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トヨタGR、ル・マン・ハイパーカー「GR010 HYBRID」発表 ル・マン24時間レース4度目の優勝に挑む
WEC2021年シーズン参戦車両
2021年1月15日 08:00
- 2021年1月15日 発表
TOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)は1月15日、ル・マン・ハイパーカー(以下、LMH)「GR010 HYBRID」を正式発表するとともに、2021年シーズンのWEC(FIA 世界耐久選手権)に参戦することを発表した。TGRはWECの1戦に組み込まれている世界三大レースの一つであるル・マン24時間レースを3連覇。FIAの世界シリーズ戦であるWECも2019年~2020年とLMP1クラスでチャンピオンとなるとともに、ドライバーズチャンピオンも獲得している。
今回発表されたGR010 HYBRIDは、LMHレギュレーションにそったプロトタイプカーで、ドイツ・ケルンのチーム本拠地のエンジニアと、日本の東富士研究所に本拠を置くハイブリッドパワートレーンチームが一体となり開発した。
LMHレギュレーション対応マシン「GR010 HYBRID」
搭載エンジンはV型6気筒 3.5リッター 直噴ツインターボチャージャー、エンジン出力は500kW(680PS)、ハイブリッドパワーは200kW(272PS)。エンジンと横置き7速シーケンシャルギアボックス経由で後輪を駆動し、アイシンAWとデンソーが共同開発した272PSを発生するMGU(モータージェネレーターユニット)が前輪を駆動する。これまでTS050 HYBRIDなどではリアにMGUが組み込まれていたが、GR010 HYBRIDではMGUを廃止している。そのため、リアにスターターモーターを組み込み、リアブレーキは油圧を使用しているという。
ボディサイズは4900×2000×1150mm(全長×全幅×全高)、車重は1040kg。タイヤはミシュラン・ラジアル(31/71-18)を装着し、ホイールはレイズのマグネシウム合金製13×18インチ。レギュレーションに組み込まれたコスト削減の一環として、新しいGR010 HYBRIDはTS050 HYBRIDと比べて162kg重くなり、パワーが 32%絞られ、ル・マンのラップタイムは10秒程度遅くなる見込み。ボディサイズは250mm長く、100mm幅が広がり、100mm高くなっている。
チーム体制やWEC 2021年シーズン
チーム体制は、2019-20年シーズンにおいてル・マン24時間レース優勝、WECチャンピオンを獲得したのと同じドライバーラインアップ。新ドライバーチャンピオンである、マイク・コンウェイ、小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペス組が7号車を、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、ブレンドン・ハートレー組が8号車をドライブする。また、ニック・デ・フリーズ選手も引き続きテスト兼リザーブドライバーとして参加する。
WEC、そしてル・マンのトップカテゴリーには、初めてBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)を導入。WECシリーズオーガナイザーがエネルギー使用量や車両重量を規定し、各社のハイパーカーの均一なパフォーマンス実現を目指して、レースごとに車両のパフォーマンスをコントロールしていく。
WEC2021年シーズンは、3月19日のセブリング1000マイルで開幕。5月1日のスパ6時間レース、6月12日~13日のル・マン24時間レース、7月18日のモンツァ、9月26日の富士スピードウェイ、11月20日のバーレーン6時間レースが予定されている。
チーム代表やドライバーコメント
村田久武(TOYOTA GAZOO Racing WEC チーム代表)
WECにとって、とても面白い時代の幕開けだと思います。新たにハイパーカークラスが生まれ、そこに参戦する新しいマニュファクチャラーと一緒に、多くのファンの方々にレースの興奮と感動を届けられると思っています。GR010 HYBRIDは、TGRにとってTS050 HYBRIDのDNAを受け継ぎ、開発中のGR Super Sport(仮称)の兄弟とも言える重要なクルマであり、お客様が将来ドライブするクルマのプレビューでもあるのです。また、GR010 HYBRIDは私たちの最先端の技術ショーケースであり、これまで耐久レースで磨き続けてきたトヨタのハイブリッド技術、パフォーマンスを最大限に注ぎ込んでいます。WEC 参戦を通じて、ハイパーカー技術の理解を深め、「もっといいクルマづくり」に向け人を鍛えます。新しいライバルの参入による厳しい戦いを通じて、我々は更なる高みを目指し挑戦し続けます。応援よろしくお願いします。
ロブ・ロイペン(チーム・ディレクター)
