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WRC参戦中の勝田貴元選手、「GRヤリス ラリー1」で挑戦した開幕戦について「クルマの理解が深まったよい1週間」

2022年1月25日 開催

記者の質問に答える勝田貴元選手

 WRC(FIA 世界ラリー選手権)の開幕戦、ラリー・モンテカルロがモナコ公国の首都 モンテカルロ周辺で開催された。ラリー・モンテカルロは、F1モナコGPと並ぶモナコの伝統イベントで、WRCのラリーの中でも最も格式が高いイベントになる。

 さらに、2022年のラリー・モンテカルロは、WRCの車両規定が従来の「WRカー」から、ハイブリッドシステムなどの新しい規定が盛り込まれた「ラリー1」へと変更されたこともあり、大きな注目を集めるイベントになった。

 その結果は、フォード PUMA ラリー1の19号車セバスチャン・ローヴ/イザベル・ガルミッシュ組が優勝し、2位にGRヤリス ラリー1の1号車セバスチャン・オジエ/ベンジャミン・ヴェイラス組となり、フォードとTGRが1位、2位を分け合うという結果になった。

豊田章男社長、ハイブリッドラリーカー「GRヤリス ラリー1」デビュー戦についてコメント

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1382778.html

 そうしたラリー・モンテカルロで8位という結果を残したのが、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team Next Generationから出場した勝田貴元/アーロン・ジョンストン組。その勝田選手が、ラリー終了後の1月25日に日本の報道関係者を対象にしたオンライン会見を行なったので、その模様をお伝えしていきたい。

ハイブリッドによるブーストの使い方の難しさに悩んだ

開幕戦モンテカルロラリーを走行する勝田・ジョンストン組

──それでは冒頭に勝田選手から開幕戦のまとめをお願いしたい。

勝田選手:2022年の開幕戦は、最終的に総合8位でフィニッシュした。レッキから話すと、今年は雪が少なく路面が凍結しているセクションが少なかった。ドライが多いのだが、朝の霜などもあるというトリッキーなコンディションで、タイヤ選択が難しかった。例年だとスノータイヤでいけるのだが、今年はドライ路面が多く、ドライタイヤでそこを走らないといけなかった。

 木曜日のシェイクダウンでは、トラブルがあり当初は出走できなかった。その後メカニックが直してくれて2回走る事ができた。それでクルマの感覚をつかめたと思っていたが、ハイブリッドシステムに問題を抱えており、ハイブリッドシステムを使わずに走っていた割にはタイム的にはわるくなくいいスタートだった。

 金曜日はハイブリッドシステムも使えるようになったが、今度はハイブリッドによるブーストの使い方の難しさに悩んだ。テストも多くできなかったという不安要素もあった割には、わるくないと自己評価した。ただ序盤で順位を落として締まったので、8~9番手あたりを走っていた。

 土曜日には、各チームにトラブルがあったりして、5~6番手ぐらいまで順位を上げることができた。土曜の最終ステージ前に5番手、最後のステージは凍結セクションで、そこで大きな溝にはまってしまい、10分ぐらいのロスをした。最後は観客に助けてもらって脱出したが、15番手ぐらいに落ちた。

 日曜日はクリーンに走る事を心がけ、最終ステージはちょっと速く走りすぎたかもというのはあったが、うまくまとめられ、クルマの理解が深まったよい1週間だったと感じた。

──ハイブリッドシステムの使い方についてお聞きしたい。クルマごとに3つのマッピングがあると思うが、今回それを3つとも使ったのか?

勝田選手:3つすべては使っていない。ざっくりと3つに別れており、ブーストの効き具合などが違っている。今回のモンテカルロでは一番強いものと真ん中のセッティングを利用していた。

──そうした使い方はドライバーによって違うのか?

