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トヨタ、決算説明会資料で「HVからHEV、PHVからPHEV」へと電動化車両が分かりやすい表記に

1年で200万台の電動化車両を販売するトヨタ。HEV、PHEV、BEV、FCEVという表記に

決算説明会資料で電動化=EVとコミュニケーションを統一したトヨタ

 トヨタ自動車は2021年3月期の決算説明会を5月21日に実施、その後カーボンニュートラル実現に向けた技術と戦略についての説明会をオンラインで行なった。登壇したのは、取締役 Chief Digital Officer ジェームス・カフナー(James Kuffner)氏、Chief Production Officer 岡田政道氏、Chief Communication Officer 長田准氏、Chief Financial Officer 近健太氏、Chief Technology Officer 前田昌彦氏の5名だった。

 この説明会に関してはすでに関連記事で紹介したとおりだが、トヨタのこれまでの発表などを見てきた人にとって違和感があったのは、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、燃料電池車の略称を変えてきたところだろう。

 言うまでもなくトヨタは、実用ハイブリッド車の「プリウス」を世界初の量産車種として世に送り出したメーカーだ。その際に英語の略称として使っていたのがHV(Hybrid Vehicle)。その後、ハイブリッド車の電池を増量し充電対応としたプラグインハイブリッド車を「プリウスPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)」として市販化し、水素によって発電する燃料電池車をFCV(Fuel Cell Vehicle)の「MIRAI(ミライ)」として量産発売してきた。

 ところが、この決算説明会資料においては表記を変更。HV(Hybrid Vehicle)はHEV(Hybrid Electric Vehicle)に、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)はPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)に、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)と、EV入りの表記に変更していた。そして、今までEV(Electric Vehicle)と略されることが多かった、バッテリのみをエネルギー源として走る電気自動車については、BEV(Battery Electric Vehicle)と表記。BEV、HEV、PHEV、FCEVという表記に変更し、EVについてはElectric Vehicleではなく、Electrification Vehicle、つまり電動化車両と位置づけたように見える。

 クルマに関しては詳しい方はご存じだろうが、実はこの辺りの表記は自動車メーカーによって異なっていた。海外と異なるのであればともかく、国内メーカー同士でも異なっていた。よく知られているのは三菱自動車工業の「アウトランダー PHEV」で、同じプラグインハイブリッド車であるにもかかわらずPHVとPHEVが市場に混在する形となっていた。

 これがよい方向に働けばもちろんよかったのだろうが、そもそもプラグインハイブリッド車という新しい概念や、従来とは異なる燃費の表記法など新しい情報山積みの上に、PHVやPHEVが混在する形となり、さらに難しいクルマという印象を与えてしまったように見える。そして、プラグインハイブリッド車の記事を作る側としても、トヨタのときはPHVと表記し、三菱自動車のときはPHEVと表記するのはよいとして、では一緒に紹介するときは「むむむ……」となり、結局記事化を見送ったときもあったほどだ。

 この混乱は「トヨタが~」「三菱が~」という問題ではなく、トヨタが先駆者であったための歴史だろう。そもそも、初代プリウスの発売は1997年。将来これほど電気自動車の時代になると誰もが思っておらず、燃費をよくするためのアイテムと思われていたくらいだ。それゆえにトヨタはハイブリッド車=HVとしてプリウスを訴求。ハイブリッドが何と何のハイブリッドかあまり説明することもなく、プリウスをしっかり普及させていった。

 当時は街中に充電器は一つもなく、プリウスを電気自動車とガソリン車のハイブリッド車と説明するメリットは何もなかった。

先駆者のため、そして成功したためにハイブリッド車は一つのジャンルに

初代プリウスの説明もHEVに。トヨタの覚悟が感じられる

 クルマに詳しい人であれば、このプリウスに搭載されていたTHS(Toyota hybrid system)がどれほど素晴らしいものであるか理解しているだろう。モーターからのトルクと内燃機関からのトルクを遊星歯車を使ってスムーズに混合し出力、2モーターにより回生までも行なっている。このトルク混合の仕組みは形を変えつつ今でも使われており、これがトヨタの強みになっている。

