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ハイパーカー「GR010 HYBRID」でル・マンに挑む、小林可夢偉選手と中嶋一貴選手がオンライン会見

2021年8月18日~22日(現地時間) 開催

「公式テストデー」で2位のタイムをマークした7号車の小林可夢偉選手

ハイパーカー規定になって初のル・マン24時間レース

 Toyota Gazoo Racingは8月18日~22日の5日間にわたって、フランス ル・マン市にあるサルト・サーキットで行なわれる「ル・マン24時間レース」に参戦する。2021年のル・マン24時間レースは、昨年までのLMP(Le Mans Prototype)1規定から、新しいハイパーカー(Hypercar、LMH=Le Mans Hypercarとも呼ばれる)規定に変更された最初のレースとなる。

 トップカテゴリーとなるハイパーカークラスには、TGRが2台参加させる「TGR GR010 HYBRID」のほかに、グリッケンハウス・レーシングの「Glickenhaus 007 LMH」の2台、さらには昨年のLMP1規定ながら特例として参加しているアルピーヌ「Alpine A480」の5台により総合優勝が争われる。

 8月15日には、ル・マン24時間レースに先立ってサルト・サーキットで「公式テストデー」が行なわれ、708号車 Glickenhaus 007 LMHがトップタイムをマークし、TGR GR010 HYBRIDの7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組)が2位、8号車(中嶋一貴/ブレンダン・ハートレー/マイク・コンウェイ組)が3位という結果になった。

 それを受けて、TGRの小林可夢偉選手、中嶋一貴選手の2人のドライバーによるオンライン会見が開催されたので、その模様をお届けする。

「公式テストデー」で3位のタイムをマークした8号車の中嶋一貴選手

昨年と比較して1周で約10秒程度遅くなっている

──テストデーを走り終えて、去年のポールタイムに比べて15秒ぐらい遅かったが、ハイパーカーで始めてル・マンを走った感想を教えてほしい。

小林可夢偉選手:去年のFP1は3分19秒ぐらいだったので、(2021年のタイムである3分29秒台は)約10秒落ちぐらいが今年のハイパーカーでの基準のラップタイムというイメージ。ただ去年と大きく違うのはガソリンの搭載量。去年がだいたい35リッターだったのに対して、今年は65リッター程度と燃料搭載量が全然違う。また、去年はハイブリッドで、クオリファイモードがあったが、今年はクオリファイモードがない代わりに、予選ではガソリンの量を減らすことができる。このため予選がどうなるかは非常に興味深いと思われる。

──走っている感触で、こういうところで遅いなと感じるのはどのあたりか?

中嶋一貴選手:去年とはルールが違うので比べることに意味がない。去年の車両では加速は1000馬力以上、今年は650馬力程度でずっとコンスタントに走っているので、加速区間のタイムは大きく違う。また、クルマも重くなっているので。タイム的には昨年までとは大分違うというのが今のハイパーカーのルール。これまでもテストやレースで走ってきたけど、ル・マンで走るときが、クルマのパフォーマンスを発揮できると感じている。このクルマはル・マンを走るために作ってきたクルマなんだなと感じており、ほかのサーキットで走っていたときよりもよいフィーリングで走ることができた。

──ル・マンでのBOP、その影響はどうなのか?

中嶋一貴選手:基本的にはモンツアと変わっていない、アルピーヌが1周使えるエネルギーに改定はあったが、ラップタイムには大きな影響がないと考えられる。みんなまだ手の内を見せていない、例えばアルピーヌはセクター2では速かったりしており、本番になってみないと正直分からない。

小林可夢偉選手:中嶋選手と同様で、今の段階ではまわりを気にしても意味がない。速いクルマは最初から速くて、クルマ云々よりも自分自身を速くすることが大事だ。正直まわりは気にしていない。このクルマはル・マンをターゲットにして速くなるように作ったのだということを実感しており、個人的にはわるくない。ただ生まれたてのクルマということでやれることは沢山あって今はそれを着実にやっている段階。まわりや去年との比較は気にしていない。大事なことは自分たちが持っているクルマで24時間自信を持って走ることができるかだ。

──去年のLMP1ハイブリッドと比較して燃料カットはないし、ストレートエンドで違うのではないかと思うが、ル・マンでのトラフィック処理はどうなるか?