東富士とケルンに本拠地を置く我々だけでなくサプライヤー様やパートナー様も含めて、この世界的に困難な状況の中で新型車両を開発することはとてつもない苦難の連続でした。そして我々はこのクルマを世界に発表することを心から嬉しく思っています。ハイパーカーカテゴリーは新しい時代の到来であり、これまでとは異なる考え方とライバルの登場を意味しており、私たちも新しいライバルとの戦いを楽しみにしています。BoPはWECシリーズにとって新しい側面のひとつですが、他のプロジェクトの経験からこのレギュレーションは速く、安定したドライバーと完璧なレース運営、そして理想的なレース戦略を強く求めるものです。これまでの9年間にわたるWEC活動によって我々は多くのことを成し遂げましたが、自己満足には陥っていません。我々は自分達の限界に挑戦し続け、テクノロジーとプロセスの両面を常に改善してきました。だからこそセブリングで行われるGR010 HYBRIDのデビュー戦を前に、残されたテストに集中的に取り組みます。新しい、エキサイティングな時代の到来をファンの皆様にお見せすることを心待ちにしています。
パスカル・バセロン(テクニカル・ディレクター)
新レギュレーションは公道走行に関連するWEC技術のショーケースであり、最高レベルの魅力的な競争をもたらすものです。我々は新しいライバルの参加を歓迎し、WECのエキサイティングなレースにおいて、GR010 HYBRIDで競い合うことを楽しみにしています。新規レギュレーションであるLMHでレースが行われるということは、GR010 HYBRIDがこれまでとは異なる発想で、根本的に新しく設計されたことを意味しています。一番大きな違いはハイブリッドシステムの成り立ちです。新型車はフロントにひとつの回生ブレーキを持ち、ブレーキバイワイヤシステムと連携しています。このため我々はWECプロジェクト参入以来、初めてスターターモーターと完全な油圧ブレーキシステムを採用することになりました。レギュレーションではすべてのサーキットで同じボディ形状を用いることが定められているため、新型車は広いスピードレンジにひとつのボディ形状で対応する必要があります。これらはあくまでひとつの例にすぎません。新型車の開発にはこれほど大きな違いがあり、開発においては技術的に興味深い数々の挑戦がありました。我々はこうした新機軸を実際のテストプログラムで検証している最中であり、完成する日を心待ちにしています。
ジョン・リッチェンス(シャシー開発プロジェクトリーダー)
GR010 HYBRIDとその前任モデルであるTS050 HYBRIDとの最大の違いは、エアロダイナミクスです。これまでは色々な部位に関してレギュレーションで規定されていましたが、LMHレギュレーションではダウンフォースと空気抵抗に関して一定のパフォーマンスウインドーが設けられています。このためボディ形状やコンセプトによってより自由な発想が可能となりました。それはGR010 HYBRIDを見ていただければ一目瞭然です。こうした原則はパワートレインに関しても適用され、パワーカーブには一定の枠が設けられていますが、設定には自由度が与えられています。我々にとって一番大きなチャレンジは 5 年にわたり前後にハイブリッドモーターを配置していたのをフロントひとつに変更することでした。また安全基準の変更によるハイブリッドシステムのパッケージング変更も新たな挑戦となりました。さらにGR010 HYBRIDのエンジンは TS050 HYBRID よりパワフルです。この結果、スタイリングの変化以上にサウンドは大きく変わっています。
マイク・コンウェイ(GR010 HYBRID #7)
チーム全員がGR010 HYBRIDで最初のレースに臨むことに興奮しています。まったく新しいレースカーを走らせることはいつも心躍らされることであり、すべての違いに慣れ親しむのは素晴らしい挑戦です。たった数日のテストでこのクルマが素晴らしい出来栄えであり、既に慣れ親しみ始めていることに驚いています。特に将来的にロードカーへつながるレーシングカーの開発に携わることは最高の体験です。チーム全員がこのことを誇りに思い、ファンの皆様に今シーズンのレースをお見せできることを楽しみにしています。新シーズンをチャンピオンとして迎えることも気持ちいいものです。7号車のドライバーは3人ともこの事実にはっぱをかけられています。しかし、ワールドチャンピオンのタイトルを獲得しないということは、それを他の誰かに譲るということです。だからこそ私たちはチャンピオンシップの再獲得、中でも最も重要なレースであるル・マンに勝つことを見据えています。
小林可夢偉(GR010 HYBRID #7)
新しいプロジェクトはまさにチャレンジングです。我々は異なるタイプの車両で新しいライバルとひとつの選手権を争います。こうした新しい時代の幕開けは常に楽しみです。GR010 HYBRIDとGR Super Sport(仮称)は大いに気に入っています。ル・マンのパフォーマンスをロードカー開発に注ぎ込むというプロジェクトの一員になることは心躍ります。ドライバーがすべきことと求められることに変わりはありません。我々ドライバーは速く、そしてコンスタントに走ることで勝利を手に入れることができます。BoPを考えるとミスは許されません。個人的にはここ数年の悪運をふり払ってル・マンに勝つことが最大の目標です。7号車のメカニックもエンジニアも全員がル・マンで勝つことを心から望んでいます。
