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WRCで日本人として27年ぶりに表彰台に上がった勝田貴元選手取材会、最終戦では左前輪が外れて3輪状態に

2021年11月25日 開催

帰国後の隔離先でオンライン会見に参加した勝田貴元選手

 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(トヨタ自動車)は11月25日、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムでWRC(FIA世界ラリー選手権)に参戦している勝田貴元選手のラリー後オンライングループ取材会を開催した。

 勝田選手は今シーズンからWRCにフル参戦。序盤からコンスタントにポイントを重ね、シーズン折り返しの第6戦「サファリ・ラリー・ケニア」では自己最高位の総合2位で表彰台にも立った。11月19日~21日(現地時間)に行なわれたシーズン最終戦の第12戦「ラリー・モンツァ」は総合7位で終え、トータルで78ポイントを獲得してドライバーズランキング7位で2021年シーズンを締めくくった。

 なお、勝田選手は来シーズンから新たに誕生するTOYOTA GAZOO Racingのサテライトチーム「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team Next Generation」に所属。これまでのWRカーに替わって新たにトップカテゴリーに位置付けられる「Rally 1」に、ハイブリッドシステムを搭載した「GRヤリスWRC Rally1」で引き続きフル参戦することがすでに発表されている。

最終戦ではアクシデント発生も、今後につながる大きな1戦に

取材会は終了したばかりのWRCシーズン最終戦の振り返りからスタート

 取材会に参加した勝田選手は、まず終了したばかりのシーズン最終戦 ラリー・モンツァについて振り返り「今回の最終戦、モンツァはラリージャパンの代替戦ということで、イタリアで行なわれましたが、昨年の最終戦もモンツァで行なわれていて、2回目のラリー・モンツァ参戦になりました。ラリー自体はモンツァのサーキットを使ったステージと山岳地帯を使ったミックスのような感じで、距離的には同じような感じですが、初日と2日目の午前中が山岳地帯、2日目の午後と最終日がサーキットで開催されました。ただ、サーキットとは言っても未舗装路のグラベル区間も用意されていて、昨年は雨が降っていて泥だらけでしたが、今年は晴れて乾いた土で、そのミックスの路面で競技が行なわれました」。

「自分の結果からお話しすると、総合7位で完走して、気持ちとしては非常に悔しいところもあります。今回の最終戦に向けて、そしてシーズン最終戦というだけでなく、来年からはマシンがハイブリッドカーの『Rally1』という車両に大きく変更されるので、WRカーの『ヤリスWRC』で最後のラリーにもなったので、僕自身も意気込みもあり、気合いを入れて挑みました。なかなか自分で思うようなペースを作れず、中には2番手、4番手といったわるくないステージタイムを残すこともできたのですが、もっと何かできたんじゃないかなというところも正直な感想としてあります」。

「初日は山岳地帯からのスタートで、ここではテストなしで挑んだということもあってペースを掴むことに少し時間をかけてしまいました。コンディションとしては、天候は晴れていたものの、前日に雨が降っていて路面が半乾きで、乾いているところも多かったのですが、まだ濡れたままのところも混ざっていて、やや難しいコンディションでした。スタートしてから少しずつペースを上げていき、フィーリングを掴んでいきました。初日を終えた時点では7番手でしたが、2日目からはペースを上げることができて、山岳地帯でも4番手タイムとか、区間によっては2番手のタイムも残せて、高いレベルで争っているトップの選手たちと遜色ないタイムで走れた区間もあって、いい流れでラリーを進めていけました」。

序盤の山岳地帯では区間によっては2番手のタイムも記録する好調な展開

「2日目の午後からはサーキットに戻って、タイム的には2番手~4番手といったところで、タイムだけ見ればわるい数字ではなかったのですが、自分の中では小さなミスがかなり多くあって『もっといいタイムを刻めたんじゃないか』という部分があったので、今後につなげていくためにしっかり反省しなければいけないと思っています」。

