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アウディのレベル3自動運転実験車「Jack(ジャック)」でアウトバーンを走ってみた

「自動運転は楽しい!!」衝撃的なほど先進的で刺激的なJack

アウディのレベル3自動運転実験車「Jack(ジャック)」。2013年に衝撃的なデビューをした。その後、開発が続けられ、ソフトウェア的には進化したものとなる

 世界初のレベル3自動運転機能搭載市販車となる新型アウディ「A8」がスペイン バルセロナで発表された翌日、ドイツ ミュンヘンにおいてレベル3自動運転実験車「Jack(ジャック)」の試乗会が開催された。記者もバルセロナからミュンヘンへ飛び、Jackに試乗してきたのでその模様をレポートする。

アウディ「Jack」とは?

 アウディのJackとは、アウディが2013年に開発したレベル3自動運転実験車だ。レベル3自動運転とは、ある一定の条件下でシステムが主体となった運転を行ない、自動運転時にドライバーはステアリングから手を放すことができ、運転という作業から一時的に離れることができる。日本でも普及している自動運転は、ドライバーが運転の主体となるレベル2自動運転で、レベル2まではアシスト領域、レベル3以上が真の自動運転領域となる。

 そのため、レベル3以上の自動運転は実験や試験走行は行なわれているが、実際の市販車は新型アウディ A8以外に存在しない。その新型アウディ A8もレベル3はドイツの国内法の整備に伴い、ステップバイステップで2018年より機能がONになるとしており、(関連記事:【インタビュー】レベル3自動運転を実現した新型アウディ「A8」について自動運転開発責任者 アレハンドロ・ヴコティヒ氏に聞く)2017年7月時点では試験車のみの世界だ。

 アウディがA8を市販化できた理由の1つにこれまでの長い自動運転車の開発の歴史があり、2013年に衝撃的に登場したのが、今回試乗したJackになる。このJackは2013年の発表後も開発を続けソフトウェアをアップデート。進化したレベル3自動運転実験車となる。

 Jackのレベル3自動運転機能は、高速道路を走行中に自動運転可能区間に到達すると可能となり、高速道路での高速走行を行なうほか、周囲の状況が許せば自動でレーンチェンジを行なったり、元の車線に戻ったりといったことができるもの。自動運転可能区間はあらかじめ搭載したナビゲーションに地図データとして記録されており、色の違いなどで分かるようになっていた。

 アウディ A8のレベル3自動運転は、高速道路走行中で60km/h以下の渋滞時に同一車線で働く「トラフィックジャムパイロット」なので、Jackの自動運転機能はさらに未来の自動運転機能となるものだ。

Jackのベースはアウディ A7。自動運転機能の心臓部はラゲッジルームに搭載されている
自動運転用のPC
こちらは表示制御用
各種電源などのコントロール

 記者はアメリカで毎年開催されているCESなどでレベル4を含むいくつかの自動運転車に試乗・同乗してきた。つい先日も、ボッシュがドイツ ボックスベルグに持つプルービンググランドでレベル3自動運転実験車に乗ってきたばかりだが、Jackの試乗はアウトバーンを使ったリアルワールド、しかも120km/h~140km/hという高速域でのものだけにとても刺激的だった。

 まずは、その自動運転映像を見ていただきたい。

アウディの自動運転実験車両「Jack」

PCを3台搭載するJackの心臓部

 アウディのレベル3実験車Jackは、アウディ「A7」をベースに自動運転用のコンピュータを3台搭載。さらにヒューマンインターフェース用のPCなども搭載している。環境認識にはサラウンドカメラやフロントカメラ、そしてレーダーのほか前後にLiDAR(レーザースキャナー)を搭載している。

搭載するセンサー類
フロント部のレーザースキャナー
自動レーンチェンジを可能とするリア部のレーザースキャナー

 レベル3自動運転では、人間が運転するマニュアル運転と機械が運転する自動運転を切り替えつつ走るため、その混乱を一部指摘する意見もあるが、Jackは洗練された切り替えシステムを搭載。自動運転が可能な区間になると、メーター内のインフォメーションエリアやナビ画面下の自動運転インフォメーションエリアに自動運転可能であることを示すインフォメーションが表示される。

Jackのインテリア。通常と変わりない雰囲気。4本スポークステアリングの下の2本にスイッチが用意されている
自動運転可能表示は、メーターパネル、ナビ画面、ナビ画面下の専用ディスプレイなどに表示される

 自動運転への移行は、4本スポークのステアリングの下部の2本のスポークがスイッチとなっているため、その2カ所を同時に押す。1本だけではドライバーの明確な意思表示とせず、2本同時に押すことでドライバーが明確に自動運転への移行を了承したと判断している。

