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マツダ、検査員の無自覚によるミスで起きた燃費と排出ガスの抜取検査の「トレースエラー」について記者会見

品質システムの両輪「仕組みと人」が上手く回るよう対策を考えたと向井武司常務

2018年8月9日 開催

8月8日付けで国交省に調査結果報告を行なった内容について、マツダが都内で記者会見を実施

 マツダは、8月8日を期限として国土交通省から確認指示を受けていた「燃費及び排出ガスの抜取検査の不正事案を受けた確認の実施等について」の調査結果を国交省に報告し、翌8月9日に報告内容についてニュースリリースを発行。合わせて都内で記者会見を実施した。

 報告内容の概要については関連記事「マツダ、燃費および排出ガスの抜取検査で『トレースエラー』による適性を欠いた車両が72台」でも紹介しているとおり、データが保管されていた2016年11月~2018年7月に実施された燃費と排出ガスの抜き取り検査のデータで、対象となった1472台のうち、72台(3.8%)で「速度トレース」のエラーが発生していながら、無効とされず有効なデータとして扱われていた。

記者会見の冒頭では、マツダ車のユーザーやファン、ステークホルダーに心配をかけたことについて謝罪の言葉が述べられた

 記者会見の前半では、マツダで品質・ブランド推進・購買・生産・物流統括を担当する取締役 専務執行役員の菖蒲田清孝氏から報告内容について解説が行なわれた。

マツダ株式会社 取締役 専務執行役員の菖蒲田清孝氏

 JC08モードの燃費と排出ガスデータ測定では、シャシーダイナモに計測車両を設置して、エンジンが冷えた状態から20分、エンジンが暖まった状態で20分の計40分にわたり、規定の速度と時間をトレースするようにアクセル操作と、車種によってはギヤ操作を検査員が実施。ここで規定内の速度と時間で得られたデータが検査データとして採用される。しかし、過去に行なわれた計測データを見直した結果、速度トレースで規定された走行パターンの速度から最大5.8秒、平均では0.78秒超過した「速度トレースエラー」が発生していることが確認された。

 これを受け、マツダではこの速度トレースエラーの内容が燃費と排出ガスの数値で、カタログに記載する諸元値に影響を与えるものであるか調査したが、走行距離に対する中央値、無効データの有無をグラフ化した平均値などを使って比較した結果で、検査データの平均値から無効データを除外しても統計的に差がなく、カタログ記載の燃費と排出ガスの諸元値として影響がないことを確認しているという。また、速度トレースエラーが発生しているデータを再確認し、検査員がマツダで規定している「定められた走行モードの中心線を狙った走行」を、超過した部分以外では実践していることから、本来的に無効とすべきデータを有効として処理した不適切な取り扱いはあったものの、検査員に対するヒアリングの内容と合わせて意図的な不正は行なわれていないと結論付けている。

 この結果から、「速度トレースエラーが生じた場合に、その測定結果を自動的に無効にするシステムになっていなかったこと」「速度トレースエラーの判定を担当検査員にゆだねる工程設定(手順)になっていたこと」の2点を原因に挙げ、より強固な検査システムを確立すべく、「速度トレースエラーなどの逸脱が発生した場合に、測定データを強制的に無効とするようなシステムに改善する」という再発防止策を提示。システムが改善されるまでの期間は、複数の検査員でダブルチェックする体制強化をすでに実施していると説明した。

 最後に菖蒲田氏は「マツダは今回の事案を真摯に受け止め、お客さまに引き続き信頼いただけるよう努力してまいりたいと思います」とコメントしている。

JC08モードにおける「排気ガス検査装置」の概要。シャシーダイナモを使った台上試験となる
JC08モードで規定された走行パターン
測定では規定された速度の上限と下限の中で速度調整するよう定められており、マツダでは「定められた走行モードの中心線を狙った走行」を行なうよう検査員に指導しているという
速度トレースエラーのデータについて検証を行ない、カタログ記載の燃費と排出ガスの諸元値として影響がないことを確認している
速度トレースエラーの影響のまとめ
現在は検査員のダブルチェック体制としており、今後は速度トレースエラーなどを自動的に無効とする機能を実装していく

速度トレースエラーは「アクセラ」「アテンザ」「ロードスター」など10車種

マツダ株式会社 常務執行役員の向井武司氏(左)、マツダ株式会社 取締役 専務執行役員の菖蒲田清孝氏(右)が質疑応答に対応した

 後半に実施された質疑応答では、検査データの不正な取り扱いが行なわれた点について、システム面に問題がなかったのかという問いかけに対し、菖蒲田氏は「検査員は『ドライバーズエイド』の画面に出ている表示に対して、一生懸命速度をトレースしながら運転しています。その中で、速度逸脱の時間が1秒以内かという判定を同時に行ないながらの作業になるという点で、われわれは検査員をしっかりと教育・訓練することで『規定から外れない』技術を習得したドライバーだけが作業をすることでやってきたのですが、ふり返ってみると、検査員が速度を合わせて運転することと、逸脱時間の判定をすることを同時にやらせていたことが、システムの考え方で甘さがあったと考えています」と回答した。

 また、同じ質問についてマツダでグローバル品質担当、コスト革新担当補佐を務めている常務執行役員の向井武司氏は、「今回の事案をふり返ってみますと、まだまだ作業員のスキルに依存するところが残っていることが分かりましたので、再発防止として『無効データは落とす』ということを仕組みに入れて、品質システムの両輪となる『仕組みと人』が上手く回っていくよう、対策を考えた次第です」とコメントしている。

マツダ株式会社 常務執行役員の向井武司氏

 データの不正改ざんがなかったと結論づけた理由についての質問に対しては、菖蒲田氏が「今回の再検証では、データを再現して検査員と一緒に確認しているのですが、彼らは自分たちが規定をしっかりと守っているという意識が非常に強いこともあって、そのデータで1秒を超えた逸脱があることに対して大きなショックを受けています。もともと検査員は6か月の期間でスキルを磨き、認定された自負を持って彼らは仕事をしてくれています。ミスしていないデータだけを有効にした認識ですし、1秒を超える(速度トレースエラーの)データがあったことに、本当にショックを受けているというのが正直なところです」と語った。

 検査の作業負荷が過大だったのではないかという指摘に対して菖蒲田氏は、「これまでも検査員にテストでどれぐらいの負荷がかかるかを加味しつつ、JC08モードから新しいWLTCモードになるにあたって負荷が高まることが分かっていました。それに対して検査体制の能力を確保する必要があるということで、検査設備を1台増設しております。ただ、1回ごとの負荷に対しては、先ほども出たように人間に依存する部分があったという点で、もっと判定をシステムなどでサポートする体制作りなどをして、検査員が運転に集中できる環境を用意できなかったことがわれわれの反省点でございます」と回答した。

 速度トレースエラーが確認された車種については、「アクセラ」「アテンザ」「ロードスター」「デミオ」「CX-8」「プレマシー」「ボンゴ」「ビアンテ」「CX-8」「124 スパイダー」の10車種で、菖蒲田氏は「72台は各車種で偏りなく発生しております」としている。

問題となった車両が72台という台数ながら記者会見を実施した理由について、菖蒲田氏は「お客さまに販売した1台1台について品質の問題がないと確認できたのですが、国から法令としてわれわれに提示されているプロセスについて、一部で適正な扱いではなかったことについて、速やかに皆さんに開示し、ご説明して謝罪することが必要だという考えからです」としている