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日産、前年同期比で大幅増の売上高2兆82億円、純利益1145億円を計上した2021年度第1四半期決算説明会

2021年7月28日 発表

日産自動車株式会社 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏

 日産自動車は7月28日、2021年度第1四半期(2021年4月1日~6月30日)の決算を発表し、オンラインで決算説明会を開催した。

 第1四半期の売上高は前年同期(1兆1742億円)から8340億円増となる2兆82億円、営業利益は前年同期(-1539億円)から2296億円増の757億円、当期純利益は前年同期(-2856億円)から4001億円増の1145億円。また、第3四半期累計3か月のグローバル販売台数は前年同期(64万3000台)から40万5000台増の104万8000台となった。

日産自動車株式会社 COO アシュワニ・グプタ氏

 説明会では最初に、日産自動車 COO アシュワニ・グプタ氏が発表した決算内容について解説。

 グプタ氏は決算説明に先立ち、「2021年度の当社は順調な滑り出しを見せています。それは効率的な事業運営と財務管理の徹底、刻一刻と変化する状況に対応する取り組みを進めてきたことが功を奏している結果です。これは従業員1人ひとりが全力を尽くし、各部門の皆さんが総力を挙げて取り組んでくれたおかげです。とくに半導体の供給不足に効率的に対応してくれている生産、およびサプライチェーンの皆さんの活動に敬意を表したいと思います」とコメント。

 業績のポイントとしては、新型コロナウイルスの影響によって前年度に落ち込んだ新車販売がグローバルで回復したことに合わせ、日産でも販売台数を急回復。また、「デジタルをきっかけとした販売」も第1四半期内で成長を見せ、これについては新車の供給状況が不透明になっていることを受け、購入を検討している人がディーラーに足を運ぶ前に、オンラインで簡単に在庫検索できるようにしたことが貢献したとグプタ氏は分析した。

 市場ごとの販売状況では、すべての市場で販売台数が増加。米国ではニューモデルが牽引役となって68%増、ホームマーケットである日本では、供給不足の影響で軽自動車の販売が落ち込んだところを新型「ノート」などの投入で補ったことにより7%増という結果となった。

 中国は全体需要が急回復したことを受け、“技術の日産”というブランド力も活用して新車販売台数は71%増を実現。欧州でも販売会社が休業を余儀なくされていた前年同期から69%増となっている。その他市場でも78%増となり、半導体の供給不足など複数の要因が逆風となる市況でも力強い結果を残している。

グローバル市場の販売回復を受け、日産車の販売も急回復
多くの市場で販売台数を回復した

 販売が好調を見せた戦略の中心となったのは、「大胆なデザインと魅力にあふれる技術を搭載した新型車の投入」だとグプタ氏は説明。米国市場に投入した「ローグ」は第1四半期でSUVセグメントにおけるシェアと5.2%から8.2%まで高め、購入者からも商品性が高く評価されて1台あたりの売上高を28%押し上げているという。中国でも「シルフィ」で販売価格を維持しつつ、セグメントシェアを拡大。ライバルが値引きを行なっているなかでも“技術の日産”というブランド力を際立たせているとした。

 日本では2020年11月から販売している新型「ノート」が第1四半期に1台あたりの売上高を31%改善し、セグメントシェアも12.2%を確保したとアピール。これは新型車の技術と魅力あるデザインをユーザーが評価してくれている結果だと語り、続いて登場した「ノート オーラ」や新型EV(電気自動車)「アリア」、欧州向けの新型「キャシュカイ」などの新しいモデルで販売に勢いを与え、他社とは一線を画した商品群に注力して、プッシュ型の販売から大きな値引きをする必要のないプル型の販売に移行していると説明した。

 2020年5月に発表した4カ年計画「NISSAN NEXT」についても、達成に向けてスピード感を持って邁進していると紹介。固定費の改善による最適化では、2018年と比較して固定費を約3500億円削減。これにより、損益分岐点となる販売台数を当初の500万台から440万台に引き下げることに成功している。新車1台あたりの売上高も、新型車の好調を受けて2019年度比で16%アップを実現した。今後に向けても4月に米国で「インフィニティ QX55」、中国で「エクストレイル」「シルフィ e-POWER」を発表しており、6月には英国のサンダーランド工場で「キャシュカイ」の生産を開始していることなどを紹介。不透明な市況にもかかわらず、計画している12モデルのうち11モデルを発表して将来に向けた勢いを生み出しているとアピールした。

 このほか将来に向けた投資として、7月1日にEV生産のエコシステム構築でハブとなる「EV36Zero」を発表。英国・サンダーランド工場で新世代のクロスオーバーEVを生産し、ゼロエミッションエコシステム構築に全力を注ぎ、電動化戦略を拡大していくと述べた。