 実際に一般道からアウトバーンに乗り、自動運転可能なエリアに入ったところでステアリングホイール下部の2本のスポークをプッシュ。するとステアリングホイールが奥へと移動し、スカットルのLEDが全面的に光るともに自動運転モードに移行した。

 そのときの速度は100km/hくらいだろうか。アウトバーンでの静寂な時間が流れる。アクセルも操作せず、ステアリングも操作しないのにJackは周囲の交通状況に合わせてスムーズに走っていく。走行時も車間はしっかり確保し、右側のトラックの影響も感じさせることなく、中央レーンのさらに中央をキープして走る。

 完成度の低い自動運転制御だと、この時点で人間の感性と合わない状態が発生する場合がある。レーンの中央を走る制御において、右に寄ったらステアリングを左に制御し、左に寄ったら右に制御しという蛇行運転状態が発生し、結局はステアリング制御は人間が行なったほうが気持ちよく走るというものが存在する。初心者の運転にありがちな、近目での運転と思えば間違いないだろう。

 ところがJackはきちっとした予測制御ができているのか、ステアリングの動きを見ても微少な制御のみ。しっかり遠くを見て、自分の進むべきラインを考えているようにしか思えず、ウルトラスムーズに走って行く。また、速度調節に関しても下手な自動運転車(ACCもレベル1自動運転なので、これは体感した人も多いだろう)だと、加速してはブレーキといったことになる。ところがJackはこれも高速域でしっかりこなし、どのように速度調節しているか感じさせないほど。140km/hの高速域から80km/hの低速(相対的に)域までスムーズに速度をコントロールしていた。

 そして驚くべきはレーンチェンジだ。しばらく横のレーンにクルマがいたためレーンチェンジは行なわなかったが、横のレーンの安全性が確保されたと判断すると、自動でレーンチェンジを行なった。映像を見てもらえれば分かるが、このレーンチェンジもスムーズなもので違和感を感じることはなかった。

 そして130km/h以上で走行。自動運転可能区間が終わる前にもとのレーンに自動で戻り、何事もなかったかのように走り続けていた。

 自動運転からマニュアル運転への移行も実に自然に行なわれる。優しい警告音とともに残り15秒で自動運転が終わることが告げられ、ドライバーが自分で運転を行なうよう即す。4本スポークの下2つのボタンを押すことで、機械の運転から人間の運転にオーバーライドでき、後は一般的なクルマと変わらない感覚で運転できる。なんとも不思議な運転時間だった。

レベル3自動運転は、クルマの運転の楽しさを追求したものだ

自動運転レベルの定義。日本も海外と同様の定義に変更された

 現在普及しているレベル1~2の自動運転、人間が主体となるアシスト領域の自動運転機能に比べ、レベル3以上の機械が主体となる自動運転機能の間には法律面以外にも大きな技術的ジャンプアップが必要だ。機械が主体となる時間があるため、それを担保するだけの知覚、判断、制御が機械に要求され、レベル3自動運転においては人間→機械、機械→人間といったトランジション(移行)をどのように人間に伝え、どのように操作していくかといった問題もある。

 そのため、人間→機械、機械→人間といったトランジションが必要なレベル3自動運転は、それが必要ないと規定されるレベル4自動運転に比べ、人間にとって分かりにくいといった議論もある。

 正直に書けば記者もそのように考えていた1人で、人間が寝ていても勝手に走ってくれるイメージのあるレベル4(限定条件下でシステムからの要請による人間の応答不要)、レベル5自動運転(限定条件なし、いわゆる完全自動運転)に比べ、レベル3は概念が分かりにくいかなと思っていた。

 しかしながら、Jackに乗って思ったのは、「これはよくできたオートクルーズ機能だな」ということ。高速道路に入って適切な場所でオートクルーズに移行し、適切な場所でオートクルーズを終える。現在、一般に行なわれている運転方法とまったく変わらない。オートクルーズボタンやオートクルーズ設定が車種やメーカーごとにまちまちな現状を考えると、ナビがオートクルーズ(自動運転)を教えてくれ、ステアリングボタンを2つ同時押しするだけというインターフェースはよほど分かりやすい。

 クルマの運転を楽しみたければマニュアルで運転を続ければよいし、単なる移動だと割り切れば機械に運転を任せることもできる。レベル3自動運転は、クルマを運転する楽しさが増えることはあれ、減ることはないものだ。それは、トラフィックジャムパイロットを搭載する新型A8でも、渋滞時の面倒な運転作業を代替してくれるものという意味で、同様なものだろう。

 レベル3自動運転は、自動運転なのですべてお任せするではなく、自動運転機能を使いこなすという意識であれば、クルマとより楽しくつきあえる機能であるのは間違いない。