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高橋学のキヤノン「EOS 5D Mark IV」でモータースポーツを撮ってみた
オリジナルJPEG画像を掲載
2017年4月28日 00:00
2016年秋に登場したキヤノンのフルサイズセンサー搭載機「EOS 5D Mark IV」をサーキットで使いモータースポーツ撮影の実力を探ってみました。
初代EOS 5Dはフルサイズならではの高画質が持ち味でしたが、一方で連続撮影速度は3コマ/秒と抑えられモータースポーツ等の撮影には少々不向きなイメージがありました。しかしながら2012年に登場した「EOS 5D Mark III」では連続撮影速度が6コマ/秒と高速化、またCFメモリーカードに加えSDメモリーカード(SD/SDHC/SDXC)も利用できるダブルスロットを装備するなど大きくスペックアップを果たしプロのモータースポーツの現場でも見かけるようになりました。
そして今回テストするEOS 5D Mark IVはさらに高速化した7コマ/秒の連続撮影能力、同社のフラグシップモデル「EOS-1DX Mark II」と同等のAFシステム、EOS-1DX Mark IIをはるかに超える約3040万画素のセンサーを備えるなど大きな進化を果たし登場しました。そんな5Dシリーズの末裔Mark IVを今シーズンのモータースポーツの開幕から早速現場に持ち込んでみたという訳です。
冒頭からこう言ってしまうのもナンですが率直に言って撮る前から、まあ問題ないだろうとは思っていました。かつて、前モデルとなるEOS 5D Mark III(現時点でも現行製品)をモータースポーツの現場に持ち込んだとき、当時筆者が使っていた「EOS-1D Mark IV」との連続撮影速度やバッファー容量の違いだけを意識して撮影するだけで、操作フィーリングこそ大きく違うものの、その仕上がりには大きな問題を感じなかったように記憶しているからです。
そんな訳で最初から心配せずに臨んだ今回のテストは少々重箱の隅をつつきながらの撮影になってしまった感もありますが、いつもの現場に持ち込んだいつもの個人的な感想として導入を検討されている方の参考に少しでもなれば幸いです。
7コマ/秒に高速化された連続撮影能力と進化したAF
モータースポーツ撮影に臨む人にとって最も気になるのはやはりココではないでしょうか?その答えは……ズバリ問題ありません。EOS-1DX Mark IIと同じセンサーを使用したというAFはAIサーボAFにおいてもしかりと被写体を追従してくれますし、残念ながら今回は夜間のレースはなかったものの少なくともツインリンクもてぎのトンネル程度の低照度下においてはなんら問題を感じませんでした。より高画素化が進み今まで以上に高い精度が要求されるであろうEOS 5D Mark IVのAFは高速で向かってくるマシンをしっかり捉えます。一方で逃げていく被写体に関してはまだ不安定さも感じたのが正直な所です。この辺はEOS-1DX Mark IIでも同じような傾向がみられる部分でEOS 5D Mark IV特有の弱点とは思いませんがもう少し進化を望みたいところではあります。
そんなAF性能を持つEOS 5D Mark IVですがもちろん14コマ/秒の速度を誇る同社のフラグシップEOS-1D X Mark IIとは同じではありません。その違いは以下のEOS 5D Mark IVによる連続写真でご確認ください。
岡山国際サーキットのリボルバーコーナーを駆け下りるSUPER GT GT500マシン「KEHIN NSX GT」です。1コマ目は小さすぎて、3コマ目は大きすぎ。つまりGT500クラスの車速だとコーナーによっては連続撮影をしても2コマ目のみセレクトすることとなります。ベストな瞬間を切り取ることこそ写真の基本だと思いますが、14コマ/秒のカメラでこれらのコマの間にもう1枚ずつ撮れれば後続車などがいた場合、現実問題としてその重なり具合などを考慮したセレクトの余地ができたりします。そういう極めて消極的な、でも現実的には違いもあります。言い換えればその程度しか差はありません。シーンによっては7コマ/秒が生きることも多々ありますしEOS 5D Mark IVはモータースポーツにおいても必要十分な連続撮影速度を得たと言ってもよいと思います。そもそもGT500より速いマシンなどそう多くありませんし。
