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ルノーが採用表明 NVIDIAの新型CAD/CAE向けGPU「NVIDIA RTX A6000/A40」、「Quadro」の名称が消える

2020年10月5日(現地時間) 発表

NVIDIAが発表したNVIDIA RTX A6000(スライドではQuadro RTX A6000になっているがNVIDIA RTX A6000が正式名称)。ルノーが採用を表明した

 GPUメーカーのNVIDIAは、10月5日6時(米国太平洋時間、日本時間10月5日22時)から、同社のプライベート技術会議「GTC 2020」をオンラインで開催している。GTCは、AIやHPC、グラフィックスといった同社のソリューションやテクノロジの詳細を説明するイベントで、同社共同創始者でCEOのジェンスン・フアン氏が行なう基調講演は新製品発表の場としても活用されている。

 このGTCに合わせて、NVIDIAはプロフェッショナル向けGPUの最新製品「NVIDIA RTX A6000」、およびそのサーバー向け版「NVIDIA A40」を発表した。従来は同社のプロフェッショナル向けGPUのブランド「Quadro」を冠して提供されていた製品だが、この製品からQuadroのブランド名は外されている。

 NVIDIAのプロフェッショナル向けGPUは、自動車メーカーのCAE(Computer Aided Engineering)、CAD(Computer Aided Design)などコンピュータを利用したシミュレーションやデザインの過程で利用されている。自動車メーカーではコンピュータによるリアルタイム・レンダリングなどの処理をQuadroを利用して行なっている。

 今回の発表では「ルノー」ブランドの自動車を販売するフランスのグループ・ルノーが、車両のデザインプロセスにNVIDIA RTX A6000を採用する意向を表明しているなど、今後自動車メーカーなどでの採用が進みそうだ。

単精度の浮動小数点演算性能が従来モデルの倍以上となったNVIDIA RTX A6000、NVIDIA A40

新しいAmpereアーキテクチャ

 今回NVIDIAが発表した「NVIDIA RTX A6000/NVIDIA A40」は、NVIDIAが5月に発表した新しいGPUアーキテクチャ「Ampere」に基づく製品となる。

NVIDIA、AI学習と推論を20倍高速化する新型GPU「NVIDIA A100」。Ampereアーキテクチャ採用

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1252580.html

 Ampereは、NVIDIAがこれまでの製品で使用してきたGPUアーキテクチャ(Turing、Volta)に比べて、CUDAコアと呼ばれるGPUの基本的なエンジンの数が大幅に増やされているほか、AIの演算に利用できるTensorコア、リアルタイム・レイトレーシング(リアルタイムに影や反射などを演算して描画する方式のこと。従来の描画方法に比べて飛躍的にリアルな描画が可能)を演算するRTコアなどの新しい演算器も強化されている。

 NVIDIAがこれまで提供してきたQuadro RTX 8000やQuadro RTX 6000などのプロフェッショナル向けGPUは、いずれもTuringベースになっていた。すでに同社の一般消費者向けのゲーミングGPU「GeForce」シリーズは、GeForce RTX 30シリーズとしてAmpereベースの製品を9月上旬に発表しており、Ampereベースに切り替わっている。その意味では、プロ向けの製品もAmpereベースの製品になることが期待されていたのだが、今回のNVIDIA RTX A6000の発表でそれが実現されたことになる。

従来比2倍の性能を実現した「GeForce RTX 30シリーズ」詳報(GAME Watch)

https://game.watch.impress.co.jp/docs/kikaku/1274398.html

NVIDIARTX A6000(スライドではQuadro RTX A6000になっているがNVIDIA RTX A6000が正式名称)とNVIDIA A40
NVIDIA RTX A6000

 NVIDIA RTX A6000の特徴は、AmpereになったことでCUDAコアと呼ばれるGPUの基本的なエンジンの数が従来製品(Quadro RTX 8000/6000は4608基)比で倍以上となる1万752基になっていることだ。逆に、Tensorコアは減っているが、RTコアは増えている。これらの強化により、プロフェッショナル向けGPUでは性能の指標とされる単精度の浮動小数点演算(FP32)の性能は40TFLOPSとなっており、Quadro RTX 8000/6000の16.3TFLOPSに比べて倍以上の性能を発揮することができる。

 また、Turing世代のQuadro RTX 6000ではメモリが24GBで、後に派生モデルとしてメモリを48GBに強化したQuadro RTX 8000が追加された経緯があるが、NVIDIA RTX A6000は最初から48GBのメモリが標準搭載されている。メモリの動作周波数は若干引き上げられており、メモリの帯域幅は768GB/秒。

NVIDIA RTX A6000、従来モデルのQuadro RTX 8000/6000の製品仕様
製品名NVIDIA RTX A6000Quadro RTX 8000Quadro RTX 6000
アーキテクチャAmpereTuringTuring
ダイコードネームGA102TU102TU102
ファウンダリー(製造工場)SamsungTSMCTSMC
製造プロセスルール8nm12nm12nm
CUDAコア10,7524,6084,608
NVIDIA Tensorコア336576576
NVIDIA RTコア847272
浮動小数点演算性能(単精度)40TFLOPS16.3TFLOPS16.3TFLOPS
メモリ48GB GDDR6(ECC)48GB GDDR624GB GDDR6
メモリバス幅384ビット384ビット384ビット
メモリ帯域(最大)768GB/秒672GB/秒672GB/秒
最大消費電力300W295W295W
補助電源ピンCPU 8ピン×1PCIe 8ピン×1、6ピン×1PCIe 8ピン×1、6ピン×1
システムインターフェースPCI Express 4.0 x16PCI Express 3.0 x16PCI Express 3.0 x16
ディスプレイコネクタDP 1.4(4)DP 1.4(4)/USB Type-CDP 1.4(4)/USB Type-C
形状4.4インチ(高さ)×10.5インチ(奥行き)/デュアルスロット4.4インチ(高さ)×10.5インチ(奥行き)/デュアルスロット4.4インチ(高さ)×10.5インチ(奥行き)/デュアルスロット
放熱設計ファンありファンありファンあり
NVLinkコネクタ×2(2/3スロット対応)コネクタ×2コネクタ×2
NVLink帯域112.5GB/秒(双方向)100GB/秒(双方向)100GB/秒(双方向)
NVIDIA RTX A6000(スライドではQuadro RTX A6000になっているがNVIDIA RTX A6000が正式名称)はワークステーション向けに、NVIDIA A40はサーバー向けとなる
NVIDIA A40

