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高橋学のニコン「D850」でモータースポーツを撮ってみた
有効画素4575万画素、最高約9コマ/秒の一眼レフ
2018年6月5日 12:42
昨今のデジタル一眼レフカメラの高画素競争に挑むニコンの最新鋭機「D850」で、モータースポーツの撮影に行ってきました。有効画素4575万画素の裏面照射型CMOSセンサーを採用したこのモデルは、ニッコールレンズの持つ高い解像力を生かす光学ローパスフィルターレス仕様で「D810」の後継として2017年9月に登場。有効画素数の向上とともに、連続撮影速度が「D810」の約5コマ/秒から約7コマ/秒に高速化。別売りのマルチパワーバッテリーパック「MB-D18」を使うことで約9コマ/秒での連続撮影が可能となり、モータースポーツ撮影にもさらに適したモデルへと進化したのも大きなポイントです。
ニコンと長年競い合いながら進化を続けてきたキヤノンの「EOSシリーズ」や、ミラーレスでこのカテゴリーに挑む新鋭ソニーの「αシリーズ」の高画素モデルが、まるで自動車の世界のように赤い「R」の文字を配したネーミングでその高性能ぶりを表現しているのに対し、「D800/D800E」「D810」「D850」と粛々と数字で進化を伝えるちょっと地味めの存在感も、何ともニコンっぽいなと思いつつ撮影に臨みました。
「オリジナル画像」とキャプションに記載のある画像についてはカメラで生成されたJPEGファイルをそのまま掲載しています。フルサイズ(FXフォーマット)のLサイズ使用時の画像サイズは8256×5504ピクセルで、画質優先モードですと1枚20MBを超えるものもあります。通信環境によっては表示に時間がかかる場合もあると思いますが、画質の評価に関しては好みの部分もありますので、掲載画像から各自が判断していただけると幸いです。また、撮影データを残してありますので、無償の「Nikon View NX-i」などのソフトでご確認いただけます。
なお、動画の撮影はしておりません。
いざ、サーキットへ
今回は5月に開催されたSUPER GT 第2戦 富士、第3戦 鈴鹿で撮影を行ない、レンズは「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」を中心に使用しました。サーキットでの撮影ということもあり、ニッコールレンズ最新の大口径望遠ズーム「AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VR」も試してみたかったところですが、ちょっと一般的な価格とは言い難いので今回は見送りました。
なお、使用した「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」はその登場時にレンズテストとして「D810」と組み合わせて使用しておりますので、参考までにご覧いただければと思います(ちなみに、この原稿執筆時点では「D810」も現行製品です)。
以上3点で、マシンのディテールにおける質感やシャドウ、ハイライトの階調がおおむね確認できるかと思います。個人的にはビス1本からレース後半に見られるマシンの汚れ具合まで、高画素モデルならではの描写は見事だと感じます。実は、中にはハイライト部分が滲んだような描写が見られるカットもあったのですが、よく見るとその多くは微細なブレだったりして、4575万画素を活かしながら高速で動くマシンを表現するには、いつも以上の繊細さというか、丁寧さが求められることをあらためて実感させられました。
また、そんな「D850」の画質はもちろんですが、今回主に使用した「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」がそれを生かすだけの性能を発揮したのにも驚かされました。サーキットにおける非常に有効な焦点距離を持ちながら、コンパクトで実売価格が15万円を切っているところも多い「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」のコストパフォーマンスは非常に高いと思います。
連続撮影速度の向上とその効果
ボディ単体で7コマ/秒を達成する「D850」ですが、別売りのマルチパワーバッテリーパック「MB-18」と、Li-ionリチャージャブルバッテリー「EN-EL18b」を使うことにより、約9コマ/秒の高速連続撮影が可能となります。個人的には秒2コマの速度アップで今まで撮れなかったものが急に撮れたりする機会はそれほど多いとは感じていないので、この速度領域においては「速いに越したことがない」程度の認識しかありませんでした。
しかしながら、筆者は今回約9コマ/秒をおすすめします。縦位置での握りやすさもその一因ではありますが、実は高速化された方がシャッターフィーリングがよかったからです。速度そのものの影響なのか、単にボディ質量の問題なのか分かりませんが、単体で連続撮影をする際にわずかに手に残る振動が「MB-18」使用時に改善されるように感じたのです。その違いが撮影結果に及ぼす影響がなくとも、気持ちよく撮影ができた方がいいですから。この手の話は割と個体差の問題の可能性もあるのですが、今回使用した個体に関しては違いが認められました。極めて個人的な気分の問題ですが、ご参考までに。