勝田選手:トヨタの中ではほぼ同じだったと思うが、他のチームは使い方やパワーの出し方は大きく異なっている。現状ではざっくりパワーがある、ないとしか表現のしようがなくて、パワーがあるマップとないマップに分けている。トヨタ陣営内では同じようなマップを採用していたと思う。

──ステージが長いほど、1回のエネルギーの放出量は短くなると思う。長いステージだとエネルギーの出し入れがよく起きると思うが、それはドライバーは感じ取れるものなのか?

勝田選手:ブーストを使うタイミングは基本的にブレーキングをしたあとで、2~3秒した後にパワーが出るが、使い方もいろいろあって、短いステージだと100あるうちの100を出し切る前に終わってしまう。このため、距離に応じてマップが作成されており、チームによって放出のやり方もだいぶ変わってくると思う。

──それはステージ後半に入ったらブーストがなくなってしまうということもあったということか?

勝田選手:それはなかった。木曜日にトラブルで使えないということはあったが、エンジニアが計算して余裕がある使い方をしていた。

──ラリー1規定になって、多くの技術的な変更があった。ドライビングを替えないといけないと感じていたか?

勝田選手:一番苦労したのはアンダーステア。センターデフがなくなった影響で、アンダーステアが強くなってしまった。最終的にアンダーステアを消せる日もあったが、そうすると今度は別の所にネガティブな部分が出てきてしまい、全体的なグリップが下がってしまうなどしていた。そのあたりが今まではセンターデフとマッピングで回収できていたのだが、それができなくなってしまった。

──トヨタ陣営の中でドライバーによって、あうあわないみたいなことはあったが?

勝田選手:自分を除いたドライバーは昨年の夏から何度もテストしている。ベースのセッティングは、エルフィン(エルフィン・エバンス選手)がセッティングしたものがベースになっており、カッレ(カッレ・ロバンペラ選手)もそれをベースにセッティングを進めていたが、当初は自分も含めて戸惑っていたが、ステージが進むごとに慣れていった。

──WRカーと新しいラリー1の車両の大きな違いは何か?

勝田選手:GRヤリスがベースになっていることもそうだが、ハイブリッドになっていること、空力が減ってる、サスペンションストロークも減ってる、また、高速シーケンシャルになって、リアにバッテリが積まれているなど、車重バランスが変わってしまったことで、乗り味は正直大きく変わった。

 先ほども述べたように、アンダーステアが強くなっており、リアヘビーでブーストがかかるとスナップオーバーステアのような感じで、ヘアピンとか以前ならスピンしないような場所でスピンするようになった。実際今回のラリーで2回スピンし、2回スピンしそうになった。

次戦のスウェーデンではハイスピード区間の安定性を改善させて臨む

開幕戦モンテカルロラリーを走行する勝田・ジョンストン組

──2021年はWRカーで走ったモンテカルロラリーをラリー1で走った感想は?

勝田選手:やはり空力的な部分で最高速域での安定関係というところが少し欠けているかなというのは感じた。また、空力だけではなくておそらくセンターデフなど、そういった部分ももちろん影響してるが、クルマの挙動が昨年まで違和感なくすごくナチュラルに走れていた部分が少し不安定というか、どういった動きをしちゃうのだろうという不安要素が増えたっていうのが正直な気持ち。

 慣れも必要になってくるが、ある程度のところは割り切って「ないものはない」と考えて、今あるものにあわせていくしかない。ドライビングであわせて、僕たち3人はみな同じコメントをしている。同じ方向を向いて、改善できるエリアがある。僕はその中でも慣れていない方なので理解を含めていく必要があると考えている。

──今回マシンが実際に走っているのを見て、GRヤリスだけがハイレーキ(前傾姿勢)になっているのがとても気になった。ターマックでだけそうなのか、グラベルでもそうなのか?

勝田選手:最終スペックでグラベルを走っていないので分からない。おそらくだが、ターマックの場合には、顕著にフロントの車高がさがるように見えてしまうということが影響しているのではないか。グラベルではフロントもだいぶ車高上がるので、そこまで気になるほどではないと思う。

──新しいクルマになって疲労感みたいなものが増したりなどはあったか?

