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ダイハツ「ロッキー」に搭載されたeスマートハイブリッドモデル向けエンジン「WA-VEX型」とガソリンモデル向けエンジン「WA-VE型」を比較する
2021年11月3日 07:00
- 2021年11月1日 発売
ダイハツ工業が11月1日に発売したコンパクトSUV「ロッキー」。エクステリア、インテリアに関してはエンブレムの変更など小規模なものだが、それとは裏腹に中身は大きく変更されている。
パワートレーンは新開発のハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID(eスマートハイブリッド)」および、新開発の1.2リッターエンジン(自然吸気)を搭載し、予防安全機能であるスマートアシストも強化。フロントカメラをステレオとし、パーキングブレーキも機械式から電動式へと変更され、全車速追従機能付きACCに停車保持機能が追加された。
また、合計1500W以下の電気製品が使用できる(駐車時)外部給電機能がハイブリッドモデルに搭載された。
なお、従来のロッキー(トヨタ自動車「ライズ」)は車両価格がかなり安価ところに設定されていた。そのためハイブリッドを積んだモデルを作るにしても車両価格を大幅に上げないことが必須となったため、開発陣は「200万円以下で出せるようがんばろう」ということを目標にしたという。
結果、消費税を含まない価格で約192万円(X HEVグレード)で発売することを実現した。そのほか、新型ロッキーの詳しい情報は関連記事(ダイハツ、ハイブリッドの「ロッキー」登場 軽自動車にも展開する新開発「e-SMART HYBRID」搭載で価格は211万6000円から)にて紹介している。
ロッキー/ライズに搭載された「eマートハイブリッド」および、新開発の1.2リッターエンジン(自然吸気)の展示などがあった。開発者からうかがった技術的な特徴を紹介する。
新開発の1.2リッターエンジンはハイブリッド(WA-VEX)、1.2リッターガソリン(WA-VE)ともに基本的に同じだが、エンジンで走る場合と発電用では、それぞれで効率のいいポイントが異なる。そこで今回のラインアップではそれぞれの用途に合わせて特性を最適化するために変更が加えられていた。
外観で見分けられるポイントはインテークマニホールドまわり。最大トルクの発生ポイントを走行用、ハイブリッド発電用とそれぞれで最適な回転数で発生させるため形状を変えていた。
具体的にはガソリンモデルでは2000rpm付近でのトルクを厚くすることを狙ったインテークマニホールドの長さとし、スロットルボディからシリンダーヘッドまでが長く取られている。対してハイブリッド用エンジンはインテークマニホールドの管長は短く角度も大きく異なる作り。これは高回転向きということではなく、発電に適したトルクの出方を狙った結果、このような形状になったという。なお、開発者によると従来の1.0リッターターボエンジンと比較して、自然吸気の1.2リッターエンジンの低速トルクは負けていないとのこと。
エンジン本体にも細かい工夫が盛りこまれている。WA-VEエンジンは動力性能を十分なものとしつつ、省燃費性や小型化を求めた作りになっているが、走行用と発電用でいろいろと作りを変えてきている。
例えば前記したインテークマニホールドがつながるシリンダーヘッドのインテークポートの長さもガソリンモデルが長く、ハイブリッドモデルが短い。理由はインテークマニホールドのところで書いたようにそれぞれで求めるものが違うからだ。
そしてこのインテークポート、ガソリンモデルのWA-VEエンジンはインテークバルブに対してポートの長さを取り、取り回しもストレートにしている。「高タンブルストレートポート」と呼んでいるが、実はただまっすぐというだけではない。よく見るとバルブの手前のポート下面にわずかな凸を設けているのだ。
これは吸入空気のためのジャンプ台。ポートを流れる空気はインテークバルブが開くと燃焼室内に流れ込むのだが、インテークバルブは丸い形状なので、開いたときにバルブ下部(ポート下側)から燃焼室へ入る空気が出てくる。しかし、そこから入る空気は燃焼室内に理想的な縦渦を作るのに適した流れではないため、バルブ手前で空気の流れを上へ持ち上げることで燃焼室内で理想的な縦渦が作れるようにしている。
