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デル、NVIDIAと共同で「自動車関連業向けVRセミナー」実施

「VRのワクワク感をビジネスに生かすことが重要」とデル 最高技術責任者 黒田氏

2017年4月24日 開催

デルが開催した自動車製造関連業向けVRセミナー

 米国のコンピュータメーカー Dellの日本法人であるデルは4月24日、半導体メーカーNVIDIAの日本法人であるエヌビディアと共同で、自動車製造関連業向けのVRセミナーを愛知県名古屋市のミッドランドホールで開催した。

 このセミナーでは、デルやNVIDIAなどの関係者が登壇。自動車メーカーなどにワークステーションやサーバーなどを供給しているデルからは、どのようにVR(仮想現実)を利用していけばいいかが説明された。

2016年が「VR元年」。VRのワクワク感をビジネスに生かすことが重要

デル株式会社 最高技術責任者 黒田晴彦氏

 デル 最高技術責任者の黒田晴彦氏は、デルの親会社に相当するDELL Technologies全体のVRに対する取り組みについて説明した。なお、DELL TechnologiesはコンピュータメーカーのDELLと、世界最大のストレージ機器メーカーのEMCが合併してできた企業で、傘下に仮想化ソフトウェアのトップベンダであるVMwareを参加に納めているなど、世界有数のテクノロジー企業の1つとなっている。

 黒田氏は「VRに本格的な普及の兆しが来たのは2014年。FacebookがOculusに2000億円を投資して、それにより多くの人がVRには可能性があると認識した。そして2016年は『VR元年』と言ってよく、『Oculus Rift』や『HTC VIVE』、『プレイステーション VR』などが正式に出荷され、今年2017年には各種イベントでVRが存在感を持ってきている。まさにVR時代の幕開けと言ってよい」と述べ、VRへの注目度が年々上がってきていると説明した。そして、VRとAR(拡張現実)、MR(VRとMRをミックスした拡張現実)の違いなどを説明し、それぞれ教育分野やエンジニアリング用途などに適用可能であることを説明した。

2016年が「VR元年」
1月に行なわれたCESでもVRは話題の中心に

 黒田氏は「子供のころにはおとぎ話を聞いて、豊かな想像力でワクワクできるが、大人になると想像力が減ってくるのでなかなか難しい。しかし、VRはそこに楽しいコンテンツを提供することで、大人であってもHMDを使えば入り込むことができる。そうしたワクワク感をビジネスに生かせないか、それがビジネス界で流行しだした理由だ」と述べ、ビジネスの世界でもVRがトレンドになっており、それを生かすことが重要だと説明した。

VRでは楽しいコンテンツと仮想現実が相まって没入できる

 また、黒田氏はVRをどのように実現していくかについて説明し、とくに自動車産業においてはCADデータにうまく活用することが重要だと指摘した。その具体的な例として、自動車業界でも多く使われているAutodeskのソリューションを紹介し、CADからVRに出力するソリューションが増えていることなどを説明した。そして、3D CADからのCGのレンダリングにはコンピューティングパワーが必要で、それを揃えることが重要だとした。

 さらにVR、AR、MRのそれぞれに必要なハードウェアを紹介し、Oculus RiftやHTC VIVEなどのVR HMD、さらにはMicrosoftの「HoloLens」などのMRデバイスなどを紹介。その上で、VR、AR、MRなどにそれぞれ活用できるコンテンツはどうしたらいいかを説明した。例えばVRではユーザーが「できたらいいな」と思うようなものが、ARでは「ここであなたにお知らせです」という形のコンテンツなどが有効だとした。

Autodeskのソリューションで3D CADからVRへ
VR HMDの種類
VRに効果的なコンテンツ
AR、MRに効果的なコンテンツ

 講演の最後で黒田氏は「DELL Technologiesは760億ドルの売り上げがある世界最大の非上場ハイテク企業で、コンピュータやVRのシステムなどを含めて各種の導入サポートや保守システムと一緒に提供できる」とアピール。今後5年間でVR/ARはどんどん伸びていくだろうとして、自動車産業での導入を呼びかけた。

黒田氏のスライド

MRは現実世界と仮想世界で連動していることがARとの大きな違い

日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター エバンジェリスト 鈴木淳史氏

 日本マイクロソフト マイクロソフトテクノロジーセンター エバンジェリストの鈴木淳史氏は、MicrosoftがMRデバイスとして提供しているHoloLensに関して説明した。

