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自工会 豊田章男会長 、カーボンニュートラルと電動化を語る 「自動車産業はギリギリのところに立たされている」
2020年12月17日 21:48
- 2020年12月17日 開催
12月17日、自工会(日本自動車工業会)豊田章男会長のオンライン記者会見が開催された。豊田章男会長出席で行なわれたこの会見だが、記者からの質問は電動化やカーボンニュートラルに関するものがほとんどで、豊田会長は具体的な数字を出しながら、その質問に答えていた。
これほどカーボンニュートラルに関して質問が集中したのは、10月26日に行なわれた菅総理の所信表明演説で「我が国は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と宣言が行なわれ、政府が明確に政策目標を掲げたことにある。
日本の主要な産業である自動車は、ご存じのように内燃機関(ICE、Internal Combustion Engine)のみで動いているものが多く、2050年にカーボンニュートラルを達成するとなると、多くの自動車で電動化は必要となってくる。
しかしながら、一般的には電動化=EV化と思われていることが多く、豊田会長はその点の認識の変更を報道陣に依頼しつつ、カーボンニュートラルに関する質問に答えた。
自工会 豊田章男会長:
2050年のカーボンニュートラルについてでありますが、総理のですね、このタイミングにデジタル化とカーボンニュートラルを政策の柱、そして体制をも建てられたのは、この国を母国として働いてるわれわれ自動車業界にとっては大変ありがたいと思います。
今朝方理事会がございまして、自工会としては2050年のカーボンニュートラルを目指す菅総理の方針に貢献するため全力でチャレンジすることを決定いたしました。ただ、画期的な技術ブレークスルーなしには達成が見通せず、サプライチェーン全体で取り組まなければ、一切競争力を失うおそれがございます。
大変難しいチャレンジであり、欧米中と同様の政策的財政的支援を要請したいというふうに思っておりますが、ちょっと補足させていただきます。
自動車業界としては、CO2排出量も01年度(2001年度)から18年度(2018年度)を比べますと、01年度2.3億tだったのが、1.8億tと22%%削減をしております。
平均燃費も01年度のときには、JC08モードで13.2km/Lだったのが、18年度は22.6km/Lに向上し、71%向上しております。次世代のクルマの比率は08年度は3%だったのが、現在19年度ですが39%、これも36%上がってきております。
電動化比率はご存じのように、世界第2位の35%。1位はノルウェーの68%ですが、これは絶対台数でいきますとノルウェーの10万台に対しまして日本は150万台です。作っている工場自体も、工場のCO2排出量は09年度の990万tから、18年度は631万tと36%削減をしております。
自動車会社が作る、そして使うものを売るというところでは結構努力をしておりますし、データ上もこうやって結果が出ていると思います。カーボンニュートラル2050と言われるんですが、これは国家のエネルギー政策の大変化なしにはなかなか達成は難しいということをぜひともご理解いただきたいと思います。
例えば日本では火力発電が約77%、再エネ(再生エネルギー)とか原子力が23%の国であります。片やドイツとかフランスは、この火力発電が例えばドイツですと6割弱、再エネと原子炉47%、フランスは原子力中心になりますが、89%が再エネ&原子力で、何と火力は11%ぐらいです。
ですから、大きな電気を作っている事情を絡めて考えますと、例えば当社の例になってしまいますが、「ヤリス」というクルマを東北で作ってるのと、フランス工場で作るのは同じクルマだとしても、カーボンニュートラルで考えますと、フランスで作っているクルマの方がよいクルマってことになります。
そうしますと、日本ではこのクルマは作れないということになってしまう。それと、あえて申し上げますと、EV化でガソリン車を廃止しましょう、EV化にしましょうってよくマスコミ各社もですね、電動化イコールEV化ということで対立的に報道されますけど、実際ですね、乗用車400万台をすべてEV化したらどういう状況になるか、ちょっと試算をしたのでぜひ紹介させてください。
夏の電力、使用のピークのときに全部EV車であった場合は、電力不足。解消には発電能力を10~15%増やさないといけません。