「最終日は6番手から5番手を狙ってヒュンダイの選手と争う状況で、なんとか5番手をキャッチしようとプッシュしていたのですが、ステージ15で約14秒差ぐらいのところで、残り2ステージでまだ何が起きるか分からないとできる限り攻めていこうと思っていたのですが、モンツァサーキットに昔からある有名なバンクのシケインで左フロントを軽く擦ってしまい、その瞬間には大きなトラブルにはならなかったのですが、その後に直線からフルブレーキで、荷重移動によってぶつけた左フロントの、アームかサスペンションがそこで壊れてしまい、コントロールを失ってスピンしながら次のシケインでもヒットする状況になりました」。

「そこからは左フロントタイヤが完全に脱落して3輪状態になって、なんとか3輪のままステージを走り切ったのですが、そこからメカニックがマシンに触れる15分のサービスタイムが設けられています。この15分という短い時間でチームのメカニックの皆さんがマシンを直してくれて、最終ステージを走ることができました。ダメージも非常に大きかったのでリタイヤになるかもしれないと覚悟していたのですが、チームの皆さんが、すばやく手際のいい素晴らしい作業のおかげで最終ステージを走れました」。

「そういった状況の最終ステージで、自分のミスでマシンにダメージを負ってしまい、いい流れでは最終ステージに臨めなかったので、自分の中ではペースを抑えてクルマを最後まで運ぶのか、プッシュして最後をいい形で終えるのか、どうすべきか葛藤があったのですが、ヤリ-マティ監督から『最後のステージだし、自分の持っている力を出し切って、自分を信じて頑張って行ってこい』と声を掛けられたので、そこでプッシュしていいタイムを刻むしかないと決断しました。クルマは15分という短い時間での応急手当だったので完全な状態ではありませんでしたが、チームに対しても信頼感を持てて、限界ギリギリで最後までプッシュしたことで、2番手のタイムで最終ステージを終えることができました。最終的には順位を1つ落として7番手にはなりましたが、自分にまだ足りない部分と、満足のいく部分などいろいろと見えた1戦になったので、今後につながる大きな1戦だったと思っています」と説明。シーズン最終戦でアクシデントに見舞われつつ、多くの収穫があったことを紹介した。

最終日のモンツァサーキットで接触によるダメージで左フロントタイヤが脱落するアクシデントも発生。しかし、チームメカニックの迅速な作業によってマシンは修復され、最後のステージも果敢にアタックすることが可能になった

日本でのラリー人気の盛り上げに貢献できるよう頑張っていきたい

今シーズンも多くに人の応援してもらったことに感謝して頭を下げる勝田選手

 シーズン全体の振り返りでは「今年から初のフル参戦ということになり、トヨタ自動車をはじめ、TOYOTA GAZOO Racing、チームの皆さん、本当にたくさんの人に支えていただいて、ものすごく大きな感謝の気持ちがあります。そんな状況で世界中のいろいろなラリーに参戦して、僕にとって最も重要になっていた経験値という部分で今年は非常に大きなステップになりました。もちろん、まだまだ自分に足りない部分、課題として残る部分はたくさんありますが、それ以上に手応えというか、自信につながる部分が非常に多く見えて、その自信を生かして来年以降、さらに経験値を積んで、その中で足りない部分、課題としている部分を克服してこの先のステップに進んでいけるようにしたいと思っています」。

「タイムのところで具体的に言うと、シーズンの序盤戦では(トップタイムから)0.5~0.7秒/kmの遅れがありましたが、最終的には、僕にとってまだ課題が多いターマック(舗装路)のラリーでも0.3秒/km程度、ステージによってはそれ以下まで縮めることができて、本当にもう一歩というところまできていると思います。ただ、この0.3秒/km、0.2秒/kmというところから詰めていくと、比例してリスクも格段に高まっていくので、今後そういった部分については自分の経験値と共に腕も磨き、ペースノートの精度も高めてうまくリスクコントロールできるようにして、高いペースで常に走り切れるようにしていかなければいけないと思っています。あらためてチームの皆さんをはじめ、支えてくれたパートナーの皆さん、サポーターの皆さんに感謝の言葉を伝えたいと思います。ありがとうございました」とコメント。サポートしてくれた多くの人に感謝の言葉を述べ、1年での成長について報告した。

