ニュース

【インタビュー】実は燃料が漏れていたインディ500の初勝利。「何か不思議な力で守られたのかな」と佐藤琢磨選手

2012年は「No Attack,No Chance」、2017年の優勝は「Never Give Up」

2017年5月29日(現地時間) 開催

インディ500優勝の翌日に、ホンダスタッフと一緒に記念写真に収まる佐藤琢磨選手

 5月28日(現地時間)、世界三大レースの1つである101回目の「インディ500」を佐藤琢磨選手が優勝した。日本人がこのインディ500に優勝するのは初めてとなる。

 優勝直後に行なわれた会見インタビューはすでにお届けした(関連記事:日本人で初めて世界三大レースの「インディ500」で優勝した佐藤琢磨選手に聞く)が、一夜明けた29日、記念撮影を終えた琢磨選手の会見が開かれた。そこで、前日のインタビューを受け、さらに詳しい話をうかがったので、ここにお届けする。


──ターン1(について)今年は自分もイメージをずっと持っていた、と昨日の優勝直後の会見で語っていましたが、具体的なイメージについて教えてください。

佐藤琢磨選手:フロントグループにいること。具体的にはトップ5、トップ6にいるのがベストだというのが分かっていて、レースを1度2度リードして。レースをリードするとバランスがぜんぜん違うので。風圧をもろに受けるため。それを1、2度経験したいのですが、それ以外はレースをリードすると基本的に燃料を激しく使ってしまうので、towに入って(編集部注:他車の後ろになって、空力効果でけん引されるような状態になること)おとなしくした方がいいのはみんな分かっていることですね。

 セカンドロウからのスタートだったし、まずはフロントグループで100~150周くらいまではクルマを作っていくための作業にしたかった。予定外だったのはピットストップでつまずいてしまったのと、リスタートで勢いを失って飲み込まれて17番手まで落ちてしまったこと。そこから1試合ずつパスしていって、トップ6までラスト30ラップで戻れたのはよかったです。

“1コーナーのイメージ”というのは、それは風向きによっては3コーナーになったりするのですけど、昨日の状態でいうと1コーナーが勝負になる。そういう意味では2012年のことは絶対に忘れられないわけで、同じようなシチュエーションになった場合、自分としてどういう風に攻めていくかというイマジネーションというか、イメージをずっと持ってました。

──2012年は、琢磨選手の言葉で「No Attack,No Chance」というのが印象的でした。今年のインディ500の勝利を一言で言うとどのような言葉になりますか?

佐藤琢磨選手:えー、なんでしょう。思いつかないな……。「Never Give Up」ではないでしょうか。というのは、あれ以降苦しいレース、シーズンが続いたりしていて、インディ500の勝利から遠ざかっていたように見えていたと思うのですが、自分としては経験をどんどん積んでいって、レースを戦えるパッケージが来たときには絶対にチャンスを逃さないという意気込みでやってましたから。今年それができてね。

 ある意味17位まで落ちたり、チームメイトが前の方にいたり、そういう意味では苦しい瞬間はあったんだけども、あきらめないでプッシュし続けたこと。それでクルマも最後までもってくれたし、実はいくつか部品が壊れていたりしていて。レース後に聞いたのですが、(マシンの底面にある)フロアを落としたら燃料漏れがあって、しかもかなりの量だったのです。ですから、最後のイエローが数回入っていなければ、計算上はもちろん持つはずだったのですが、予想外の漏れがあったので持たなかった。そういう意味では、もしフロアの燃料が右リアタイヤに流れていたらスピンをしていただろうし。そういうのが全部食い止められたのは何か不思議な力で守られたのかなって思いますし、すべてうまくいかないと勝てない状況の中でチャンスを逃さなかったというのが26号車全員の頑張りだと思います。

──F1もこの場所(2004年アメリカGPで琢磨選手は3位)でした。この場所になにかあるのでは?

