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【インタビュー】新型「レヴォーグ」に搭載された先進安全技術「アイサイト・ツーリングアシスト」の白線認識について開発者 田村悠一郎氏に聞く

白線認識と先行車認識・追従の使い分けの秘密

 新型「レヴォーグ」「WRX S4」に搭載した先進安全運転支援技術「アイサイト・ツーリングアシスト」。ステアリングアシストを伴う車線認識・先行車追従走行が全車速域で可能となり、設定可能車速も高速道路120km/h時代を見据えて0km/h~135km/h(設定車速はスピードメーター値なので、実車速は最高で120km/h程度)とワイド化された。

 そのアイサイト・ツーリングアシストのシステム動作の要となっているのが、ステレオカメラによる車線認識機能。アイサイト・ツーリングアシストでは、アイサイト ver.3と同じハードウェアであるステレオカメラを用いながら、ソフトウェアの進化だけで、全車速ステアリングアシストを行なうための車線認識、先行車認識を実現したのが大きなポイントだ。

 そこでアイサイト・ツーリングアシストのシステム開発に携わったスバル 第一技術本部 先進安全設計部 主査4 担当 田村悠一郎氏に、白線認識、先行車認識などについてうかがった。なお、このインタビューは首都高での試乗後行なっているため、首都高に関する質問が多くなっている。

【インタビュー】新型「レヴォーグ」に搭載された先進安全技術「アイサイト・ツーリングアシスト」の白線認識について開発者 田村悠一郎氏に聞く 株式会社スバル 第一技術本部 先進安全設計部 主査4 担当 田村悠一郎氏
株式会社スバル 第一技術本部 先進安全設計部 主査4 担当 田村悠一郎氏

──田村さんはアイサイト・ツーリングアシストのシステム開発において、どのような部門を担当されていましたか?

田村氏:ステレオカメラで白線を認識するのは10年くらい前からずっと行なっていて、2014年に(初代のレヴォーグで)アクティブレーンキープという形でレーンキープ機能をださせていただきました。今回のツーリングアシストでは認識全般、つまり、白線認識、先行車認識と、それを用いた制御のための目標経路生成のソフトウェア開発を担当しました。

──アイサイト・ツーリングアシストでは、さまざまな白線を認識していると思いますが、一般的な高速道路とは異なる首都高速の白線認識では、どの辺りが難しいですか?

田村氏:いろいろあるのですが。首都高はとくにカーブがきついので、そこのカーブの追従するところです。あとは(首都高の場合)とくに車間が短くなるので、非常に白線が短く見え、白線が短くなると認識が難しくなります。白線が短くなって安定しなくなると、ステアリングの制御が安定しなくなる問題があります。

 そこを、白線認識と先行車認識を両方使いながら、うまく経路を引くことで安定して走れるようにしています。

──速度域によってアイサイトが見る領域が違うとされていますが、なぜこのようになっているのですか?

田村氏:基本的には0~120km/h域まですべて白線認識で行けるのが理想です。常に車線の真ん中にいられるのがシステムにとって都合がよいのです。ただ、どうしても車間距離が縮まる等で、白線が見えづらくなるシーンがあります。

 特に、関越自動車道や、東北自動車道の3車線の真ん中のレーンでは、両側の白線とも破線になりますので、車間距離が縮まるとカメラから白線が完全に見えなくなるような場合も存在します。そのため、ツーリングアシストでは、白線情報のみで制御するモード以外に、白線と先行車の情報を混ぜ合わせて制御するモードと、先行車だけに追従するモードの2つを用意しています。

 比較的低い速度の渋滞などで白線がわずかしか見えず安定しない場合には、前者のモードで走行し、また、車間が極めて近くなり、カメラから完全に白線が見えない場合などのために、後者モードを用意しました。

 都市間高速や都市高速の全速度域でシステムが極力キャンセルすることなく、連続的に作動することで、安心してお客さまに使っていだけると考えており、そのために必要な情報をカメラで認識し、最も安定した制御ができる仕様となるように作り込んだ結果、このような仕様になっています。

──急カーブなどでシステムがキャンセルされている部分があるのは、なぜですか?