 最後に勝田選手は来シーズンについて「今シーズンはいろいろなことが起きて、予想していないようなことも起きましたが、その経験があったからこそ僕自身も強くなれたと思います。来シーズンは再びフル参戦させていただき、そんな状況で新しい車両になって難しい部分もたくさん出てくると思いますが、今年よりも間違いなくドライバーとしてのレベルは大きくステップアップしていると自覚していますし、いい走りをどのラリーでもお見せできるように頑張っていきたいと思っています。また、僕が活躍することで、日本でのラリー人気、モータースポーツの盛り上げに貢献できるよう、今後も頑張っていきますのでどうぞよろしくお願いいたします」と締めくくった。

質疑応答

勝田選手は第6戦のサファリ・ラリー・ケニアで自己最高位の総合2位となり、日本人として27年ぶりにWRCの表彰台に立った

 質疑応答では今季の最上位であり、自身初の表彰台獲得となった第6戦 サファリ・ラリーについて質問され、勝田選手は「今年のラリーでは、サファリは初めての表彰台で唯一にはなってしまいましたが、ここは自分にとってもハイライトになっています。サファリは新しいラリーという部分で、これまでに経験したことがないような特徴のあるステージやラリーコンディションでした。本当にいろいろなことが起きたので1つに限定することが難しいぐらいですが、すべてが新しい環境、経験になったなかで、自分自身もラリー序盤からラジエーターやダンパーにダメージを負った状況でしっかり最後まで走り切ることができて、そこでワールドチャンピオン経験者の2組と並んで表彰台に上れたことは、僕の中で本当に大きな意味があったと思います。自信につながったこともありますし、それ以上に結果をしっかりと持ち帰れたという部分がよかったです」と回答した。

2002年以来のWRC開催となったサファリ・ラリーではマシンにダメージを受けつつ、最終日まで安定した速さを披露した

 今シーズンから始まったフル参戦でこれまでと違う点、ラリーがないときの過ごし方などについて聞かれた勝田選手は「フル参戦では各ラリーでテストが1回ずつあり、コンディション管理ではフィジカル面もそうですが、メンタル面も含めていろいろなところで準備が必要です。ラリー後には復習をして次につなげる部分がありますし、移動日なども考えると本当に時間がないと今年実感しました。1月末からラリーは始まりますが、その前の12月からモンテカルロに向けたテストが始まっていますし、1月にもテストがあって、家で過ごす時間は自分が想像していたより圧倒的に少ない部分もあります。また、今年に関しては新しい車両のテストも含まれたので、ドライバー、コ・ドライバーだけではなく、チームにとってもタフなシーズンになったと思っています」。

「自分の中ではラリーに向けたフィジカル面、メンタル面の準備という部分で、これまで以上に徹底的に次のラリーに向けて予習する、準備していくかという部分を、昨年と比較して2倍、3倍と圧倒的に量を増やしていて、そこで時間がなくなっていく面を難しいと感じていました。ただ、しっかりと準備して臨んだラリーでは、現地でレッキ(事前走行)する段階から、新しいステージでも非常に落ち着いていられました。ステージの情報がチームから送られてきますし、具体的には標高といったところもいろいろと調べて頭に入れておくと、ここでは霧が出やすいとか、モンテカルロでも標高が重要な要素になって、どのあたりの標高から路面が凍りやすくなるとか、どのあたりから雨雲が雪になるといったあたりが大切になります。今回のモンツァでは霧の発生で難しいところがあって、予習してどのコーナーあたりから霧が晴れていくかを頭に入れておくと、実際のステージで霧が出てから慌てるのではなく、霧が出たここの区間である程度見えにくくても対応できるようなペースノートを、レッキの段階から作っておかないとダメだなと工夫しておけて、そういったあたりが大きな学びになったと思っています」。