気になるオーバー3000万画素の実力
5060万画素という超高画素モデル「EOS 5Ds」/「EOS 5Ds R」の存在ゆえか大きな話題にはならないもののEOS 5D Mark IVの6720ピクセル×4480ピクセルというサイズはかなり巨大です。RAWデータなら1枚で30MBを超え画像解像度を350dpiに維持してもなおA3サイズをカバーするその画像の品質はどんなものか、確かめてみました。
輝度差の大きい被写体、高感度撮影時のノイズ、いずれも筆者の目には高画質をウリとして生まれた5Dシリーズの末裔として期待を裏切らない素晴らしいものだと感じます。ただし画質については個々の要求度の違いが大きいと思われますので、カメラで生成されたJPEG画像をそのまま掲載しました。輝度差の大きい被写体や高感度で撮影したもありますのでファイルサイズは大きいのですが是非ご自身の目で採点してみてほしいと思います。
贅沢を言うならば明るすぎる日中に絞り込まずにスローシャッターが使えるよう低感度側の拡大も望みたいところです。ちなみに低感度側は製品出荷時の設定がISO100となっていて手動で設定を変えなければL(ISO50相当)が使えませんので晴天時でもスローシャッターが必要なモータースポーツ撮影には注意が必要です。
再びAFの話
動く被写体や暗い場所での能力が向上したというEOS 5D Mark IVのAF性能は素晴らしく精度面でも約3040万画素機の高い要求を満たしてくれることは前述のとおりですが今度は使い勝手の話を少々。まずは精度や低照度下で能力が上がったという測距点ですがフルサイズ機はおしなべて配置される範囲はまだまだ狭いようですしEOS 5D Mark IVも例外ではありません。現場ではもう少し外側にあれば、と思うシーンは多々ありました。上下方向に拡大されたというそのエリアの進化は歓迎すべきものですがその範囲は今のところEOS 5D Mark IIIユーザーが悔しがる程ではないと思います。
動くものを主要な被写体としている筆者がいつも悩むのがAFのカスタム設定。キヤノンのほかの機種同様EOS 5D Mark IVもCase1からCase6までさまざまなパラメータが用意されていていろいろと試してみるのですが筆者の環境下ではどれも劇的に変化する印象がないのです。
まわりの同業者の方々にも相談してみるとCase4(被写体が急加速/急減速するときのモード)、Case6(被写体の速度変化と上下左右の動きが大きいときのモード)、そしてCase1(汎用性の高い基本的な設定)あたりの声がありましたがモードを変えると全然撮れなくなってしまう、って程の差はみなさん感じていないように思えました(まあ、企業秘密なのかもしれませんが)。
ちなみにこれらのモードにはサッカーやフィギュアスケート、新体操などのアイコンが配されているのですが、それらのスポーツと較べれば自動車の動きはその方向やスピード変化においてはあまり複雑ではないのだろうと思います。この辺はアイコンに描かれた競技をいつか撮影して試してみたいと思います。ちなみに筆者はCase1を中心に使っています。
また、今回のテストで意外なほど役立ったのがAFの自動選択:EOS iTR AFにおける顔優先モード。サーキットでの撮影ではクルマばかりではなく選手やレースクイーンなど人物撮影も多いので、コンパクトカメラやスマートフォンではすでに当たり前の顔認証AFを筆者も今回仕事に取り入れてみました。なかなか便利で仕事においても積極的に使う価値を見出せました。というかこの辺はむしろスマートフォンで写真を楽しんでいる人の方がはるかに進んでいて単に筆者が遅れていた部分なのでしょう。
その他諸々