コアモデルや新型車の価値をユーザーが支持したことで、1台あたりの売上高を高めていく戦略を進めている
4カ年計画「NISSAN NEXT」も堅調に推移している

 財務実績については「想定以上の結果」と評価。中国合弁会社の比例連結ベースの数値では営業利益が1037億円で営業利益率4.5%となり、NISSAN NEXTで掲げる「2021年度末までに営業利益率2.0%を達成」という目標に向けて好調なスタートになっているとした。このほか、自動車事業におけるネットキャッシュは7448億円で「当社は引き続き高い流動性を維持している」としている。

 営業利益の増減分析では、変動は主に「販売パフォーマンス」「モノづくりパフォーマンス」に起因していると分析。1932億円の増益要因となった販売パフォーマンスについては、販売増に加えて販売の質向上によって販売費用が改善されたことを指摘。また、タイトな需給バランスが続く良好な市場環境を受け、新型車が複数投入されたことも営業利益押し上げの要因になっていると述べた。モノづくりパフォーマンスでは購買コストの削減、生産コストの改善といった取り組みが432億円の増益につながっている。

 このほか、為替変動はわずかに増益要因となり、原材料価格では上昇が続き、143億円の減益要因になっているという。

財務実績を中国合弁会社の比例連結ベースと持分法適用ベースでグラフ化した指標
営業利益の増減分析
財務実績

 最後にグプタ氏は「将来の成長の原動力に焦点を当てながら、固定費を最適化し、売上高を増大させてNISSAN NEXTの第1章を閉じることができました。私たちのチームは事業全体にまたがってビジネスを行なう企業文化に真の変化をもたらし、量から価値に移行するためにこれまで以上の努力をしてくれました」。

「厳しい状況はしばらく続くと想定していますが、これまでの経験を踏まえて影響を最低限に抑えるため、生産や在庫に細心の注意を払ってまいります。今年度は好調なスタートを切ることができました。この勢いを慎重に持続させてまいります。そして、差別化され、お客さまに焦点を当てた環境に優しい技術と商品を原動力として、持続可能な成長フェースに移行していきます」とコメントしている。

通期見通しで売上高を6500億円、純利益を1200億円上方修正

通期見通しについて語る内田氏

 グプタ氏の決算解説に続き、日産自動車 代表執行役社長兼CEO 内田誠氏が登壇。2021年度の通期見通しについて説明を行なった。

 内田氏は5月に行なわれた2020年度決算の発表内で公表した2021年度の通期見通しについて、第1四半期が好調に推移したことを受けて上方修正すると発表。売上高を9兆7500億円、営業利益を1500億円、当期純利益を600億円とした。営業利益率では中国合弁会社の比例連結ベースで2.0%以上となる数値で、NISSAN NEXTで掲げている2021年度目標を達成できるとの見方を示した。

 具体的な営業利益の増減分析も示され、為替変動で800億円、販売の質向上や販売金融事業、中古車価格上昇といった影響によるパフォーマンス面で1050億円の増益見込み、一方、原材料価格の上昇を追加のリスク要因として盛り込んで350億円の減益見込みとした。

 内田氏は「NISSAN NEXTで設定した今年度の目標を必ず達成し、最終ゴールである2023年度の営業利益率5.0%達成に向け、全社一丸となってさらに改革を進めていきます」と意気込みを語った。

販売台数は据え置きとしつつ、売上高や純利益などを上方修正
営業利益の増減分析

 また、内田氏が日産のCEOに就任してから1年8か月が経過したことを受け、今秋をめどにとりまとめを進めている長期戦略の概要について解説を行なった。

 大きな柱となる電動化では「3つの視点から取り組みを進めている」と説明。電動化のスピードやユーザーニーズは市場によって異なるため、これに柔軟に対応する商品戦略が求められると語り、日産ではEVとe-POWERという2種類の技術を使って対応。EVではアリアに続き、三菱自動車工業との共同プロジェクトである「NMKV」で開発している軽自動車EVを2022年度初頭に国内販売すると発表。また、先日英国で欧州事業向けの新世代クロスオーバーEVの生産計画を発表したことも紹介している。

 e-POWERについては今年度から中国と欧州で導入を開始。日本で手にした成功をグローバル展開するとした。

 日産と三菱自動車、ルノーの3社によるアライアンスも活用し、基幹部品の規格統一による共有化を進めてスケールメリットを高め、生産コストの低減を推進。クルマの進化と同時に生産工程も高度化を図り、高度な電動車両を生産する「NISSANN INTELLIGENT FACTORY」を栃木工場に導入し、アリアの生産を開始する計画も発表した。

 長期的なサプライヤー戦略では生産と調達の現地化を進め、7月1日に英国で発表した世界初のEV生産ハブであるEV36Zeroは、地産地消とカーボンニュートラルの取り組みを組み合わせた「将来のもの作りの姿を示すもの」と位置付け。日本を含めた英国以外のマーケットに展開することも検討を進めているという。