この10~15%というのは実際どんなレベルかというと、原発でプラス10基、火力発電であればプラス20基必要な規模ですよということをご理解いただきたいと思います。
それから保有すべてをEV化した場合、充電インフラの投資コストは、これは約14兆円から37兆円にかかります。
自宅の充電機増設は約10万から20万(円)、1戸の集合住宅の場合これは50万から150万。で、急速充電器の場合は平均600万のですね、費用がかかります。約14兆円から37兆円のこの充電インフラコストがかかりますよという実態です。
EV生産で生じる課題としては、例えば電池の供給能力が今の約30倍以上必要になるということです。そうしますと、コストで2兆円。それから何よりも、EV生産の完成検査時には、いわば消費される電力がございます。
例えばEVをやる場合、その完成検査に充放電をしなきゃいけないので、現在だと1台のEVの蓄電量は家1軒分の1週間分の電力に相当します。これを年50万台の工場だとすると、日あたり5000件のですね、電気を充放電。
火力発電で作って、CO2をたくさん出した電気を作り、そのうちの各家庭で使う日あたり5000件がですね、単に充放電されるぐらいじゃないと維持できませんよというような形を分かって政治家の方があえてガソリン車をなしにしましょうと言っておられるのかどうなのか。その辺はですね、ぜひ正しくご理解いただきたいなというふうに思っております。
これは国のエネルギー政策そのものでありますし、ここに手を打たないと、この後、この国ではもの作りを残して雇用を増やし、税金を納めるという自動車業界が現在やっておりますビジネスモデルが崩壊してしまうおそれがあるということは、ご理解たまわりたいなと思います。
ちなみに今年コロナ禍において就業者数が日本全体では93万人減ってきております。しかしながら、自動車業界は11万人増やしております。これがもし仮にカーボンニュートラルで日本で作ってるクルマはCO2の排出が多いため作れなくなるということでありますと、コロナ禍においても増やしていくような、下手をしたらゼロかマイナスの方へ行ってしまう。
これが本当にこの国にとっていいことなのかわるいことなのか、その辺はですね、みなさまのご良識にお任せいたしますが、ぜひともですね、自動車産業はそういうギリギリのところに立たされておりますので、ぜひともですね、正しい情報開示よろしくお願いしたいなと思います。
自工会の算出によると、すべてをEVにした場合(このすべてをEVについては、保有台数であるとのことを確認。自工会発表による2018年末の日本の乗用保有台数は約6200万台。「JAMA - 世界生産・販売・保有・普及率・輸出」参照)足りなくなる電力は原子力発電10基分。一般的に原子力発電 1基あたり100万kWで算出されることが多く、そのような数値になっていると思われる。この日本で、新設の原子炉を10基建設するのは難しく、そうなると火力発電に頼らざるを得ない。自工会の算出では20基となっているが、これは50万kWと通常タイプの火力発電で計算されており、最新のガスタービンコンバインドサイクル発電では1系統で150万kWを超えるものもあり、熱効率も60%を超えている。とはいえ、ガスを燃やすICEなのでカーボンニュートラル的には、熱効率60%近くのクルマで動く(送電損失などはすべてゼロと仮定して)のと変わらないことになる。
いずれにしろ、豊田会長は電動化=EV化ということでは、日本の自動車産業が立ちゆかなくなり、まずは電動化=EVという多くの認識を改めていきたいということになるだろう。
クルマに詳しいユーザーであれば、今世界的に言われている電動化はオールバッテリで動くEVではなく、電動の部分も持ったクルマであることはよく知られていることだ。回生モーターがあることでブレーキ時や停車時のエネルギー回生が可能になり、効率よくエネルギーを使うことができる。
代表的なクルマとしては、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、そして燃料電池車だろう。日本はこれらのクルマがほかの国に比べてたくさん走っているため、豊田会長の言うように電動化率は世界第2位の35%。しかしながら、電動化=EV、で後進国化となってしまうのは、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、そして燃料電池車がEVの仲間であると認識されていないことにあるのは間違いない。
