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SUPER GT最終戦終了後、ホンダ 佐伯昌浩LPLと徃西友宏CEに聞く
2021年12月2日 11:03
SUPER GT最終戦富士が11月27日~28日の2日間にわたって富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)で開催された。GT500は36号車 au TOM'S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)が優勝し、このレースが始まる前までランキング1-2-3を占めていたホンダ勢を大逆転してチャンピオンを獲得した。
このレースは終盤まで、2番グリッドからスタートして、レース後半4位を走っていた1号車 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)がタイトルを獲得するとサーキットにいるほぼ全員が確信している状況だった。1号車 STANLEY NSX-GTの後半スティントをドライブする山本尚貴選手は、2020年、そして2018年にもチャンピオンを獲得している。今シーズン中に100回の出走を果たしたということで、このレース前にグレーテッドドライバーとして表彰されるほどの実績も十分なベテランだ。ミスなどはないから、ポイント的に考えて1号車のチャンピオンは間違いないだろうと考えられていた。
しかし、終盤となる51周目の1コーナーでは誰もが予想しなかった事態が発生した。GT300の55号車 ARTA NSX GT3(高木真一/佐藤蓮)が、前を走るライバル車のインに入るためにブレーキを遅らせると、そこには1号車がいて2台は接触。GT300とGT500車両、しかもどちらもチャンピオンを争っている車両同士が接触という事態が発生してしまったのだ。これにより1号車は修復のためにピットに入り周回遅れとなり、ノーポイントでレースを終えることになった。
8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)はピット時にトラブルが発生してほかよりも10秒近く長い時間止まっていたため後退し、最終的に6位に終わった。また、17号車 Astemo NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット)は序盤に他車との接触があり、ピットに入りそのままリタイアになった。
2020年は最終戦の最終ラップの最終コーナー過ぎでGR Supraを大逆転したホンダ勢だが、1年経った2021年の最終戦は大逆転を受ける立場となった。
最終戦終了後、ホンダのSUPER GT活動を統括する本田技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏、シャシー開発をリードする同 SUPER GT 車両開発担当 徃西友宏氏にお話しをうかがったので、ここにお届けする。
1号車と55号車の事故に関しては「避けようがないアクシデント」とホンダ 佐伯LPL
佐伯氏:今日に関してはあまりしゃべることがないというのが正直な感想だ。最終戦のレースでは淡々とチャンピオンを取れるレースをこなしていた1号車が避けようのないアクシデントに見舞われてしまった。8号車もトラブルがなければチャンピオン争いができたレースだった。ランキング順位が1-2-3で乗り込んだレースだったが、残念な結果に終わってしまった。
徃西氏:今日のレース結果は非常に残念な結果に終わってしまったが、これもレースなので仕方がない。車両の開発に関しては、今年のレースでのデータをしっかり振り返って今年の車両が優れている点、逆に劣っていた点をしっかり振り返って来年の開発につなげたい。
──8号車のピット作業時のトラブルはドアのトラブルなのか?
佐伯氏:中継映像には映っていなかったこともあり、われわれも直接見たわけではないので確定的なことは言えないが、関係者から聞いた話ではドライバー交代の時に何かを引っかけてそれによりドアが外れてしまい、それを直すのに10秒程度余計にかかってしまったということだと聞いている。
──シーズン最後のレースで残念な結果に終わったが、あえてポジティブな要素を挙げると何か?
佐伯氏:今シーズンはレース中にホイールナットの緩みが出るなどの小さなトラブルはあったが、ハードウェア面での大きなトラブルというのはなかった。それが最終戦を前にしてランキング1-2-3という形で迎えることができた理由だ。信頼性に関しては昨年もトラブルは少なかったと思うが、今年もきちんとやれたことがポジティブな要素だ。最終戦に関して言えば、(ライバルのGR Supra勢が有利なサーキットで)サクセスウェイトがない状態でフロントローを獲得することができたのはよかったと思う。
往西氏:佐伯LPLが説明したとおりだが、特にこのサーキット(富士スピードウェイ)ではトヨタの中でトップを走るようなクルマとは互角な勝負ができていなかった。この点はまだまだ改善の余地がある。しかし、それでも(接触事故が起こる前までに)1号車がトヨタ勢とやりあっていたことはポジティブに考えている。
──レース後1号車の山本尚貴選手は、チャンピオンを取った2人に祝福に行っており、そのスポーツマンシップにあふれた行動には賞賛の声が出ていた。普段から山本選手に接している2人からみてどう見えたか?
