試乗インプレッション

発売後7年の月日で洗練された三菱自動車「アウトランダー BLACK Edition」

4WD車標準装備の「S-AWC」など、積み重ねた改良で軽快さが際立つ

「BLACK Edition」はガソリン車のみ

モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が“PHEVではない”「アウトランダー」に試乗

 価格差が小さくないにもかかわらず、販売比率は圧倒的にPHEVが高く、三菱自動車工業の「アウトランダー」に求められるのは、やはりそちらが根強いようだ。しかし、一方でガソリン車も毎年のように改良を実施し、地道に進化している。また、今回試乗した2018年12月発売の特別仕様車「BLACK Edition」を選べるのはガソリン車のみ。今いちどガソリン車のアウトランダーに目を向けてみたい。

 直近の2019年9月の改良において、PHEV&ガソリン車共に細かいところがいろいろと変わったのだが、以下で「BLACK Edition」について述べると、外観ではフロントファンネルガーニッシュとリアゲートガーニッシュにダーククロムが採用され、より精悍な印象になった。

 ボディカラーは従来の「レッドメタリック」に替えて設定された写真の新色「レッドダイヤモンド」に注目。キラキラと輝く鮮やかで深みのある赤は、なかなかインパクトがある。ルーフ色をブラックマイカとした2トーンカラーとしては、他に「ホワイトパール」と「チタニウムグレーメタリック」が選べ、モノトーンの「ブラックマイカ」も選べるという全4色展開となる。

試乗車の「アウトランダー BLACK Edition」。上級グレードのG Plus Packageをベースに専用装備を装着。価格は327万5800円で、試乗車は50万3000円分のメーカーオプション、14万28円分のディーラーオプションを装着
フロントグリルにダーククロムのフロントファンネルを装着
ルーフをブラックマイカでカラーリングする2トーン仕様。ボディカラーは新色のレッドダイヤモンド
リアゲートガーニッシュもダーククロム仕上げとなっている
リアスポイラーもブラックマイカ塗装となる
ブラックマイカ加飾付サイドドアガーニッシュ
ドアミラーにもブラックマイカ塗装が施される
ブラック塗装の専用18インチアルミホイール。タイヤサイズは225/55R18 98H

 インテリアでも、ステアリングホイール、シフトセレクター、シートなどにアクセントとしてレッドステッチを施し、インパネとドアトリムにはブラックカーボン調のオーナメントパネルを採用。ルーフライナーに合わせてピラーをブラックで統一するなどいろいろ変更があり、同じく精悍さが増している。

 ここからはアウトランダー全車に当てはまるが、専用の音響チューニングを施して新設定された「ミツビシパワーサウンドシステム」の音質も良好で、臨場感のあるサウンドを届けてくれる。さらに、Android AutoやApple CarPlayに対応し、ディスプレイ画面を8インチに拡大した「スマートフォン連携ナビゲーションシステム」が新たに設定された。

 また、シート表皮にはっ水機能を追加し、運転席にパワーランバーサポート機能を採用するとともに、セカンドシートの形状やクッションを見直すなどシートも進化した。なお、あらためて念を押しておくと、PHEVには設定のない3列シート7人乗りが用意されることもガソリン車ならではのポイントだ。

シート表皮ははっ水機能を持つスエード調人工皮革「グランリュクス」と昇降温抑制機能を有する合成皮革「クオーレモジュレ」を組み合わせたコンビネーションタイプ。レッドステッチがアクセントとして施される
運転姿勢の調整が可能となるパワーランバーサポート機能を運転席に追加
3列目と2列目のシートに座ったところ。9月の一部改良で2列目シートのクッションと形状の見直しが行なわれ、サポート性を高めている
2列目シートのクッションを前方に倒すスタイルでフルフラットなラゲッジスペースが作れる

S-AWCによるハンドリング

 走りに関する部分では、これまでオプションだった車両運動統合制御システム「S-AWC」が、4WD車に全車標準装備とされた。同じ「S-AWC」という呼称で狙いも同じながら、PHEVとは別物の機構となる。PHEVでは左右の駆動力を変化させる「AYC(アクティブヨーコントロール)」をブレーキのみで制御するのに対し、ガソリン車は電子制御4WDをベースに「AFD(アクティブフロントデフ)」、ブレーキ、電動パワーステアリングにより制御する。AFDは電子制御クラッチによりフロントデフの差動を制限し、前輪左右の駆動力配分を制御するためのものだ。

 S-AWCの効果として、旋回時のライントレース性、直進走行時やレーンチェンジ時の安定性、滑りやすい路面における走破性の向上が期待できる。別の機会に雪上でドライブした際も、非搭載車と比べるとずっと曲がりやすいことが印象的だったが、舗装路でのコーナリングでもS-AWCによる効果らしきものは感じられる。

 そのS-AWCの効果と相まって、2018年8月の改良でステアリングレシオがクイックにされたことも効いてか、ドライブフィールは軽快さが際立つ。この軽さは競合する同クラスのライバル勢に対しても印象的なもので、操舵するとクルマが素直に動き、直進安定性もおおむね良好だ。欲をいうとステアリングフィールにもう少し接地感があり、転舵後の揺り戻しの収束性が改善されるとなおよい。

 また、走行モードは「AWC ECO」「NORMAL」「SNOW」の他、ガソリン車のみ新たにラフロード走行用の「GRAVEL」が加わった。こちらもあらためてふさわしい場で試してみたい。

BLACK Editionのインパネではカーボン調のオーナメントパネルを採用
ステアリングとシフトセレクターは本革巻
ドライブモードにガソリン車専用の「GRAVEL」が追加。滑りやすい路面で優れた走破性を発揮する
23万1000円高のメーカーオプションとなる「スマートフォン連携ナビゲーションシステム」はAndroid AutoやApple CarPlayに対応。画面サイズも7インチから8インチに拡大された
トゥイーターなども備える8スピーカーの「ミツビシパワーサウンドシステム」は8万5000円高
ドアトリムにもカーボン調オーナメントパネルを備える

ボディ剛性の向上と足まわりの改良

直列4気筒OHC 2.4リッター「4J12」型エンジンは最高出力124kW(169PS)/6000rpm、最大トルク220Nm(22.4kgfm)/4200rpmを発生。JC08モード燃費は14.6km/L

 前述の軽快な走りには出足の軽さも効いている。少々飛び出し感はあるものの、アクセルペダルの踏み始めからリニアに力強くトルクを立ち上げ、それを遅れることなく伝えるCVTも軽やかなドライブフィールに直結している。

 また、現行型になって7年余りが経過し、走り味も当初に比べると徐々に洗練されてきたわけだが、その間に基本骨格や足まわりが遂げた進化も小さくない。直近の2018年8月の改良で実施した、開口部やリアタイヤハウスまわりへの構造用接着剤の塗布、ダンパーの変更などにより走りはさらによくなった。路面からの入力の受け止め方も当初とはずいぶん違って、骨格がしっかりしたことで足まわりが理想的に動いている感覚が伝わってくる。快適な乗り心地と軽快なハンドリングを実現した背景にはボディ剛性の向上も大きな役目を果たしていることに違いない。よかれとやったいろいろなことが効いているのだろう。

 アウトランダーといえばまずPHEVを思い浮かべるだろうし、PHEVに関心がある人は迷わずPHEVを選ぶべきだと思うが、ガソリン車もこちらはこちらで独自の魅力があり、コスパも高い。このクラスのSUVの購入を考えている人にとって、競合するライバルと共に検討の俎上に載せる価値は大いにあることをお伝えしたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一