ニュース
日産とNTTドコモ、5GとI2VでUnityちゃんとリアルドライブ実証実験
ダウンリンク1Gbps、アップリンク300Mbpsで実現
2019年3月18日 00:00
- 2019年3月12日 実施
日産自動車とNTTドコモは3月12日、次世代の通信規格である5Gを用いて「Invisible-to-Visible」(以下、I2V)技術を走行中の車両で活用する実証実験を日産のテストコース「グランドライブ」で開始した。
I2Vは日産が開発したもので、リアルとバーチャルを融合し、ドライバーが見えないものを可視化する技術。車内外のセンサーが収集した情報とクラウド上に集積した情報を統合することで、駐車場の満空情報、先の見えないコーナーの情報、交差点での飛び出し情報などを可視化していく。
また、I2Vはアバターが活動するメタバースにも接続でき、アバターとともにドライブするといった体験もできる。2019年1月に米国ネバダ州ラスベガスで開催された「CES 2019」で世界初公開され、大きな話題となった。CES 2019での展示時は、有線LANを用いてモックアップ車両内にアバターを出現させていたが、その情報伝送を5Gでリアルなクルマで実現したのが今回の実証実験になる。
5Gのプレサービスを2019年から始めるNTTドコモと組み、メタバースを作り出す
この実証実験の概略については、日産総合研究所 エキスパートリーダー 上田哲郎氏が説明。通信技術となる5GについてはNTTドコモ 5Gイノベーション推進室 5G 無線技術研究グループ 担当課長 阿部順一氏が説明した。
上田氏は今後の自動車を、コネクテッドを中心においた縦軸と横軸で説明。横軸はAD(自動運転)-CC(つながるクルマ)-EV(電気自動車)で、これは一般的に自動車メーカーが目指している方向で、上田氏はCCを中心にVPA(Virtual Personal Assistant)-CC-MaaSといった縦軸を描き、つながるクルマの1つの形を提唱。クルマがクラウドとつながることで新しい空間であるメタバースと接続でき、車外の人がクルマに乗り込んでクルマでの移動体験をできるようになったり、逆にクルマの中の人が車外の人と同乗するように感じたりすることができるようになったという。
メタバースは実際にはクルマの中に重畳的に存在する空間として現出し、車外の人であればVRヘッドセットを使うことで、車内の人であればARヘッドセットを使うことでメタバースが知覚できるようになる。
このメタバースを現出させるために必要なのが情報をやり取りする通信手段。上田氏は、そのための通信技術として5Gが適しているという。
5Gについて解説を行なったNTTドコモ 阿部氏は、5Gの導入に向けたスケジュールを示し、2019年のラグビーワールドカップからプレサービスが始まることなど近い未来であることを紹介。2020年までに商用サービスが始まるという。
現在の通信方式は4G-LTEだが、5Gになると「高速・大容量」「低遅延」「多端末接続」ができるようになり、この日産のI2Vの通信用件を満たすという。NTTドコモもこの実証実験を通じて、5Gの持つ可能性について検証していく。
NTTドコモの移動基地局1台で、通信容量を確保
実証実験を行なっているグランドライブでは、NTTドコモの5G移動基地局を1台配置。5G通信装置を搭載した日産「NV350」を走らせた。
技術的な仕様としては、NTTドコモの5G移動基地局によって周囲数百メートルにダウンリンク1Gbps、アップリンク300Mbpsの通信エリアを確保。その中を5G送受信装置を搭載したNV350が走り回る。ちなみに5G通信装置として、5G移動基地局にはエリクソン製のものが、NV350にはインテル製のものが搭載されていた。開発担当者になぜインテル製を選んだか確認したところ、「ちょうどよい大きさだったから」とのこと。現在はデスクトップPCサイズ(というかそのもの)だが、数年以内にはスマートフォンに搭載されていく通信技術であり、車載される機器として問題ないサイズに収まっていくものだ。
記者も実際にこのNV350に乗り込んでI2Vを体験。I2Vを体験するには現実世界とメタバースを接続するMRのヘッドセットを装着する必要がある。このMRのヘッドセットにはマーカーが取り付けられており、位置情報をメタバースへ転送。アバターとして乗り込んでくる演者さんに、記者の位置を知らせることになる。これにより自然な会話を成り立たせる。
実際の記者の体感したメタバースがどのようなものだったかは映像を見てもらえれば分かるが、眼前にはなんとも不思議な空間が広がる。人がいないはずの座席にアバターが出現し、しっかり会話することができている。アバターはニッサンベアのほか、ミスフェレディに加え特別ゲストとしてUnityちゃん。さらにUnityちゃんは、声優さんが担当と豪華なものとなっていた。
この映像を見てもらえれば分かるが、途中でトラブルがあって音が聞こえない状況が起きた。実証実験なのでトラブル出しも1つのテーマなのだろうが、上田氏によると「なぜか低レートでよい音が切れることがある」とのこと。逆に言えば、このようなトラブルが起きることで、映像系と音声系が別々にデジタル化されて送出されていることが分かり興味深かった。
このようなメタバースの友好な使い道はどこにあるのだろう? 誰もが思いつくのは、日産が現在行なっているコンシェルジェサービスへの応用だろう。このコンシェルジェサービスは、実際の人が答えてくれたりするもので、現在は標準的なリッチなサービスとなっている。この実際の人が担当している部分を、アバターだけでなくAIも組み合わせることで新しい可能性が開けると上田氏はいう。
上田氏はこの実証実験を広く社外や社内に知ってもらうことで、メタバースの可能性や、5G技術のクルマへの応用を刺激していきたいといい、具現化した技術の応用を探っている段階だ。ただ、着想としては最初にI2Vがあり、途中で5Gとの相性がよいことに気がつき、CESの会場では多くの人に5Gの利用を聞かれたとのこと。まだ発展途上の技術であり、今後の可能性に期待したい。
5G通信網の整備は、これまでの4G-LTEより密な基地局が必要となる。より細かいメッシュでの整備が必要になり、この進行状況について阿部氏に聞いたところ、整備はこれからとのこと。NTTドコモはGT-Rを使用しての高速移動通信の実験をしているほか、先日は鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドとの提携で5Gで楽しむサーキットコンテンツを提案。5Gのクルマへの展開に積極的なキャリアとなっている。ちなみに鈴鹿サーキットにもあった5G GT-Rがグランドライブにもあったので保有台数を聞いてみたところ「この1台のみです」と。普段はドコモの横須賀の研究所であるYRPにあり、ナンバーもあるのでグランドライブまで自走している。横須賀辺りでは、見かける機会も多いのではないだろうか。