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鈴鹿サーキット 田中薫社長、「F1日本GP中止に関する会見」 最大の要因はF1側のデッドラインまでに関係者の入国の見通しが得られなかったこと

2021年8月22日 実施

株式会社モビリティランド 代表取締役社長 田中薫氏

 鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドは8月18日、鈴鹿サーキットで10月8日~10日に開催予定であった「2021 FIA F1世界選手権シリーズ Honda 日本グランプリレース」について、2021年度の開催中止を決定した。

鈴鹿サーキット、2021年のF1日本グランプリ開催中止を発表

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1344669.html

 その発表後に初めて鈴鹿サーキットで行なわれるレースとしてSUPER GT 第3戦「2021 AUTOBACS SUPER GT Round3 FUJIMAKI GROUP SUZUKA GT 300km RACE」が8月21日~8月22日の2日間に渡って開催されているが、8月22日に行なわれる決勝レースに先立って鈴鹿サーキットの運営会社であるモビリティランドの代表取締役社長 田中薫氏による記者説明会が行なわれた。

 この中で田中氏は「F1の運営会社のデッドラインまでにF1関係者約1500名の入国の見通しを得ることができなかったため、苦渋の選択だが中止を決断した」と述べ、F1日本GPの中止の決定はF1関係者に対して14日間の隔離などの防疫措置の緩和やビザの発給などに関して関係各所からの許諾見通しが得られなかったことだと説明した。

 また、同時に田中氏は「来年から2024年まで日本GPを開催する契約をすでに結んでいる。特に2022年に関しては鈴鹿サーキットが60周年ということで、お客さまにさらに楽しんでいただけ、お礼も兼ねた形で特別なGPにしたいと考えてすでに準備に着手している。次に向かってしっかりやっていきたい」と述べ、2022年のF1日本GPの実現に向けてさまざな取り組みを開始していると説明した。

運営団体側が判断するデッドラインまでにビザ発給などの確定を得ることができなかったことが中止判断に至った最大の要因

司会:それでは冒頭に田中社長からコメントを。

田中薫氏:ホンダラストラン。角田裕毅選手の凱旋レースということもあり、期待を持って準備を進めてきたが、最終的にF1関係者約1500名の入国の見通しが立たず、確定をすることができないということで、苦渋の決断として断念せざるを得ないという結果になった。特に今年は特別な年だったこともあるし、2年連続でF1が開催できないということは大変残念だ。

 そして8耐の方も2年連続で開催を断念することになりこれも残念だ。現在日本は基本的に外国の方には入国を認めないという形になっており、スポーツイベント全般を開催する場合、特に外国人が入国する競技に関しては入国ビザを発行していただく必要がある。また、防疫に関してもオリンピックで有名になったバブル方式を徹底することも求められており、それを徹底して実現する準備をしてきたのだが、こうした結果になった。8耐の方も2年連続の断念で、バイクの日にそうしたことを発表しないといけなかったことは大変残念だ。

 こうした状況の中では適切に判断せざるを得ず、今日の上決断をした。既に発表時のコメントでも言っているが、来年に向けての準備を始めている、皆様のご支援をお願いできればと思っている。

──入国に関していろいろな交渉をしたと思うが、もう少し具体的に教えて欲しい。

田中薫氏:こうしたスポーツイベントに関しての所管官庁はスポーツ庁で、F1に関してもスポーツの所管ということで窓口になって頂き、FOWC(Formula One World Championship Limited、F1の運営会社のこと)と一緒にさまざまな書類を提出した。FOWC側もステファノ・ドメニカリCEO自らなんとか開催したいということ、非常に手厚い協力をしていただいた。実際1500名の関係者のさまざまな情報、それこそ国籍や情報などを1件1件リストして提出し、最終的にそれらの国の日本大使館でビザを発給していただかないといけない。本当に大変な作業だったが、FOWCには協力を頂き取り組んできた。

 しかし、どこかのタイミングでは判断せざるを得なくなる。そのタイミングで、(F1チーム関係者への)入国ビザの発給が見通せず、FOWCとの協議の上、今回の決定に至った。

──スポーツ庁が所管でという話もあったけど、政治への働きかけなども行なったのか?

田中薫氏:所管がスポーツ庁とされており、スポーツ庁とやりとりを行なった。最終的には入国に関する防疫措置緩和(筆者注:入国から14日間の隔離期間などの免除のこと)、そのほかの制限緩和に関しては色々ご協議頂いたと理解している。政府に対しての嘆願という観点では、JAF、日本自動車工業会(自工会)、(モビリティランドの親会社の)本田技研工業株式会社などの各関係にご協力をあおいだ。

──焦点は入国ビザの発給ということだったのか?

田中薫氏:今回われわれも学習したが、ビザを発給するのは外務省、防疫は厚労省、入国は法務省とそれぞれ扱いが違う。そうした関係各所に防疫体制を確立したということが認められないと、入国ビザの発給とはいかないということだ。

──同じモビリティランドの海外レースのイベントとしてはMoto GPは6月に中止と決定された。今回のF1や8耐の中止がこの時期にと違いがあるのはなぜか?