勝田選手:これまでパドルシフトで操作していたので、シーケンシャルシフトになったことで腕がちょっと違和感あるという訳ではないが、少し慣れが必要で今までは違う疲れがあるとは感じた。そう考えると、実はパドルの方が楽だったのだとは感じた。

──シーケンシャルシフトにすぐに慣れたのか?

勝田選手:シーケンシャルシフトに関しては思ったよりもすぐに慣れた。例えばダウンの時にとっさに倒すときに倒しすぎちゃうのではないかなどを心配していたがそれもなく、ステアリングとシフトレバーの距離もちょうどいいところにあって、違和感なく自然に操作できた。ただ、5速になっているので、ロードセクションで6速にあげようとして、あれ? みたいなことはあった。

──TGR-Eの中嶋一貴副会長がモンテカルロの会場に来ていたようだが、話はしたか?

勝田選手:中嶋一貴さんは、1週間ずっと現地にいらっしゃっていた。アドバイスというよりは、一貴さんの人柄というか、「ラリーのことわからないからね~」といって、ワーっていうよりは「頑張ってね~」という感じで、土曜日の最後のステージでスタックした時なんかに気を取り直していこうって感じで声をかけてもらった。

──ブーストを使ったときにリアがでてしまってスピンしたというステージはどこか?

勝田選手:土曜日のSS10、SS11。スピンしそうになったのは最終日のSS15、土曜日のSS9。

──タイヤ選択でうまくいったケースと、うまくいかなかったケースを教えてほしい。

勝田選手:基本的に今回はスリックタイヤのソフトで走る場面が非常に多かった。土曜日のSS11とSS13は、路面に凍結が非常に多く残っているステージがあった。そのステージでは多くの選手がスタッドタイヤとスリックタイヤのクロスという選択をしていたが、自分とロバンペラ選手だけが、スリックとスタッドなしのスノータイヤのクロスでいって、1本目はわるくないフィーリングでいけていた中でスピンしてしまい最終的なタイムは出ていないが、フィーリングはわるくなくて2本目はもっと溶けているだろうと思っていったが、実はその時点で午前中に溶けていたところが再び凍り始めていて、また凍るという予想はチームも他チームもしていなくて。そこが唯一スタッドの方がよかったのではないかと感じた。他のタイヤ選択に関しては時に大きな問題はなかった。

──コースオフしたときに観客に助けてもらったというのはどういう状況だったか?

勝田選手:現地で観戦している人もラリー好きな人が多くて、はまったら引き出してあげようと協力的。最初は数人しかいなくて引き出せなかったのだが、だんだんと人が集まってきて最終的に15人ぐらいになって出してもらえた。観客の人もすごく手慣れていて、そのうち2人は後続車にスローダウンさせる役目を何もいわなくてもやってくれたりと、すごく手慣れていると感じた。

──ハイブリッドのマップ調整はステージ中にも変えたりするのか?

勝田選手:ステージ中には変えることができない。ステージ前に決めてフィニッシュするまでは同じマップで戦う必要がある。

──モンテカルロを終えての課題、スウェーデンはフルスノーの戦いになるのでは。こう改善していきたいなどあれば

勝田選手:モンテカルロとスウェーデンでは路面がまったく違うが、モンテカルロの反省点としては、動きがよりピーキーになっていくハイスピード区間での安定性のなさだ。スウェーデンはやはりハイスピードなラリーの1つになり、そうした感覚をしっかりとつかみながら万全の状態で戦っていきたい。モンテカルロではテストも十分ではなかったので、経験を蓄積しながらやっていくラリーになっていたが、スウェーデンまでにはしっかり準備して本番で気持ちよく走れるようにセッティングを決めてしっかりテストして臨みたい。