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WRC参戦中の勝田貴元選手インタビュー、「同じターマックラリーのスペインで調子を整えてラリー・ジャパンに臨みたい」

勝田貴元選手

 TOYOTA GAZOO RacingのWRCチャレンジプログラムによりWRC(世界ラリー選手権)に育成ドライバーとして参戦している勝田貴元選手。今シーズンは「WRC Safari Rally Kenya」で2位に入るなどの活躍を見せており、これまでの8戦で6回の完走/入賞によりシリーズランキングで6位につけている。先日行なわれた「WRC Renties Ypres Rally Belgium」(ラリー・ベルギー)でも入賞が期待されたが、土曜日に行なわれたステージ10で惜しくもクラッシュをしてしまいリタイアに終わった。

 その勝田選手がオンラインで会見を開き、リタイアの要因となったステージ10でのクラッシュや、最終戦として計画されている「WRC FORUM8 Rally Japan」(ラリー・ジャパン)に向けた意気込みなどについて語ってくれた。

ステージ10でクラッシュしたラリー・ベルギー、苦い経験をWRC後半戦への教訓とする

WRC HIGHLIGHTS Saturday Morning : Renties Ypres Rally Belgium 2021: WRC Rally Highlights and Results

勝田貴元選手:今回のベルギーでは結果的にリタイアになった。DAY1(8月13日、金曜日)に関しては、クロアチア以来のターマック(舗装路中心の路面であること)ラリーになった。ベルギーの高速で狭い道のラリー、そこを克服できるように多くの経験を積むことを目標にスタートした。今回はキートン・ウイリアムズ選手とコ・ドライバーとして組んだ(筆者注:レギュラーのダニエル・バリット選手が、前戦エストニアのラリー中に首の痛みを訴え安静にするためにリタイアした影響で、今回はウイリアムズ選手と組むことになった)ため、慎重な出足でいくことにした。その中でもいいペースをもう一歩つかみ切れていなかったが、金曜日は7番手と大きなトラブルもなく上手にやれていた。

 DAY2(土曜日)はステージのタイプは同じだが、グラベル(砂利道のこと)でインカットが多かった。金曜日以上にレベルを上げて、トップと近いところで走れるように走り始めたが、ステージ10のハイスピードコーナーでクラッシュになってしまった。小さなバンプ、アップダウンがあって、ペースノートにはオーバージャンプと書いてあったが、予想していたよりもわるい方向に跳ねてしまった。クルマが左コーナーだけど一瞬右に向いてしまい、バンプの衝撃で切り込んでいけず、ラインからしていえば数十cmのずれで、クラッシュに直結してしまった。自分のミスで悔しい結果。お客さまにパーツなどが当たらなくて、誰もけががなくてよかった。

 今回得たこの苦い経験、長いラリーの中で、少し楽観的になっていた部分があったので、レッキの段階でハッキリしたイメージでペースノートを作っていかないといけないと思っている。

――コ・ドライバーが変わったことで、ペースノートの書き方などは問題なかった?

勝田貴元選手:もちろん新しいコ・ドライバーということで、いつもと同じようにスムーズだったかと言えばそうではなかったが、それがクラッシュにつながったかと言えばそうではない。コ・ドライバーも難しいところはあったと思うので、そこはお互いに直さないといけない。

――結構いいペースで走れていて、かなりのハイスピードクラッシュだったが……

勝田貴元選手:チームとも話したが、ペース配分に関してはステップ・バイ・ステップでタイミングをあわせて徐々に上げていくという方針で一致していた。土曜日にペースを上げ始めた中で、4つ、5つのわるい要素が同時に起きた。多少抑えていても不安定なコーナーだった。自分の技量の部分でもっとうまく対処できたと思う。まずはライン取りのミスがあり、跳ね方やクルマが外に向いてしまったということがクラッシュにつながった。チームや監督も怒るということはなく、次のラリーに向けてもっとやっていこうという話になっていた。明らかな自分の原因が見えているので、そこを改善しようと思っている。

――ベルギーのコースは初めてだったと思うが、ドイツのコースに似ているようなイメージだがターマックとして路面の質などはどう思ったか?

勝田貴元選手:狭い中での高速コーナーが多い。ジャンクションが非常に多い印象だ。データを見て、セバスチャン・オジエ選手、エルフィン・エバンス選手、カッレ・ロバンペラ選手(いずれもTGR WRCチームのレギュラードライバー)などと比べて、ジャンクションの処理が大きな差になっていた。1つのジャンクションで2~3秒遅れてしまう。もう1つはターマックの路面の代わり方が大きかった。見た目が似ているタイプの路面でも、舗装の違いによりグリップが全然違っていた。

――他のドライバーもブレーキングの安定性が低いように見えたが?