田中薫氏:それは競技する団体の違いだ。F1ならFOWCだが、彼らにとっても仮に日本GPが中止になるなら、代替カレンダーを組んでしかないといけない。それをやるには物流なども含めて、さまざまな調整が必要となり、デッドラインが違っているのだ。同じ10月に開催されるイベントだが、Moto GPは6月とはやや早かったが、FOWCはなんとかギリギリまでということ待っていただいていたが、10月の上旬に行われる予定だったことを考えればこれがギリギリだった。

──政府などからなぜビザを発給できないかとか説明があったのか?どういった条件が設定されていたのか?

田中薫氏:具体的な理由は分からない。分かっていることは、中止を決めた時点で見通しへの回答が得られなかったということだ。防疫関連の計画やリストなど必要な書類は提出したが、これを出したから必ずビザがでるというお話しではなく、同時に必ず出しませんという状況ではなかった。期限の段階でその状況だったということだ。

──イギリスGPなどヨーロッパの状況を見てどう思ったか?

田中薫氏:シルバーストーンには12万というお客さまが入っていたと聞いており、うらやましくないと言えば嘘になる。早くああいう日が来てくれることを願っている。

 しかし、感染の状況やワクチンの摂取率などは各国で異なっており、イギリスがどういう状況かもわれわれ分らは分からない。また、イベント集客やスポーツに対する考え方も国によって異なっている。ただ、(映像などで見る限りは)シルバーストーンでは一段落して経済が戻ってきているように見える、それはうらやましいと思う。日本では7月から感染が急拡大になっている状況の中で水際対策は厳しくなっていると聞いている。そうした中で書類を出してもそこの判断は難しいところだったのではないだろうか。

──オリンピック、野球などができているのに、なぜモータースポーツはできないかと考えると思うところはあるのでは……。

田中薫氏:なんとも分からない。それぞれ競技ごとに事情も違う。弊社のTwitterにはオリンピックは開催されたのでF1はなぜダメなのですかというお声を頂いたりもしている。われわれとしてはそれに対してお応えするのが難しい。人数や競技形式、観客の環境など一概には言えない。個人的にはただ残念だとしか言いようがない。われわれとしては素晴らしいレースをお客さまにお見せしたい、そう思うだけだ。

2024年まで日本GPは開催契約している、来年は鈴鹿60周年を記念した特別なGPに

モビリティランド 代表取締役社長 田中薫氏

──関係省庁にはそうしたモビリティランド側の想いのようなものは理解してもらえていたのか?

田中薫氏:理解はしていただいていたと思う。しかし、1500人の外国人が入国するというF1は、国際的な行事であるオリンピックを除く一番大きなイベントだ。その意味ではかなり慎重にならざるを得ない状況だったのではないか。

──書類や防疫計画などの調整全体を100とすると、どれくらいまでクリアできたのか?

田中薫氏:ほぼ100に近く、業務としてやるべき事はやった。防疫計画にしても、移動ルートの引き方、例えば空港からホテルまでバブルを形成してどこにもよらずに直行してもらう。宿泊施設もフロアや一棟借り、ホテルからサーキットへの移動に関してもリエゾンオフィサーがついてやるなどの計画を立てていた。そうした防疫措置の準備はやりきったと感じていた。我々がやれるべき事はやりきったが、(ビザなどへの)回答がよく見えず、入国許可の見通しが立たなかったということだ。

──元々のスケジュール上はトルコGPとの連戦になるが、14日間の隔離などはどうしようかというのはあったのか?

田中薫氏:そもそも14日間隔離を免除してもらわないと成り立たないので、オリンピック同様の完璧な準備がいる、そうした準備をしてきた。

──SUPER GTやスーパーフォーミュラで入国できない選手がいるように、モータースポーツの公益性が国に認められていないという面があるのではないか?

田中薫氏:文化としての成熟度という観点で言えば欧米とは違いがあるのだろう。そこは業界全体で努力を続けていかないといけないと思う。ただ、公益性という意味であれば、日本の基幹産業である自動車産業と技術の発展・振興につながると考えており、それはJAFも含めてこれまでも訴えてきている。F1に関しては、公益性は理解がされていると考えている。

──仮に今年日本GPがあれば、どうだったか?

田中薫氏:ホンダラストランと角田選手の凱旋レースなので、開催することができればかなりのお客さまに来ていただけるとは思っていた。ただし、現在のような状況下では、じゃあそれだけのお客さまに来ていただけるのかといえば、そうではない。イベントの入場制限に関しても、50%、1万人か半数のうち小さい方だったり、5000人が上限になったりとか、実際に次の判断のタイミングがあったとしても難しい状況だった可能性は否定できない。10万人とか8万人のお客さまに席を用意して販売する、そういう状況ではなかったことも事実だ。それだけのニーズはあったが、昨日(8月21日)には三重県が政府に対して緊急事態宣言の発出を要請するなどの状況で、難しいタイミングになってしまった可能性はあるだろう。

──2022年の日本GPに向けてはどういう取り組みをしていくか?

田中薫氏:来年から2024年まで日本GPを開催する契約をすでに結んでいる。特に2022年に関しては鈴鹿サーキットが60周年ということで、お客さまにさらに楽しんでいただけ、お礼も兼ねた形で特別なGPにしたいと考えてすでに準備に着手している。次に向かってしっかりやっていきたい。