電動化について新しい用語をという質問もあったが、それに対して豊田会長は「電動化とワンボイスで伝えてきた」という。であるなら、ハイブリッド車は「HEV」と、プラグインハイブリッド車は「PHEV」、そして燃料電池車は「FCEV」と、電動化車両はすべてEV入りの表記にするのがよいのではないだろうか。
この辺りの表記は自工会に加盟しているメーカー内でもまちまちで、プラグインハイブリッド車は「PHV」なのか「PHEV」なのかは記事を書いていても悩みどころ。せめて各メーカーバラバラの用語で訴求するのではなく、自工会で統一して訴求してほしい部分になる。
そして、電動化について大きな問題となるのが軽自動車。その軽自動車についても電動化に関する質問があり、豊田会長は答えた。
自工会 豊田章男会長:
この電動化比率を見てもですね、例えば軽中心のダイハツさんは現在その電動化比率とか非常に低いのです。ところがこの軽というクルマはいわば日本の国民車ですね。
そのモビリティである軽自動車しか走れない道、その軽自動車しか相互通行できない道が日本には85%です。
ですから、軽なかりせば、都会では生活ができるかもしれませんが、一歩地方に出てみた場合、完全なライフラインになっております。何とかこの軽がこのCASEの時代かつ電動化でいろんなルールがある中でも、やはり軽の存在、そしてお客さま目線の存在っていうことを、自動車業界のわれわれが忘れてしまっては駄目なんじゃないのかなと思います。
そういう意味では、やはりみなさん方にぜひお願いなんですが、「ガソリン車さえなくせばいいんだ」という報道をされることが、「カーボンニュートラルに近道なんだ」というふうに言われがちになるんですが、ぜひともですね、日本という国は、やはりハイブリッドとPHV、FCV、EVというその中で、どう軽自動車を成り立たせていくのか? どう今までのこのミックスで達成をさせていくのか、そっちの方に行くことこそが日本の生きる道だと思います。
私も自工会会長として、現在の自工会の体制を見直しまして副会長、2輪代表、大型代表、そして軽については副会長が入っておられませんけど、私が今のところ軽の件を代表したものを言っております。
2輪、大型、軽そして乗用を合わせて、日本という国が今までの実績が無駄にならないように、どう2050年のカーボンニュートラルに向けていくか。簡単なことでもないですし非常に複雑です。
でも自動車業界は今朝、難しい状態であるけどもチャレンジしようということを全会一致で決めております。ですからぜひとも、日本は電動化に遅れてるとか異様な書かれ方をしてしまいますけども、これも実際はですね違います。結構進んでおります。
この進み方がどういう形で日本のよさを維持発展させながらやっていくのか。ぜひとも応援をいただきたいというふうに思います。ありがとうございました。
豊田会長の指摘しているように、軽自動車はとくに公共交通機関の少ない地方においてインフラと言ってもよいほどの存在になっている。その特徴は小さく、軽いことで燃費よく走ることであり、そこに現時点の電動化技術を組み合わせても、効率よい社会を作りにくいことだ。
現在のリチウムイオン電池のエネルギー密度は、重量エネルギー密度で約240Wh/kg、体積エネルギー密度で約600Wh/L。これはガソリンの1万3000Wh/kg、9300Wh/Lに比べて圧倒的に劣っており、ガソリン車が熱効率約50%で変換した場合と比べても大きく重いのが欠点だ。ある程度大きなクルマであればエネルギー効率のよさ(100%で変換可能として)から大きさや重さを隠蔽できるが、軽自動車であるとバッテリの電気を使ってバッテリを運ぶという高価な乗り物になりかねない。それが豊田会長の言う「全力でチャレンジする」が「画期的な技術ブレークスルーなしには達成が見通せず」ということにつながっている。
では、どうすればという部分に現状で最適な解はない。一歩一歩問題を解決していくしかなく、「電動化=EV化、カーボンニュートラル達成」という雰囲気の論議のまま単にカーボンニュートラルを性急に達成する法律などが作られてしまうと、「日本ではこのクルマは作れない」(豊田会長)ということになりかねない。その危機感が現われていた会見だった。
来年、2021年は自工会が主催する東京モーターショーの開催年にあたる。このモーターショーに関する質問があったものの、内容については検討中とのこと。であるなら、単にEVを展示するなどではなく、自動車における電動化とはなにか、日本におけるカーボンニュートラルとはなにかをしっかり訴求する大きなチャンスが控えていることになる。