ニュース
スバル、15か国の代表が整備技術を競った「SUBARU世界技術コンクール2019」レポート
優勝は中国代表のチェン・シャンドン選手
2019年12月12日 09:00
- 2019年11月13日 開催
スバルは11月13日、兵庫県神戸市の神戸国際会議場でメカニックスタッフの整備技術向上を目的とした「SUBARU世界技術コンクール2019」を開催した。
この大会は、世界各地でスバル車の整備に日々携わっているメカニックスタッフが競技を通じて切磋琢磨し、さらなる技術向上を目指すことを目的として2005年に初開催。隔年で開催されて7回目となり、出場者は世界各地でエリアごとに行なわれる予選によって代表を選出。今回は日本も含めて15か国の代表が会場に集まった。
当日は午前中に、スバル車の技術的な特徴やサービスに関する知識などが問われる40問の「筆記試験」を実施。制限時間は60分となり、配点は80点満点。午後からはSUBARU 代表取締役社長 中村知美氏によるあいさつも行なわれた開会式を挟み、2種類の実技競技が行なわれた。なお、当日は世界大会であり、参加者の多くが外国籍となっていることから、会場内のアナウンスはほぼ全編を通じて英語によって行なわれた。
中村社長は昨今の自動車業界で起きている大きな変革を受け、スバルでも中期経営ビジョン「STEP」を策定。組織風土を改革する「Change the Culture」をスローガンに、次の進化に向けて全力で取り組んでいると説明。STEPで取り組んでいる最も大切な要素として品質改善を挙げ、品質こそがスバルブランドの根本を支える価値であると位置付けた。
その上で、スバルではこの数年で品質問題が発生し、多くの人に迷惑を掛けたことを謝罪。信頼を回復するため、製品の品質に重点を置き、品質を向上させていくと約束。この信頼回復では、ユーザーの期待を超えるサービス品質向上に向け、メカニックスタッフの協力も不可欠だとした。
作業スピードや正確さ、丁寧さなどを審査
実技競技の第1種目はエンジンパーツを使い、計測と分解組立を行なう「計測競技」。制限時間は課題の内容確認や工具のチェックなどの時間を含めて30分。配点は筆記試験と同じ80点満点。各選手のブースには2016年モデルの「インプレッサ」で採用された「FB20」型エンジンのシリンダーヘッド部分が用意され、まずはカムクリアランスの計測を実施。基準値に合っていないところを見つけ出し、分解して基準値に合うシムと差し替えるという内容。ユーザーを待たせないよう、作業完了までの時間が短いことも重要だが、正確な測定が行なわれているか、分解と組み立ての手順がサービスマニュアルの内容に従った正しいものかといった点が評価対象。
作業内容では使用前にシムゲージをクリーニングしているか、ボルトをゆるめたり締め付けたりする手順が正しいか、取り外したボルトの扱いが丁寧か、必要な部分にオイルを注油しているかといった細かい部分までしっかりとチェックされ、点数の増減要因となっていた。
なお、実技競技では選手1人ごとに「アテンダント」と呼ばれるスタッフが競技のサポートを行なう。アテンダントは競技中に英語と日本語で行なわれるアナウンスを必要に応じて通訳するほか、競技の進め方について選手が理解に苦しまないよう手助けを行なうが、技術面などのアドバイスは一切許されていない。
実技競技の第2種目では「実車故障診断競技」を実施。車両による不公平が起きないよう、日本人選手のみ輸出仕様のインプレッサ 2.0リッターエンジン 2017年モデルを使い、その他の選手は日本仕様の「XV」2.0リッターエンジン 2019年モデルを使用。それぞれ扱い慣れないクルマで起きている不具合の原因を探し出し、対処するという内容。制限時間は課題の内容確認や工具のチェックなどの時間を含めて60分。配点は最も高い140点満点で、3種目合計で300点満点となっている。
まずは「プッシュスタートボタンを押してもIG-ONにならない」という状態から競技がスタート。IG(イグニッション)がONにならないのでスターターモーターも作動せず、エンジンが動かせないという電子制御系の不具合で、車両の状態を確認した直後にボンネットを開け、エンジンルーム内にある配線などをサーキットテスターを使ってチェックする選手が多かったが、そのまま車内に残って確認作業を続ける選手もいた。また、ボンネットを開けた直後にボディを保護するフェンダーカバーを設置していく選手と、まずはテスターでのチェックを優先する選手に分かれ、作業内容に選手間の個性が表われていることが印象的だった。
IG-ONにならない原因は、イグニッションリレーの接点側に不具合があるというもの。しかし、これをクリアしてエンジンを始動させても、「アイドリングが維持できない」という不具合が続けて発生。この原因究明にはサーキットテスターやオシロスコープに加え、車両に記憶されたすべてのダイアグコードの一括読み取りなども可能なスバル独自の診断機器「SSM(スバルセレクトモニター)」を使用する。
SSMではダイアグコードの表示に加え、車両の各種システムで発生する入出力データや制御データの表示、エンジンの気筒モニターによる気筒別の燃焼状態表示、ユニット制御値と測定電圧値の同時計測などが可能。不具合の原因究明でチェックすべき項目は多岐に渡るが、今回はエンジンの回転数とエアフローセンサーの数値が連動していないことから、エアフローセンサーが正常に作動していないことを読み取ることが求められる。
2つ目の不具合を解決するとエンジンは正常に動き続けるようになるが、その状態でもメーターパネル内にある警告灯が点滅表示になり、これが最後の不具合となる。こちらはこれまでのパワートレーン系の不具合とは異なり、原因はインプレッサやXVで採用されている「SRH(ステアリングレスポンシブヘッドランプ)」の配線で断線が起きているという内容。SSMやサーキットテスターなどを駆使して原因を突き止めていく。最後の不具合については警告灯が消灯した後に、実際にSRHが正しく作動するか確認を行なった選手には加点されている。