WA-VEエンジンの燃料噴射の方式は直噴でなく従来からあるポート噴射になっていたが、仕組みはかなり凝ったものだ。
従来のポート噴射は噴射の圧力でバルブに向けて燃料を飛ばそうとしていたが、これだと燃料の霧化が十分なものにならず燃えにくい燃料が出ることになっていた。そこでWA-VEエンジンでは1ポートにインジェクターを2本とした。これはインジェクターの霧化促進に加えて、インジェクターが開いている時間を短くするのが狙い。理由はインテークバルブが開いている短い時間に効率よく混合気を送るためだ。
同時にポートに対しての入射角度、ポート内への突き出し量などを細かく設定。こうしたハード的な作りを合わせた結果、インジェクターから噴射された燃料はポート壁面に付着することなく吸入空気の気流にキレイに混ざる。そして燃焼室内で揮発。このときのガソリンは燃焼室内の冷却も行なうので、耐ノック性を向上させる効果もある。最後に燃焼効率向上も両立するようになっている。
なお、混合気を燃えやすくしたことにより、点火システムをマルチスパークとする必要がなくなったので、WA-VEエンジンではシングルスパークの点火方式としている。この燃えやすさはERGが流入したときであっても同様だとのこと。
排気に関しては同レベルのエンジンと比べて排気バルブの傘径を大きくして掃気能力を高めているのが特徴。
とはいえ排気バルブ径をだけを大きくしてもエキゾーストポート以降の流れがわるいと効果も半減なので、WA-VEエンジンでは抵抗の小さい排気ポートとしつつ、エキゾーストマニホールド代わりの排気ポートブロック部にエンジン冷却水を流すことで排気温度上昇を抑える構造としていた。排気は温度が下がると膨張の圧力も下がるのでそれに伴い流速が上がり抜けがよくなるという仕組みだ。
なお、これとは逆に冷感始動時の排熱による触媒の暖めを促進させるために、ヘッドから触媒本体へのポート表面の面積を従来のエンジンより小さくして素早く温度が上がるようにしているという。
エンジン冷却水に関しても新たな取り組みがある。シリンダー周辺に設けられるウォータージャケットは従来より浅くしている。これはどういうことかというと、燃焼が行なわれるヘッドは効率がいい状態を保つためにも積極的に冷やしたいが、腰下はそこまでの冷却が不要でむしろヘッドより温度は高めたいのがエンジン製作側の希望だった。そこでそれぞれに適したと冷却効果を与えた。
また、ウォータージャケットを浅くしたことで冷却水の水量を減らすことができた。エンジン内を対流する水の量が少なければ水温の上がりも早いので、それが始動直後の燃焼効率向上や触媒の浄化開始の短縮につながるということだ
なお、冷却水量が減っても水流の設定やラジエターサイズの設定によって水温の上がりすぎなど心配はないという。
水まわりの特徴はまだある。冷却水の水流を辿るとウォーターポンプから送られる冷却水はシリンダーブロックを通りヘッドへ上がるが、WA-VEエンジンは一番温度が低い状態の冷却水をまずインテークまわりに流して「温度を下げることを重視」。そして、インテークを流れたあとの水流は太い1本の水路にまとまりエキゾースト側を流れる。エキゾースト側は絶対温度を下げることより熱を奪える「熱容量」が必要なのでこうした作りにしていた。
水まわりで最後にもう1つ、WA-VEエンジンでは従来のサーモスタットによる水路の振り分けとは別に、サーモスタットを設けた2系統の冷却システムとしている。ここで使われる新たなサーモスタットは冷間時に閉じて2番と3番のシリンダーまわりには冷却水を回さない働きをする。これは始動時の水温上昇を促進させるためで、水温が適正な温度まで上がるとサーモが開いてすべてのシリンダーを冷却するという仕組みだ。
今度のロッキー/ライズはeスマートハイブリッドや機能が充実したスマートアシストなどに注目が集まるが、WA-VEエンジンも十分なトピックを持ったものであることが多少はお伝えできたと思う。新しいロッキー/ライズに試乗する機会があれば、eスマートハイブリッドだけでなく1.2ガソリンエンジン車にも乗って「WA-VEエンジンの走り」を体感していただきたい。