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フォルクスワーゲン・グループ、電動化とデジタル化を軸とした新戦略「NEW AUTO」を発表

2021年7月13日(現地時間) 開催

フォルクスワーゲンの新戦略「NEW AUTO」

 フォルクスワーゲン・グループは7月13日(現地時間)にオンライン会見を行ない、同社の自動車開発の新戦略「NEW AUTO」を発表した。フォルクスワーゲン・グループは、2021年~2025年までに730億ユーロ(1ユーロ=130円換算で、約9兆4000億円)の研究開発費を投じることをすでに発表しているが、電動化とデジタル化向けの割合を増やしていくと明らかにした。

 それにより、BEVに対応したグループ共通のプラットフォームとなるSSP(Scalable Systems Platform)の開発、同社のソフトウエア子会社となるCARIAD(キャリード)によるソフトウエア開発、2030年までに6つの巨大工場を建設する予定のバッテリー調達などの戦略を加速していく。

グループ共通のBEVプラットフォームSSPの導入など「NEW AUTO」戦略を発表

フォルクスワーゲン・グループ CEO(最高経営責任者) ヘルベルト・ディース氏

 フォルクスワーゲン・グループ CEO ヘルベルト・ディース氏は「われわれは内燃機関からeモビリティへの移行という非常に重要なステップを迎えている。そしてその先にはより安全でスマートな自動運転車への移行というチャレンジが待ち構えている。これらにより自動車はより複雑で、洗練されたインターネットデバイスのようになる。それはスマートフォン産業が実現してきた道そのものだ。それによりこれからの自動車には、デジタルのエコシステムという新しいゲームのルールが導入される。それに向けて今日われわれは2030年に向けた新しい戦略を発表する。それが“NEW AUTO”だ」と述べ、今後の自動車産業は電動化への対応と、デジタル化への対応が鍵になり、自動車メーカーの研究開発もそれにしたがってシフトしていくべきだとして、それに向けて同社が「NEW AUTO」と呼んでいる研究開発戦略を導入すると説明した。

新しいBEVプラットフォームSSPを2025年に投入
自動車開発の形を変えていく
BEVへの移行を加速
2030年にはBEVの割合50%を目指す

 すでにフォルクスワーゲンは、2021年から2025年の4年間に730億ユーロ(1ユーロ=130円換算で、約9兆4000億円)の研究開発費を投じることを明らかにしている。これは同社が行なうさまざまな投資のうち約50%を占めている巨額の投資で、今後はその使途のうち電動化やデジタル化の割合を増やしていくとフォルクスワーゲンでは説明している。

フォルクスワーゲン・グループ CFO(最高財務責任者) アルノ・アントリッツ氏

 フォルクスワーゲン・グループ CFO アルノ・アントリッツ氏は「われわれは今後ICEのラインアップを段階的に減らしていく。ICEの市場は今後10年で20%減少していくと予想しており、その後もBEVに置き換わるなどして減少していくからだ。それに対してBEVは急成長が望めるため、そこに投資を集中していく」と述べ、同社が現在複数ラインアップしているICE(内燃機関エンジン)を段階的に整理していくと表明した。

ICEの売上は徐々に減っていく
自動車の変革
ICEの利益は減っていく

 それに対してBEV(バッテリー電気自動車)の割合は今後も増えていく見通しで「2025年には20%、2030年~2031年にはフォルクスワーゲンが出荷する車両のうち50%はBEVになる見通しだ。BEVへの移行には初期投資は必要だが、その後、徐々に開発へのコストを減らすことが可能になり、今後2~3年のうちにICEベースの車両とBEVの車両との利益率が逆転するようになる」とアントリッツ氏は述べ、BEVへの移行が企業経営の観点からも合理的な戦略であると説明した。