なお、今回の撮影ではバッファがいっぱいになり、撮影が滞るような場面はありませんでした。
クロップ撮影時、ファインダーにマスクが表示されるように
「D850」はフルサイズセンサー(FXフォーマット)ならではの高画質を売りとするカメラですが、画面中央部をトリミングするようなクロップ機能を備えます。「D810」にも同様の機能は備えていたのですが、「D850」ではクロップ撮影時にファインダー内の撮影外の部分にマスクがかかるように進化しました。フラグシップ機「D5」にはすでに採用されている機能ですが、これでクロップ撮影のしやすさは飛躍的に向上しました。筆者自身、他のカメラでクロップ機能を使っているのに気づかずフルサイズでフレーミングしてしまい、画面中央部分しか写っていなかったという苦い経験を持っていますので、この機能追加は歓迎です。
クロップ機能を活用した撮影
実は、このクロップ機能はなかなか便利な機能です。超高画素モデルの「D850」の場合、FXフォーマットで最大8256×5504ピクセル(4544万画素)、実質焦点距離が1.2倍になるクロップで6880×4584ピクセル(3153万画素)、DXフォーマット(実質焦点距離が1.5倍のいわゆるAPS-Cフォーマット)でも5408×3600ピクセル(1946万画素)での記録が可能です。乱暴な言い方をしてしまえば「D850」のDXクロップと同社のAPS-C機「D500」は数値的にはさほど変わりません。もちろん、ファインダーの見え方や操作系、重量などは同じではないので、単純に比較するようなものではないかもしれませんが、参考までに(ちなみに今回と同じレンズで撮影を行なった「D500」のテスト記事はコチラ)。
なお、今回はPF(位相フレネル)レンズを採用し、300mmとしては極めて軽量な約755gを達成した「AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR」でも撮影しました(AI AF-S NIKKOR 300mm f/4E IF-EDは約1300g)。マルチパワーバッテリーパック「MB-D18」を使わず「D850」のボディ単体(約1005g)と組み合わせてわずか約1760g。このセットでクロップ機能を組み合わせ、300mm(FX)、360mm(1.2×)、450mm(DX)の3つの焦点距離で撮影できます。驚くほどの軽さはとても魅力的でした。
電子シャッターによる「サイレント撮影」が可能に
「D850」は無音での撮影を可能とする電子シャッターが備えられています。視野率100%の光学ファインダーを備えた「D850」にはEVFがありませんので、背面の液晶モニターを使ったライブビューでの撮影時のみと使用環境は制限されますが、エンジン音が鳴り響くサーキットとはいえ、静まったピット内やナーバスになった選手やチームスタッフの打ち合わせシーンなど、モータースポーツの撮影においてもシャッター音を避けたいシーンはありますので、この機能の採用は歓迎です。
サイレント撮影ではDXフォーマットで記録画素を864万画素に制限することにより、30コマ/秒の連続撮影が可能となりますが、こちらはAF、露出ともに最初のコマに固定されてしまいますので、モータースポーツの現場ではあまり有用とはいえず、今回のテストでも割愛しました。
「D850」はモータースポーツ撮影に向いているのか?
ズバリ、全く問題はありませんでしたので筆者はオススメできます。スペック上の性能は言うことなし。実際に2レースだけとはいえ現場に投入してみても全く不便は感じないし、画質も問題ありません。今回は夜間など厳しい条件下での撮影はありませんでしたが、太陽光での通常時の撮影においては超高画素ゆえのデメリットはあまり感じなかったというのが正直なところです。強いて挙げれば、この超高解像度カメラの性能を活かしきるには、撮影時にそれ相応のブレに対する注意が必要なことと、ファイルが圧縮RAWファイルで1枚50MB前後、JPEGでも20MBを超える巨大サイズゆえに、撮影後のセレクト作業や画像処理でPCの処理能力が求められることぐらいでしょうか。
フルサイズセンサーを持つ一眼レフゆえに「D810」と比べ30%以上拡大したというAFセンサーの配置もまだまだ中央よりであることや、個人的にその進化を期待している「3D-トラッキング(1度フォーカスポイントで捉えた被写体を追い続けるAF)」の進化が感じられなかったことなど、筆者の無責任な期待は叶わなかったものの、同社のフラグシップモデル「D5」と35万円以上の価格差を考えると(公式サイト:5月時点)、かなりコストパフォーマンスの高いモデルと言えるでしょう。
8Kモニターをも補完なしにフルカバーするこの精細な画素数を生かす撮影をするか、後のトリミングを前提に撮影時の細かなフレーミングから解放されるのか、さまざまな撮影者それぞれの撮影スタイルに広く対応してくれる万能カメラがこの「D850」なのだと感じます。