 鈴木氏は「HoloLensは世界初の自己完結型ホログラフィックコンピュータ。VRは人間が仮想世界に入っていくデバイスであるのに対して、MRは現実社会に仮想世界を持ってくる」と述べ、VRとは違う形で仮想現実を実現するデバイスだと説明した。鈴木氏によれば、現実世界に情報が出ているのはARと同じだが、MRでは床や壁などの現実世界のオブジェクトが仮想世界と連動する点が大きな違いだという。例えば現実世界でボールをテーブルの上に落とせば机の上で弾むように、MRでCGのボールを現実世界の机の上に落としても同じように弾む。そういった現実世界と仮想世界が連続しているのがMRの特徴だと説明した。

ARとMRの違い
HoloLensを装着したところ

 鈴木氏によれば、HoloLensはデバイスそのものがコンピュータであり、各種センサーを利用してMRの機能を実現するのだという。例えばデバイスの両脇には3Dカメラが内蔵されており、これで周辺の物体をスキャンして空間情報をデータ化していく。この仕組みで現実世界の床や壁、テーブルの位置などを認識していくのだ。

 また、中央に用意されているカラーカメラで撮影した映像を、Microsoftのクラウドサービスである「Azure(アジュール)」上で提供されているAIエンジン(Microsoftではコグニティブサービスと呼んでいる)に接続し、データをアップロードすることで、AIエンジンがその映像を解析して物体がなんであるかを認識する。そして解析したデータを元に、本体に内蔵されている透明な複眼レンズに映像を映し出し、このとき2つのレンズの映像を少しだけずらすことで立体的に表示していくのだ。

左右に3Dカメラが入っており、これによって空間情報を把握する
透明レンズに映像を表示する
自動車メーカーのボルボが導入を検討

 鈴木氏はHoloLenzのデモとして、複数の人がそれぞれのデバイスを見ながら同じホログラフを表示させて、その出来映えについて議論するということを見せたりしたほか、自動車メーカーのボルボの事例や新潟の建設会社である小柳建設の活用例などを紹介。例えば保守要員にHoloLenzを使ってもらい、マニュアルを表示しながら整備するといった活用の可能性があることなどを説明した。

鈴木氏のスライド

自動車メーカー向けの具体的なソリューションも紹介された

 このほか、大日本印刷 ABセンター マーケティング本部 マーケティング戦略ユニット マーケティング戦略部 石丸宏治氏は、大日本印刷のVR戦略について説明した。大日本印刷では新規事業としてAR/VR、3DCGを利用したビジネスを展開しており、顧客がVR/ARなどに対応するコンテンツを作成するサポートをしているという。石丸氏は3D CADからVRに出力する仕組みやソフトウェアの対応などを説明し、大日本印刷ではハードウェアとソフトウェアをセットにしてソリューションとして提供できると説明した。

大日本印刷株式会社 ABセンター マーケティング本部 マーケティング戦略ユニット マーケティング戦略部 石丸宏治氏
さまざまなVRコンテンツ作成ソリューションを提供している

 また、自動車メーカー向けのソリューションとして、ある自動車メーカーの事例を紹介。カスタマーサービス領域でVRを利用したり、現物のマニュアル類に3Dデータを重ねて作業手順を表示するMRのような事例、さらにはメーカーの3D CADのデータを元に次世代のオーナーズマニュアルを作成する事例などが紹介された(ただし、この部分は非公開)。

石丸氏のスライド

 その後、ボーンデジタル ソフト事業部 セールスエンジニア 中嶋雅浩氏とアスク エンタープライズ営業部 高橋氏による両社のソリューションや製品紹介が行なわれた。

株式会社ボーンデジタル ソフト事業部 セールスエンジニア 中嶋雅浩氏
株式会社アスク エンタープライズ営業部 高橋氏
中嶋氏のスライド
高橋氏のスライド

NVIDIAの「VR Ready」認証取得のQuadro搭載ワークステーションPCがお薦めとデル

デル クライアント・ソリューションズ統括本部 担当技術営業部長 中島章氏

 最後のセッションでは、デル クライアント・ソリューションズ統括本部 担当技術営業部長の中島章氏とエヌビディア エンタープライズマーケティング マネージャー 田中秀明氏が、デルとNVIDIAそれぞれの製品やソリューションを紹介した。