田村氏:急カーブを曲がるためには、ハンドルを切る速度を速くする必要があります。その中で、システムが速くハンドルを切ることで、ドライバーに違和感や不安感を与えないかを気にしてきました。道路環境は、多種多様でカメラが苦手なシーンも存在します。そういった中で、ドライバーに違和感を与えることなく常に安心して使っていただけるように、ハンドルを切る速度に制限を設けています。

 そのため、カーブに対して、アシストする制御量を抑え、徐々に逸脱する車両挙動を演出することで、運転支援システムとしての限界をお客さまにお伝えすることを狙いとしています。

──実際に首都高の福住のS字カーブなどは、2つ目のカーブでアシストがキャンセルされました。そういった部分ですか?

田村氏:おっしゃるとおりです。現段階でも技術的な話だけであれば、対応することもできますが、ツーリングアシストの最大の狙いは、渋滞中や、直線、緩いカーブなどの単調な状況で、お客さまの運転負担を少しでも減らしたいということであり、その状況で、いかに安心して使っていただけるかというところを最も大事に開発しました。

 今後、例えば、センシング性能や機能をさらに充実させていくことで、こういったシーンでの支援方法も変わってくる可能性は、あると思います。

【インタビュー】新型「レヴォーグ」に搭載された先進安全技術「アイサイト・ツーリングアシスト」の白線認識について開発者 田村悠一郎氏に聞く 首都高 9号深川線(下り)福住近辺のS字カーブ
首都高 9号深川線(下り)福住近辺のS字カーブ

──今回のツーリングアシストでは、アイサイト ver.3とハードウェアは変更ないとアナウンスされています。見えている部分などは変わらないのですか?

田村氏:基本的に変わらないですね。また、ハンドルの制御に必要な距離は、それほど遠方まで必要ありません。だいたい、1秒、2秒先まで見えていれば十分です。画角に関しても、都市高速だとか一般的な高速道路であれば十分に見えています。

──従来のアイサイト ver.3でも60km/h以上の領域でステアリングアシストを行なってくれました。この60km/h以上の領域において変更はないのでしょうか?

田村氏:曲がれるカーブを深くしたというのが1点。従来のレヴォーグに比べ、より小さい半径のカーブにも対応できるよう旋回可能な横Gを拡大しています。これによって、より一層、都市間高速などでの使い勝手もよくなっています。

 もう1点は、白線認識なのですが、前は両側の白線が必要でした。今回は2本あった状態から1本になっても走れるようにしています。初代レヴォーグで走ってきたデータからシステムがキャンセルになる統計を取りまして、その中で多かったのが一時的に白線が片方ないという状態でした。そのため、白線が片方なくても(システムが)継続するとか、あるいは白線がもう少し短くても継続するようにしています。これで、白線認識がロストしてキャンセルするということについて、8割ぐらい改善しています。

──実際にアイサイト・ツーリングアシストで走っていると、白線が人間の目で見えなくなっても、すぐにシステムはキャンセルとならないように感じました。これはどのような制御が行なわれているのでしょうか?

田村氏:白線が見えなくなったらすぐに危険になるということでもないので、白線認識の表示に関して少しディレイはあります。見える、見えないの判断は非常に難しく、どこまで見えなくなったらダメになるかはグレーな部分があります。そのため、少し判断に時間をかけています。

──それは復帰のときも同様でしょうか? 白線が見えたらすぐ復帰するという動作ではないように感じたのですが?

田村氏:そうです。入って落ちて、入って落ちてを(短い時間で)繰り返さないようにしています。弊社のシステムの場合、システムをキャンセルしたときに音が鳴ります。それが、毎回毎回音が鳴ると煩雑に感じることもあると考え、少しディレイを持たせています。

──悪天候時の認識性能に変化はあるのですか? ハードウェアは同じものとの話なので、ソフトウェア面での改善となると思うのですが?

