ニュース

ダイハツ「ロッキー」とトヨタ「ライズ」は何が新しくなったのか? 新1.2リッターエンジンやハイブリッドシステムなど開発者が解説

2021年11月1日 発表

コンパクトSUV市場をリードするロッキー/ライズからハイブリッドモデルを導入。軽自動車へも“速やかに展開”

 ダイハツ工業とトヨタ自動車は11月1日、同日に発売する「ロッキー」「ライズ」の説明会を実施。搭載される新開発1.2リッター「WA-VA」型エンジンやシリーズ式ハイブリッドシステム「e-SMART HYBRID」などの新技術について紹介した。

 説明会では、ダイハツ工業 製品企画部 エグゼクティブチーフエンジニアの仲保俊弘氏がプレゼンテーションを担当。商品投入の狙いとして、日本政府から2050年カーボンニュートラル宣言、2035年電動車100%を実現が日本政府から打ち出されているとともに、世界各国でも相次いで電動化計画が発信され、カーボンニュートラル社会の実現に向けて大きく動き出している世の中について触れつつ、車両価格が200万円以下のボリュームゾーンにおいては、ストロングハイブリッドがあまり普及していないという現状について言及。

世の中の動向について。2050年のカーボンニュートラル社会に向けて世の中が大きく変化していく中で、国内乗用車販売台数のうちボリュームゾーンを占める200万円台という低価格帯においては、ストロングハイブリッドが普及していないという現状がある
これまでダイハツ工業はLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の観点で環境性能に優れた小さく軽いクルマでCO2排出量削減に取り組んでおり、代表車種の「ミラ」では、2011年に“第3のエコカー”として「ミライース」に進化。2017年には素性のよさを磨き上げることでCO2の低減に貢献している

 仲保氏は「この先、カーボンニュートラル社会の実現に向けては、小さなクルマの電動化と普及が必要と考えている」と述べ、今回「良品廉価」「最小単位を極める」「先進技術をみんなのものに」というDNGAの思想を基本に、1960年代から取り組んできた電動車開発の財産とトヨタグループとしてのメリットを融合。ダイハツならではの小さなクルマに最適なハイブリッドシステムを開発したと紹介。このハイブリッドシステムを含む電動車の導入順序としては、台当たりのCO2削減効果が高いCO2総排出量の大きな車種となるロッキー/ライズから優先的に展開し、今後速やかに軽自動車にも展開するとともに、海外へも展開していくとした。

DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)には「良品廉価」「最小単位を極める」「先進技術をみんなのものに」という考え方がある。これを基本にしたダイハツらしい電動化を追求し、小さなクルマに適したハイブリッドシステムを開発した
電動車の導入順序としては、台数規模が大きく、CO2削減効果が高い車種となるロッキー/ライズから優先的に展開。今後速やかに軽自動車へも展開を予定している

 ロッキー/ライズは取り回しのしやすい5ナンバーサイズでありながら、広い室内と荷室、力強いデザインが特徴のモデル。右肩上がりに伸長するコンパクトSUV市場において市場を牽引する存在で、今後もコンパクトSUV市場はさらなる拡大が見込まれており、これまでのロッキー/ライズの魅力はそのままにハイブリッド技術を投入してさらなる競争力強化を狙うとした。

ロッキー/ライズは2019年に「タント」に続くDNGA第2弾として市場に投入されたコンパクトSUVモデル。取り回しのよい5ナンバーサイズながら、広い室内と荷室、力強いデザインが好評とのこと
ロッキー/ライズはさらなる成長が見込まれるコンパクトSUV市場を牽引する存在となっているため、これまでの魅力をそのままに、ハイブリッドモデルを追加することで競争力を強化
新ロッキー/ライズの魅力

ハイブリッドシステムにはシンプルでコンパクトなシリーズ方式を採用

 新ロッキー/ライズのパワートレーンは、1.0リッターターボに加え、1.2リッターハイブリッド、1.2リッター自然吸気を新たに採用することで、パワートレーンラインアップを3種類に強化。環境や燃費、先進感を求めるユーザーにはハイブリッドモデルを、街乗りが中心で価格を重視するユーザーには1.2リッター自然吸気を、走りにこだわり遠出やアウトドアを好むアクティブなユーザーには1.0リッターターボを、とユーザーそれぞれの使用用途に合わせてパワートレーンを選択できるようにした。

