試乗インプレッション

ダイハツ「ロッキー」&トヨタ「ライズ」はパワフルに走るコンパクトSUV

「とにかく乗りたい!」というパッションがあふれてくるモデル

 ビビッドなオレンジがかった赤色と、小さくてもSUVらしいデザインで、多くの人たちの視線を集めていたのが、東京モーターショー 2019のダイハツブース入口にデンと置かれていた「新型コンパクトSUV」。その時すでに、「もうすぐ発売します」と公言されていたのだが、まさかこんなに早くダイハツ「ロッキー」として登場するとは! そして、兄弟車でトヨタ「ライズ」があったとは!

 そんな驚きとともにあらためて実車と対面すると、ショー会場で見るよりもさらに躍動感があって、どこから見ても魅力的。イマドキな言葉なら「バエる」がピッタリだろう。ひと目見た瞬間に乗ってみたいと誘惑するのが、秀逸なクルマデザインの1条件だと考える私だが、実はコンパクトサイズでそう思わせてくれるデザインには、なかなか出会えるものではない。

“バエる”コンパクトSUVのダイハツ工業「ロッキー」&トヨタ自動車「ライズ」に乗った!

 ロッキー&ライズの魅力的なデザインの勝因は何か。デザイナーさんに聞いてみると、近年はボディサイドにクッキリとしたキャラクターラインを引くクルマが多い中、あえて1本もラインを引かずに「面」を強調したところだという。小さいサイズでも安心感が得られるよう、ぽってりとした厚みを持たせ、きれいな面が広がるサイトビューを目指した。そして、足まわりではしっかりと張り出したフェンダーと大径の17インチタイヤで、キャビンを支えるSUVらしさを表現。これが、なんともいえず親しみのある“力持ち感”を演出して、思わず寄り添いたくなるのがロッキー&ライズだ。

ダイハツ ロッキー X(2WD)。価格は184万8000円。ボディカラーは、ダイハツ初の小型自動車「コンパーノ」に由来するロッキー専用色「コンパーノ・レッド」。ボディサイズは3995×1695×1620mm(全長×全幅×全高)の5ナンバーサイズ。ホイールベースは2525mm。最小回転半径は17インチモデルで5.0m、16インチモデルで4.9mとなる

 ちなみにロッキーは大きく開いた六角形のグリルが特徴的な、新世代のダイハツコンパクト顔ともとれるフロントマスク。ライズは世界中で大ヒットしているRAV4のミニ版とも言える、アクティブなトヨタを印象付けるフロントマスク。同じヘッドライトを採用しているとは思えないほど、見事にキャラクターが分かれている。ボディカラーもそれぞれ、ロッキーにしか設定されない「コンパーノ・レッド」、ライズにしか設定されない「ターコイズブルーマイカメタリック」の新色が揃い、ブラックルーフとの2トーンもあって、色選びをするだけでも楽しくなってくる。

トヨタ ライズ Z(2WD)。価格は206万円。ボディカラーはライズ専用色の「ターコイズブルーマイカメタリック」。ボディサイズや最小回転半径などはロッキーと同じ
アルミホイールデザインはサイズによって異なる。左のロッキー Xは16インチ(195/65R16)、右のライズ Zは17インチ(195/60R17)。装着タイヤはダンロップ「エナセーブ EC300+」で共通
ヘッドライトデザインはライズ(左)とロッキー(右)で共通

 こうしたデザインやカラーの妙なのか、遠くから見ても小ささを感じさせないロッキー&ライズだが、実際のボディサイズは3995×1695×1620mm(全長×全幅×全高)の5ナンバー規格内。どうしても比べてしまうライバル車、スズキ「クロスビー」よりも少しだけ大きく長く、低いスタイリングとなっている。ただ、室内寸法を見てみると、室内長はクロスビーの方が220m長く(クロスビー:2175mm、ロッキー&ライズ:1955mm)、室内幅はロッキー&ライズの方が65mm広く(同1355mm、同1420mm)、室内高はクロスビーの方が30mm高い(同1280mm、同1250mm)という数値。クロスビーはSUV×ワゴンという新ジャンルを目指して作られたコンパクトSUVだが、ロッキー&ライズはあくまでも、SUVの王道として作られたという印象で、価格やボディサイズではライバルだがキャラクターでは被っていないのかもしれない。

 そしてロッキーの室内に入ると、ブラックとメッキ加飾が予想外にシックな雰囲気を醸し出し、普段の街乗りだけでなくビジネスシーンにさえ似合いそうなインテリア。でも、ところどころにオレンジの挿し色が効いていて、休日のレジャーで遊びモードになった時にも違和感はなさそうだ。ダイハツらしく収納スペースもバッチリ……と言いたかったのだが、今回は少し「おや?」とツッコミを入れてしまう部分があった。例えばデザインのアクセントになっている、センターコンソールの左右に備わる「フロントコンソールサイドポケット」。大きさや深さ、角度的に、いったい何を入れればピタリと使いやすいのか、ちょっとナゾである。また、試乗車にはパノラマモニターパックとなる「9インチスマホ連携ディスプレイオーディオ」が装着されていたのだが、ディーラーオプションで通常の2DINナビも装着できる形状となっているため、ディスプレイの左右に「もしかしてコインポケット?」などと間違ってしまいそうなくぼみができているのも気になった。

