試乗インプレッション

2019 ワークスチューニンググループ合同試乗会(ニスモ編)

NISMOが創る「CRS(クラブマン レース スペック)」を試乗

今回の試乗会では、レーシングドライバー柳田選手の助手席で「CRS(クラブマン レース スペック)」のポテンシャルを体感することもできた

「ワークスチューニンググループ」とは、自動車メーカー直系のモータースポーツ専門会社である「NISMO」「STI」「TRD」「無限(M-TEC)」の4ブランドによる合同活動グループであり、モータースポーツとスポーツドライビングの振興を目的としている。4社はモータースポーツの場ではライバルでも、アフターマーケットでは競合しないことから、お互いのレベルアップと効率化を図るべく、グループとして共同で活動する機会を設けている。

サーキット走行を1日楽しみ、自走で帰宅できるクルマ

 これまで初期型のR35型GT-Rにストリート仕様やニュルアタック仕様など、異なるチューニングを施したデモカーを用意してきたNISMOは、今回はガラリと変わって、中期型の「CRS(クラブマン レース スペック)」という仕様を持ち込んだ。CRSというのは「サーキット走行を1日楽しみ、自走で帰宅できるクルマ」をコンセプトに据え、安全面や法規面も含めてニスモがパーツを開発し、大森ファクトリーがセットアップを行なうというもの。

「実は最近、スポーツドライビングを楽しむために中古のGT-Rを購入する比較的若いお客さまが増えています。NISMOドライビングアカデミーにも幅広い年代のいろいろな方々に参加いただいています」と、セールス&マーケティング部の碓氷氏と同アカデミーで講師を務める柳田真孝選手も述べていたが、まさしくその層がターゲットとなる。今回、まずは自身でドライブしたのち、柳田真孝選手の運転で同乗することもできた。

「方向性としては、国内サーキットでタイムアップを図ることを念頭にセットアップした」とセールス&マーケティング部の碓氷氏(左)。乗り方のコツを教えていただいたNISMOドライビングアカデミーの講師も務めるレーシングドライバー柳田真孝選手(右)
試乗用に用意されていたのは、2013年モデルのGT-Rブラックエディションがベース。チューニング費用は1000万円くらいとのこと
開発中のエンジンチューニングメニュー「S1」を搭載。シートはホールド力の高いレカロ製を装着
エンジンルームの熱を効率よく排出できるカーボン製のボンネットフードや、チタン製のマフラーにより軽量化が図られている
足まわりはGT3やNアタックパッケージでも実績のあるオーリズの新開発のサスペンションを装着し、アライメント調整により安定したグリップ力を発揮する
高い旋回速度を実現すべくダウンフォースを増大させたエアロパーツを装着。セッティングを富士スピードウェイで行なっていて、ガーニーフラップはかなり効果が大きい
フロントリップとフェンダーは、Nアタックパッケージからきているノウハウ

“乗せられてる”よりも“操っている”と感じられる

 全長1km足らずの間に12ものコーナーがひしめく北ショートコースでは、GT-Rだともてあましそうな気がしたものの、いざドライブしてみると、予想を超える身軽な走りにまず驚かされた。R35型GT-Rは誰しもが認めるハイパフォーマンスカーであるがゆえに、そのドライブフィールには「乗せられている」とよく評される印象がある。ところが、CRSではそれが払拭されていて、車体との一体感が増し、自らの手の内で積極的に操れる感覚があった。

 市販モデルのままだとアンダーステアが顔を出しそうなタイトコーナーでも、CRSは重さを感じさせることなくスムーズにターンインでき、アクセルオンでも不意にアウトに膨らむこともなく、気持ちよく曲がれる。キャンバー角の調整をはじめ、足まわり全体のチューニングの完成度の高さがわかる。

 S1エンジンはレスポンスがよく、低中速のトルクがフラットに出ているので扱いやすい。「ノーマルだとパワーが出るのを待っている間にアンダーが出てしまう」と柳田選手も述べるとおりで、よく曲がるのにはエンジンも寄与しているわけだ。これなら誰でもより楽しくサーキットを走ることができるに違いない。

