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ホンダ、インターナビのプラットフォームで「AWS(Amazon Web Service)」利用を明らかに
「AWS Autotech Day 2018」で次世代サービス構築を講演
2018年10月1日 06:00
- 2018年9月28日 開催
本田技研工業は、9月28日にアマゾンが都内本社で開催した同社のパブリッククラウドサービス「AWS(Amazon Web Service)」の自動車向けソリューションを説明するプライベートイベント「AWS Autotech Day 2018」で登壇し、インターナビやHondaLinkなどグローバルに展開するコネクテッドサービスがAWSを基盤(プラットフォーム)として構築されていることを初めて明らかにした。
ホンダはこれまで同社のコネクテッドサービスのプラットフォームを明らかにしてこなかったが、今回初めてそれがAWSであることを発表。ホンダによれば、2013年ごろから徐々にオンプレミスからAWSへの移行を続けており、現在AWS上に構築されているサービス基盤は第3世代になるという。
本田技研工業 IT本部 コネクテッド開発部 サービス開発課 竹原洋三氏は「現在、次世代のサービス基盤を構築中で、さらに多くのAWSのサービスを新たに採用する予定」と述べ、今後ホンダとしてAWSの活用をさらに進めて、グローバルにコネクテッドサービスを展開していく計画であることを説明した。
AWSを2013年から導入開始、当初はインターナビをオンプレミスからクラウドへ移行するのに活用
本田技研工業 IT本部 コネクテッド開発部 サービス開発課 竹原洋三氏によれば、ホンダがAWSを利用し始めたのは2013年ごろだという。ホンダのコネクテッドサービス(インターネットに接続して提供されるサービスのこと)の提供を開始したのは2002年で、日本でインターナビを開始したところまで遡るという。それらは、今で言うところのオンプレミス(自社内にサーバーなどを持つITの方式のこと)で提供されてきたそうだが、それを2013年ごろにAWSへ移行することを検討し、まずはオンプレミスの環境をクラウドへという形で利用を開始したとのことだ。そして、そうした経験を元に知見をためて、徐々にクラウドの本格的な利用を開始したという。
例えば、2016年からはAWSマネージドサービスというAWSのサービスを利用開始したという。AWSマネージドサービスは、大規模なエンタープライズ向けに提供している運用管理などを一体的に提供するサービスで、竹原氏によれば「AWSマネージドサービスを利用するようになって劇的に安定して利用することができるようになった」ということだった。
オンプレミスの置き換えからAWSのマネージドサービスへと本格的に移行
次いで登壇したのが、本田技研工業 IT本部 コネクテッド開発部 サービス開発課 野上大樹氏。野上氏によれば、AWSを採用したメリットは「やりたいことを最短で実現でき、導入検討が簡単、外部の協力ベンダーの選定が楽、アプリケーションの開発に集中できる、AWSからのサポートが秀逸など」とのことだ。
野上氏によれば、これまでのホンダのAWSを利用したコネクテッドサービスの基盤は3つの世代に分けられるという。2013年~2015年に導入された第1世代では、インターナビのサービスをグローバルに展開するタイミングと重なり、インターナビの交通情報配信、目的地クリップやディーラーからのお知らせなどのサービス提供などにAWSを利用していたとのこと。
この段階ではオンプレミスのアプリケーションをそのままAWSへと移行した形で、冗長なシステムを構築したが、その冗長システムの片方をアップグレードしている間に、設計ミスからもう片方も落ちてしまうなどの失敗を経験して、いろいろ勉強したと説明した。
2015年~2016年にかけて導入された第2世代のシステムでは、北米のコネクテッドサービスとなるHondaLink、インターナビ ドライブといった新しいサービスが導入されたという。
この世代ではクルマからのアクセスだけでなく、スマートフォンやPCからアクセスするサービスなども導入されたため、クルマのように朝や夕方に多数のアクセスがあるという規則性をもっているデバイスだけでなく、スマホやPCといった規則性があまりないようなデバイスもサポートする必要に迫られたとのこと。このため、AMIと呼ばれるサービスを利用して、自動で負荷に応じてスケーリングできるような仕組みを導入したという。
そして2016年~2018年にかけて導入されたのが、現在も利用されている第3世代で、FCV/EVといった新しいタイプの自動車もサポートすることになったため、より幅広いサービス、さらにはサービス品質の向上が必要になってきたという。また、導入して5年程度が経過しつつあったため、OS/ミドルウェアなどの更新時期に重なったため、それらも同時に行なわれたとのこと。
これに併せて、クラウドストレージのAmazon S3、データベースのAmazon RDS、データストリーミングサービスのAmazon Kinesis、メッセージキューイングサービスのAmazon SQSなどの新しいマネージドサービスと呼ばれる新しいサービスを導入した。それまではオンプレミスの物理的なハードウェアを、クラウドに置き換えた利用方法に比べて管理などが容易になり、かつ安定性も上がったとのことだ。それにより車両データの処理などがより高速にできるようになり、可用性も大きく向上したと野上氏は説明した。
最後に野上氏は、AWSを採用したメリットとして「従来の自動車メーカーはITシステムの開発は外部に委託というのが少なくなかった。しかし、AWSのようなクラウドサービスへ移行したことで、開発スタイルは内製に大きく変わっており、自分たちで作って試してみるという形に多く変わっている」と述べ、従来の外注に出していた状況から大きく異なり、基盤はAWS側に任せて自分たちでアプリケーションを書くという体制に移行したことで小回りも効くようになり、新しいサービスの提供も従来よりも素早く提供できるようになったとそのメリットを説明した。
次世代基盤ではAWS Fargateを導入し、新しいサービスをコンテナとして活用して短期間で新サービスを導入する環境を整える
その後、竹原氏が再度登壇し、現在開発を進めている次世代のサービス基盤について説明した。その狙いについて、「マネージドサービスをより積極的に利用し、可用性を維持して運用負荷を下げる。また、コンテナなどの利用を進め、環境の複製を容易にする。さらにはテスト自動化などを進めて継続的な更新を行なっていきたい」と述べ、現在ホンダが開発している次世代基盤のアーキテクチャを公開した。
さらに、その次世代基盤ではAWS Fargateと呼ばれる新しいAWSのサービスを導入することも決定している。AWS Fargateは、AWSを利用する時にインフラ側のことをあまり意識せずとも、新しいサービスを導入することを容易にする仕組み。これにより、サービスを設計するプログラマはより短期間で新しいサービスを設計できる。今後、自動車向けにどんどん新しいサービスを展開するときに、他社と新サービスの導入競争になることが予想されるが、そうしたときに他社よりも短期間で新しいサービスを導入する基盤ができあがるという意味だ。竹原氏によれば、これにより今後より多くの国でサービスを展開するときでも、環境を横に展開することが容易になるため、より短期間で多くの地域をサポートすることができるようになるということ。
竹原氏によれば、コネクテッド開発にAWSのようなクラウドを利用するには「開発期間が長くなり、検証の準備が難しく、ローカライズの吸収やバリエーションの吸収が課題になる。そこでホンダでは検証ツールに投資を行ない、自動車の複数のモデルに対応できるような仕組みをサーバー側に持たせていくことが重要だ」と述べ、ホンダとしてはそうした自動車メーカーとしての課題をITを積極的に活用していくことで解決していくと説明した。