VRの実現には「ハードウェア」「ソフトウェア/システムインテグレーション」「コンテンツ」の3つが重要

 デルの中島氏は、主にデルが提供しているワークステーションPCを紹介した。中島氏は「VRを実現するにはPCやワークステーションなどのハードウェアだけでなく、ソフトウェア/システムインテグレーション、コンテンツの3つの柱が重要になる。デルでは主にハードウェアを提供しており、パートナーと協力してそれらをお客様に提供していきたい」と述べ、デルのPCのラインアップを紹介した。

 中島氏によれば、デルのワークステーションには「ノートPC型」「デスクトップ型」「液晶一体型(AIO)」「ラック型」などが用意されており、それぞれに各種製品があることなどが説明された。VRを利用するユーザーにはNVIDIAの「VR Ready」という認証を取得しているGPU「Quadro」を搭載した製品がお薦めであることなどが説明された。デル製品でVRをサポートしたPCには「Alienware(エイリアンウェア)」「Precision(プレシジョン)」などがあるが、法人向けにはPrecisionをお薦めしていると中島氏は説明。その中でも「Precision 7720」というノート型ワークステーションPCには、NVIDIAの最新製品であるPascal世代のGPUを搭載しており、ノート型ワークステーションPCながらVRを活用できることなどが紹介された。

デルのワークステーションPCのラインアップ
ノートPC向けのQuadroを搭載して「VR Ready」の「Precision 7720」

 そのほかに中島氏は、デルでは「DELL RMT(メモリのエラー訂正機能を活用してエラーを最小限にするソフトウェア)」や「DPO(DELL Precision Optimizer。システムの自動最適化ソフトウェア)」といったハードウェアを生かすソフトウェアを提供していること、CADやCFDなどのソフトウェアを利用する際に必要とされるソフトウェアベンダによるハードウェア認証(ISV認証)を、多くのソフトウェアベンダと協力して取得していることなどを紹介した。

稼動時間を最大化する「DELL RMT」
簡単な操作だけでアプリケーションを最適化する「DPO(DELL Precision Optimizer)」
デルのISV認証を取得しているソフトウェアのリスト

 続いてNVIDIAの田中氏は、NVIDIAのビジネス向けVRソリューションについて説明した。田中氏は「NVIDIAではVRを、個人向けの『エンターテインメントVR』とビジネス向けの『プロフェッショナルVR』に分類している。プロフェッショナルVR向けでお薦めしているのがQuadroになる」と述べ、プロフェッショナル向けVRなどのプロフェッショナル向けグラフィックスに提供しているQuadroに関する説明を行なった。田中氏はNVIDIAが提供している「IRAY VR」などを紹介して、これを利用してコンテンツをプリレンダリングすると、フォトリアルなVRを簡単に作成できるといったメリットなどを説明した。

エヌビディア合同会社 エンタープライズマーケティング マネージャー 田中秀明氏
「プロフェッショナルVR」はQuadroで実現

 また、VRに必要な製品として高解像度と高フレームレートを実現するには、コンテンツの再生が始まってから出力までの遅延時間(レイテンシ)が20ミリ秒以下である必要があると述べ、それを実現できる性能を持つQuadroに「VRを使える性能を持っている」という意味のVR Readyのロゴを与えていることなどを説明した。田中氏はデスクトップPC向けでは「Quadro GP100」「Quadro P6000」「Quadro P5000」「Quadro P4000」などにVR Readyのロゴが与えられていると紹介し、とくに従来製品の4000番台はVR Readyとなっていなかったが、現行製品のPascal世代ではP4000という比較的低価格の製品までVR Readyになっているので、VRを使うには非常にコストパフォーマンスが高くお薦めだとした。

NVIDIAのGPUロードマップ
Quadroのデスクトップ製品
Quadroのノートブック製品

 最後にデルの中島氏とNVIDIAの田中氏の2人から、「Quadroを搭載したデルのワークステーションを購入するならどれがお薦めか」というお薦め構成例が紹介されてセミナーは終了となった。

中島氏と田中氏のスライド