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【インタビュー】レベル3自動運転を実現した新型アウディ「A8」について自動運転開発責任者 アレハンドロ・ヴコティヒ氏に聞く

「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」とは

新型「A8」の自動運転機能の開発に携わるアウディ 自動運転開発責任者 アレハンドロ・ヴコティヒ氏

 アウディは7月11日(現地時間)、スペインで開催した「アウディ サミット」において、市販車として世界初のレベル3自動運転を実現する新型「A8」を発表した。この新型A8は2017年晩秋よりドイツで販売が開始され、価格は「A8」が9万600ユーロ(約1178万円)、「A8 L」が9万4100ユーロ(約1223万円)からとなっている。

 レベル3自動運転を実現する機能は「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」として搭載されており、高速道路の同一車線において60km/h以下の場合に自動運転を実現するものだ。この自動運転とは、いわゆるハンズオフ(ステアリングから手を放しても走行可能)レベルのものを提供し、高速道路の渋滞時に運転以外のことができるようになる。ただし、法律面での整備はドイツにおいてもこれからのため、発売当初はこの機能は有効になっておらず、該当国の法整備の状況によって機能を有効にしていく。

 この「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」の開発に携わるAudi Head of Automated Driving Development(自動運転開発責任者) Alejandro Vukotich(アレハンドロ・ヴコティヒ)氏に、新型A8の自動運転機能まわりについてインタビューを行なった。なお、このインタビューは複数媒体による共同インタビューとなっている。

レベル3自動運転機能「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」を搭載する新型「A8」

──今回、新型アウディ「A8」は2018年よりレベル3の自動運転機能を提供することが発表されました。日本でも2018年から自動運転機能を提供できるのですか?

ヴコティヒ氏:私たちはステップバイステップで進めていく方法を採っています。(日本では)ドイツと同じ時期に自動運転を提供できる訳ではありません。技術面でも道路状況が異なりますし、法律関係も違いますのでステップバイステップで進めていきます。

 新型A8は初期の段階からレベル3自動運転を搭載しようと開発してきて、今回初のレベル3自動運転市販車となりました。これはいろいろなセンサーを使って、正しい情報を十分な量取り込めるようになっているからです。この取り込んだ情報を、すべて1つのコンピュータ(zFAS)にまとめて、そこで処理をしています。これをセンサーフュージョンと呼んでいます。ADASなどいろいろなドライバーアシスタントシステムも同じ情報をきちんと把握するようになっています。

 さらに、電源やブレーキなど機械的なものは壊れる面はあるのですが……。アウディは決して壊れないと言いたいのですが、故障というのはあり得ます。それを考慮して、ダブルでバックアップすることでリタンダンシーを確保しています。

 安全のメカニズムとしては、ドライバーモニタリングを搭載していますので、ドライバーが運転を引き受ける(レベル3自動運転からマニュアル運転の移行)ことができるかどうかを常にモニターしています。

アウディA8は各種のセンサーを搭載し、環境のモニタリングを行なっている

──今回発表されたレベル3自動運転は60km/h以下となっていますが、これをレベル3自動運転と呼ぶことは可能ですか? それとも制限付きのレベル3と呼んだほうがいいですか? この60km/hという制限はどこから決めたものですか?

ヴコティヒ氏:このトラフィックジャムパイロットはハイウェイの渋滞時における機能です。もし万が一自動運転を続けられず、ドライバーに運転を戻せなかった場合でもレーンに停車できるよう60km/hに設定しています。いろいろな天候状況もありますし、路面が凍っている場合やカーブということもありますし。そういった状況であっても止められるよう60km/hという制限を設けています。

 高速域の自動運転については次のステップになります。そのためにはハードウェアを追加することが必要です。たとえば今回の60km/hの自動運転ではステアリング機構のリタンダンシーは入っていません。スピードを上げるためにはそれを付け加える必要もあります。いろいろな安全面のリタンダンシーと、センサーフュージョンを、スピードを上げるためにステップバイステップで拡充していく必要があると考えています。

──先ほどレーンにクルマを止めるという話がありましたが、どのように止めていくのですか? また、地図については?