勝田貴元選手:外から見ているとブレーキングが難しいように見えたかもしれないが、グリップが足りていない状況だった。全体的にグリップが不足している状況で、アンダーの傾向が出てしまうことが多くあった。

――今回はヒュンダイのドライバーが1-2だったが、ヒュンダイの盛り返しは感じたか?

勝田貴元選手:自分個人の見解だが、ヒュンダイのティエリー・ヌービル選手は地元ということあり、2位になったクレイグ・ブリーン選手とともにコースの経験があったことがアドバンテージになっていたように見えた。しかし、DAY2以降はトヨタのドライバーも遜色ないタイムで走っていたので、クルマがどうこうよりも金曜日にまだ慣れきっていない時に離された。そういう印象だ。

 これまでのラリーでもヒュンダイがペース的にわるかったという訳ではなくて、ケニアやポルトガルなどでは初日にヒュンダイ勢が抜けていたラリーがあったがトラブルで後退したという印象だった。チームとよく相談して次戦以降、速さに対抗できるようにしていきたい。

同じターマックラリーのスペインで調子を整えてラリー・ジャパンに臨みたい

――コ・ドライバーについて、アクロポリスではウイリアムズ選手、パリット選手どちらになるのか?

勝田貴元選手:正直なところを言うと現状確定していない。エントリーリストにはウイリアムズ選手の名前が載せられているが、これからチームと話し合って決める形になる。

――アクロポリスでは経験があるコ・ドライバーが優位では?

勝田貴元選手:確かに経験があるコ・ドライバーだと余裕が持てるという面はあるかもしれないが、今回のようなターマックラリーの方がコ・ドライバーにとってはより難しい。そうした中でウイリアムズ選手はうまく対応できていたと思う。いずれにせよ、どちらであってもプロの選手なので心配はしていない。大事なことは自分が次のラリーに向けてしっかり準備することだ。

――クラッシュした瞬間、結構衝撃を感じたのでは?

勝田貴元選手:電信柱がコースをふさいでしまったので、ラリーが一時中断した。右側のコース外にはずれるところに電信柱があり、右リアタイヤがそこに当たって回転して飛んでいく形になった。クラッシュの時は「クルマが止まってくれ」という感じで思っていた、車内ではさほど大きな衝撃はなかった。

――クラッシュしたクルマは次のラリーにも使えるのか?

勝田貴元選手:チームがいろいろ確認している。次戦のアクロポリスはグラベルラリーなので、もともと違う車両で向かう計画だった。スペインでは同じ車両でいく予定だ。

――新しいコ・ドライバーとはどうか?

勝田貴元選手:WRCのトップカテゴリーにドライバーとして乗り始めたときに、コ・ドライバーがする仕事量は圧倒的に多いなぁと感じた。それはコースを走っている間だけでなく、ステージ間での仕事量が2~3倍違う。そこでコ・ドライバーが変わって、大丈夫かなというのは正直不安があったけど、大きな問題にはならなかった。

――ターマックとグラベルで運転は違うのか?

勝田貴元選手:基本的にグリップレベルが大きく異なり、グラベルでは手前から速くクルマの向きを変えていく。ブレーキング位置、すべての動作がターマックに比べて速くなる。ターマックになるとグリップレベルが高くなるので、弱アンダーで入っていくのが一番いい。そこに砂がでてくると難しくなるので、グラベルに比べて速く横に向けたりしながら走っていく。ターマックの方は砂が出ているところとそうでないところの差が大きい。

――グラベルとターマック、どちらが好きか?

勝田貴元選手:グラベルの方が神経質にならずに走れている。ターマックだとグリップのギャップが大きいので、クラッシュに直結にしてしまう。グラベルの方はクルマが常に横に向いてしまう状況なので走りやすい。小さなミスがあっても、グラベルの方が対応しやすい。

――WRCも終盤戦に入ってくるが、ラリー・ジャパンも含めてどのように臨んでいくか教えてほしい。

勝田貴元選手:次戦のアクロポリス含めて残り4戦、終盤に入ってきているので、来年に向けていいパフォーマンス出しつつ、きっちり走り切ることで足りない経験を補っていくことが大事だ。アクロポリスはタフなラリーになるので安定して走り切れるように頑張りたい。ラリー・ジャパンに向けてはターマックラリーがスペインである。そこでいいフィーリングを得てラリー・ジャパンに備えたい。