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モービルアイ アムノン・シャシュアCEO、レベル4自動運転向け最新半導体「EyeQ Ultra」とADAS向け半導体「EyeQ6H」「EyeQ6L」を詳説
2022年1月11日 00:00
世界最大の半導体メーカー「インテル」の子会社で、イスラエルの自動運転向け半導体を設計、販売する半導体メーカー「モービルアイ」は、CES期間中の1月5日(現地時間)に報道関係者などを対象にした同社の2022年以降の方針や製品展開を説明するオンラインイベント「Under the Hood」を開催した。
同社はその前日となる1月4日に行なわれたインテルの記者会見の中で、新しい自動運転向けSoCとなる「EyeQ Ultra」「EyeQ6 Light」「EyeQ6 High」などの新製品を発表しており、その詳細などが説明された。
モービルアイ CEO アムノン・シャシュア氏は「EyeQ UltraはEyeQ5 10個分に相当する性能を持っている。それにより1チップでレベル4の自動運転機能を実現することが可能だ。さらにわれわれが提供するレーダーやLiDARなどを組み合わせることで、5000ドル以下のコストで一般消費者向けのレベル4自動運転システムを実現可能だ」と述べ、2024~2025年にレベル4の自動運転のシステムを、5000ドル以下のコストで実現できると強調した。
累計1億ユニットを出荷したモービルアイ、2021年の売り上げは前年比40%増と絶好調で、IPOも計画
モービルアイ CEO アムノン・シャシュア氏は「2021年はモービルアイにとって記録的な年になった。30を超える新しいOEMメーカーを獲得し、5000万台ものデザインウィンを獲得し、すでに公道には188種を超えるモービルアイのシステムを搭載した車両が走っており、売り上げは14億ドル。対前年比で40%の向上となっている。そして2021年には累計1億ユニットの出荷を達成した」と述べ、モービルアイが順調に業績を伸ばし、自動車メーカーが生産する車両に採用が進んでいることを強調した。
実際、そうした業績の好調さを受けて、モービルアイの親会社であるインテルは、モービルアイを証券取引所に上場する計画(IPO=Initial Public Offering)を2021年12月に明らかにしている。過去、インテルはさまざまなスタートアップを買収したが、大規模にIPOするまでになった買収は筆者の知る限り例がなく、その意味でもモービルアイの買収は成功だったと言えるだろう。
なお、IPO後もインテルはメジャーシェアホルダー(企業の支配権を持つ大株主のこと)であり続けることは明らかにしており、引き続きインテルの子会社という位置づけは変わらない見通しだ。
そうしたモービルアイだが、2021年に実現した技術的な達成を紹介した。1つはREM(Road Experience Management)というモービルアイのシステムを組み込んだ車両が走ったデータを元に自動生成される高精度マップ(HD Map)を活用した自動運転の実証実験を新しくパリや東京などでも開始したこと。
ホンダのレベル3自動運転のレジェンドにヴァレォが提供したモービルアイベースのシステムが採用されたこと、
今後BMWがモービルアイベースのコンピュータビジョンを利用した車両を投入すること。
さらにはフォルクスワーゲンがREMに基づいたTravel Assist 2.5というシステムを投入する計画であることなどに言及した。
中国のZeekr(中国の吉利汽車のプレミアムブランド)が6つのEyeQ5Hを利用して一般消費者向けの自動運転車両を2024年に実用化する計画なども紹介した。
レベル4自動運転以上をターゲットにしたEyeQ Ultra、ADASをターゲットにしたEyeQ6HとEyeQ6Lの計画
モービルアイの2022年以降の戦略についてシャシュア氏は、4つの柱があると説明した。「目的に応じたSoC」「ソフトウエア定義のイメージングレーダー」「少ないコンピューティングリソースでの自動運転」「クラウドを活用したREMマップ」の4つだ。