ヴコティヒ氏:新型A8では、現在走行しているレーンに止まるという機能を持っています。これ以上自動運転ができない状況になったら、まずドライバーに運転を戻そうとしてドライバーに警告します(編集部注:レベル3自動運転では、制限状態の自動運転をシステムが担うとされているため、このような動作になる)。この警告というのは音と振動で伝えます。それでもドライバーがマニュアル運転に戻さない(運転を引き受けない)場合、今走っているレーンにハザードランプを点灯して止まります。

 地図に関してはHereの情報を使いながら、センサーフュージョンで得た情報をzFASで処理しています。

アウディ自動運転の頭脳となる「zFAS」

──ドイツの国内法で今回のトラフィックジャムが認可されたと思うのですが、EU法においてはどのような形で認可されていき、またそれに関する交渉状況やロビー活動はどうなっているのですか? また、システムに起因する事故の場合は法律面でどうなりますか?

ヴコティヒ氏:第1の質問に関してですが、このシステムはドイツにおいてもまだ認証されていません。申請はしましたが、ドイツにおいても最終的に認証されるまでもう少し時間がかかりそうです。EUは国によって法律が異なり、ある国ではドライバーがまったくステアリングから手を放してはならないという国もあります。それらについては各国で討議を重ねています。

 第2の責任という質問に関してですが、事故が起こってそれが技術的な問題に起因するものであれば、それはアウディがメーカーとして責任を持ちます。ドイツの法律では、所有者に責任があるとなっています。所有者は保険に入り、その保険会社が調査をして、クルマの欠陥に起因する事故だと認定されれば当然それはメーカーの責任ということになります。私どもとしては、安全ではない機能を世の中にリリースすることはありません。この機能についても安全だと自負をしています。

 また、(データレコーダなどの)ブラックボックスをクルマに搭載しているので、万が一の事故が起きたときにクルマを運転していたのはドライバーなのかシステムなのかといったことは調べられるようになっています。

──60km/h未満の際のトランジションタイム(システムからドライバーへの運転委譲時間)はどのくらいあればよいと考えていますか?

ヴコティヒ氏:10秒です。いろいろ調査した結果、人間が運転を引き受けるまでにだいたい10秒くらいかかることが分かっています。私たちのシステムでは常に10秒先に何が起きるか予測しています。10秒後になにか起こりそうであればドライバーに運転権限を委譲して、ドライバーに運転をしてもらいます。

A8のコクピット内に表示される自動運転表示。常にドライバーモニタリングを行ないながら自動運転を行なっていく。写真はプレゼンテーション画面から

──新型A8はステップバイステップで機能を増やしていくという話がありました。この機能を増やす際には、インターネット経由で増やすことができるのですか? もしくは販売ディーラーへのメンテナンス入庫が必要なのですか? どちらの方法を考えていますか?

ヴコティヒ氏:これから機能を追加していきますが、機能によってはディーラーに入庫しての作業が必要になるかもしれません。zFASについてのアップデートはOTA(Over The Air:インターネット経由)でできるようになっています。

──新型A8には自動レーンチェンジ機能がないようです。これはなぜないのですか?

ヴコティヒ氏:新型A8にはさまざまな機能を搭載しており、そのうちの1つにサイドアシストという機能があります。この機能は、ドライバーがレーンチェンジをしようと思ったときに、ステアリングの振動などで警告するというものです。実際にクルマが自動でレーンを変更するという機能は搭載しておりません。

 自動でレーンを変更するには、変更したレーンの後方から高速で迫ってくるクルマをセンサーできちんと認識する必要があります。そこまで遠くにいるクルマを検知するセンサーは現在はないので、今は搭載しておりません。ただ、将来的にそういったセンサーがあれば機能は追加していきたいと考えています。こちらが80km/hで走っていて、後方からアウディ R8が250km/hで迫ってくるのを検知できなければ危ないので(笑)。今回は搭載しておりません。


 短いインタビュー時間だったが、新型A8の自動運転の動きなど、その機能の一端が理解できた部分はある。しかしながら、ドイツにおいても認可はこれからとのことで、今後A8の機能の全貌が明らかになっていくだろう。

 全世界において交通事故死者数は120万人(日本においては、2016年が3904人)ほどと言われており、その原因となる交通事故を防ぎ、低減する技術として自動運転機能は世界中の自動車メーカーが取り組んでいる分野だ。一部機械責任となるレベル3自動運転機能を搭載する市販車を市場に先駆けて投入するアウディは、この分野において先頭を走ることで意欲的に社会を変革していこうという強い意志が感じられる。

 新型A8のレベル3自動運転を道路で使っていくためには、法律、保険、責任の所在などソフト面での整備が国家レベルで必要になってくる。日本においても内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムの1つとなるSIP-adus(Automated Driving for Universal Service)で議論が行なわれている。日本でも、早期に新型A8のレベル3自動運転機能が使えるようになることを期待したい。