタルならではのテクニック。この深度合成の素材撮影に便利なのが、D850のフォーカスシフト撮影という機能で、手前から奥までカメラがピント位置を少しずつずらしながら連続で自動撮影してくれるのだ。
ただし、D850本体にはフォーカスシフトで撮影した素材を深度合成する機能はなく、市販の深度合成ソフトを使ってPCで合成作業を行なうことになる。ボクが使っているのは「Helicon Focus」という深度合成専門ソフト。素材を読み込ませるだけで精度の高い深度合成が可能で、つながりがおかしくなった部分の修正も容易なのが特徴だ。このあたりの詳しい話は、デジカメ Watchの特別企画「ニコンD850『フォーカスシフト』風景撮影での使用法を考える」で解説しているので、興味のある人はぜひこちらも参照してほしい。
雪原と富士山をフォーカスシフト撮影した後、長池親水公園を出て向かったのは平野エリア……ではなく、山中湖パノラマ台。ここは時間が経つほど逆光気味になるので、富士山をクッキリ写すなら早めの時間帯のほうがいいと判断したからだ。さすがに大雪から4日経っているので、木々やススキには着雪しておらず、くっきり富士山が見えてはいるものの、ちょっと平凡な光景だ。
そこで「パノラマ台なのでパノラマ撮影」という、親父ギャグ的な受け狙いの撮影をしてみる(笑)。パノラマ撮影のポイントは、カメラが前後左右に傾かないよう水平を保ちながらカメラを振ること。カメラを上に向けたり下に向けてカメラを振ると、うまくパノラマ合成が繋がらなくなってしまう。被写体の上下どちらかが切れてしまう場合は、カメラを横位置ではなく縦位置に構えてパノラマ撮影して、合成後に上下の不要な部分をトリミングでカットすれば、上下方向にワイドなパノラマ写真を撮影できる。
今回はカメラを縦位置にして9枚のパノラマ素材を撮影。これを「PTGui」というパノラマ合成ソフトに読み込ませるだけで、とくに調整を行なわなくてもほぼつなぎ目が分からない30898×7780ピクセル=約2億4000万画素という超高解像度のパノラマ写真が生成できる。さすがにこのサイズでWeb上に掲載するのは無茶なので、縦横を半分のサイズにリサイズ。画素数が4分の1に減ってしまっても、まだ6000万画素という高解像度を保っていて、富士山の山肌や手前にあるススキや枯れ木、結氷している山中湖や南アルプスまでクッキリと解像していて、さすがニコン D850といった仕上がりだ。
パノラマ台から平野エリアに向かう途中、真っ白な雪のなかに馬の姿を見つけた。クルマから降りて確認すると、「クローバー牧場」という看板があり、乗馬体験や引き馬体験ができるという。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの準備で馬事公苑が閉鎖されてから久々に見るお馬さんなので、ちょっと寄り道。まだ雪が残る放牧場で昼食中のお馬さんの姿を撮影させてもらった。雪レフ効果でキャッチライトも入り、なかなかいい感じだ。
枯れ草を食むお馬さんの姿を見ていたら、こちらもお腹が空いてきた。なにしろ朝ご飯抜きで飛び出してきたので、お腹が空くのも当然だ。とりあえず、平野エリアの湖畔まで行って結氷しているのを確認し、雪原に突っ込んだわがXVと富士山の記念写真を撮影。もう少し光線が逆光気味のほうが氷のキラキラ感が出るので、クルマを走らせ、対岸の山中エリアのファミレスで朝食兼昼食を摂る。
再び平野エリアに戻ると、ちょうどいい感じに太陽がまわってきて、半逆光から逆光気味の光線になっている。山中湖交流プラザ「きらら」付近の湖畔の遊歩道を散策し、逆光に光る雪原と富士山を思う存分に撮影しながら、日が傾いて空が赤く染まるのを待つ。
太陽が沈むあたりに雲があり、うまく夕陽が反射してくれないか期待したものの、上空には夕陽を反射する雲がほとんどなく、マジックアワーになっても湖面の氷にうまく反射してくれない。やっぱり自然風景写真は思いどおりの展開になるのはまれだ。でも、とにかく撮りに出かけてカメラを構えなければ何も始まらない。
気がつくとすっかり日が暮れて、頭上には冬を代表する星座のオリオン座が登ってきている。富士山とオリオン座がコラボした星景写真も撮りたいところだが、この後は月も昇ってくるし、なにしろ朝5時前に起きているので、もはや日付が変わるころまで粘る気力も体力も残っていない。気温もぐんぐん下がって-8℃になってきた。雪原に駐めたわがXVとオリオン座のコラボを撮影し終わって、この日の撮影は終了。山中湖を後にした。
撮影を終えてみれば、結氷した山中湖よりも愛車のXVを撮影したバリエーションのほうが多かったりして(汗)。雪原にオレンジ色のXV(旧だけど)は実によく映える。今シーズンはあと何回、XVと雪景色を楽しむことができるだろうか? 春の足音はすぐそこまで近づいてきている。
伊達淳一
1962年生まれ。作例写真家。学研「CAPA」、インプレス「デジカメWatch」等でデジタルカメラ評価記事を執筆。レビューする機材の自腹購入が多いヒトバシラーだ。これまで乗ってきたクルマはトヨタコルサ、三菱ランサー、日産ウイングロードと、すべて1.5リッターの2WD。都内を走ることが多く、どちらかといえば小回りが効き、できるだけたくさん荷物を積めるというのがクルマ選びのポイント。今回、自身初となる2.0リッタークラスAWD(4WD)の「スバルXV」を新しい相棒として選んだことで、果たして行動範囲はどう広がるのか? クロスオーバーな日常がスタートした。