SoCに関してはCESのメディアデーで新しいSoCとして、EyeQ Ultra、EyeQ6 High(EyeQ6H)、EyeQ6 Light(EyeQ6L)の3製品を発表した。
この中で最もハイエンドに位置するのがEyeQ Ultraだ。従来のEyeQシリーズはEyeQと数字の組み合わせで世代を示していたが、EyeQ Ultraではそうした世代を示す数字はなくなっている。これは従来のEyeQシリーズがレベル2やレベル2+などの主にADAS向けとされているのと差別化するためだと考えられる。このEyeQ Ultraは明快にレベル4以上の自動運転用と位置づけられているのだ。
シャシュア氏は「EyeQ Ultraは176TOPsの性能を持っている。そうした性能はEyeQ5を10個以上必要になる。ロボタクシーや一般消費者向けのレベル4自動運転を実現するにはEyeQ Ultraの性能が必要だ」と述べ、100W以下で176TOPsという性能を実現するEyeQ Ultraはレベル4以上の自動運転(具体的に言えばレベル5となるロボットタクシーやレベル4の市販車)向けと位置づけた。
シャシュア氏によれば、EyeQ UltraはRISC-VのCPUが12コア/24スレッド、256GFLOPSのGPU、2.4Gピクセル/秒のISP(イメージシグナルプロセッサ、写真や動画を処理するエンジン)、ビデオエンコーダ(2xH264/265エンコーダ、4K60p、MJPEG)、ニューラルネットワークの処理やSIMD演算などを行なう専用のアクセラレータ(64コア)などの演算器を備えたSoCで、メモリもLPDDR5Xという最新のメモリに対応している。176TOPsおよび4.2TFLOPSといったこうしたSoCとしては異例の性能を備えている。
シャシュア氏によれば、EyeQ Ultraは、5nmプロセスルールで製造され、2023年の第4四半期にES(エンジニアリングサンプル)の提供が開始され、大量出荷は2025年になる見通しだ。
EyeQ6 High(EyeQ6H)はEyeQ5Hの3倍のTOPS性能を備えたSoCで、CPUはMIPS64の8コア/32スレッド、14のアクセラレータコアを備え、GPUはArmから提供されたIPで64GFLOPS、SoC全体のOpenCL性能は1TFLOPSに達するという。
ISPは1.2Gピクセル/秒、ビデオエンコーダなどを備えている。メモリはLPDDR5に対応。レベル2+などのプレミアム機能を持つADAS向けと位置づけられている。7nmで製造され、SoC全体で34TOPS、ESは2022年の第4四半期で、大量出荷は2024年の計画だ。
EyeQ6 Light(EyeQ6L)は、EyeQ4と比較してほぼ同じ消費電力で45%小さなパッケージで、4.5倍のTOPSという性能を実現し、レベル1~レベル2+までの幅広いADASに対応する。CPUはMIPS64の2コア/8スレッドで5つのAIアクセラレータコアを備えている。7nmで製造され、5TOPSの性能を実現し、既に昨年の第2四半期にES提供を開始しており、大量出荷は2023年の第2四半期が予定されている。
2024年~2025年頃にレベル4の自動運転システムのコストを5000ドル以下にして、市販車への採用を目指す
このほかシャシュア氏は、同社が提案しているソフトウエア定義のレーダーや、シリコンフォトニックスを利用した半導体ベースのLiDARなどを説明したほか、自動運転時にシステムが少ないコンピューティングリソースで運転プランを立てて実行ができるシステム「RSS」などに関して説明した。
シャシュア氏は「モービルアイが提供するSoCと、そうしたソフトウエア定義のレーダー、さらにはRSSやREMなどを組み合わせることで、低コストで自動運転システムを構築することができる。われわれが目指しているのは、2024~2025年に一般消費者向けの市販車に搭載できるようなコストが5000ドル(日本円で60万円前後)で実現できる自動運転システムだ」と述べ、同社が自動運転のシステムをただ実現するだけでなく、一般消費者向けのシステムに搭載できるようなコストまで引き下げていく。そうした取り組みを行なっていくことで、2024年~2025年にレベル4以上の自動運転システムを搭載した自動車が、一般消費者向けの自動車として登場するようにしていきたいと説明した。