 同時に発表されたNVIDIA A40は、NVIDIA RTX A6000のサーバー向け製品となる。従来NVIDIAはファンありの製品も、ファンレスの製品もQuadro RTX 8000/6000の製品名を利用してきたが、今回の製品ではファンありがNVIDIA RTX A6000に、ファンレスがNVIDIA A40とブランドが分けられた。

 NVIDIA A40はサーバー専用となるため、ヒートシンクだけがあるファンレスの設計になっており、サーバーのシャシー側に用意されているファンなどの冷却機構を利用して放熱する仕組みになっている。

 このため、Quadro RTX A6000よりボード全体の消費電力がやや下げられて250Wになっており、それによりGPUやメモリのクロックも下げられているので、単精度の浮動小数点演算性能は38TFLOPSとなる。従来モデルは14.9TFLOPSであったので、性能としては倍以上を実現している。

NVIDIA A40、従来モデルのQuadro RTX 8000/6000(ファンレス)の製品仕様
製品名NVIDIA A40Quadro RTX 8000(ファンレス)Quadro RTX 6000(ファンレス)
アーキテクチャAmpereTuringTuring
ダイコードネームGA102TU102TU102
ファウンダリー(製造工場)SamsungTSMCTSMC
製造プロセスルール8nm12nm12nm
CUDAコア10,7524,6084,608
NVIDIA Tensorコア336576576
NVIDIA RTコア847272
浮動小数点演算性能(単精度)38TFLOPS14.9TFLOPS14.9TFLOPS
メモリ48GB GDDR6(ECC)48GB GDDR624GB GDDR6
メモリバス幅384ビット384ビット384ビット
メモリ帯域(最大)696GB/秒624GB/秒624GB/秒
最大消費電力300W250W250W
補助電源ピン8ピン×18ピン×18ピン×1
システムインターフェースPCI Express 4.0 x16PCI Express 3.0 x16PCI Express 3.0 x16
ディスプレイコネクタDP 1.4(3)なしなし
形状4.4インチ(高さ)×10.5インチ(奥行き)/デュアルスロット4.4インチ(高さ)×10.5インチ(奥行き)/デュアルスロット4.4インチ(高さ)×10.5インチ(奥行き)/デュアルスロット
放熱設計ファンレスファンレスファンレス
NVLinkコネクタ×2(2スロット対応)コネクタ×2コネクタ×2
NVLink帯域112.5GB/秒(双方向)100GB/秒(双方向)100GB/秒(双方向)
NVIDIA RTX A6000(スライドではQuadro RTX A6000になっているがNVIDIA RTX A6000が正式名称)/A40の提供時期

 NVIDIAによればNVIDIA RTX A6000は、NVIDIAのパートナーとなるベンダが販売するモデルは12月に出荷開始される予定で、Lenovo、Dell、HPなどのワークステーションPCを販売するメーカーが自社のワークステーションPCに組み込んで販売するモデルは2021年初頭に出荷を計画している。いずれも価格は非公表。

 NVIDIA A40はCisco、Dell、Fujitsu、Hewlett Packard Enterprise、Lenovoなどのサーバー製品に組み込まれて出荷される計画で、やはり2021年初頭に出荷が見込まれている。こちらも価格は現時点で非公表だ。

ルノーが2倍の性能を評価。デザインプロセスなどに採用することを明らかに

NASAもコメントを寄せた

 発表を受けて、NVIDIA RTX 6000/A40を利用する顧客からは歓迎するコメントが出されている。NASA(アメリカ航空宇宙局)、Digital Domain(米国の特殊効果制作会社)、KPF(設計事務所)などに加えて、グループ・ルノーが紹介されている。

Digital Domainのコメント
KPFのコメント

 グループ・ルノーは、ルノーブランドの自動車を製造販売するフランスの企業で、日本ではルノー・ジャポンがその日本法人としてルノーブランドの自動車を販売している。

 そのグループ・ルノー コンピュータグラフィックス/ビジュアライゼーションソリューション担当 ギョーム・シャン氏は、「ルノーのデザインチームは、いつでも限界を押し上げるべく常に新しいツールの導入を進めている。そして、常に新しいレイトレーシングされた写真品質のデザインコンセプトの確認にはNVIDIAのQuadroを利用している。新しいNVIDIA RTX A6000はわれわれの予想を超えており、レイトレーシングを利用した外装の再現時の性能は2倍以上になっている。これはとても印象的なものだ」とコメントを寄せている。

 NVIDIAのプロフェッショナル向けGPUは、国内の自動車メーカーでもデザイン用に採用されていることが多く、今後国内でも採用が進むことになりそうだ。