【インタビュー】新型「レヴォーグ」に搭載された先進安全技術「アイサイト・ツーリングアシスト」の白線認識について開発者 田村悠一郎氏に聞く

田村氏:基本的にシステムが一時停止になる状況は変わっていません。ただ、白線が見える能力としては少しよくなっています。車間が短くなったときとか、片側の車線のみで動かそうとしたときに白線認識の安定性がものすごく求められ、認識性能を上げています。雨で白線認識が不安定になるのと、車間が短くなって白線認識が不安定になるのと、それほど大きな違いはありません。“厳しいシナリオで白線認識を制御に使えるだけ安定性を高める”というロジックを組んでいくと、必然的に雨や夜間でも白線が見えるようになってきます。結果的に強くなったということなんですけどね。

──車種やサスペンション設定、タイヤの性能によって運動性能が異なると思いますが、その辺りの調整はどのように行なっていますか?

田村氏:車種ごとに特性をとり、制御を作り込んでから出荷することはもちろんのこと、タイヤ交換などお客さまが通常使われる範囲での車両特性の変化に対しても対応するロジックが実装されています。ただし、車高調整などの改造などは、推奨しないようオーナーズマニュアルなどで注意を呼び掛けています。

──車間調整なのですが、インプレッサやレガシィのアイサイト ver.3では4段階で調整できましたが、最新システムのレヴォーグのツーリングアシストでは3段階となっています。アイサイトは、車種によって車間に3段階と5段階の設定がありますが、これはどのような意図なのでしょうか?

田村氏:ステアリングスイッチの種類と、使い勝手との兼ね合いで、レヴォーグに関しましては、3段階とさせていただいています。また、今回のマイナーチェンジでは、ハードウエアではなく、ソフトウエアの変更で実現しており、こういったところは、従来のモデルと変えていないといったところです。

──今回はソフトウェアだけの変更とのことですが、ソフトウェアだけで機能を上げていく上で、とくに難しかったことはありますか?

田村氏:そうですね、いろいろあるのですが(笑)。今回は先行車にも追従してハンドル操作をしていこうというのがありました。白線は線があるので、比較的認識しやすかったり、制御もしやすかったりする部分があります。

 一方、先行車は、カメラからすると背面しか見えないシーンが多くなります。そこで線に対して平行に制御する場合と、先行車の背面から得られる情報から制御するのでは違いがあり、その辺りに関していろいろアプローチする必要がありました。その先行車追従に関するロジックの作り上げが一番大変でした。

──先行車といっても、トラックから車高のペタペタなクルマまでいろいろありますが、問題なく認識できているのですか?

田村氏:先行車といっても、トレーラーからスポーツカー、トラックなど多種多様になりますが、基本的にそれらすべてを認識できるように開発してきました。


 スバルのアイサイト・ツーリングアシストは、約100万画素のカラーCMOS撮像素子を2つ用いたステレオカメラで実現させた先進安全技術だ。「ぶつからないクルマ?」で先進安全技術の代名詞となったアイサイト ver.2、そして高速域でステアリングアシスト機能を実装したアイサイト ver.3と進化し、アイサイト・ツーリングアシストでは全車速対応のステアリングアシストを行なえるようになった。

 スバルはこれを運転支援として訴求しているが、世界的な自動運転の定義でいえば、これはレベル2自動運転となり、世界の最先端システムであるのは間違いない。そのシステムを高精度なステレオカメラと、知見とノウハウが注ぎ込まれたソフトウェアだけで実現していることに、アイサイト・ツーリングアシストのすごさがある。

 このシステムを搭載した新型「レヴォーグ」「WRX S4」はすでに発売されており、スバルディーラーに行けば試乗することもできる。本記事を参考に、アイサイト・ツーリングアシストの制御のきめ細かさを体感してみていただきたい。