その他諸々などというと余談のように感じるかもしれませんが、モータースポーツにおけるAF性能や画質に関しては冒頭で述べたとおりあまり大きな心配をしていなかった筆者が感じたこの諸々のことがが案外大切な部分だと思ったりもしています。
まずはボディ。ほんのわずかな差でしかありませんが筆者が日常使っている1DX系ボディよりも少々グリップが太く感じます。個人的かつ些細な問題ではありますがスローシャッターを切るときなどの微妙なシャッターボタンの押しにくさはテスト終了まで慣れることはありませんでした。筆者の手が小さすぎると思うのですが、自分の手が小さいと思っている人はカメラ店やサービスセンター等でじっくり握り、シャッターを押してみることをおすすめします。テクノロジーがどんなに進化しても結局カメラは手で持って使う道具ですから。
あと、フラグシップ機と比較するのはナンセンスだとは思いますがあえて触れれば、シャッターのタイムラグ、ファインダー像の消失時間ともにEOS-1DX MarkIIより長いようです。実はこの辺は慣れでカバーできる範疇であり、かつEOS-1DX Mark IIとは価格が違うといえばそれまでですが、EOS 5D Mark IVだってデジタル一眼レフカメラとしては決して安価な部類のものではないので一応お伝えしておきます。新しいミラー振動制御システムを採用したというシャッターフィーリングや音も独特なものでこちらもカメラ店やサービスセンターで思う存分手の感触や耳で味わってみるのもいいかと思います。
余談ですが、近い将来デジタルカメラはミラーレス化がさらに進み、電子シャッターの採用によりシャッターやミラーの振動も音もファインダー像の消失も一気に解決してしまうかもしれません。それはインフラの開発や高い安全性を問われる自動車のEV化よりはるかに早いスピードで訪れてしまうような気もします。そんな時代に光学的に被写体を目で捉え機械的にシャッターを切る伝統的な一眼レフカメラは機能に加え肌触りや心に響く音を伴ない所有欲をくすぐるような存在であってほしいと思います。
話を元に戻し今度はメリットです。まずは何より最後発のカメラでありながらキヤノンではすでに採用実績のあるCFastカードを採用せず、CFと世界中のどこにいても比較的入手しやすいSDメモリーカード(SD/SDHC/SDXC)のダブルスロットを採用したこと。さらにファイルサイズが大きいEOS 5Ds/5Ds Rも同様です。その理由は分かりませんが個人的には大歓迎です。
数値性能は高性能化においてもちろん大切なことだとは思っていますが、やはりどこでも入手しやすく、共用はオススメはしないもののほかの多くのカメラとの互換性があるSDメモリーカードの採用はメリットが大きいと感じます。CF・SD両方のカードに対応したカードリーダーも豊富にありますし、PCによってはSDメモリーカードを直接利用できるスロットを備えたモデルも少なくありません。また、今回飛躍的にファイルサイズが大きくなったEOS 5D Mark IVですがバッファが一杯になって撮影に支障が出るような機会は1度もありませんでした。
5Dシリーズ初のGPS内蔵は記録する道具として筆者は高い評価をします。いつ、どこで、は記録・情報伝達において非常に大切な要素です。モータースポーツにおいてもそれは同様で、特に海外のクロスカントリーラリー(ラリーレイド)等においてはそう感じます。またモータースポーツに限らず旅行のお供としても、子供の成長記録にも非常に有効だと思います。
以上、極めて個人的な印象を交えながら(いや、そんな話ばかり?)EOS 5D Mark IVについて記してきましたが、総評としてはモータースポーツの分野においても優秀なモデルだったと感じました。何よりも画質がいい。そしてAFも優秀。とにかくデジタル一眼レフカメラとしての基本性能が高い。また、今回のテストでは触れられなかった部分も多い膨大な機能の追加。それでいて前モデルより軽量化を果たし、背面の液晶のタッチパネル化でより直感的な操作も可能となりました。
高次元で全てのバランスが取れている超優等生。そんなカメラがEOS 5D Mark IVでした。