佐伯氏:レースなので、今回のようにまったく避けようがないアクシデントが起きることもある。今回に関しては明らかに自分のミスで失った訳ではないということで、割り切れる部分もあったのではないだろうか。しかし、あくまで想像だが、本心は相当悔しかったのではないかと思う。
往西氏:山本選手は普段から一緒にやっているチームスタッフへの感謝の気持ちを述べるなど心遣いができる選手だ。そういう点で普段から山本選手は尊敬できる行動をしており、感謝の気持ちを伝えながらということが本当に印象的だと思っている。
──来年に向けて。
佐伯氏:1年間NSX-GTのレースを応援していただいたファンのみなさまにお礼申し上げたい。来年に向けてNSX-GTをもっといいクルマにして行きたい。
レース後の山本選手のスポーツマンシップあふれる行動に賞賛集まる、「プロ」としての真の姿を見る
今回のホンダ陣営のレースは「ほぼチャンピオンをつかみ取った」レースをしていたはずだった。レース前のポイントでは、1号車と8号車、17号車が1-2-3で、今回チャンピオンを獲得したトヨタの36号車は16点差という優勝以外にチャンピオン獲得があり得ない状況で、仮に36号車が優勝しても1号車が6位にいればチャンピオンという中、終盤1号車は4位を走行していた。
そして運命のアクシデントが起きる。主役が1号車であることはもちろんだが、重要なキャストとしてはGT300で最終的にチャンピオンになった61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)と55号車 ARTA NSX GT3の4位争いだ。この2台はGT300の4位争いをしており、55号車が急速に差を詰めて61号車の背後に迫っていた。
1コーナーで55号車はブレーキを遅らせて61号車のインに入った。しかし、何らかの理由で止まりきることができず、ほぼ1コーナーを直線的に飛び出しそうになったところに、運わるく1号車がターンインしてきた。2台は接触。その結果1号車はスローダウンせざるを得なくなり、ピットに入って修復。最終的に14位でゴールし、ノーポイントに終わったことでタイトルの座を逃すことになった。それが佐伯氏のいう「避けようがないアクシデント」だ。
もう1台チャンピオンの可能性を残していたホンダの8号車は、佐伯氏のコメントにもあったとおり、ピット作業時にドアが外れるというトラブルに見舞われて、10秒近く余計にストップした。これで大きく順位を失い、ストレートスピードでGR Supra勢に追いつかない状況の中で順位の挽回が難しく、6位に終わり、こちらもチャンピオンを逃す結果となった。
ホンダにとっては「残念」としか表現のしようのない結果だ。そのアクシデントの引き金を引いてしまった55号車のドライバーである佐藤蓮選手はチームが発表したコメントの中で以下のように述べている。
佐藤蓮選手のコメント
(ARTAのhttps://topics.artaracing.com/archives/6610に掲載)
「レースの結果がリタイヤという事になってしまい、接触してしまった1号車の皆さま、チームの皆さまには申し訳無い気持ちでいっぱいです。本当に申し訳ありません。レースに関しては良いペース、流れで気持ちが先走ってしまい、強引な追い抜きをしてしまった為に接触してしまいました。これから同じことを繰り返すようではドライバーとして駄目なので、気を引き締めてオフシーズンにしっかりと勉強して二度と同じことを繰り返さないように努力していきたいと思います。1年の締めくくりがこのような結果になってしまい、申し訳ありません。また、応援して下さった皆さまには感謝致します。ありがとうございました」
確かに代償の大きなミスになってしまったことは事実だが、ミスできることは若者の特権でもある。ホンダにとっては期待の若手ドライバーの一人である佐藤選手に今回の失敗を糧にして成長してもらいたいところだし、2019年のFIA F4チャンピオンという実績からしても十分に可能なはずだ。
そして、レース後に昨年とは真逆の立場(昨年は他チームのガス欠というドライバーには非のないトラブルが発生したことで、当時の100号車=今年の1号車がチャンピオンを獲得した)に立たされた山本尚貴選手の行動にも賞賛が集まった。
レース終了後、パルクフェルメに戻った山本選手は36号車のドライバー2人を祝福に行ったのだ。そのスポーツマンシップにあふれる行動には多方面から賞賛が集まった。ホンダの佐伯氏が言うように、おそらく本心では相当悔しいはずだし、ゴミ箱の1つでも蹴飛ばしたいところだろう。しかし、それを覆い隠して、勝者を称えに行った姿こそ、プロドライバーとしての「プロフェッショナル」の姿であり、それこそが賞賛されてしかるべきだろう。