 そして大成功してしまったが故に、ハイブリッド車が一つのジャンルとして成り立ち、後にバッテリのみで走る電気自動車が出てきたときに、ハイブリッド車には電気自動車の要素がすべて入っているにもかかわらず「ハイブリッド車 vs. 電気自動車」という謎な対立軸で捉えられることになった。そしてなぜかトヨタは電気自動車で遅れているという論調とともに。

 この対立軸は、クルマの対立軸ではなく、インフラの対立軸と捉えるのが正しいようにも見える。充電器のない時代にプリウスは登場し、街中に充電器が普及しようとするときに電気自動車は登場した。そしてプリウスはガソリンスタンドインフラの中で生まれ自家発電しつつ走るが、電気自動車は充電器インフラの中で走るように作られているだけとなる。

 そこに加わったのがカーボンニュートラル=電動化=電気自動車という議論。ハイブリッド車は電動化車両であるにもかかわらず、先述したように大成功したが故に、なぜか一つのハイブリッド車というジャンルのクルマと捉えられ、電動化車両とすぐに理解してもらえなくなっていた。カーボンニュートラルを目指す時代において、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車はそれぞれ別のジャンルではなく、広く一般の人に電動化車両ですよと伝えなければならなくなってきた。

 その中で、トヨタが公式資料である決算資料でBEV、HEV、PHEV、FCEVという表記に変更してきたことに驚きを受けるとともに、トヨタの覚悟を感じる。

カーボンニュートラル論議はエネルギー論議に

 トヨタの社長である豊田章男氏は、現在、日本自動車工業会の会長も務めている。その中で、たとえばプラグインハイブリッド車はPHVという議論にまとめることもできたはずだ。HEVも本田技研工業が新型フィットで訴求し始めており、トヨタとしてはある意味追随する決断をしたことになる。世界で最もたくさんハイブリッド量産車、プラグインハイブリッド量産車を販売しているメーカーがだ。

 ただ、この大きな決断による自動車業界のメリットは大きいだろう。HVでなくHEVと書かれていれば子供でもハイブリッド車が電動化車両であることは分かる(そして、それは正しい認識だ)。もちろんPHEVもFCEVも、そしてピュアEVとマーケティング的に語られることの多かったBEVも電動化車両の一つと認識される。

 その正しい認識が浸透すれば、それがカーボンニュートラルとなるのかどうかはエネルギー源の議論になっていくしかない。FCEVは水素を燃料とするため、その水素がカーボンニュートラルで製造されるのならばカーボンニュートラル車だ。同様に、HEVも内燃機関の燃料がカーボンニュートラル(e-fuelや水素?)となるのであれば、それはカーボンニュートラル車となるだろう。その一方、BEVのエネルギー源である電気は、現在カーボンニュートラルで製造されているのだろうか?という論議も深まっていく。

自工会 豊田章男会長 、カーボンニュートラルと電動化を語る 「自動車産業はギリギリのところに立たされている」

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1296023.html

 豊田章男社長は、2020年12月の自工会会長としての会見で電動化については「ワンボイスで伝えてきた」と表現。その時点で何らかの覚悟があり、それが表に出たのが5月の決算資料になるのかもしれない。

 いずれにしろ、HEV、PHEV、FCEV、そしてBEVとすべてが電動化車両(Electrification Vehicle)と誰でも分かるようになった。これにより、「HEV vs. BEV」という謎の対立軸はなくなり、カーボンニュートラルの議論はエネルギー源の議論へとステップを進めていくことになるだろう。

トヨタが見据えるのは国内だけでなく世界。14億台の内燃機関車両のカーボンニュートラル化が控えている。そして、それは大きなビジネスチャンスでもある