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WEC開幕戦スパ6時間、ハイパーカー「GR010 HYBRID」で戦う小林可夢偉選手と中嶋一貴選手の記者会見

GR010 HYBRID

 プロトタイプスポーツカーとLMGTE規格のGTカーにより耐久レースのフォーマットで戦われる世界選手権となる「FIA 世界耐久選手権(WEC)」が、4月29日~5月1日の3日間にわたってベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットにおいて開催されている。4月29日午後(現地時間)からは練習走行が行なわれたが、それに先立ち2021年シーズンもWECに参戦するTGR(Toyota Gazoo Racing)の小林可夢偉選手、中嶋一貴選手のオンライン記者会見が行なわれた。

 2021年シーズンのTGRは新型車両「GR010 HYBRID」を2台参加させる計画で、車両こそ新しいハイパーカー規定の車両に変わったが、ドライバーは2020年のWECチャンピオンの7号車 小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス組、ル・マン24時間レース勝者の8号車 中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー組というメンバーや組み合わせに変更はない。会見では7号車の小林可夢偉選手と8号車の中嶋一貴選手がそれぞれWEC開幕に向けての車両の印象などを説明した。

下位カテゴリのLMP2が相対的に速くなっている、「打倒LMP2を目指す」と小林選手

小林可夢偉選手

──それでは今シーズンに向けての意気込みなどを最初に。

小林選手:車両がハイパーカーになったことが昨シーズンとの一番の違いだが、カテゴリ全体で遅くするという狙いで作られたレギュレーションだが、思いのほかわれわれのクルマが伸びず、LMP2が速いという状況。LMP2との混走のレースになると思う。GR010 HYBIRDという生まれたてのクルマを開発して、もっと乗りやすいクルマにしていき、開幕戦で優勝という結果を残したい。レースなので甘くないとは思うが、しっかり完走して、自分たちのクルマを理解したいと思っている。あまり結果を意識せず、このクルマをしっかり理解して完走することが今回のレースの目標になる。

 レースなので勝てればよいけれど、新しいルールで参加する。このルールでなければもっといろいろなことができるのにという思いもあるが、変化の年に自分たちがやれることをやっていかないといけない。

──プロローグで走ってみてLMP2とあのタイム差の率直な印象とチームの雰囲気を教えてほしい。

小林選手:正直素直に言うと、僕らは軽いタンクでは走っていない。燃料をたくさん積んでのロングのタイムなので一発は速くなると思う。ただ、車重がかなり重くなっているので、タイヤのデグラデーション(劣化)には影響を及ぼしている。

 ロングランをしていてもデグラデーションが大きいので、本来の性能を維持できる時間が短すぎる。それに対してLMP2はデグラデーションは少なく、2スティント目にいくと5、6秒ぐらいロスしちゃうんじゃないかというレベルなので苦戦するだろうなというのは開幕前のテスト(プロローグ)の前からも予想はされていた。それをなんとかしようと努力している形になる。

 ただ、これもレースではあるので、ハイパーカーというクラスが今後どうよくなっていくのか、期待するしかない。タイムを客観的に見たらこれがよいかわるいかというのは人それぞれだろう。ルールを作ったのはACOであって、僕らはその中で戦うしかないと思っている。

──開幕前のテストではあまりマイレージが稼げていなかったが、今日から始まるフリー走行ではどこをやっていきたいか?

小林選手:細かいところはいろいろやるが、ロングの確認が中心になると考えている。できるだけタイヤのマイレージを稼いで、デグラデーションがどれくらいかを見るしかない。ミディアムとソフトのコンパウンドの差を比較をしたり、ロングで走ってみてどうするか決めるぐらいだ。コンディションもいつ雨が来るのかわからない状況で、状況に合わせていくだけだ。

──公式テストでロングランをやっていたが、スパではセクター2でLMP2より苦労しているように見えるが? 今年のクルマはどんなイメージか?

小林選手:簡単にいうと乗っている感じはGTカーだ。スポーツカーよりも、クルマの動かし方、走り方もラインもGTカー。GT3のラインに結構近い。

──ハイパーカーについて、車重とか走らせ方。去年までのクルマと今年のクルマの違いは?

小林選手:僕の感じはシンプルだ。今まではフォーミュラカーにカバーをつけた感じ。GR010の場合は、ハイパーカーという名のGTカーにカバーをつけたイメージ。ハイパーGTカーというイメージ。

──GR010 HYBIRDではトップスピードはTS050 HYBIRDよりも伸びているが?

小林選手:トップスピードが若干速くなっているのは、LMP1-Hではフューエルカットがあったからだ。ハイパーカーの場合はそれがない、加速の場合でギリギリまで使えるので、それだけで速く見える。

──500kWの出力がエンジン300でモーター200。エンジンが500になると、モーターが0になるというレギュレーションになっている。それは乗っていてどういう感じなのか?

小林選手:正直言うと、そこの違和感はない。なぜというと、500kWをずっと維持しているからだ。エンジンの出力を落とせば、モーターが補う、後ろ配分にするのか、前配分にするのかシステムが自動でやる、その変化は全く感じられない。結局延長線上なので、そこの技術は難しいことじゃないのではないか。ドライバーとしてはそこには何の違和感もない。エンジンがかかっていない状態から、出力をどうにかするというのが難しい。エンジンがかかっている状態から、出力を変更するのはそんなに大変ではない。

──最後に意気込みをどうぞ。

小林選手:打倒LMP2で頑張ります(苦笑)

車重が重くなっていることが性能に大きく影響し、タイヤのデグラデーションも激しくなっていると中嶋選手

中嶋一貴選手

──それではシーズン開幕にむけて意気込みなど。

中嶋選手:今年の頭からテストをしてきて待ちに待ったレース。やはりレースで走る方が気持ち的にもモチベーションが上がる。クルマの方もデビューレースなので、開幕戦でよいレースをしたい。まだ信頼性など読めないところもあるが、最善をつくしたい。LMP2が速いし、アルピーヌも含めて、見ている人には面白いレースになるのではないかと思っている。

──8号車はマイレージも稼いでいたが、コース上でLMP2とは結構出会ったか?