ロッキーのインパネまわり。ライズも共通デザインとなる
ステアリング。パドルシフトは設定されていない
シフトノブ。ドライブレンジに入れて右へ倒すとマニュアルモードとなる
試乗車は9インチスマホ連携ディスプレイオーディオが装着される「スマートパノラマパーキングパック」(14万8500円)を設定

 とはいえ、大きなドアポケットには前後ともにボトルホルダーも備わり、後席用にUSBソケットが2口あるなど、コンパクトクラスとしては収納スペースが充実している。荷室の容量もクラストップレベルの369L+アンダーラゲッジ80Lを確保し、2段階に高さが変えられるデッキボードで後席を倒した時にもフラットなフロアを実現。開口部も、荷物を出し入れする頻度が多い下辺が大きく広がっているので、間違いなく使いやすいはずだ。

 シートは前席でも大柄な男性だと少しはみ出てしまう大きさだが、サイドサポートがしっかりとあり、ちょっとスポーティな運転でも支えてくれそう。後席も座面と背もたれがやや小さめで、リクライニングも1段階のみではあるが、足下スペースには余裕があるので窮屈な印象はまったくなし。男性が乗っても頭上にゆとりがあり、フル乗車をするなら大人4人+子供、もしくは大人の男性2名+女性3名でもくつろげそうな感覚だ。後席には3名分のヘッドレストもちゃんと備わっている。

ロッキーのG、Xと共通となるライズ Zのシート。ダイハツの新世代のクルマづくり「DNGA」の技術を取り入れ、シート骨格もDNGAに沿った開発が行なわれている
2段可変式デッキボードを備えるラゲッジルーム。荷室容量はVDA方式で369Lというクラストップレベルの容量を実現。さらに、デッキボード下にはVDA方式で80Lといいうアンダーラゲッジも備える

 さて、試乗をする前にしっかり頭に入れておきたいのが、ロッキーはダイハツとしてタントに続く第2弾のDNGAモデルだということ。タントから採用した新開発プラットフォームを拡大し、従来は前後で分かれていた骨格の断点をなくして連続性を持たせる骨格配置としたことで、高剛性化および薄板化による軽量化を実現。980MPaの高強度材料を主要部品に採用するなどで、クルマとしての基本性能に直結する操縦安定性を高め、見えない部分から飛躍的な進化を遂げてきているのがDNGAの大きな特徴だ。

 そしてこの新開発プラットフォームは、何よりもまずサスペンションジオメトリーを優先して設計しているというのもポイント。そのため、従来のようにチューニングで適正化を図るのではなく、最初からそのクルマにベストな配置と構造で運動性能を作り上げていけるのが画期的。走りのよさと乗り心地を両立しやすいほか、ロッキーは17インチの大径タイヤを採用しながら、最小回転半径を5.0m(16インチタイヤは4.9m)に抑えて抜群の小まわり性能を実現しているが、これもDNGAによる恩恵だ。

 搭載されるパワートレーンは、1.5リッタークラス相当の動力性能が見込めるという1.0リッターターボエンジンと、タントで初採用したD-CVTの組み合わせ。エンジンはトールに搭載したものを小改良して加速性能をアップしており、スプリットギヤを用いた技術で変速比をワイドレシオ化したD-CVTとのコンビは初である。

ロッキー、ライズともに最高出力72kW(98PS)/6000rpm、最大トルク140Nm(14.3kgfm)/2400-4000rpmを発生する直列3気筒DOHC 1.0リッターターボ「1KR-VET」型エンジンを搭載。トランスミッションには新開発のスプリットギヤを用いた技術を採用したD-CVTを組み合わせる。WLTCモード燃費は2WDモデルで18.6km/L

これが、コンパクトSUV……!?