技術の転換
財務面でも考え方を転換
BEV化が進展するとコストは下がる
今後数年でBEVとICEの利益率の差は無くなる
利益率は上がっていく

 そして同社の開発戦略として、グループ各社(アウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェなど)向けに共通で開発されるプラットフォーム、そして同社の子会社でソフトウエアを専門に開発しているCARIADの開発したソフトウエア、さらには社内およびパートナーと共同で開発・製造するバッテリー、さらには同社子会社のMOIA(モヤ)や同社が投資しているARGO AIなどのMaaSや自動運転のシステムを開発する企業から提供されるシステムなどについて説明した。

グループのブランドで共通した技術の開発を行なう
車両構成の例
CARIADのソフトウエア開発
MaaSの開発
目標

 例えばCARIADはすでにID.ファミリーの製品に「E3 1.1」と呼ばれる自動車用システムソフトウエアを提供している。2023年にはそれが進化した「E3 1.2」の提供が、2025年には「E3 2.0」と呼ばれるフォルクスワーゲン独自のOSを採用したシステムの提供がそれぞれ開始される。それをグループ各社に横展開していくため、「最初の数年は開発費でマイナスになるが、その後はプラスに転じる」とアントリッツ氏は説明した。

 アントリッツ氏は、そうした効果により、現在7~8%程度の営業利益率は2025年には8~9%に上昇する見込みであるとした。

BEV向けのグループ各社の統一プラットフォームとなるSSPを発表

Audi AG CEO 兼 フォルクスワーゲン・グループ 研究開発責任者 マルクス・ドゥスマン氏

 会見の後半ではBEVの単一プラットフォームとなる「SSP」、CARIADの自動車用ソフトウエア「E3」、新しくスペインに巨大工場(ギガファクトリー)の建設が明らかにされたバッテリー調達、さらには自動運転やMaaSなどへの取り組みなど、各事業の責任者から技術に関する詳細な説明が行なわれた。

SSPは従来併存していたブランドごとのプラットフォームを1つに統一する

 Audi AG CEO 兼 フォルクスワーゲン・グループ 研究開発責任者 マルクス・ドゥスマン氏はBEV向けのプラットフォームに関して説明した。ドゥスマン氏は「現在はフォルクスワーゲンがMQB、ポルシェがMSB、アウディがMLBという3つのプラットフォームが併存している。BEVへの移行段階で、フォルクスワーゲンがMEB、ポルシェとアウディがPPEという共通のプラットフォームを導入して2つに減らす。そして2025年末からSSPという単一のBEVプラットフォームの導入を開始して、グループ全体の車両設計に利用する」と説明した。さらに、このSSPはフォルクスワーゲン・グループだけでなく、ほかの自動車メーカーに対しても提供していくという。

SSPをベースに、ソフトウエア、バッテリー、パワートレーンなどを組み合わせて自動車を設計する

 フォルクスワーゲン・グループに限らず、現在世界の自動車メーカーではプラットフォームと呼ばれるシャシーのベースになる設計を開発し、それを元にして異なるボディやパワートレーンを組み合わせることで車種をバリエーションしていくという開発方法が一般的になってきている。フォルクスワーゲン・グループではアウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェのような主要なブランド以外にも、シュコダ やクプラのようなバリュー向けのブランドや、ランボルギーニやベントレーといったプレミアム向けのブランドまで複数のブランドを抱えている。それぞれのブランドが独自に車を開発すると、すぐに開発費が膨れ上がってしまう。そこで、車体をプラットフォーム、ソフトウエア、パワートレーン、バッテリーなどに分割して開発し、それぞれの車種にあったものを各ブランドが選択し、それぞれのブランドにあったデザインを採用して車を構成する開発手法をとっていく(すでに一部には導入済み)。

 従来このプラットフォームはフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェと主要ブランドが別々に設計していたのだが、それをグループ全体で統合していく、それがSSPになる。