「NMKV」で開発している軽自動車EVを2022年度初頭に国内販売
アライアンスの活用などにより、EVのコスト削減も進めていく

 電動車両の普及には、これまでのクルマの枠を越えた新しい価値の提供も重要だと内田氏は語り、EVによって地域の課題解決を図る「ブルースイッチ」の取り組みが、これまでに日本国内で137件に達していると紹介。さらにバッテリーを中心としたエコシステムでは、EVを「動く蓄電池」として活用し、EVの使用済みバッテリーを「フォーアールエナジー」を通じて2次利用しているといった取り組みを紹介。こうした活動に再生可能エネルギーを組み合わせ、エネルギーセクターとの連携もさらに強化していくとした。

 これらの活動により、EVのパイオニアである日産は長年にわたって培ってきた技術やノウハウで社会貢献していくと内田氏は語り、足下の業績回復と並行して、先を見据えた長期ビジョンの策定とカーボンニュートラル実現に向け、包括的な取り組みを着々と進めていると説明。

 最後に内田氏は「これまでの日産は、どちらかと言えば自分自身との戦いでした。これからが本当の意味で日産という会社の真価が問われると思います。日産はなくてはならないと皆さんに言っていただけるよう、全社一丸となって頑張る所存です」再び決意を口にして解説を締めくくった。

「クルマの枠を越えた新しい価値の提供」が電動車両の普及で重要だと内田氏
長期ビジョンの策定とカーボンニュートラル実現に向け、包括的な取り組みを着々と進めているという
日産の新しい長期戦略は今秋発表予定とのこと

質疑応答

内田氏とグプタ氏に加え、日産自動車株式会社 CFO スティーブン・マー氏(右)も質疑応答に参加

 後半に行なわれた質疑応答では、通期見通しの増減分析で「ビジネスリスク」として示されている1850億円のうち、原材料高でどれだけの金額が見込まれているのかについて質問され、これについては日産自動車 CFO スティーブン・マー氏が回答。

 マー氏は「ここで示しているビジネスリスクは複数の要因で構成されていますが、前回の通期予測からこれにはめどが付いて、今回発表している予想のビジネスリスクは、大半が原材料価格の高騰が理由になっています。これ以外の為替レートや半導体の供給不足といった要因については左側(ビジネスリスク考慮前)にシフトして、これを吸収してもよりよい結果が出て黒字化するということです。なので、1850億円という減益見通しのほとんどは原材料価格になります」と説明した。

今回発表した新しい通期見通しで紹介している「ビジネスリスク」のほとんどは原材料価格の高騰になると語るマー氏

 また、内田氏がCEOに就任してからの期間で感じてきたことなどについて質問され、内田氏は「この会社は個人のスキル、個人の力や多様性に富んでいると感じています。そういった状況でわれわれ経営層がしなければならないのは、従業員の持つ力を100%、120%出せる環境を整備するということで、その点について経営層で一丸となって、まずは従業員の意見にきちんと耳を傾ける。現場で起きていることは8割が現場の人間が正しいと思っています。残りの2割をわれわれ経営層が会社の方向性としてガイドできるかといったところを地道に積み重ねてきた結果として、われわれの業績がよくなってくるとともに、従業員が自信を持ってきたという手応えを感じています」。

「これから日産を輝かせていきたいという取り組みのなかで、従業員が日産で働くことを誇りに思えるような状況を作っていきたい。今はそれができていると感じていますし、そういった状態でわれわれが出している商品に、お客さまから『日産らしい』『日産ならではだね』という声が上がってきて、非常にご好評いただいております。そういったところから、事業という視点で見ると、水面からちょっと顔を出してきた状況。ここからわれわれがどう輝いていけるか、社会に貢献できるか。これを進めるという気持ちで1年7か月、新しい経営陣になってようやく準備が整ってきたのかなと思います。ここからさらに、日産らしさ、企業価値をお客さまに理解していただきながら会社を成長させていくことに尽きると思います」と回答している。

質疑応答で回答する内田氏

 このほか、EUで定められた、2035年からハイブリッドカーも含めたガソリン車の販売を禁止する方針が今後の販売に影響するかを問われた内田氏は「われわれは2050年までに日産のすべての事業と製品におけるLCA(ライフサイクルアセスメント)でのカーボンニュートラルを達成すると表明しており、それには電動化を着実に進めていくことだと思っています。そこでわれわれが目指しているのは、2030年の早い時期から新車で電動化車両を提供していくという方向に変わりはありません」。

「ただ、EVと言ってもこれからは2つあると思っていて、どういったバッテリー技術を用いるのか。今主流のリチウムイオンから『コバルトレス』にするという説明は前にもさせていただいています。その先の技術を明確にしたうえで、どうやって競争力のある価格にしていくのかです。現地化というものが大切で、バッテリーの生産だけではなく、全体でのLCAもコア拠点でどう見るのか。これが英国で発表したばかりの内容(EV36Zero)になっており、順次ほかのコア拠点にも展開する論議を進めています」。

「やり方としては先ほども説明したように、アライアンスで規格を統一してマスメリットを担保していくことも合わせて重要です。電動化車両での事業性を考えるとある程度のボリュームが必要で、アライアンス3社の力を使いながら競争力を上げていく方向で進めることが重要だと考えています」と答えている。

日産自動車 2021年度第1四半期決算発表記者会見(55分10秒)