フランクフルトショー 2017

【フランクフルトショー 2017】独アウディの開発トップ、ペーター・メルテンス氏に今後の自動運転&パワートレーン戦略について聞く

2017年9月12日~24日(現地時間)開催

アウディは2017年のフランクフルトモーターショーのカンファレンスでレベル4”の自動運転機能を盛り込んだ「Elaine」(左)、レベル5の自動運転に対応する「Aicon」(右)を公開。いずれも電気自動車(EV)となる

 会場の広さや出展台数では、昨今の中国各地で開催される巨大ショーに抜かれてはいても、見どころの多さや内容の充実度はやはり今でも世界第一級。そう評するに相応しいのが、パリモーターショーと1年ごとの交代で秋に開催されるフランクフルトモーターショー。

 67回目となる今回のショーも、会場は例年どおりのメッセ・フランクフルト。国際空港から直通列車でほんの15分ほどの中央駅から、メイン入口まで歩いてさらに10分ほど。かくも交通至便であることも、毎回世界から多くの人を集める理由の1つに違いない。

 そんなイベントだけに、出展各メーカーの首脳陣や、開発陣が一堂に会するというのもまた通例。ここでは、今回“EVシフト”の動きを鮮明にした地元ドイツ勢の中にあっても、特に自動運転分野での先進性をアピールしたアウディの開発トップ、ペーター・メルテンス氏へのインタビューで得られた話題をお届けしよう。

アウディの今後の自動運転&パワートレーン戦略

アウディの開発トップを務めるペーター・メルテンス氏

 世界で初めて“レベル3”、すなわちドライバーの監視なしでの条件付き自動運転機能を、先般発表された新型「A8」に搭載して話題のアウディだが、今回のモーターショーで「Elaine」「Aicon」という2台のコンセプトモデルを発表した。

 前者は、今春に中国 上海で開催されたモーターショーに出展された「e-tron スポーツバック」をベースに、高速道路や駐車場などの限定された場所でドライバーの支援や介入を必要としない“レベル4”の自動運転機能を盛り込んだモデル。後者はあらゆる状況下でドライバーを必要とせず、ステアリングホイールやペダル類すら備えない“レベル5”の完全自動運転車で、Elaineは3モーター式、Aiconは4モ-ター式のいずれも4WDのピュアEVを想定。

Elaineはレベル4の自動運転を実現したEVで、320kWの出力を備えるモーターと約500kmの航続距離を実現するバッテリーなどを搭載
Aiconは260kWの出力を備えるモーターを搭載し、航続距離700~800kmを想定。全長5444mm、全幅2100mm、ホイールベース3470mmという体躯を備える
今春の上海モーターショーに出展された「e-tron スポーツバック」

 それぞれのネーミング内に、人工知能を彷彿とさせる“AI”の2文字が含まれるのも、アウディが両モデルで特にアピールしたい部分を示唆するかのようで興味深いものだ。「2025年までに、自らの製品の3分の1をピュアEVもしくはPHEV化する」と、ショー開幕に先駆けて開催された前夜祭でインパクト溢れる宣言を行なったアウディ。

 そこで、そうした電動化モデル、特にピュアEVに一体どうやって“アウディらしさ”を盛り込むつもりなのかを、メルテンス氏にまず尋ねてみた。

「アウディはスポーティなブランドです。そんなDNAは、ピュアEVでももちろんキープしていきます。2018年に「e-tron」というSUVを発表しますが、そこにもそうした特徴はしっかり受け継いでいきますので期待して下さい」と返ってきた。となると、そのスポーティという部分には、サウンドという要素も含まれるのだろうか?

「とても面白い質問ですね。我々は“パワフルなV8エンジンのような音”をピュアEVで表現するつもりはありません。しかし、排気音でもエンジン音でもない、異なる分野でのサウンド表現という差別化は、現在コンセプトとして考えています」とメルテンス氏は言う。

 ちなみに、新型A8で実現されたレベル3は、現状では高速道路上の60km/h以下の渋滞時でのみ機能するもの。そんな作動領域をより高い速度に拡大することから始め、いずれはレベル4へと進化させる方向での開発を続けるというのが、アウディの自動運転に対する取り組み方針であるという。

「ドライバーに何か不測の事態が発生した際に、自動的に安全な場所に止めることは簡単ではありませんし、新型A8を東京に持って行って、すぐにレベル3で走れるわけでもないのです。さらには“ノーステアリング、ノーペダル”のレベル5となれば、10年+αはかかる話になるでしょう。今回のレベル3の自動運転はその基盤です。開発にジャンプはありません」。

新型A8

 ところで、プレミアムブランドであるアウディにとって、自動運転がもたらす付加価値とはどのようなものなのか?

「毎日の通勤や、同じ場所への繰り返しの移動時に、ドライバーにほかの作業が行なえる時間を提供できることは、プレミアムブランドならではの付加価値だと考えます。逆に、街中での移動の際に、最後の1マイルの部分を自動運転化することなどは、プレミアムブランドとしての価値は少なく、フォルクスワーゲンなど他のブランドでやるのが適しているのではないでしょうか」。

 そんなメルテンス氏は同時に、前出の2025年時点でも3分の2ほどを占めるであろうというエンジン車の開発も続けると明言。そしてそこには、排ガス浄化の技術を進めたうえでのディーゼルエンジンも含むとした。

「ディーゼルエンジンの効率はガソリンよりも10%ほど高く、CO2は20%少ない。しかもファン・トゥ・ドライブなので、グローバルのマーケットすべてにとは言いませんが、開発は続けます。ただし、排ガス浄化に必要なコストが占める割合が大きく、走行距離も少なくてメリットの少ない小さなエンジンは、今後はニーズが縮小し、消えていくことになるかもしれません」。

 2年前の前回に対して、“EVシフト”の動きを遥かに鮮明に感じさせられたのが今回のショー全体での雰囲気。好む、好まないに関わらず、そんな方向へと皆が一斉に舵を切って行かなければならない時代の気分の中にあって、これからのアウディがいかなる個性で勝負を仕掛けて行くのか? メルテンス氏の話を聞いて、ますます興味が募ることとなった。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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