ホセ・マリア・ロペス(GR010 HYBRID #7)
このような新型車両を走らせるのは実に楽しいことです。GR010 HYBRIDは我々の新しい相棒であり、最初のテストを全員が心からエンジョイしました。新しいLMHの音やスタイリングにファンの皆さんが心奪われることは間違いありません。ボディのラインはきわめてクールで、V6エンジンは素晴らしいサウンドを奏でます。ドライバーとエンジニアは全員、これまでと異なるクルマの性質、特に重量とハイブリッドシステムの制御の違いに慣れる必要がありました。GR010 HYBRIDはTS050 HYBRIDと同じ精神の持ち主ですが、変更されたレギュレーションに合わせて開発されたことがわかります。我々はまだ新しいことを学んでいる最中です。最初のターゲットはセブリングですが、今年1年を通じて学習と改良を続けていくつもりです。
セバスチャン・ブエミ(GR010 HYBRID #8)
私たちはこの新しい時代の到来を長く待ち望んできて、ついにハイパーカーで戦うことになります。これは驚くべきことです。GR010 HYBRIDの完成に心から喜びを感じています。このクルマは素晴らしいルックスを持ち、体感からも素晴らしさがわかります。正直なところ私はこのクルマが、ドライブしてこれほど楽しいものだとは想像していませんでした。もっとGTカー的な乗り味を想像していたのです。しかし我々はLMP1の時代に多くのものを学び、それを改良して新型車に注ぎ込みました。そのためこのクルマはプロトタイプカーならではのフィーリングを持ち、これほど速いクルマを走らせることができることを心から楽しんでいます。我々は最初のレースから勝つために走る準備が整っています。LMP1を受け継ぐことは素晴らしいことですが、我々は同じことをハイパーカーの時代でも築き上げていくつもりです。
中嶋一貴(GR010 HYBRID #8)
技術的にもレースに対するアプローチの面でもまったく異なるWECの新時代に参加することはとてもエキサイティングなことです。新しいクルマでレースをすること、ステアリングを握って新しい感覚を得ることは、一人のドライバーとしては特別な体験です。このクルマはスタイルも良く、全開のレーススピードで駆け抜ける姿を観戦するのは壮観に違いありません。今年のシーズンはこれまでのどのシーズンよりも接戦の連続になるでしょう。ハイパーカークラスの誰もが勝利のために限界に挑みます。ドライバーだけでなくファンの皆様にとっても心躍る体験となるでしょう。これまでとは異なるアプローチでレースに臨む必要がありますが、ゴールは常に同じであり、今シーズンのターゲットは明確です。TGRにとって4回目のル・マン優勝を果たしワールドチャンピオンを獲得することです。
ブレンドン・ハートレー(GR010 HYBRID #8)
ファンの皆様はGR010HYBRIDに嬉しい驚きを受けることになると思います。この車はLMP1とロードカーを合わせたようなスタイリングをしているからです。WECのレースは常に新しいテクノロジーの開発の場でした。そして今はさらにロードカーとの関係性は近づいています。GR010 HYBRIDはお客様が体感するであろうことを垣間見せてくれます。ドライビングも最高で、特にハイブリッドシステムがもたらす4WD独特の感覚はドライバーにとって素晴らしい驚きでした。大きな違いは重量の増加とパワー、そしてダウンフォースの低下ですが、それでもTS050 HYBRIDと同等のドライビングの喜びを与えてくれます。我々にとってTGRの歴史であるル・マンとWECでの勝利を重ねることが最高の喜びであり挑戦です。
車両概要
GR010 HYBRID テクニカルスペック
項目 | 内容 |
---|---|
ボディ | カーボンファイバー構造 |
ギアボックス | 横置き7速シーケンシャル |
ドライブシャフト | トリポッドCVジョイント式ドライブシャフト |
クラッチ | マルチディスク |
ディファレンシャル | 機械式ロッキングディファレンシャル |
サスペンション | プッシュロッド式独立懸架ダブルウイッシュボーン(前/後) |
スプリング | トーションバー |
アンチロールバー | 前/後 |
ステアリング | 油圧式パワーステアリング |
ブレーキ | アケボノ・モノブロック軽合金キャリパー/ベンチレーテッドディスク |
ホイール | レイズ マグネシウム合金、13×18インチ |
タイヤ | ミシュラン・ラジアル(31/71-18) |
全長 | 4900mm |
全幅 | 2000mm |
全高 | 1150mm |
車重 | 1040kg |
燃料タンク容量 | 90L |
エンジン形式 | V型6気筒 直噴ツインターボチャージャー |
バルブ数 | 4/シリンダー |
エンジン排気量 | 3.5リッター |
燃料 | ガソリン |
エンジン出力 | 500kW/680PS |
ハイブリッドパワー | 200kW/272PS |
バッテリー | ハイパワー型・トヨタ・リチウムイオンバッテリー |
フロントモーター/インバーター | アイシンAW/デンソー製 |