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トヨタGR、ル・マン・ハイパーカー用新型車両「GR010 HYBRID」説明会 小林可夢偉選手と中嶋一貴選手も登壇
2021年1月16日 08:24
TOYOTA GAZOO Racingは1月15日、ル・マン24時間レースを含むFIA WEC(World Endurance Championship、世界耐久選手権)用の新型レーシングカー「GR010 HYBRID」(ジーアールオーテンハイブリッド、日本語ではジーアールゼロイチゼロハイブリッド)を発表した。
日本時間17時(中央ヨーロッパ時間9時)にチーム関係者やドライバーらが参加したオンライン記者会見となる「TGRヴァーチャル・プレスカンファレンス」を開催し、GR010 HYBRIDを走らせた感想や今シーズンに賭ける意気込みなどを説明した。
スペインのアラゴンで行なわれるはずだった走行テストは降雪でキャンセル
オンライン会見は3部制で行なわれ、最初のパートにチーム関係者とテストドライバーのニック・デブリース選手、第2パートに2020年のWEC王者に輝いた7号車のドライバー3名(小林可夢偉選手、マイク・コンウェイ選手、ホセ・マリア・ロペス選手)、第3パートに2018年~2020年のル・マン24時間優勝を実現した8号車のドライバー3名(中嶋一貴選手、セバスチャン・ブエミ選手、ブレンダン・ハートレー選手)が登壇し、新型車両の感想と今シーズンへの意気込みなどを語った。
このオンライン記者会見は、GR010 HYBRIDのテストを行なう計画だったスペインの「モーターランド・アラゴン」サーキットから中継された。
当初の予定ではドライバーがアラゴンでGR010 HYBRIDを走らせ、会見でその感想などについて語るはずだった。しかし、現地は数日前から降雪となり、「コースがスキー場のようになっていた」(中嶋一貴選手)という状況のためテストは中止されてしまった。そのため、2020年12月に行なわれたGR010 HYBRIDのシェイクダウンテストに参加できなかった小林可夢偉選手と中嶋一貴選手は、新型車両を走らせることができない状況で記者会見に参加することになった。天候はいかんともし難いものなので、致し方ないだろう。
チーム関係者のパートではテクニカル・ダイレクターのパスカル・バセロン氏、チーム・ダイレクターのロブ・ロイペン氏、そして昨年からチームのテストドライバーを務めている2019年F2王者のニック・デブリース選手の3名が参加した。
GR010 HYBIRDの開発を主導してきたバセロン氏は「ハイパーカーの規定はロードカーとレーシングカーの要素を上手くミックスした規定だ。今後はプジョーも参戦するし、LMDh規定でポルシェとアウディも復帰する。BoP(性能調整)は新しいチャレンジだが、レースは面白くなると思う。GR010 HYBIRDは基本的には従来のTS050 HYBIRDから持ち越したものが少なく、センサーもスイッチも内部の仕組みもみな違う。従来の車両との最大の違いは、空力がローダウンフォースであり、そしてパワートレーンの出力が抑えられていることだ」と述べた。
チームをとりまとめる役割を果たしているロイペン氏は「この新しい車両はケルンのTGRと東富士にあるトヨタの研究所が文化の差を超えて協力して作り上げたものだ。ハイブリッドシステムは非常に複雑なシステムだが、両方のエンジニアが協力して作り上げた。トヨタはこのハイパーカーに長期的にコミットしていく計画で、今年に関してはグリッケンハウスやバイコレスがライバルとなるが、ル・マン24時間の優勝、そしてWECの両タイトルが目標だ」と述べ、チームとしてはル・マン24時間レースの4連勝、そしてWECタイトルの4連覇を目指すとした。
開発中の市販車バージョンは、ハイパーカーの公道版というよりはTS050の公道版というイメージになる
2020年のWECチャンピオンに輝いた7号車のクルーは小林可夢偉選手、ホセ・マリア・ロペス選手が現地から、マイク・コンウェイ選手はイギリスのCOVID-19の感染拡大の影響で出国が難しくなったため、イギリスの自宅から参加した。
すでに昨年のシェイクダウンテストでGR010 HYBRIDに乗っているコンウェイ選手とロペス選手には従来のLMP1用車両のTS050 HYBIRDとの違いなどに関する質問が集中した。ロペス選手は「最も大きな違いはモーターがフロントだけになっていることだ。このため、リアブレーキの使い方を含めてきちんと管理していかないといけない。ただ、依然としてプロトタイプにかなり近い車両だ」と述べた。