SSPの導入計画、Artemis、Trinity、Apollonなどのコードネームの製品が計画されている

 ドゥスマン氏によれば「まずSSPに対応した最初の製品としてArtemis(アルテミス)と呼ばれる車両を2025年にリリースする。その後フォルクスワーゲンなどの普及価格帯の製品に向けてTrinity(トリニティ)、そしてアウディなどのプレミアムブランド向けにApollon(アポロン)を2026年に投入する計画だ」と述べ、ギリシャ神話の神の名前がついたSSPに基づいた開発コードネームがついたBEVを2025年に以降に順次投入していくと表明した。

CARIADが開発するソフトウエア、2025年に独自のVW.OSを搭載した「E3 2.0」を投入

CARIAD CEO ダーク・ヒルゲンブルグ氏

 CARIAD CEO ダーク・ヒルゲンブルグ氏はCARIADが開発しているフォルクスワーゲンの自動車向けソフトウエアのロードマップに関して説明した。

CARIADが開発するソフトウエアのロードマップ

 すでにフォルクスワーゲンは発売中のID.3やID.4といったBEVに、同社が「E3 1.1」と呼んでいるソフトウエアプラットフォームを導入している。E3 1.1ではOTA(On The Air:インターネットを通じてアップデートを行なえる機能)やスマートフォンが自動車の鍵になる機能などが導入されている。2023年に導入する予定のプレミアムセグメント向けの「E3 1.2」ではAndroid Automotiveベースのエンターテインメント機能が導入され、モバイル機器向けのコンパニオン機能が追加されるほか、サードパーティーのApp Store機能が用意され、フォルクスワーゲン以外が提供するアプリもシステムに組み込むことが可能になる。

E3 1.1とE3 1.2

 そして大きく進化するのが、2025年に導入される計画の「E3 2.0」になる。このE3 2.0ではボリューム向けのE3 1.1とプレミアム向けのE3 1.2に分離していたソフトウエアプラットフォームが1つのプラットフォームに統合される。

E3 2.0

 さらにフォルクスワーゲン独自のOSとなるVW.OSとVW.ACが導入される。これによりOSはフォルクスワーゲン独自の仕様になり、レベル3/4の自動運転機能が提供されることになる。このE3 2.0はSSPと一緒に提供され、自動運転の機能やより進化したデジタル機能などをフォルクスワーゲン・グループの車両に提供していくことになる。

2030年までに4000万台に搭載される計画

 ヒルゲンブルグ氏は「2030年までにCARIADのソフトウエアを搭載した車両を4000万台にしたい」と述べ、意欲的な目標を掲げて今後も開発を続けていくとした。

2030年に240GWhの製造キャパシティーを実現する3つめの巨大工場はスペインに設置と明らかに

バッテリーはEV化の重要なパーツとなる

 フォルクスワーゲンは3月にバッテリー関連の開発、調達戦略を説明するイベント「Power Day 2021」を行ない、その中で2030年までに6つの巨大工場(ギガファクトリー)を建設し、240GWhの製造キャパシティーを確保する計画であることを明らかにしている。

フォルクスワーゲン、バッテリーの開発戦略を発表 EVの低価格を目指して「Unified Cell」を2030年までに80%の車両で採用

シェルレフテオーの合弁工場とザルツギッターの自社工場の製造キャパシティーを2025年までに倍に
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1312249.html

 フォルクスワーゲンではその6つの巨大工場について、スウェーデンのシェルレフテオー、ドイツのザルツギッターが最初の2つであることを明らかにしていたが、今回のイベントで3つめがスペインであることが明らかにされた(スペインのどこであるかは明らかにされていない)。また、ドイツのザルツギッターの工場での製造には、中国の「Gotion High-Tech」がパートナーとして製造に関わることも同時に明らかにされている。

フォルクスワーゲンのバッテリーは共通セルが基本戦略。そのセルに化合する化合物をエントリー向け、ボリューム向け、プレミアム向けで切り替えていく
3つめの工場はスペインに建設

 また、引き続き欧州や米国、中国などで充電装置の設置に関してパートナー企業と一緒になって取り組んで行くという姿勢を強調した。

充電インフラの拡充に引き続き取り組む
MaaSや自動運転ソフトウエアの開発も続けて行く