中嶋選手:ある程度は出会った部分もあれば、わりかしロングランが多くそうでもない部分もあった。ロングランのペースだと、(LMP2と)あまり変わらない。LMP2の速いクルマとずっと一緒に走っているというのはなかった。

──LMP2を抜くタイミングはすでに理解できたか?

中嶋選手:なんとなくイメージはできているが、速いLMP2と一緒に走るとオーバーテイクするのは大変だと感じている。

──GTカーとはどうか?

中嶋選手:公式テストではGTが絡んでクラッシュとかもあったし、かなりトリッキーなことになると思う。スピード差は小さくなり、トラフィックを処理する回数は減ると思う。よしあし、どちらもあると思う。

──ロングラン中心だが、デグラデーションについては理解できたか?

中嶋選手:ある程度、限られた時間の中ではしっかり走り込めたと思う、初日なんかはタイヤの落ちがとても大きかったが、2日目になったところから落ちもマイルドになった。

──ピットを出てから入るまで最長で24周だった。昨年のLMP1では20周だったが、今年のレースでは24周ぐらいになるか?

中嶋選手:だいたいそのあたりで、初日に走っている。それぐらいは走れるはずだ。

──TS050と比較して、空力設定の違いは? ダウンフォースが増えているのに対応できるか?

中嶋選手:感覚としては重さが影響しており、ダウンフォースの差という比較はできない。ただ、数字では去年よりは、少しダウンフォースがある状態で走れている。ル・マンで走るということを考えると、昨年に比べるとダウンフォースが増えた状態で走っている。

 ル・マンとスパの相対では、今年の方がダントツある状態だと考えられる。クルマの影響が大きく、重さだけでなくメカニカルも、GTカー的なメカニカルな構造になっている。その意味ではだいぶ印象は違う。

──タイヤのデグラデーションはどうか? リアが大きいか?

中嶋選手:フロントも大きく、リアだけではない。そのあたりはバランスをとっていかないといけない、ダブルスティントでうまく設定しないと、後半厳しくなると思う。

──よりドライバーの技量が試されるレースになるのでは?

中嶋選手:その部分はドライバーやチームによると思うが、われわれのチームの場合は他チームと比較するとその度合いが増えるとは言える。ただ、ドライバー自身としてはどんなレースでもそういうものだと思ってやっているし、ドライバーとして出せるものをすべて出していかないといけないので、そこはあまり変わらないのではないか。ただ、練習から荒れているのでいろいろなことが起こると思う。

──ハイパーカーはピークパワー決められており、それを超えるとペナルティになる。ドライバーとして気をつけながら運転するとかあるのか?

中嶋選手:パワーコントロールはチームの方でうまくやってくれている、テストではいろいろな合わせ込みをやっていた。縁石を無理に越えたりとか、クルマが跳ねたりなどによって、センサー上パワーオーバーになりかねないことはあるので、丁寧なドライビングをしないといけない。

 ただし、そこまでとんでもないことをしなければ大きな影響はないと考えている。

──予選など思いっきりプッシュしたときにタイムは出るか?

中嶋選手:今までに比べると出ない、やはりクルマの重さが違う分感覚は違う。また、1周でタイヤのピークの落ちは大きく、重量の影響は大きい。

──村田さん(チーム代表)の説明の中で、モーターでピットスタートと、コース上ではエンジンクラッチを使ったスタートがあるという説明があったが、どういうことか?

中嶋選手:コース上にいるときにモーターが使えるのは120km/h以上だと決められている。そのため、コース上に止まった場合にはエンジンでスタートしなければいけない。このため、レーススタートでグリッドから出るときも使えない。そのときの操作としては普通のレーシングカーでしかなく、自分でクラッチ操作をする必要がある。このためスタートは気を遣うことになるだろう。ただ、何事もなければエンジンだけでスタートするというのはスピンでもしない限りはないと思う。

──もしBOPとかなければ、スパとかももっと速く走れるということか?

中嶋選手:多分そんなに速くならないと思う。BOPというよりはこのクルマの重量が決められているので、そんなに変わらないと思う。フリープラクティスのときからは温度でのパワー調整がなしになるので、よりエンジンパワーが出る状態で走ることができるが、2~3秒速くなるという訳ではない。

 軽いタンク状態で走って予選シミュレーションとかまだしていないので、予選では速くなると思うが、レギュレーション的に走ったらこのタイムということになると思う。

──ベルギーでレースをするけど、コロナ対策はどうなっていたか?

中嶋選手:スパのレースではPCR検査場があって、そもそもベルギー入国前に48時間以内のPCR検査での陰性が求められる。さらにサーキットに入る前にPCR検査、その後入れる、それが先週の土曜日。5日間の間、その検査の陰性結果が有効なので、昨日もう一度検査をして、というのを繰り返してずっとやっていく。あとはチーム内でも極力接触する人を少なくしてや、他のチームとは接触しないようにするなどを気をつけている。