続いてル・マン24時間でトヨタ3連覇を支えた8号車のクルーは中嶋一貴選手、セバスチャン・ブエミ選手、ブレンダン・ハートレーの3人が現地から参加した。ブエミ選手は「アクセル全開で走ることができる。ドライブするのは楽しいが前のクルマに比べるとタイムが落ちているのは事実。その最大の要因はダウンフォースが減り、パワートレーンの出力も減っているからだ」と述べ、従来のLMP1のTS050 HYBIRDなどに比べるとレギュレーションの制限で車両のダウンフォースが減り、パワートレーン(エンジン+フロントモーター)の出力が減っていることが影響を及ぼしていると説明した。
小林可夢偉選手と中嶋一貴選手
会見後には2人の日本人ドライバーによるオンライン取材会が別途行なわれた。小林可夢偉選手は「このハイパーカーを設計するにあたりチームは厳しい状況の中で作ってきた。自分は(降雪の影響で)まだ乗っていないが、同僚達に聞いた限りではしっかり走っていると聞いている。これまでのLMP1では速いクルマを作れば勝つことができたが、BoPにより速いだけでなく戦い方も重要になってくると考えている。(新しい車両の印象はと聞かれて)横も縦も長くなっているのが第一印象、ただでさえ狭いル・マンのガレージがさらに狭くなりそう(笑)。あとは重量増が大きく効いてくると考えている。それによりLMP1ではフォーミュラ寄りのスポーツカーだったのが、ハイパーカーではGT寄りのスポーツカーになるという印象」と、シート合わせしただけという新車の印象について説明した。
中嶋一貴選手は「サーキットに来てみたらスキー場かというぐらい雪が積もっていた影響で、まだ新しい車を走らせることができていないので、走らせた印象は分からないが、次の機会に乗るのを楽しみにしている。ドライバーにとって新しいクルマは新しいおもちゃと同じようなものだからだ。今回、新規定になることで運転の仕方や戦い方などを含めて変わっていくと思う。(モーターはリアだけになることを聞かれ)ドライビングがそれで変わることはないが、リアはブレーキだけになるので温度管理などを含めて勉強しないといけないと考えている」と、こちらもまだシート合わせしただけで走らせていない新型車両についての印象を語ってくれた。
なお、このGR010 HYBRIDにはレーシングバージョンと、市販車版があるとされており、それがどのような自動車になるのかという質問もでたが、小橋可夢偉選手は「まだやっている途中なので詳しいことは言えないが、TS050 HYBIRDの進化として、LMH(ル・マン ハイパーカー)規定のレーシングカーとなったのが今回のGR010 HYBIRD。市販車はまた別だ。TS050 HYBIRDをベースにした市販車というのがイメージとなり、TS050からの市販車が作れたらいいなという取り組みだ」と述べ、現時点ではTS050 HYBIRDのノウハウも注ぎ込まれた市販車になるだろうという見通しを明らかにした。
車両概要
GR010 HYBRID テクニカルスペック
項目 | 内容 |
---|---|
ボディ | カーボンファイバー構造 |
ギアボックス | 横置き7速シーケンシャル |
ドライブシャフト | トリポッドCVジョイント式ドライブシャフト |
クラッチ | マルチディスク |
ディファレンシャル | 機械式ロッキングディファレンシャル |
サスペンション | プッシュロッド式独立懸架ダブルウイッシュボーン(前/後) |
スプリング | トーションバー |
アンチロールバー | 前/後 |
ステアリング | 油圧式パワーステアリング |
ブレーキ | アケボノ・モノブロック軽合金キャリパー/ベンチレーテッドディスク |
ホイール | レイズ マグネシウム合金、13×18インチ |
タイヤ | ミシュラン・ラジアル(31/71-18) |
全長 | 4900mm |
全幅 | 2000mm |
全高 | 1150mm |
車重 | 1040kg |
燃料タンク容量 | 90L |
エンジン形式 | V型6気筒 直噴ツインターボチャージャー |
バルブ数 | 4/シリンダー |
エンジン排気量 | 3.5リッター |
燃料 | ガソリン |
エンジン出力 | 500kW/680PS |
ハイブリッドパワー | 200kW/272PS |
バッテリー | ハイパワー型・トヨタ・リチウムイオンバッテリー |
フロントモーター/インバーター | アイシンAW/デンソー製 |