 それぞれのエンジンスペックは、1.2リッター自然吸気エンジンが最高出力64kW(87PS)/6000rpm、最大トルク113Nm(11.5kgfm)/4500rpm。1.2リッターハイブリッド用エンジンが最高出力60kW(82PS)/5600rpm、最大トルク105Nm(10.7kgfm)/3200-5200rpm、モーターが最高出力78kW(106PS)/4372-6329rpm、最大トルク170Nm(17.3kgfm)/0-4372rpm。1.0リッターターボエンジンが最高出力72kW(98PS)/6000rpm、最大トルク140Nm(14.3kgfm)/2400-4000rpmとなる。

新ロッキー/ライズに搭載される3つのパワートレーン

 新開発のe-SMART HYBRIDは、電気の“e”に、賢い・機敏な、という意味の“SMART”を組み合わせ、電気の力でキビキビ走る良品廉価なハイブリッドを表現したとのこと。モーターの特性でもある低中速域に強みを持ち、低速・中速走行が多い街乗りが多く、車体が軽い小さなクルマに最適なシステムとして、エンジンを発電専用にし、100%モーターで走行するシリーズ方式を採用。エンジンを発電と走行の両方に使用するシリーズパラレル方式や、モーターをアシストとして使用するマイルドハイブリッドのようなパラレル方式とは異なり、シンプルでコンパクトな構造とした。

 また、軽量につくられているダイハツ車であることと、ユーザー用途が街乗り中心となることから、モーターの出力をそこまで大きくする必要がなかったため、遊星ギヤなどの機構を用いるパラレルハイブリッドと比較すると、よりコンパクトになるのではないかということで、今回シリーズ方式のハイブリッドシステムを選択したとのこと。

 なお、このe-SMART HYBRIDに対して、トヨタはモータージェネレーターや電池スタックなどを提供。PCU(パワーコントロールユニット)の基本骨格は同じとなるが、制御についてはシリーズ方式専用に開発を行なったとしている。

「e-SMART HYBRID」名称の由来
3種類のハイブリッド方式のうち、エンジンは発電専用として100%モーターで走るシリーズ方式を採用
シリーズ方式は、中低速の街乗りが多く車体が軽い小さなクルマに最適なシステムと考えている

 エンジンは新開発の3気筒1.2リッターエンジンをハイブリッド用に最適化して搭載。最高熱効率は40%を確保し、燃費の向上に貢献。トランスアクスルは発電用と駆動用の2つのモーターを並列配置。構成ギヤ数を最小にすることで軽量かつコンパクトな設計とした。

 バッテリはエネルギー密度が高いリチウムイオン電池を採用。容量は4.3Ahとコンパクトなサイズとし、街乗りの多いユーザーニーズに応えるべく、性能とコストをバランス。バッテリはリアシートクッション下に配置することで、ゆとりある室内と荷室容量を確保しつつハイブリッド化を実現した。

ハイブリッドシステムの配置イメージ
発電専用に最適化した新開発の3気筒1.2リッターエンジン。発電に特化させることで最高熱効率40%を確保した
2つのモータージェネレーターを並列配置にするとともに構成ギヤ数を最小にすることでコンパクト化を実現
エネルギー密度が高いリチウムイオン電池の採用で軽量化に貢献。4.3Ahのコンパクトな容量で性能とコストをバランスさせた

 仲保氏は「小さなクルマに適したシステムをさらに進化させ、今後速やかに軽自動車へも展開してまいります。100%モーター走行による電動駆動制御を手の内化し、将来のBEV開発へも繋げてまいります」と今後の展望を述べた。

新開発の3気筒1.2リッターエンジン

 新開発の3気筒1.2リッターエンジンは、ベースの「WA-VE」型とハイブリッド用に最適化した「WA-VEX」型の2種類を用意。動力性能、燃費、軽量コンパクト、静粛性、すべてにこだわって新開発し、「高タンブルストレートポート&薄型バルブシート」「デュアルインジェクタ&低ペネトレーション噴霧」「クールドEGR」「2系統冷却システム(ガソリンモデルのみ)」といった新技術を採用。

新開発1.2リッター「WA-VE」型の特徴

 具体的には、高タンブルストレートポート&薄型バルブシートの採用により、高速燃焼を実現し、耐ノッキング性を高めることで燃焼エネルギーを効率よく動力に変換。従来の1.0リッターターボエンジンと比較して燃焼時間を約25%短縮した。また、点火から燃焼まで一気に燃え広がるようになっている。また、デュアルポートと低ペネトレーション噴霧の採用で燃料の微粒子化を促進し、ポートやバルブへの付着を低減することで燃焼促進と燃焼ガスのクリーン化を実現した。