佐藤琢磨選手:アメリカGP、2004年にF1のポディウムに乗って、その後はここはあまり成績がよくなくて2012年もああいう感じだから。なんかそっぽ向かれているのかなと思いましたけど、昨日は微笑んでくれましたね。

──インディドライバーだった武藤選手はTwitterで琢磨選手の勝利を喜んでいました。彼ら、そしてこれからインディカーに挑戦しようと思っている人たちにメッセージをお願いします。

佐藤琢磨選手:英紀にしても孝亮(編集部注:武藤英紀選手、松浦孝亮選手ともに2017年はSUPER GTのGT500に参戦中)にしても、本当にインディの魅力を伝えられる限られたドライバーで、今も現役で走っていてものすごく魅力のあるドライバーなので、ぜひインディを伝えてほしいですね。

 もちろん、GAORA(ガオラ)での放送もあったので、魅力はたっぷり伝わっていると思うのですけど、今回の優勝でさらにクローズアップされると思うので、僕自身も含めてインディカーの楽しさを伝えたい。若い子達がヨーロッパを目指すのも、僕自身もそうだったので十分分かりますが、アメリカのレースもこれだけ激しく、しかもすごく楽しい。

 フェルナンド(・アロンソ選手)のこの10日間の、2週間か。みなさんも見てて思ったでしょうが、彼はずっと笑顔がたえませんでした。昨日も含めて4日間、5日間くらいメディアデイをこなして、F1だと3年分ではないかと思うけど。それでも全部やっていたというのは、彼自身が楽しんでいた。彼が挑戦して、フェルナンドは昨日も素晴らしいレースを見せてくれたけれども、非常にコンペティティブなシリーズだということが分かったと思うし、ぜひ若い子達にも目指してもらいたいですね。

──2012年のときにロジャーさんは非常に興奮していたということを琢磨選手は以前話していましたが、今年のロジャーさんのコメントや指示はどういったものがありましたか? それを受ける琢磨選手自身の心境はどうでしたか?

佐藤琢磨選手:いやーそれが笑っちゃいましたよ、まったく同じだったんで(笑)。いくぞー、みたいな感じで。だけど、今回は僕がレースをリードしてから多少時間があったので、「とにかくラストラップ、すべてカウントされるのはラストラップだから」「だから、タイヤをいたわって、リソースをいたわって」ということは彼からのアドバイスとして聞いていましたね。それはやっぱり二重の確認の意味ですごくよかったですね。ドライバーとしては目の前の状況だけになっちゃうことがあるので、ふっとしたときに「あ、そうだよね」とタイヤをいたわる。今は無理して追いかけなくても、最後に必要なときにプッシュしなければならない。リソースを残すというのはすごい大事なことで、まさに昨日はその展開になったし、リードしてからは「とにかくぶっちぎれ!!」みたいな感じで、自分もウエイトジャッカーとかアンチロールバー(編集部注:いずれもサスペンションの特性変更に関するもの)をうまく使って最後の数周としては予選のような走りで。

 で、逃げ切れたというのはすごく大きかったし、ラスト3周でエリオ(・カストロネベス選手)に捕まって、1コーナーでね。バトルに持ち込まれたときも自分としてはラインの守り方というのも十分イメージできていたので遮ることができたし。本当にいい戦いだったのではと思います。


 この日のインタビューで初めて明らかになったのは、佐藤琢磨選手の26号車にもトラブルが起きていたこと。かなりの量の燃料漏れがあったということで、レース展開が少しでも異なったものになっていたら琢磨選手の勝利はなかったかもしれない。もちろん2位になったエリオ・カストロネベス選手のマシンにも何か起きていたかもしれず、“たられば”を言い出したらキリがないのがスポーツだ。

 このインタビューではっきり分かるのは、2012年の最終周のアタックの失敗が、今回のアタックの成功につながり、さらにエリオ・カストロネベス選手のアタックを防げたことにもつながっていることだ。超高速域で冷静に風向きを読み、ワイドなコーナリングラインを取ることで(しかも、ウエイトジャッカーなどでサスペンション特性の調整を行なっている)ハイペースで攻略しづらい態勢を整えたわけだ。

2012 Indy 500 Highlights(indycar)

2017 Indianapolis 500 Fast Forward(indycar)

 カーブ・デイでしっかりした戦略を披露しており、11度もイエローが出るような荒れたレース展開で、戦略どおりに勝ちきった琢磨選手。「絶対にチャンスを逃さない」と語るように、強い意志を持ってチャレンジし続けたことで初のインディ500制覇を実現した。