 試乗会場から一般道へと出るまでの100mほどで、早くも驚いたのはアクセルレスポンスのよさ。踏み込むと同時にモリモリとパワーが引き出される感覚で、青信号での発進から60km/hまであっという間に加速する。少し強めに踏めばビュンビュンと威勢のいい加速が得られ、弱めればスッと減速し、コントロール性もよいので小気味のいい走りが楽しい。これはまさしくD-CVTがいい仕事をしているのだと感じたが、聞けばそれ以外にも、「トール」では上置きだったインタークーラーがロッキーでは前置きになったことで、よりスムーズに風が取り入れやすくなったことなど、構造的な恩恵もあるらしい。カーブのある上り坂を駆け抜けたときにはとくにそのよさが際立ち、途中で息切れするどころかどんどん余裕が大きくなってくるくらいの勢い。1.0リッターターボと知らなければ、1.5リッターか1.8リッターくらいはあると思いそうなパワフルさだ。

 さらに、ステアフィールは適度な落ち着きがありつつ、低速では少し軽くなり、カーブでは路面からのインフォメーションがより伝わってくるという、安心感と運転しやすさと楽しさがしっかり同居していて感心した。また着座位置が地上665mmと、クロスビーの600mmよりやや高めの運転席からの見切りはとてもよく、狭い曲がり角や車庫入れも本当に操作しやすい。さすがコンパクトSUVの本領発揮と思いつつ高速道路へ入ってみると、速度を上げてもガッシリとして安定感のある乗り味は、これがコンパクトSUVなのかと不思議な気持ちになるほどだ。クルージング中の静粛性も高く、3気筒であることなど忘れてしまうはず。追い越し時にもパンチのある加速が得られ、マニュアルモードがあるので、長い下り坂やカーブでの安心感がアップ。4人乗車時には下り坂でのブレーキフィールにもう少し頼もしさが欲しいなと感じた場面もあったが、ヒヤリとするほどではなく、1~2名ならまったく気にならない。山道などではスポーティな走りも楽しめそうで、これはあちこち出かけたくなるだろうと思った。

 しかも、乗り心地は17インチ、16インチともにまったく不満はなし。強いて言えば、17インチの方がやや剛性感が強めに感じるので、当たりは少し硬いものの、後席でも常識的なレベルだ。同乗した編集部K氏は、後席で捕まるためのグリップが天井にしかないので、子供やお年寄りがもっと使いやすい場所にグリップが欲しいと言っていたが、それは私も同感。加えて、ダイハツ車は多くのモデルで後席ドアが90度まで開くのが特徴的なのだが、ロッキーは80度くらいに留まっているため、軽自動車からステップアップしたファミリーなどはアレッと思う人もいるのではないかと思った。

 ただ、それを開発者に確認したところ、ドアを90度まで開くようにするには強度の問題などでさらにコストがかかることと、80度程度でも良好な乗降性は確保できており、チャイルドシートのお世話もしやすいと判断したことなどが理由とのこと。確かに、ドアを大きく開けるには広い場所が必要であり、都心部のユーザーにはそれほど恩恵がないことや、風の強い日などに誤って隣のクルマにぶつけてしまうかもしれないことを考えると、コストをかけてまでこだわるところではないのかもしれない。

安全装備も手厚い

 ロッキー&ライズが力を入れてきたところの1つが、やはり安全装備である。タントで初採用した次世代スマートアシスト、全車速追従機能付きACCを含むスマートアシストプラスの15種類に加えて、新たに隣接する車線の死角にいる車両を検知して接触防止をサポートするBSM(ブラインドスポットモニター)、後方を横切る車両を検知して接触防止をサポートするRCTA(リヤクロストラフィックアラート)を設定。この新機能2点が標準装備されるのはロッキーだと最上級グレードのPremiumだけで、G、Xにはオプション設定(ライズだとZ、Gにオプション設定)となっているので、欲を言えば全車標準にしてほしいところではあるが、価格重視か、安全装備重視かの選択権をユーザーに託すというのもまた販売戦略の1つ。ミドルサイズSUVなどからダウンサイジングするユーザーは、これまで付いていた安全装備が省かれてしまうのは不安になるだろうから、街乗りからロングドライブまで、うっかりミスから大事故に発展しそうなミスまで手厚くカバーしてくれるグレードが選べるだけでも嬉しいところだ。

ロッキー、ライズともに装着グレードは異なるが、予防安全機能「スマートアシスト」全10機能に加え、運転をサポートする「スマートアシストプラス」全7機能の計17機能から構成される「次世代スマートアシスト」を採用。今回から新たにソナーを搭載することで、後方確認をサポートする「BSM(ブラインドスポットモニター)」「RCTA(リヤクロストラフィックアラート)」の2機能を追加した

 こうして見ていくと、ロッキー&ライズは完璧な優等生とまでは言えない。言えないけれど、これまでのどのコンパクトSUVよりも、「乗ってみたい」「所有したい」と思わせる強烈な引力があり、乗ってみてもその期待を裏切らないことがよく分かった。そしてきっと、それを170万円台からという価格と、5ナンバーサイズで実現したことが最も褒め称えるべき魅力である。細かいことなどどうでもいい、とにかく乗りたいというパッションを持つクルマこそ、今の時代に多くの人が求めているものかもしれない。ロッキー&ライズは、そのパッションを生み出すチカラを持つ希少なコンパクトSUVである。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:安田 剛