 ガソリンモデルのみ2系統の冷却システムを採用し、シリンダーブロックの水流をコントロールすることで暖機を促進。より効率的なヒートマネジメントを行なうことで、燃費と排気性能を向上させた。

高タンブルストレートポート&薄型バルブシートの採用により、燃焼の高速化を実現
デュアルポート&低ペネトレーション噴霧の採用により微粒化を促進し、壁面への燃料付着を抑制。未燃焼損失を低減
ガソリンモデルのみ2系統の冷却システムを採用し、シリンダーブロックの水流をコントロールすることで暖機を促進。燃費や排気性能を向上

 これらの新技術によりガソリンモデルではトルクを大幅に引き上げることに成功。現行の1.0リッターターボエンジンと比べるとエンジン低回転時のトルクアップが大きく、低速域での力強く滑らかな加速を実現し、走りやすく扱いやすい仕上がりとなっている。燃焼効率向上も大きく、従来のロッキー/ライズと比較すると全領域で熱効率を向上。WLTCモードで小型SUVガソリンモデルNO.1の低燃費20.7km/Lを実現するとともに、2030年度燃費基準を75%達成し、税制優遇も受けることができる。

低速トルクアップにより、走りやすさが向上
小型SUVのガソリンモデルでNO.1の低燃費20.7km/L(WLTCモード)を達成

新ロッキー/ライズのハイブリッドモデル、3つのポイント

 仲保氏は新ロッキー/ライズのセリングポイントとして、「電動感」「燃費性能」「低価格」の3つを紹介。

e-SMART HYBRIDの3大ポイント

 1つ目の電動感については、新ロッキー/ライズのハイブリッドモデルと従来の1.0リッターターボモデルの発進加速度の比較では、ハイブリッドモデルの方が出足の加速がよく、アクセルを踏み込んだ瞬間から一気に力強さを発揮。一定時間での到達加速度では、従来に対して約2倍の加速度を実現した。

 操作性についても考慮されており、「スマートペダル」はアクセルだけで加減速ができ、ペダルを踏み変えずにスピードコントロールが可能なため、渋滞時やカーブ、アップダウンの多い道路といった頻繁な加減速が必要なシーンにおいて、ドライバーの操作低減に寄与。低速ではクリープ走行を残すことで、徐行時や駐車時の扱いやすさにも配慮されている。

 静粛性能も強化され、停車時やエンジンを稼働させずに走行できる中低速までの領域では、エンジン音のない静かな走行が可能。加えて、ダッシュサイレンサーの3層化やフードサイレンサーの遮音性向上、フェンダー後端へのウレタン追加、エンジンアンダーカバーへの吸音材の追加、フロアサイレンサーの目付アップ、デッキサイドトリムへの吸音材の追加といった改良も加えられ、会話のしやすい快適空間を実現している。

街中でのレスポンスのよい加速性能を実現
アクセルを踏む・戻すという動作だけで加減速を行なえる「スマートペダル」搭載
遮音材の追加や制振材のチューニングを行なうことで会話がしやすい室内空間を実現

 2つ目の燃費性能については、ハイブリッドモデル専用に最適化した新エンジンと、発電・充電性能の最適化によりコンパクトSUVクラストップレベルの低燃費となる28.0km/Lを実現。2030年度燃費基準を100%達成し、重量税は免税、環境性能割は非課税とした。

 3つ目の価格については、新ロッキー/ライズともにハイブリッドモデルを2種類用意して、ハイブリッドモデルの基本グレードではロッキーは211万6000円、ライズは216万3000円と、コンパクトSUVクラスのハイブリッドモデルとして220万円を下回る最廉価を実現している。

小型SUVのハイブリッドモデルでクラストップレベルの低燃費28.0km/L(WLTCモード)を達成
コンパクトSUVとしてクラス最廉価の価格設定を実現

 そのほかにも電動パーキングブレーキ(オートブレーキホールド機能付)を採用し、コンソール形状を一新して高級感のある印象を付与。ハイブリッドモデルではAC100V/1500Wのアクセサリーコンセントをオプション設定し、停電や災害時にも安心な非常時給電機能も備えている。また、スマートアシスト機能も強化され、軽自動車「タフト」から採用している新ステレオカメラを用いることで、ダイハツ車最多となる19の予防安全機能が搭載されている。

市場ニーズに合わせた新機能を追加
スマートアシストもダイハツ車として最多となる19の予防安全機能を搭載
カラーバリエーションも変更され、「スムースグレーマイカメタリック」が追加された

 最後に仲保氏は「大きな商品力向上を付加いたしました。実際に試乗していただき、新ロッキー/ライズのよさを体感いただけたらと思います」と期待を語った。