 エアロパーツは富士スピードウェイで煮詰めたとのことで、むろん富士のような高速コースのほうが、より本領を発揮するのだろうが、コンパクトなコースにおいても扱いやすさが印象的で、このクルマがどういう狙いで造られたかがうかがいしれた。

エンジン出力と足まわりとエアロダイナミクスが、バランスよくセッティングされているので、誰でも気持ちよく走れる1台だ

柳田真孝選手も太鼓判

 そして柳田選手のドライブで、助手席から限界を引き出した走りを体感させてもらったところ、こんなにコンパクトなコースでもここまで攻めるのかと驚かされたが、シャシーの仕上がりとエンジン特性があいまって大きくスライドさせてからもコントロールしやすい様子がうかがえた。

 また、オーリンズの特性について「姿勢変化に対して4輪を常にしっかり接地させることができる点が優れていて、たとえばブレーキで突っ込みすぎたり、アクセルをあけるのが早すぎてフロントが軽くなったりしてもピタッとついてくるのが特徴的」とのことで、まさしくそのとおり路面に吸い付くかような感覚がある。同キットだけで150万円もするわけだが、さすがは高いだけのことはある素晴らしい仕上がりであった。

「GT-Rは重くて曲がらないのがもったいないと思っていましたが、このクルマはそこを消すことまではできないにしても、ずいぶん改善されています。回頭性がよく、乗りやすいのがCRSの特徴です」と柳田選手

 コースを走った後、郊外の一般道と同じような条件である、ツインリンクもてぎ内の構内路を走行し、CRSのもう1つの重要なテーマである、「自走で帰宅できる」についても確認した。筆者が試乗した時点で、すでに何日も走り込まれていた状態だったものの、とくに気になることもなく、それなりに足まわりも強化されているが、荒れた路面でもそれほど乗り心地を損なわない。レスポンスと低中速トルクに優れるS1エンジンは、日常使いのような走り方でもいたって乗りやすいことも印象的だった。

パドックにはアルミ鍛造1ピースの新作アルミホイール「BBS RI-A Engineered by NISMO ダイヤカットモデル」を装着したGT-Rも展示されていた

第2世代GT-Rのパーツを生産開始

 また試乗会場には、日産やNISMOが共同でスタートさせた「ユーザーが日産のパフォーマンスカーを少しでも長く乗り続けられるようサポートする活動」により再生産されたヘリテージパーツ(ハーネス、ホース・チューブ、エンブレム、外装部品など)を装着した第2世代の3台のスカイライン GT-Rも展示されていた。

ヘリテージパーツを装着するR32型スカイライン GT-R
リアのウイングが、最近ヘリテージパーツとして再販されている
エンジンは吸排気の流れをスムーズにし、オリジナルのコンピュータでセッティングが施された「S2」を搭載
前後とも大口径ホイールに交換され、同時にブレーキキットの大型化も施されている
ヘリテージパーツを装着するR33型スカイライン GT-R
R32型より前後左右ともひと回り大きくなったR33型。広い室内も人気の1つ
エンジンはR32型と同じくNISMO大森ファクトリーでファインチューンが施された「S2」仕様を搭載
エンジンルームの熱を冷やすために前方の開口部が大型化される。リアウイングはフラップを付けダウンフォースの増大に貢献する
R32型と同じく、前後とも大口径ホイールに交換され、ブレーキキットも大型化されている
ヘリテージパーツを装着するR34型スカイライン GT-R
エンジンは「S1」よりもハイパフォーマンスな性能を持つ「R2」を搭載。シートはホールド性能にこだわりレカロ製フルバケットシートに交換されている
軽量化のために、ボンネットやマフラーはカーボンやチタンなど軽い素材でできたパーツに交換されいる
スタイルを大幅に変えることなくダウンフォースを高められるエアロパーツを装着する

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一