小林可夢偉選手:トラフィックに関してだが、ラップライムが去年と比較して十数秒遅くなっているので、絶対的に抜かすクルマの量というか、台数は減る。そのため、ロスは減るのではないかと思っている。またハイブリッドと違ってフューエルカットは自動では入らないが、ドライバーが自分たち自身でやることになると思う。というのもそれで燃料がセーブできるからだ。去年までのルールだと11周で絶対にピットに入らないといけなかったが、今年のルールでは燃料をセーブすればするほど長く走ることができる。燃料を使って速く走った方がいいのか、燃料をセーブしてピット回数を減らした方がいいのかは戦略の問題だが、24時間で26回ぐらいは入らないといけないということになると、1回のスティントで1周の違いがでればピットストップの回数が1、2回違ってくる可能性があり、それが可能なら大きなアドバンテージになる。

中嶋一貴選手:小林選手と同意見だ。去年よりはシンプルで、スピード差も小さい。フューエルカットもラップタイムと使えるエネルギーとのバランスの問題で、自分たちで燃料セーブすることはあり得る。特にル・マンはブレーキング前の燃料カットはラップタイムへの影響が小さいので意味がある。その意味でセーブしないでいくのは予選だけになる可能性が高い。

──昨年のクルマと比較して直線スピードなどは比較にならないと思うが、ダウンフォースが増えたことなどへの影響は?

中嶋一貴選手:去年よりもダウンフォースは多い状況で走っており、ハイスピードコーナーやブレーキングのバランスは自分たちが思っていたよりもよかった。

今年は信頼性への不安との戦い、仮に何かが起きても迅速にレースに復帰できるようにしておくことが大事

──グリッケンハウスと一緒に走ってみてどうだったか?

中嶋一貴選手:何度か一緒に走ったが、ストレートエンドまでは向こうの方が速いと感じた。逆にブレーキングやコーナーはこちらの方が少しよく、脱出からストレートに関しては向こうの方が速かった。ラップタイムも近いところにいるので、自分が乗るタイミングでは近くにいないでほしいと感じた(笑)。向こうのクルマがどの程度のドラッグなのかなど数字では把握していないが、そういうところも含めて段々コンディションがよくなってくると向こうも仕上がってきていると感じた。

(チーム関係者からグリッケンハウスはそのままの重量だが、TGRの2台は26kgのサクセスウェイトを搭載していると説明があり)26kgの影響は小さくない。だいたい10kgでコンマ3と言われているので、コンマ6ぐらいの差はあるかもしれない。特に、コーナー時には影響が大きいかもしれない。

──WECの前戦モンツアでは、8号車にパワー低下などのトラブルが出たほか、7号車の方にもパンクなどのトラブルが出ていた。それはグリッケンハウスも同様だったが、ル・マンではどうか?

小林可夢偉選手:不安か不安じゃないかと聞かれれば不安。ただ、前回のレースまででやってきたことを含めて、今回はそうしたことが絶対にないように取り組みをしている。ドライバーもできるだけ迅速にリカバリーできることが大事で、マニュアルを作るなどチームともコミュニケーションを取りながらやっている。

中嶋一貴選手:今回で10回目のル・マンになるが、不安がある状態で臨むのは毎年変わらない。準備をしても何かが起こるのがル・マンだ。モンツアで問題が出たのはある意味よかったとも言え、クルマが新しいので去年よりは何かが起こる可能性がある。できる限りの準備をするしかない。

──今後公式セッションなどが始まっていくが、そこに向けてどういう準備をしていくか?

中嶋一貴選手:基本的には公式テストデーの続きとしてやっていく。我々のチームはセブ(セバスチャン・ブエミ選手、同日行われたFormula Eのレースに出場するため公式テストデーは欠席)が走ってないし、そのあたりのマイレージとのバランスを見ながらやっていく。水曜日、木曜日どちらかが天気がよくない予想もあり、トラックのコンディションに合わせてクルマを合わせ込んでいき、自分たちに何が起きたときのことも想定しながらレースに向けて細かいところを詰めていきたい。

小林可夢偉選手:できるだけクルマ自体をル・マンに合わせ込んでいきたいというのが本音。路面コンディションも大きく変わっていくので、それをレースに向けてやっていければよい。今年に限っては新しいクルマなので、トラブルなども含めて新しいクルマを作っていかないといけない。