「ただ、今年の後半戦に関してはコ・ドライバーの交代などラリー以外の要素もたくさん入ってきてしまっていて、より時間がなくなってラリーの準備をしっかりすることが難しくなっていたと思います。そういった部分は今後ないことを願っていますし、(第10戦からコンビを組んでいる)コ・ドライバーのアーロン選手と今後もいい流れでやっていけるという手応えもあるので、エンジニアを含めてアーロン選手ともしっかりと準備して、今年学んだことを今後のラリーで生かしていきたいと思います」とコメントした。

質疑応答で質問に答える勝田選手

 シーズン最終戦のラリー・モンツァを走って収穫はあったかという質問に対しては、「最終戦のモンツァではターマックラリーもありましたが、グラベルと混ざっている部分があり、コンディションも安定していませんでした。山岳地帯では特に半乾きの路面があって、タイヤにかかる負荷が大きい荒い路面ではハードタイヤを使わなければいけないところがあり、ハードタイヤが温まるまで非常に時間がかかり、プッシュしていかないとタイヤが温まらないような状態でした」。

「そんな状況で、自分のドライビングでしっかりとタイヤにプレッシャーをかけて温めていきながら、クルマの限界として高いところが見えはじめたように感じたところは今回の大きな収穫になりました。タイムで見ても、自分でプッシュできたと手応えを感じるセクションで非常にいいタイムも出ていたので、今後のペース配分という部分でもいろいろと活きてくるんじゃないかというところで、自信にもつながりました」と回答。

 また、モンツァで発生したアクシデントについては「シーズンの後半戦は流れもわるく、今回はまずクリーンにラリーを進めて、プッシュできるところで追い込むという方向でアプローチしていました。ただ、今回に限らずどのラリーでも同じですが、少しでもマージンを取ってしまうとまったく話にならないタイムになってしまいます。クルマの限界値が非常に高いということ、各ドライバーのレベル、各チームのレベルが非常に高いということなどがあって、本当に少しでも『リスクを取らないように』とマージンを取って走ると簡単に0.5~0.8秒/kmの遅れでやられてしまいます。そんな状況で、最終日の山岳地帯ではいいペースで走れた部分があったので、そこは自分でも本当に手応えを感じることができましたし、いい流れでWRカーでの山岳地帯を終えることができたと思います」。

「サーキットではミスもありましたが、あのミスについては紙一重の部分もあって、自分がプッシュしている中で、本当に数mm単位のところで軽くコンクリートに擦ったところのアクシデントでもあるので、自分としてはそこまで意識するところではないかなと思っています。小さなミスをなくすことはもちろん大事ですが、例えば(第11戦の)フィンランドや(第8戦の)イープルで起きたアクシデントなどのように、今後の自分の大きく影響するようなものではなかったので、ミスも含めてしっかりと前向きに捉えていけるかなと思っています」と答えた。

勝田選手は地元・愛知県で行なわれたTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジの最終戦にもゲスト参加。デモランなどを披露してラリーの魅力をアピールしている

 出身地である愛知県での開催を予定するラリージャパンについては「ラリージャパンは残念ながら今年も開催できませんでしたが、その分、来年にかかる期待では、イベント自体もそうですが、僕にかかる期待も大きくなっていると思います。今年できなかった分を来年しっかりと最終戦のラリージャパンとしていい走りをする。走りだけではなく、結果として少なくとも表彰台争いをして、表彰台に立っているところを日本のファンの皆さんにお見せできるように、そこをまず大きな目標として来年挑んでいきたいなと思います」。

「また、結果だけではなく、ラリージャパンが行なわれることでそこからいろいろな影響が出ると思いますので、そんな意味でも来年はラリージャパンをしっかりと開催して、成功できるといいなと思っています。僕もドライバーとして何かできることがあれば、準備の段階から、情報共有でほかのイベントの状況などの話をするとか、いろいろと積極的にやっていきたいという部分でも非常に楽しみにしています」と勝田選手は語り取材会は幕を閉じた。